深く多面的に、考える。

甦る中心市街地 #04

シャッター商店街、再生の兆し タウンマネージャーの奮闘

中核施設「Mallmall」と複合施設「TERRASTA」によって息を吹き返した都城の中心市街地。周辺の商店街はいまだシャッター街の様相を呈しているものの、少しずつ、変化が生じています。今回は、活性化の兆しが見え始めた商店街の再生を追います。

シャッターが閉じたままの中央通り

中心市街地の象徴でもあった老舗百貨店、旧都城大丸の跡地を再開発した中核施設「Mallmall(まるまる)」と、隣接する複合施設「TERRASTA(テラスタ)」は、かつて中心市街地のなかでも最も栄え、南九州全域から人を呼んだ通称「中央通り」のど真ん中に位置する。 

Mallmall(まるまる)が2018(平成30)年にオープンして5年強。テラスタが2022(令和4)年4月にオープンして1年強。閑散としていた中央通りの“まちなか”は賑わいを取り戻した。

「Mallmall」誕生の軌跡[後編] 女性と屋根、池田市長のこだわり

だが、その賑わいは“局所的”とも言える。Mallmallやテラスタを離れ、アーケードで覆われた中央通りを少し歩くだけで雰囲気は一変する。

Mallmall周辺でもシャッターが閉じた店舗が連なる中央通り(上)。野菜の無人販売店が気を吐いていた

眼に映るのは、ほとんどの店がシャッターを閉ざしたままの“シャッター商店街”。Mallmallの対面を南に歩き、ようやくシャッターを開けている店を見つけたと思えば、そこは無人販売店だった。かつて栄華を誇ったアーケード街の勢いは見る影もない。

ただ、目を凝らすと、再生への萌芽とも言うべき変化も見えてくる。

増えつつある商店街の灯火

この数年、中央通りの「中町交差点」を中心に、新たな飲食店が続々と出店している。

2020年2月、中町交差点の道路沿いにガラス張りで開放的なビストロ「カルトブランシュ」がオープン。日替わりでメニューが変わるフレンチを気軽に味わえるランチが人気で、ディナーは要予約。予約が取りづらい人気店として評判が高い。

2022年5月、中町交差点付近にオープンしたばかりの「料理屋 Shin」(提供:二宮啓市氏)

その隣に2022年5月、「居酒屋×イタリアン」をテーマとした「料理屋 Shin」がオープンした。地の野菜や肉を使ったメニューが豊富に揃い、こちらも夜は予約で埋まっていることが多いという。

個人店だけではない。道路を挟んで向かい側に2022年12月、全国チェーン展開をしている「串カツ田中 都城店」がオープンした。宮崎県内では宮崎市の「ニシタチ」に続く2店舗目。中町交差点で唯一のリーズナブルな居酒屋として人気を博している。

夜は人通りもほとんどなくなり、真っ暗だった印象の中央通り。だが、近年は中町交差点を中心に灯りと人の賑わいを取り戻しつつある。

じつは、これらの出店すべてにかかわっている仕掛け人がいる。商店街活性化に向けた、ある努力が実りつつあるのだ。

「タウンマネージャー」誕生

「シャッター商店街のシャッターを開けるというのは、生半可なことではないですよ」――。そう話すのは、「都城市中心市街地活性化タウンマネージャー」を務める二宮啓市氏だ。

都城市中心市街地活性化タウンマネージャーの二宮啓市氏

タウンマネージャーとは、簡単に言えばまちづくりの専門家であり推進役。明確な定義や資格はないものの、1998年の中心市街地活性化法を機に、市街地活性化を狙う全国各地に登場し始めた。自治体や地域のまちづくり会社、商工会議所などに所属することが多い。

都城市も商工会議所と連携するかたちで、2015(平成27)年にタウンマネージャーを公募。全国から29人の応募があったなかから、二宮氏が選ばれた。

大手ゼネコンで各地方の駅前などの再開発プロジェクトに携わった経験がある二宮氏は、2008年に退職後、再開発コンサルタントとして独立。2010年、株式会社北九州まちづくり応援団に入社し、小倉駅前商業地区の再開発を担うエリアマネージャーとして9棟の中小ビルのリノベーションなどを手掛けた。

2015年、任期満了で退任した折、都城市のタウンマネージャーの公募を知り、応募。経験と実績を買われ、同年8月から都城市のタウンマネージャーに就任することになった。公募における主な職務の要件は、以下である。

都城市タウンマネージャーの主な職務

  • まちなかで活動する個人や団体との信頼関係の構築及び活動への参画、並びに次代を担う人材の発掘、育成
  • 賑わい創出に係るソフト事業などのサポート及び協働体制の構築
  • 中心市街地に関わる情報の収集及び管理、並びに発信
  • 空き店舗への積極的・計画的なテナント誘導
  • 空き店舗、空き家等の既存ストックを活用した「リノベーションまちづくり」の推進
  • 上記に関する事務的・総括的業務

要するに、新店舗を出したい店主と家主とのマッチング。これには、既存物件を貸店舗にする説得交渉も含まれる。

だが、閉店しそうな店舗オーナーに「テナント化」をもちかけるのも、一度、閉ざされたシャッターを開けることも、そう簡単なことではない。

面倒に感じている店舗オーナー

古くからの商店街にある店舗は、代々引き継いだ地主がそこで商売を始めたケースが多い。しかし、商店主の高齢化や後継者不在などで、徐々にシャッターを閉める店舗が増え、負のスパイラルに入る。結果、シャッター商店街となってしまう。

“シャッターアート”も散見される中央通りの今

そうなってしまったシャッター商店街の再生において最大の壁となるのは、物件オーナーとの交渉なのだと、二宮氏は説明する。 

「だいたい、商店主は75歳を過ぎると店を閉めようと考える。2階や3階に住んでいて、住み慣れているので、ほかに移り住もうという気もなければ、蓄えもあって面倒なので、人に貸そうという気も起きない方がほとんどなんですね」 

「一度は閉めたけれど、息子がいずれ帰ってきて継いでくれるはずだ、と店舗を閉めたまま放置しているうちに、1階は物置小屋になって荒れてしまう。閉店したとき以上に大変なことになっているので、今更、片付けて契約やらなんやらなんて、もういいとなっちゃう」

二宮氏は、まさにこうした店舗オーナーとの“交渉役”として、手腕を発揮した。といっても、最初からうまくいったわけではない。 

タウンマネージャー就任当初のターゲットは、中心市街地のなかでも、中町交差点の周囲100メートル(m)圏内。調べてみると、「店舗物件は50件ほどあったが、そのうち約7割が閉ざされていた」(二宮氏)という。

50件の所有者(オーナー)は30人ほど。これらオーナーに、「商店街活性化のために、新しい世代に店舗を引き継ぎませんか?」と持ちかけることから二宮氏の仕事は始まるのだが、最初は、門前払いを食らった。

7年で約60店舗の新規出店を支援

「飛び込みで一軒一軒まわるでしょ。でも、『胡散臭い』『うるさい、出てけ!』って随分と怒られましてね。『迷惑だ』と市役所に電話がいったこともあります。特に、最初の1年はすごく苦労しました」

二宮氏は、タウンマネージャー就任当初をこう振り返る。それでも、過去の経験から「時間がかかるのは当然」と割り切っていた二宮氏は、毎日、まちなかを練り歩き、何度もオーナーに挨拶に出向き、出くわせば頭を下げ、説得を繰り返した。

「将来のことをいまのうちから準備しましょう」「建物賃貸業にすれば事業用資産になるから、子どもに相続するとき少しでも節税になる」……。

まだ店は開いているが、いずれ、立ち行かなくなりそうな高齢のオーナーの場合は、そんな話をしながら、寄り添って“出口戦略”を考えた。すでに閉めている店舗物件のオーナーには、「リノベーションの補助金が出るうちに、資産化しましょうよ」と口説いた。

中央通り商店街の会合にも足繁く通った。「10分、15分でもいいから、時間をもらって市の政策を話して。飲みに誘って仲良くなったら、こっちのもんです」。そう二宮氏は笑う。

一方、新規開店を目指す新たな店主候補にも寄り添い、希望に沿う物件を紹介。リノベーションの補助金申請をどう出せばいいのか。飲食店の場合はどういった工事が必要なのか。細々とした相談にも乗り、物件オーナーと新店主とのマッチングを地道に繰り返した。

中町交差点100m圏内としていたターゲットは、次第に拡大。当初の3倍程度のエリアをまわった。回るべき物件オーナーの数は90人、物件数にして150店舗まで増えたが、そのほぼすべてに顔を出し、なにかしらの話をした。

2016〜2019年度の4年間で中心市街地に40件の新規出店があった(二宮氏の活動報告資料から)

結果、2015年7月に二宮氏が就任してから2020年3月末までの約4年半で、計40件もの新規出店が中心市街地で実現。二宮氏は、そのすべてにかかわった。

2020年度以降は、コロナ禍の影響でペースが落ちたものの、2020〜22年度で20件弱が新規出店。2023年3月までに二宮氏が支援した新規出店数は累計約60店舗となった。最初に重点的に攻めた「中町交差点100m圏内」に限れば、7割だった空き店舗のほとんどが埋まったという。

「タウンマネージャーになってからもうすぐ約8年経ちますが、特に中町交差点付近なんかは、だいぶ変わったねってみんな思ってくれていると思いますよ」。そう、二宮氏は自負する。

二宮氏は、自分が手がけた新規出店の店主と今でも頻繁に連絡をとっている

なにより、手がけた店舗のいくつかが人気店として、まちに根付いているのがうれしい。その一店舗が、冒頭で紹介した「料理屋 Shin」だ。

紳士服店が人気のイタリアン居酒屋へ

中町交差点にある料理屋 Shinが入居する建物は、もともと長年、夫婦が紳士服屋を営んでいた場所。2階と3階が住居だが、階段の上り下りがしんどくなり、廃業を意識していた頃、二宮氏が出入りするようになった。

1階にはトイレがない。紳士服屋なのでキッチンなどの水回りもない。2階には店舗を通らないと上がれない構造で、そのまま貸すのは厳しい。2階以上は住居として残して外階段をつけるか、それとも1棟まるごと貸すのか。夫婦と二宮氏が将来の構想を思案しているとき、その立地でハンバーガーショップを開きたいという出店希望者が現れた。

何軒か飲食店を経営していたその出店者は、1階を店舗に、2階以上を事務所として使いたいとなり、リノベーションの補助金を利用して、1階にトイレやキッチン、排水などの水回りを整備。2022年5月、元紳士服屋はハンバーガーショップとなった。 

ところが新型コロナウイルスの流行で客足が激減。撤退を余儀なくされた。その情報を得た二宮氏は、Shinの店主である江口晋一郎さんにすぐさま連絡を入れる。「あそこが空くぞ」。

都城出身の江口さんは、神戸市内のホテルやレストランで修行した後、神戸市内で料理屋 Shinを独立開業した。だが、妻も都城出身で、故郷で子育てをしたいという思いもあり、転居して都城で店を構えるため物件を探しており、その過程で二宮氏とつながっていた。

二宮氏はLINEのビデオ通話をつなげながら、江口さんにハンバーガーショップの店内を紹介。その結果、中町交差点のハンバーガーショップはShinへと生まれ変わった。

「居酒屋 Shin」の店内

「料理屋 Shin」の店内。大きなカウンターがキッチンを囲む(提供:二宮啓市氏)

2階は座敷席で宴会やパーティーなども承れる。3階は倉庫兼従業員の更衣室など。1階の店舗は、カウンターを低くし、調理場をオープンに見せる設計。目立つ立地だけに、オープンすると話題となり、予約が取りづらい人気店となった。

「ふつうは調理場を隠す。見せるShinは、それだけ自信があるということ。どの料理もきれいだし、おいしいんですよ」。二宮氏は相好を崩す。

土地探しからの新規出店

二宮氏がかかわった新規出店で、予約のとれない人気店となった店は、中町交差点付近だけではない。中心市街地の広範囲に点在している。

Mallmallやテラスタがある場所から中央通りを徒歩で5分ほど南下し、筋を曲がって50mほど行くと、看板のない京風なテナントがぽつんと建っている。周囲に飲食店はなく、夜は真っ暗。ハローワークなどが入る合同庁舎にほど近い場所だ。

そこは「酒人肴 ひと麦」。品のよい居酒屋である。

「酒人肴 ひと麦」の店舗。看板もなく隠れ家的な雰囲気に期待が高まる

都城出身の女性店主、鎌田さんは宮崎市内の有名居酒屋で腕を磨き、27歳という若さで2022年3月、念願だった自分の店を構えた。

賃貸ではなく、購入した土地に自分で建てた店舗。二十歳の頃にはすでに、都城の合同庁舎の近辺に土地を買って店を出そう、と心に決めていた彼女は、修行しながら自己資金を蓄え、2020年夏頃から本格的に土地物件を探し始めた。それが、二宮氏の耳にも入った。

「『土地を探してる女の子がいるぞ』と知人から聞きまして。珍しく合同庁舎の周辺が好きというから、そのあたりの土地探しからつきあってきました。本当に予約がとれないお店になっちゃって、私もなかなか顔を出すことができません」。二宮氏はうれしそうに言う。

コンセプトは「都城にない居酒屋」。至るところにこだわりの見える京風な雰囲気、海鮮中心の創作料理を基調としたメニュー、こだわりのグラスや陶器、希少な日本酒の取り揃え……。

安いわけでも、すごく高いわけでもない。30歳代でも接待に使えるような料理屋を目指したところ、当たった。一般の予約は1週間先までしか受けていないが、1週間後の予約が1日で埋まってしまうことも。なかなか予約が取れない店として知れ渡った。

もちろん、コンセプトや戦略、料理や酒の質が人気店となった要因なのだが、ひと麦の店主、鎌田さんはこうも話す。「二宮さん、すごく親身になってくれて心強かったです。近所のおじちゃんじゃないけど、親しくなんでも相談できる方として、頼りにしています」。

希望の“点”、民間にかかる未来

こうした事例は、広い中心市街地の中央通り商店街の“点”に過ぎず、商店街が“面”で活性化している、とはまだ言い難い。しかし、中心市街地や商店街の「希望」であることに違いはない。

もう一つ、タウンマネージャーの存在や、補助金など市の政策によって、商店街が上向きになってきたことを示すデータがある。「閉店率」や「空き店舗率」の改善だ。

都城市役所によると、Mallmallが開館する前の2017(平成29)年11月時点で、旧都城大丸周辺の店舗物件は51%が閉店していたが、2022年の調査ではその閉店率が16%まで改善していたという。

また、中心市街地のなかでも中央通り周辺の重点エリア、「都城市中心市街地再生プラン事業」の補助金の対象となっているエリア内では、空き店舗率(閉店ではなく、空き店舗として貸し出されている店舗物件の割合)は、2017年11月に約30%だったが、2023年3月には約20%まで10ポイント、改善されている。

空店舗率推移 都城市中心市街地再生プラン事業エリア内

注:都城市役所の資料を基に作成。数字は四捨五入

都城市の池田宜永(たかひさ)市長は、中心市街地活性化に挑んだ2012年の市長就任時から、こう宣言していた。

「我々は都城大丸跡地を再生して、人をふたたび呼ぶことはできると思いますし、そのようにします。ただ、厳しい言い方かもしれないけれど、大丸跡地周辺の商店街の各お店にお客さまが行くかどうかは、商店街の皆様の努力次第」――。

「Mallmall」誕生の軌跡[前編] 大丸跡地再開発、池田市長の妙案

市は、夢を抱く店主が出店しやすいような“お膳立て”をした。しかし、この先どう転ぶかは、池田市長が釘を刺すように、新たな店主たちの腕にかかっている。

次回に続く)

中心市街地の現在地と未来 池田宜永・都城市長が語るビジョン

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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