深く多面的に、考える。

マイナンバーカードの真実 #01

普及しないマイナンバーカード まん延する不安や不信感、まつわる誤解

全国的にはなかなか普及が進まないマイナンバーカード。テーマ「マイナンバーカードの真実」では、普及率日本一の都城市の取り組みなどを通じて、普及しない要因やメリットなどの「本質」に目を向け、深掘りしていきます。

「保険証廃止」で賛否両論が噴出

「2024(令和6)年度秋に、現在の健康保険証の廃止を目指す」――。

2022(令和4)年10月、河野太郎デジタル大臣は記者会見でこう語り、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」に切り替える方針を示した。2024年度末としてきた運転免許証との一体化「マイナ免許証」について、「前倒しできないか、検討を警察庁と一緒に進める」とも語った。保険証とは違い、免許証は廃止しない方針だ。

「保険証廃止」のニュースはまたたく間に駆け巡り、世間がざわついた。マスメディアはこぞって街の声を広い、賛否両論を際立たせた。

「分けるよりは一体化したほうが国民的にはやりやすいのかな」「いろいろ持たなくてすむので、いいと思います」といった賛成派の声。対して、「紛失したときにどうすればいいのかなという不安があります」「落としてほかの人に使われてしまうと嫌だな」などといった反対派の声を拾うメディアも多かった。

この方針が出た直近、2022年9月末時点のマイナンバーカード交付率は49%。効果があったのか、11月末時点の交付率は53.9%と、約2カ月で4ポイントほど増加している。だが、「2023年3月末までにほとんどの住民が保有」という政府の当初目標には遠い。

「マイナポイント」で普及率押し上げ

マイナンバーカードは、日本に住民票がある全ての人に付番される12桁の「マイナンバー(個人番号)」が記載されたICチップ付きのプラスチック製のカード。「デジタル社会のパスポート」という位置づけで、ほぼすべての住民が保有することを目標に2016年1月から交付が始まった。

顔写真がついたカード自体に免許証と同等の本人確認の機能があるほか、ICチップに含まれる「電子証明書」を使い、デジタル機器やネットワークを通じて本人確認ができる機能も備える。例えばコンビニなどのキオスク端末でマイナンバーカードをかざせば、住民票などの写しを全国どこでも発行することができる。

しかし、普及の速度は鈍かった。そこで政府は2020年9月から、取得者に5000円相当の電子ポイントを付与する「マイナポイント」事業を開始。第1弾の終了後に伸びが鈍化したため、2022年からは第2弾を開始し、合計2万ポイントとした。

マイナンバーカードの普及率の推移(全国)
マイナンバーカードの普及率の推移

注:総務省の資料を基に作成

締め切りは2022年12月末から2023年2月末に延期された。2023年3月末の国民全員普及へ向けたラストスパート。だが、目標達成は厳しい。背景には、政府やマイナンバーカードへの漠然とした不安や不信感がある。

ニュースを受け吹き出した不信感

「マイナンバーカードで生活をより良くするはずなのに、たった4人で決めた紙の保険証廃止を決定事項のようにTVで吹聴して『早く切り替えないと保険診療うけられませんよ』って国民を脅して、来年4月までにマイナ保険証のシステム整えないと医療機関として認めないと病院や診療所を脅し強制するのはなぜ?」

「いいね!」が7000件以上ついた上記のツイートのように、既存保険証の廃止は共有サイト(SNS)上で“突然の方針転換”と捉えられ、不信感が噴出した。

「普及率から言って大した需要も利便性も無いのに、ポイントだなんだとここまでシャカリキになってるという事は絶対何か裏があるよなあ」「便利になれば多くの国民は自主的に切り替えていくだろうに、こんな強要しなければならないなんて、よっぽど不便で危険な存在なんだな、マイナカード」

こちらは、保険証廃止をいち早く報じた朝日新聞の記事や、河野デジタル相の発表を受けての日経新聞記事に対してのリアクションだ。同時に、紛失時などの「リスク」に対する不安の声も多かった。

「所有だけならしまっておけばいいが、紛失時のリスクが高いマイナンバーカードを保険証の代わりに持ち歩けと政府に強制されるなんてごめんだ」「保険証とか各種本人認証とか,提示する機会が増えるということは紛失の機会も増えるわけで,なおさら1枚のカードへの集約はためらわれる」「マイナンバーが書かれていないマイナンバーレスカードが必要では? 見られてはいけない番号の書かれたカードは持ち歩けない」……。

これらは、NHKや東京新聞、日本経済新聞などの保険証との一体化の報に対するネット上のリアクション。いずれも支持を集めていたコメントだ。

しかし、冷静に事実を見つめると、そうした懸念には「誤解」も多いことがわかる。

「突然の方針転換」ではない

まず、既存の保険証廃止、および、マイナンバーカードとの一体化によるマイナ保険証について、「方針転換」という見方は正確ではない。

当初から政府は、マイナンバーカードと保険証を「一元化」すると明言していた。

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が示した「世界最先端IT国家創造宣言工程表」の一部

2013(平成25)年6月に政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が示した「世界最先端IT国家創造宣言工程表」。その76ページに「暮らしに係る公的サービス及び国家資格等の資格の証明に係るカード類(健康保険証、各種国家資格等資格証明書、国家公務員身分証明書等)について、個人番号カードへの一元化に向けた検討を行い、2016 年1月の交付開始以降、順次、一元化を行う」と書かれている。

「廃止」という文言はないものの、一元化は通例であれば、旧式の廃止を意味する。マイナ保険証はすでに2021年3月から始まっている。今回は、完全な一元化、つまり旧式の廃止の具体的な時期が示されたに過ぎない。

「マイナンバーカードは持ち歩いていいものなの? 当初の建付変わってない?」というコメントもあったが、建付けはなにも変わってはいない。

マイナカード一体化に大量の反対署名…導入前の説明は「持ち歩き禁止」だったのに『紛失したらどうする?』の声」と題した「SmartFLASH」の記事がYahoo!ニュースに転載されると一気に拡散し、1400件近いコメントがついた。だが、タイトルにあるような「当初は持ち歩き禁止だった」という見方は正確ではない。

確かに、マイナンバー(個人番号)に関しては「他人に見られないようにする」という注意喚起があったが、カード自体は身分証としての側面もあり、当初から免許証のように持ち歩くことを想定していた。

また、マイナ保険証の導入が「他人に裏面のマイナンバー(個人番号)を見られる」機会を増やすわけでもない。

マイナ保険証、受診時に『毎回提示』 厚労省見解 初診時や月1回の確認だけでよかったのに…」といった記事が多いためか、マイナ保険証を病院窓口の人間に提示したり、個人番号を見られたりする機会が増えるかのようなコメントが散見される。

「マイナンバーは人に見せたり教えたりしてはいけないけど、マイナンバーカードは毎回見せてください!ってなんでカードにマイナンバー載せたの?あのカードは個人証明カードみたいな感じで出してほしかった」

「マイナンバーって最初は『家族にも教えるな!』ってルールだったはずだけど最近はそれも言われなくなってきてついに保険証といっしょになるってことは病院の待ち時間と診察時間終わるまで返してもらえないんだよね?」

しかし、マイナ保険証の提示とは、受付で専用端末に自らの動作でかざし、認証・資格確認する行為を指す。つまり、機械には一瞬見せるが人には見せない。預けることもない。

病院の受付窓口に設置された「マイナ保険証」の読み取り装置。患者が自ら操作する

ちなみに、厚労省は患者サイドのメリットを、資料でこう説明している。

◉顔認証で自動化された受付

  • 顔認証で、本人確認と保険資格の確認が一度に実施可能
  • 自動受付だから、人との接触も最小限
  • マスク・メガネ・帽子をしていても、車椅子に乗ったままでも顔認証が可能

◉診療・薬剤処方窓口での限度額以上の医療費の一時支払いが不要


◉正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられる

  • 過去の薬や特定健診等のデータが自動で連携されるため、口頭で説明する必要がない
  • 自分の体についてのデータを見たうえで診察・薬の処方をしてもらえることで、より良い医療が受けられる
  • 旅行先や災害時でも、薬の情報等が連携される

◉特定健診や薬の情報をマイナポータルで閲覧できる

  • マイナポータルで処方された薬の情報をいつでも見られる
  • 特定健診等情報の自分の体にかかわる知っておくべき情報を、いつでもどこでも確認できる

「廃止・一体化」ばかりが喧伝されるが、こうした患者の“ため”になるメリットは、あまり伝わっていない。

個人番号を見られても問題はない

では、紛失などして、裏面に記載されている個人番号を他人に見られてしまったらどうなるのか。

マイナンバーだけ、あるいは名前とマイナンバーだけでは情報を引き出したり、悪用したりすることはできません。マイナンバーを使う手続きでは、顔写真で本人確認することが義務化されています。 オンラインで利用する時にも、ICチップに入っている電子証明書を利用するので、マイナンバーは使われません。

デジタル庁は「健康保険証との一体化に関する質問について」というQA集で、こう説明している。

まず、他人が個人番号だけを使って、なにかの行政手続きが成立する機会は存在しない。オンラインで資格確認をする際は、番号を入力するのではなく、カードのICチップ内の電子証明書を読み取る。

また、窓口などでの提示も専用のカードリーダーにかざして同様に読み取る。この仕組み以外で本人確認をする際は、カードに登録された表面にある顔写真と、カードを提示した人間の顔が一致しているか否かなどの確認がなされるため、番号だけ知っていても意味はないというわけだ。

「じゃあ、なんでカード裏面の番号を他人に見られてはいけないのか」「そもそも、カードに番号を記載するする必要ないじゃないか」と思う方もいるだろう。ごもっともな指摘だが、これについては、少々、説明が必要だ。

不安を過剰に煽った政府、ちぐはぐな対応

カード裏面に記載されている個人番号は、個人情報として極めて慎重な扱いがなされている。

マイナンバーカードを身分証明書として店頭などで提示した場合、店舗側は、表面を免許証のようにコピーすることは可能。だが、免許証のように、裏面をコピーしたり個人番号を書き写したりすることは「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)」により禁止されている。

また、同法は「何人も、法律が認める場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない」と定めている。法律が定める必要なとき以外、所有者自身が個人番号を他人に教えたり、カード裏面の写真をSNSにアップしたりする行為は禁止されている。

ただし、前述したように、たとえ他人に見られたとしても、たとえ悪意のある第三者がカードを拾得し、個人“番号”を知ったとしても、事実上、問題はない。

法律が第三者によるコピーや書き写しや、本人による掲示を禁じている理由は、個人“情報”は守られるべき、という原則を徹底しているためであり、個人番号を見られたり知られたりしたら危険が迫る、というわけではない。

だが政府は、非常にセンシティブな対応をとり、マイナンバーカード交付時に、裏面の個人番号が隠れる「透明ケース」をわざわざ配布している。そうした運用が、見られることや知られることへの恐怖心を煽る結果となった。ある政府関係者は、こう話す。

「個人番号についてセンシティブな扱いをしすぎたあまり、逆に不安を煽るような結果となっていることは認める。透明ケースの配布は誤った認識を与えかねないため、廃止を検討している」

個人番号を他人に見られることを懸念する声に応えるべく、ケースを配った政府。それが不安を煽ったため、今度は見られても問題ない、とケース配布をやめようとしている。この対応について、「ちぐはぐだ」との誹りは免れない。

いずれにせよ、「番号を見られたら危険」というのも、はびこる誤解の一つである。

カードの悪用は困難

では、番号ではなく、カードそのものを悪用されるリスクはどのくらいあるのか。「健康保険証とマイナンバーカードが一体化へ 正しい情報を知ってください」という政府与党・自由民主党のウェブページに、こういった説明がある。

マイナンバーカード自体にプライバシー性の高い情報は入っておらず、悪用も困難です。カードのⅠCチップには、健診情報や薬剤情報、税や年金等の情報も記録されていません。もし不正に情報を読みだそうとするとICチップが壊れる仕組みです。また、カードの利用には暗証番号による認証が必要なので、悪用は困難です。もしランダムに暗証番号を入力しようとしても、一定回数間違えるとカードがロックされる仕組みです。万が一、カードを紛失した場合は、一時利用停止が可能で、24時間365日対応しています。

マイナンバーカードのICチップに、あらゆる情報が集約されている、と思う方もいるだろう。しかし実際には、税や年金、医療などに関する情報は記録されておらず、券面に記載されている氏名・住所・生年月日・性別の4情報と顔写真、マイナンバー、それに、電子証明書と住民票コードのみである。

税や年金、医療などに関する個人情報は、マイナンバーと紐付いたかたちで別の場所に保管されており、法律で認められた行政職員や医療関係者のみが、それぞれの手続きに関係する情報のみ、マイナンバーカードから読み取った個人番号を鍵として、閲覧できる。

仮にカードを拾った第三者がその中身を引き出すのは至難の業であることに加えて、ましてや、紐付いた税や年金、医療などに関する個人情報を得ることはほぼ不可能である。

第三者が他人のマイナンバーカードを個人認証のための「電子証明書カード」として使える可能性もほぼない。オンラインやリアルの端末による認証時には暗証番号が必要だ。暗証番号は3回間違えればロックがかかる。

身分証明書としても使えない。レンタルショップなどで本人確認のために使う際は、免許証のようにカード券面の顔写真がその場の人間の顔と一致している必要がある。

つまり、落としたマイナンバーカードを取得した人が、そのカードを悪用できるシーンはないと考えていい。使いようがない無用の長物となるだけだ。

では、マイナンバーカードを落としたときのリスクがまったくないのかというと、そうではない。名前や住所を顔写真つきで知られてしまうといったリスクはあるため、なるべく落とさないようにすべき。ただし、それは免許証などほかの身分証明書でも同じことだ。

加えて、クレジットカードやキャッシュカードなど、金銭と紐付いているカードのほうが落とした際のリスクはよほど高い。マイナンバーカードで商品を購入したり、金銭を引き出したりすることはできない。

マイナンバーカードだからといって、ことさら怖がることはないのだ。

次回は、そもそものマイナンバーカードの意義やメリット、課題など、より多面的に普及への考察を進めていく。

次回に続く)

マイナンバー制度の意義と課題 公平を担保する知られざる効用

  • 筆者
  • 筆者の新着記事
井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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