深く多面的に、考える。

甦る中心市街地 #03

「Mallmall」誕生の軌跡[後編] 女性と屋根、池田市長のこだわり

前編からの続きです。後編では生まれ変わったMallmallの礎とも言うべき池田市長のこだわりについて深掘りしていきます。

公共施設を中心とする再開発

旧都城大丸跡地再開発は、池田宜永(たかひさ)新市長の誕生を機に、「商業施設」メインから「公共施設」メインへと軌道修正された。

2013年10月、ハートシティ都城と都城市は、旧大丸センターモールに市立図書館を移転させる計画を明らかに。次いで2014年、都市再生特別措置法が改正され、国の補助対象が拡大したことから、中心市街地の再開発を「都市再構築戦略事業」へとシフト。

そして2015年3月、都城市がハートシティ都城から土地建物を取得し、Mallmallの整備に本格着手した。

旧都城大丸のセンターモールは2004(平成16)年オープンと新しい。建物は取り壊さず、全体を図書館へと改装(フルリノベーション)することにした。

上は旧都城大丸センターモール。その建物はフルリノベーションされ、新しい図書館へと生まれ変わった

図書館へのフルリノベーションは、指定管理者制度を採用。公募型プロポーザルで選ばれた事業体「MALコンソーシアム」によって、ショッピングモールの空間を生かしながらも、カフェや自習スペースなども備えた、落ち着きと品のある最新の図書館へと生まれ変わることになった。

中央通りに面した旧都城大丸本館は取り壊し、跡地は行政エリア、民間エリア、広場に3分割して開発を進めた。

旧都城大丸本館の跡地は、「まちなか交流センター」などが入居する行政エリア、広場、民間エリアの「TERRASTA」と3分割され、開発が進められた

広場を囲む西側には、広場から中央通りへ抜けられるよう通路を大きく開口した3階建ての行政施設を新設。1階にバス待合所や市民交流スペースの「まちなか交流センター」、2階に保健センター、3階に子育て支援センター「ぷれぴか」を設けた。

「まちなか広場」と名づけた広場は、テニスコート2.3面分、約600平方メートル(㎡)のスペース。東側に隣接する旧センターモール、図書館への導線も兼ねている。

「まちなか交流センター」や子育て支援センター「ぷれぴか」など行政施設が入居する建物(正面)。1階は大きく開口しており、広場から中央通りに抜けられる

これら図書館・行政施設・広場は市の中核施設として、民間施設に先立つ2018年4月に開館。「人が集まる」という意味のMallを重ね、長らく市民に親しまれた都城大丸のマルにもかけ、Mallmall(まるまる)と名づけられた。

こだわったスーパーマーケット

一方で、広場に面する北側部分の再開発は、民間に委ねることになった。再開発にあたって「商業施設をつくらない」方針を掲げた都城市だったが、ゼロにはできない。「中央通りでは生鮮食品が手に入らない」という課題の解決は必要だったからだ。

そこで市は、スーパーマーケットを設けることを条件に、旧都城大丸本館の北側部分に加え、隣接していた都城郵便局旧本館などの跡地の再開発事業者を公募。30社以上の地元企業が出資するセンター・シティが選定され、複合商業施設の計画が進められた。

入居を検討していた地場ホテルやスーパーが取りやめるなど、計画の見直しが相次ぎ、着工が遅れたものの、2022年4月、テラスタとしてオープンにこぎつけた。

「TERRASTA(テラスタ)」は、テラスとステージを掛け合わせた名称。広場に面した1階にはおしゃれなスーパーマーケットが入り、3階以上はホテルとなっている

1階には地場産を中心とした生鮮食品を扱うスーパーやフラワーショップ。2階は商工会議所などが入居するオフィスやカフェ。3階はホテルロビーとダイニングで、4階から7階はホテル客室となっている。小田急グループのUDSが企画・設計デザイン監修を手がけ、都城随一の上質な商業施設が生まれた。

行政によるMallmallとは別の名称、別の運営で区別されているテラスタ。とはいえ、広場を介してMallmallと一体化しており、一連の中核施設に溶け込むようにデザインも調和がとれている。ウッドを基調としたホテルの上質な雰囲気は、図書館に通ずるものがある。

これらはすべて、市の目論見どおりなのだろうか。池田宜永市長に聞くと、こう答えた。

「図書館もテラスタも、それぞれの施設の企画やデザインはすべて、指定管理を受けている専門家の人たちにお任せして、やっていただいたんです。皆さん、素晴らしい仕事をしていただいた。ただ、あそこを工事するとき、私は最初に3つだけ、お願いをしました。そのひとつが、スーパーマーケットですね」

では、あと2つとは。

3つのこだわりを説明する池田宜永市長

「これは特にMallmallに言えますが、ターゲットを“女性”にしてくださいと。特に子育て世代。女性は集客力があるし、お財布の紐も握っているからです」

「女性が街を歩くとお子さんや友だちがついてくるし、おじいちゃん、おばあちゃんもついてくるし、夫は嫌でもついてくるみたいな世界じゃないですか(笑)。あとは、やっぱり今の時代、女性に好まれない施設はうまくいかないという思いもありました」

「もうひとつは、これが一番、大事でこだわったポイントですが、あそこの施設をすべて屋根でつないで、広場も全天候型にしてくれ、と言ったんです」

こだわりの大屋根「傘をささずに済むように」

左手の図書館から広場、中央通りに面した右手の行政施設まで、Mallmallは巨大な屋根で覆われている

Mallmallのいくつかの写真を見てお気づきだろう。図書館から広場、そして中央通りに面した行政施設まで、Mallmall一帯を大きな屋根が覆っている。これが、最大のこだわりだったと池田市長は語る。

「子育て世代の女性をターゲットに考えたとき、ベビーカーを押して、上のお兄ちゃんお姉ちゃんと手をつないで、荷物も持ったら、傘をさす余裕などありません。かつ、あのあたりはクルマで来ざるを得ない。なので、駐車場に停めて、すべての用事が終わって帰るまで、1回も傘をささずに済むようにしてくれとお願いしたんです」

図書館入口から道路を挟んで広場、奥の行政施設まで、雨の日でも濡れずに移動できる

1994(平成6)年、大蔵省へ入省した池田市長は、入省後に東京大学大学院経済学研究科修士課程を修了し、主税局、金融庁監督局などを経て、国の財布の紐を握る財務省主計局主査を務めた。その経験から、「屋根は危うい」ことを知っていた。

「公共施設をつくると、資材が、人件費が上がりました、工期が延びますとなって、得てして予算が膨らむわけです。財政当局は『出せるわけない、どこか削ってこい』と言うじゃないですか。そうなると、屋外の屋根は削られてしまうんです。なくても成立するから」

「でも私は、絶対に必要だと思っていたので、あえて最初に言っておいた。そうなると、簡単には削れないです。私を説得しなきゃいけないので(笑)。そういった考えで動きだしたということです」

礎となったコンセプト

池田市長の強いこだわりのもと、Mallmallとテラスタは巨大な一枚屋根と広場で一体化され、立体駐車場から図書館のあいだも屋根でつながれた。駐車場から図書館、図書館から広場、広場から子育て支援施設やテラスタまで、雨の日でも傘をさすことなく回遊できる。

子育て世代の女性、そして屋根、というこだわりは、それぞれの施設の企画や設計の礎となり、微に入り細に入り、自然と反映されていった。

例えばMallmallの附帯駐車場は、旧都城大丸の立体駐車場をほぼ再利用したが、収容台数を大丸時代の248台から218台に減らし、1台あたりのスペースを広げる工夫を凝らした。ベビーカーや子どもを乗せたり降ろしたりしやすいように、との配慮からだ。

立体駐車場と図書館のあいだも屋根がつなでいる

新図書館は、旧図書館と比べ、延べ床面積が約3倍、閲覧スペースが約4倍に拡充され、子連れでもゆとりをもって安心して動ける空間となった。平日の夕方になると自習で利用する中高生の姿も増え、青少年にも親しまれている。

2階には10代が優先して自習や飲食などに利用できるティーンズ向けのスペース「ティーンズスタジオ」も設けられ、1階にはママ友同士が楽しめるような、おしゃれなカフェも備わった。女性と子どもを大切にする思想が反映されていると言える。

図書館2階の「ティーンズスタジオ」は10代の人が優先で利用できる

広場に面したテラスタ1階には、女性が好みそうなスーパーマーケットとフラワーショップがある。広場では月一回、マルシェが開催され、若い女性が好みそうなハンドメードの雑貨や、流行りのキッチンカーなどが並ぶ。

毎月の開催で賑わいを見せるマルシェ

この広場では、マルシェのほかに、都城市に拠点を構える企業がブースを並べる「JOBフェスタ」や、バランスボールを使ったエクササイズやヨガなどを講師に教えてもらいながら体験できる「まちなか運動系プログラム」など、年間約200回ものイベントが開催されている。

「まちなか運動系プログラム」として広場で開催されたヨガ教室に集まる人々

乳児や幼児がいれば、広場すぐそばの建物3階にある子育て支援施設「ぷれぴか」で子どもを預かってもらうこともできる。

このぷれぴか、当初計画では屋内のみの施設だったが、「屋外でも遊ばせたい」というママの意見を反映して3階の一部の屋根を取り払い、人工芝を敷いたオープンテラスに砂場と大型木製遊具を設置した。屋内の「プレイルーム」では、子どもが走ったり登ったりして、安全に体を動かして遊べる。

これらのプロデュースや設備調達は、ボーネルンド社によるもの。都市部では、著名なショッピングモールなどに同社運営の有料の遊び場が展開されているが、ぷれぴかでは無料で利用することが可能だ。

「ぷれぴか」は「Play Peekaboo(いないいないばあ)」から生まれた愛称。子育て支援センター、おひさまテラス(上)、プレイルーム(下)の3つのエリアがあり、いずれも無料で利用可能ボーネルンド社のウェブサイトより)

息を吹き返した旧都城大丸跡地

こうしたひとつ一つの工夫や配慮が、大きな集客力を生んだ。2018年4月28日にMallmallが開館してからわずか10日間で、全施設の累計来館者数が11万人を超えたのだ。

中心市街地の変遷(Mallmall期、2018年〜)
2018
(平成30) 年
4月28日
中心市街地中核施設「Mallmall(まるまる)」開館(10日間で全施設来館者数が11万人を突破)
2018
(平成30) 年
10月20日
全施設来館者数が100万人を突破(開館176日間)
2019
(平成31) 年
1月12日
子育て世代活動支援センター「ぷれぴか」来館者数10万人達成(開館260日間)
2月16日 図書館来館者数100万人を突破(開館295日間)
4月28日 全施設来館者数が200万人を突破(開館366日間)
2019
(令和元) 年
10月12日
全施設来館者数が300万人を突破(開館533日間)
12月22日 子育て世代活動支援センター「ぷれぴか」来館者数20万人達成(開館604日間)
2020年
(令和2) 年
1月11日
図書館来館者数200万人を突破(開館624日間)
7月5日 全施設来館者数が400万人を突破(開館800日間)
2021
(令和3) 年
8月7日
図書館来館者数が300万人を突破(開館1198日間)
2021
(令和3) 年
9月13日
全施設来館者数が500万人を突破(開館1235日間)
2022
(令和4) 年
4月4日
子育て世代活動支援センター「ぷれぴか」来館者数30万人達成(開館1438日間)
2022
(令和4) 年
4月29日
複合施設「TERRASTA(テラスタ)」開業
2022
(令和4) 年
6月25日
全施設来館者数が600万人を突破(開館1520日間)
2022
(令和4) 年
9月16日
図書館来館者数が400万人を突破(開館1603日間)
2023
(令和5) 年
2月1日
全施設来館者数が延べ700万人を突破(開館1741日間)
注:都城市役所の資料を基に作成

最大の求心力となっているのが、図書館。当初計画時、予想来館者数を旧図書館の約1.5倍、年間約27万人と見込んでいた。それが、開館初年度の2018年度だけで110万人を突破した。

ぷれぴかも、開館して260日目に来館者数10万人を達成。旧子育て支援センターの来館者数が年間1万数千人だったことを考えると、かなりの躍進である。

Mallmall全施設では、初年度に延べ約190万人の来場者数となり、異例とも言える垂直立ち上げを見せた。都城市役所の資料によると、中心市街地の主な集客施設の来場者数(入込み客数)の合算値は、Mallmallがオープンした2018年度、前年度比約2.6倍に跳ね上がっている。

中心市街地集客施設入込み数の推移

注:都城市役所の資料を基に作成。数字は四捨五入

2020年度からはコロナ禍による落ち込みがあったものの、それでも着実に積み上げ、Mallmallの5周年を控えた2023年2月、累計来場者数は延べ700万人を超えた。

これに伴い、中心市街地の歩行者通行量も着実に増えている。最も通行量が落ち込んでいた2017年度と比較すると、2022年度は4倍以上となった。

中心市街地の歩行者通行量の推移

注:都城市役所の資料を基に作成。数字は四捨五入

2023年度のMallmallの集客は、4月1日からの1カ月強、5月10日までの期間だけで21.5万人に達しており、初めて年間で200万人を突破する勢いで推移している。コロナ禍の収束に加え、これには2022年4月開館のテラスタによる相乗効果も含まれているだろう。

かくして、瀕死の状態だったまちなかは息を吹き返した。ただし、それは中心市街地の、そのなかの中央通りの、そのまた一部。人を呼ぶことに成功したのは、池田市長が宣言していたように、あくまで中核施設であるMallmallとテラスタに限った話なのだ。

旧都城大丸の跡地周辺はたしかに盛り上がっている。しかし、中心市街地、その中心である中央通りの商店街の多くは、いまだにシャッターを閉ざしたまま。そう。池田市長が釘を差していた商店街の再生はまだ道半ばである。

中心市街地商店街の活性化。それはまた、別のストーリーがある。

次回に続く)

シャッター商店街、再生の兆し タウンマネージャーの奮闘

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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