深く多面的に、考える。

メディアリテラシー #09

能登半島地震に見るSNSの弊害 そこにある情報がすべてではない

  • 2024年1月の能登半島地震発生直後からSNSに偽情報が溢れた。
  • 海外の「インプレゾンビ」や愉快犯がはびこり、誤情報も拡散した。
  • SNSは東日本大震災時もあった避難所間格差の一因にもなった。

2024年1月1日、石川県能登半島沖を震源とするマグニチュード7.6の地震が北陸地方を襲った。2011年3月11日の東日本大震災から丸13年を迎えようとしていた頃。この12年余りで旧来型のガラケーはスマートフォン(スマホ)へと置き換わり、SNSは人々の情報伝達手段としてすっかりと定着した。

かつて東日本大震災の被災地で「なにそれ?」と言われ、地方では認知度がほぼなかった「Twitter(現X)」は、支援する側、される側、高齢者を含め、ほとんどの人が知るところとなった。大震災当時に存在すらしなかった「LINE」は、今では電話以上に重宝されるツールとして定着している。

人々の情報伝達手段は様変わりし、SNSは「被害状況や支援内容が即座に伝わる」「支援の手が迅速に行きわたる」といった恩恵をもたらした。一方で、利用者が急拡大した結果の弊害も生じている。そして、それら問題の根は今も13年前も変わらない。

メディアリテラシーの観点を踏まえ、能登半島地震にまつわるSNSでの騒動や混乱を見つめていく。

「情報洪水」に紛れる偽情報

噂、風説、デマ……。今回も、根拠なき流言飛語が飛び交った。その発信地は必ずしも被災地ではない。被災地を装い海外から発信されたものまである。1月1日の地震発生直後から問題となったのが、偽の救助要請。最も有名な投稿が「タンス」だろう。

七尾市◯◯(特定の住所)
息子がタンスの下に挟まって動けません頼みの綱がXしかない状況です
助けて
#助けて #SOS #能登地震 #拡散希望

「息子がタンスの下に挟まって動けません」との投稿は通信社の取材で偽投稿と判明

元日の地震発生直後にXで投稿されたこのポストは、なぜか別のアカウントが「リポスト(旧リツイート)」の機能を使わず、テキストをそのままコピーするかたちで拡散し続けた。大手通信社がその住所を尋ねると、40歳代の女性が住んではいたものの、彼女が投稿した事実はなかった。息子もいなければ、家屋の損傷も軽微。翌2日深夜にそのニュースが配信され、最初の投稿は消えたが、“元ネタ”をそのままコピーした投稿のいくつかは今でも残っている。

「倒れたタンスに挟まって動けません」「右腕がタンスに潰されてます」「閉じ込められて逃げられない」……。

ほかにも同様の偽情報が雨後の筍のように湧いた。本物の救助要請に紛れるように、嘘の投稿が急増。中にはそうした偽情報を信じ、警察や消防などに救助要請の連絡を入れる人もいた。そのたびに当局は確認作業に追われた。

こうしたSNS上を飛び交うデマ情報の増殖を受け、岸田文雄首相は2日午前の記者会見で「被害状況などについての悪質な虚偽情報の流布は決して許されない。厳に慎んでもらいたい」と反応。SNS上でも真偽の推定や議論が交わされたものの、それでも怪しげな投稿とそれに惑わされるユーザーは一定数、残った。

そうした現象の一因として、大手メディアは2日頃から「インプレッションゾンビ(インプゾンビ)」の存在を挙げ、周知に務めた。

「インプゾンビ」が助長

手段は問わず、とにかくXでの表示回数、つまり「インプレッション数」を1件でも多く増やしたい人々がいる。広告収益につながるからだ。

2023年夏、TwitterはXへ名称変更すると同時に規約を改正し、収益化プログラムを導入した。広告収益を得るには、有料プランの「X Premium(旧Twitter Blue)」に加入し、フォロワーを500人以上、過去3カ月以内のインプレッション数が500万件以上、といった条件をクリアする必要がある。

500万件という条件は、自身のポストに加え、他人のポストに対する「リプライ」でのインプレッション数もカウントされる。達成するために、有名人のポストや、バズったポストに対して、絵文字などの無意味なリプライをプログラムなどで自動的に繰り返す「botアカウント」が海外で増え、そうしたアカウントがインプレゾンビと呼ばれるようになった。

インプレゾンビと見られるアカウントからのポスト(左)。プロフィール(右)には「パキスタン」とある

他人のポストのコピー投稿を“手動”でせっせと続けるゾンビアカウントも増えた。得られる収益は、数千万のインプレッション数でようやく数万円というレベルだが、パキスタンなど経済事情が悪いアジア圏の国々を中心にゾンビが増殖。今回の救助要請でも、そうした海外のゾンビアカウントによるコピー投稿が多数、散見された。SNS時代の最新の仕様変更による弊害と言える。

ゾンビのポストは1投稿あたり数万件から多くて30万件ほどのインプレッション。合計すれば、救助要請関連の偽投稿だけでも数千万件に及ぶ。ただし、それらの何割が日本人ユーザーの目に触れ、影響を与えたのかは定かではない。加えて、それらの偽ポストを鵜呑みにした日本人は、そう多くないだろう。

投稿者のアカウントを辿れば、救助要請のコピー投稿以外のポストは外国語のため、海外からの投稿であることは一目瞭然。しかも、リポストではなくコピー投稿している時点で怪しい。そのコピー投稿のリプライを見ると、外国語のリプライが多く、日本語は冷やかしと見られるもの以外、ほとんどない。多くの日本人ユーザーからは相手にされず、同じくインプレッション数を狙うゾンビ同士の交流の場と化していた。

むしろ日本人ユーザーや当局にとって問題なのは、そうしたアカウントではなく、目的不明の日本人アカウントの方なのかもしれない。

本当か嘘か、惑うユーザー

〒928-0001
石川県輪島市◯◯(特定の住所)
旦那が足を挟まれて出られません。119も繋がりません。
#石川県 #地震

1月1日午後6時56分、Xに投稿されたこのポストは上記で紹介したポストとは毛色が違う。発信者は過去に「歌い手」の話題を中心に日本語のみで投稿していた。続いて、午後6時57分から59分まで、上記と同様の投稿を9回も立て続けに連投。10ポストのインプレッション数は3000万回を超え、そのリプライは通報した旨や励ましの声で溢れた。

海外ゾンビのポストとは比較にならない拡散力。少し空いて午後7時13分、今度は「充電もあと6%しかありません。旦那の呼吸ありません。私自身も右足の感覚が無くなってきているきがしています。寒いです」といった切迫したポストで連投は終わった。

切迫した状況を伝える連投の最後のポストは3800万件以上のインプレッション数があった。後に、デマの可能性があるとする「コミュニティノート」がついた

これだけでインプレッション数は3800万件以上。リプライも2200件以上が集まった。海外ゾンビであろう意味不明なリプライが湧く一方、「(投稿者は)若い男の子だね(学生?)」「呼吸がない旦那さんの救助を求めてる人は『一人称俺』『旦那はいるが普段の姿は男』」といった、偽情報であることを指摘する声も。

しかし、連続した鬼気迫るポストに、日本人による日常生活を示すポスト履歴がリアリティを醸す。そして、このアカウントに、Xの収益化を示す青いバッヂはついていない。偽投稿である疑念を払拭できない、あるいは本物と信じるユーザーによる「諦めないで!」「頑張って!」といった心配の声もさらに増えた。

投稿が再開されたのは1月4日。「お騒がせしております。避難所にてモバイルバッテリーの配布があり、ただいま携帯復旧致しました」「なにより旦那が亡くなってしまった現実が受け入れられず、未だ放心状態です」「皆様のおかげで私は生きています。拡散いただけた皆様は私の命の恩人です」といったポストをまたもや連投。そこに相も変わらず、哀悼の意を示し、心を寄せるユーザーからのリプライが届いた。

「旦那を亡くした」とする一連の投稿にあった住所地をNHKが訪れると、住人は「心当たりはない」と答えた

結論を言えば、すべてが“釣り”の虚言だった。このアカウントが過去に配信していた動画サイト「ツイキャス」のコンテンツはすべて、「今日はイケボ(イケてるボイスの略)男子でやるから」といった男性の声のみ。後日、検証で示された住所を訪れたNHKは、偽投稿であったことを確認している。

このアカウントは、1月4日のポストを最後に発信が途絶えた。何が目的だったのか。過去のツイキャスの動画では、人々を惑わすことが趣味と語っていたこともある。そうであれば悪質。SNSの普及が、愉快犯のモチベーションを上げている可能性がある。

悪意がある偽情報ばかりではない。復旧のフェーズに入ると、意図しない“誤”情報も増えていった。

避難所関連でも様々な誤情報

金沢市はこれを用意したけど、まず罹災証明書を取ってからというお役所仕事 とりあえず入れてあげてあとからじゃだめなのか?これも一時的な場所なのに!!!

1月9日、こんなポストが1.5次避難所である金沢市の「いしかわ総合スポーツセンター」の体育館にテントが並んだ写真とともに投稿された。3600回以上のリポストとともに拡散され、130万回以上のインプレッション数。ちなみに1.5次避難所を用意したのは金沢市ではなく石川県。そこはいいとして、石川県はその2日後、Xでこんな投稿をしている。

「り災証明書は不要」と強く訴え、広がる誤解の火消しに追われた様子が伝わる。ほかにも避難所関連では、様々な誤情報や誤解を与える情報が拡散された。

政府が被災者に20万円の貸付をするって言ってるけど、もはや笑えるね。家が崩壊したり、甚大な被害にあった人に、たった20万円じゃ足りないし、さらに被害にあった人から取り立てるの?

150万人以上のフォロワーを抱える著名人が1月11日に投稿したポストが、1万2000件以上のリポスト、880万件以上のインプレッション数を集め、話題となった。実際には「20万円」の貸付は被災者支援策の一部に過ぎず、家に住めなくなった人には最大300万円の現金給付も用意されている。1400件近いリプライには、そうした追加情報を投稿するものもあれば、著名人の投げかけに「貸付はあくどすぎる」「呆れる」といった同意する声も多数入り混じり、騒然とした。

誤情報が拡散する場はXにとどまらない。例えば1月25日、珠洲市の災害情報を共有し合う「Facebook」のグループに、「二次避難などして、今いるところを出てしまうと仮設住宅の抽選から漏れる。この話は本当ですか?」という投稿があり、3800人以上の参加者を中心に不安が広がった。だが、その事実はなかった。

これら避難所関連の誤情報拡散に共通して言えるのは、人々を扇動したり、騙したりする悪意はないということ。調べれば、丁寧に確認すれば誤りだということに気づくはずだが、そうはならない。インターネットやSNSの普及で、あまりにも大量の情報が爆発的に、しかも瞬時に共有されるようになったゆえの弊害とも言える。

ただし、問題の根は過去の災害時と共通している。いつの世も、災害時は流言飛語が飛び交うものだ。

「情報の空白」がデマを誘発

1923年9月1日に起きた関東大震災では、事実無根のデマ情報に疑心暗鬼となった人々が暴走し、惨事が起きた。

「富士山に大爆発、今なお噴火中」「社会主義者と朝鮮人の放火多し」「朝鮮人約200名神奈川で殺傷、略奪、放火。東京方面に襲来する」「朝鮮人約3000名多摩川を渉って来襲、住民と闘争中」……。

警視庁編『大正大震火災誌』によると、9月1日の地震発生直後から翌2日昼頃までの短時間で、そうした事実無根のデマ情報が関東の住民に流れた。その流言を信じた人々が在日朝鮮人に対して暴行、殺傷するという痛ましい事件へと発展した。さすがにそんな悲劇は関東大震災以降、起きていない。だが、流言は東日本大震災でも飛び交った。

「外国人が避難所から物資を奪っている」「遺体から金品をせしめる外国人がいる」……。インターネット掲示板や、当時、普及し始めていたTwitterに、そんなデマ情報が流れた。暴行などの事件には至らなかったものの、信じた日本人によって差別的な扱いをされた外国人も少なくなかった。東北学院大学の郭基煥教授が行った調査では「被災地で外国人が犯罪をしている」という噂を聞いた86%の人が「信じた」と回答している。

2016年の熊本地震では「ライオンが動物園から逃げた」という偽情報がSNS上で拡散。一時、騒然となった。なぜ災害時にデマが拡散するのか。関東大震災を詳細に分析した政府の中央防災会議の報告書は、そのメカニズムをこう指摘している。

・情報の「空白」
流言増殖のメカニズムを考える場合、第一に踏まえられるべきは、人々にとって情報の不足あるいは欠乏と感じられる事態が生み出されたことである。

関東大震災当時、人々の情報入手は新聞が主流だった。その新聞社自体が被災し、「ほぼ3日間は新聞の空白状態であった」(報告書から)。現代の震災で3日、新聞が出ないということは考えられない。

今は、ほぼリアルタイムで情報がアップデートされ、知ることができる。メディアによって裏が取れ、編集された情報も、1時間を待たずに入手できる時代。情報伝達速度が飛躍的に高まった一方で、その分、人々が情報入手まで我慢できる時間も相対的に短くなっていると考えられる。つまり、大地震が発生してから1時間も情報が入って来ない状況は、かつて数日間情報が入って来ないのと同じ効果をもたらした。

現代人が耐えられる「空白」は極めて短い。その空白とSNSのメディア効果がデマの発生や拡散を誘発している。災害時の情報の空白を突く不埒な行為や、意図しない誤情報の拡散は、今後もなくならないどころか、エスカレートしていく可能性すらある。

発信力の差による避難所間格差も

偽情報・誤情報の類ではないが、情報発信力の差が避難所間の格差を生むという問題も押さえておきたい。

石川県七尾市のとある指定避難所。そこに避難していた大学生が1月18日、「Instagram」と「TikTok」のアカウントを開設し、生まれ育ったまちが崩壊した壮絶な状況や、それでも立ち上がろうと力強く生きる避難者たちの姿などを発信し始めた。若者のピュアな視点で綴られたメッセージや動画は多くの共感を誘い、様々な支援の手が届くようになった。

音楽ライブ、タコスやクレープの無料提供、生花の差し入れ……。投稿を見た人がボランティアで駆けつけ、厳しい避難生活に小さな喜びをもたらす。いくつかの新聞が、そうしたSNSでの発信や、それを起点とした支援を紹介。その記事がまた新たな支援を呼び、そこは比較的、恵まれた避難所となった。

自主避難所の環境悪化を伝える産経新聞の記事

一方で、石川県で300カ所以上あった避難所のうち半数以上の170カ所以上あった「自主避難所」は様相が違った。行政は環境の良い指定避難所への移動を呼びかけるも、「倒壊した家から離れたくない」「指定避難所には小さい子を連れていけない」といった事情で地域の自主避難所に残る人々がいた。その多くは、十分な物資が届かず、ボランティアも訪れず、決して恵まれたとは言えない状況が続いた。

得てして避難者の収容人数が多い大規模避難所は、メディアやボランティアも駆けつけ、全国への情報発信が多くなる。露出が増えるとさらに物資やボランティアの支援が集まる好循環に入る。本来は、大規模避難所から周辺の支援が足りていない避難所へ物資やボランティアを振り分けていくべきだが、その管理にあたる人手の不足や道路事情などロジスティクスの問題で目詰まりを起こし、必要なところへ支援が届かない――。

東日本大震災の時もあった避難所間格差の問題が、今回も頭をもたげた。

SNSであっても森羅万象ではない

東日本大震災の当時、筆者は震災発生から2週間後に被災地に赴き、取材活動をした。南三陸町最大の避難所「総合体育館(ベイサイドアリーナ)」は震災から約1カ月の4月上旬でも約700人の被災者が寝泊まりをし、日中は自宅避難者やボランティアがひっきりなしに訪れ、賑わいを見せていた。

当初からメディアがベイサイドアリーナに集中し、駐車場にはテレビ局の中継車や新聞社の記者が乗る黒塗りのハイヤーがずらりと並んでいた。報道の効果がさらなる人を呼び、連日、全国から参集したボランティアらによる炊き出しやイベントが開催された。一方で、物資もボランティアも不足する光の当たらない避難所も多々、取り残されていた。

今は当時とは違い、SNSの利用者数は桁違いに多い。どの避難所でもXを使える人がいるはず。新聞やテレビが伝えなくとも、SNSが被災地の格差を解消すると思いきや、しかし、大枠では似たような状況に陥った。結局はSNSもメディアの一つなのだ。

ほぼ誰もがSNSを扱える時代であっても、発信する人としない人がいる。困っている人皆がSNSで発信するわけではない。フォロワー数など影響力が多い人とそうではない人という差もある。強いSNSのアカウントが、かつての新聞やテレビのような効果と格差を生む、という皮肉な現象が今回の震災では見られた。

こうしたことを踏まえ、我々は震災時、支援する側としてSNSというメディアとどう向き合えばいいのか。対策はこれまでのメディアリテラシーで論じて来たことと何ら変わりはない。まずは「立ち止まる」ことが肝要だ。

前提として「災害時は必ず偽情報や誤情報が発生する」ということを認識してほしい。真偽が定かではない投稿を見たときは、安易に拡散に手を染めず、ひとまず落ち着くべき。今の時代に至っては、お金儲けを企む輩や、広範囲に影響を与えることに悦を感じる輩も存在するということも、頭の隅に置いておきたい。

もう一つ。震災時は、SNSにある情報がすべてではないと考えたほうがいい。これだけ普及すると、SNSが森羅万象を映し、ほぼすべての情報を網羅していると勘違いしてしまいがちだが、見てきたように実際はそうではない。

震災時ともなれば、電力や携帯電話の電波が失われた状態にある人も多く、現地から等しく情報が上がってくるわけではない。情報発信したくてもできない人、あえて情報発信しない人もいる。メディアの取材活動も制約され、被災地を網羅する余裕もない。見聞きした情報は全体のほんの点に過ぎない。そして、そこに誤りや嘘も紛れているのだ。

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Think都城

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