深く多面的に、考える。

メディアリテラシー #08

複雑化する「ステマ」広告 ステマ規制開始でも安心できない消費者

  • 2023年10月、法改正でステルスマーケティングの規制が始まった。
  • 芸能人からメディアまで、倫理観を揺るがすステマの裏側を探る。
  • 規制で罰則あれども、消費者が決して安心できない理由とは。

2023年10月から始まった「ステマ規制」

「ステマ規制」の開始を周知する消費者庁のウェブサイト

「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります――」。

検索サイトで「ステマ」と検索すると、一番上にこんなタイトルのページが表示される。ステマとは、「ステルスマーケティング」の略。広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すことを指す。

発信元は消費者庁。2023(令和5)年10月以降、ステマが「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法=景表法)」違反になることを周知するページだ。いわゆる「ステマ規制」の実施である。ステマを巡る諸問題は、新しいフェーズに入った。

先日寄稿した「デマを“現実”にするSNS時代 昭和と令和の『取り付け騒ぎ』に学ぶ」では、たとえデマと分かっていても、リテラシーの高さゆえに「デマや不安の拡⼤が引き起こす結果」を予期し過ぎて、結果的にデマが引き起こすのと同じ結果を招いてしまう、という新たな課題について紹介した。

今回は、同じくインターネットやSNSが生んだ課題のステマについて深掘りをしていく。ステマ規制の実施を機に、日々ネットに触れる私たちとステマとの関係を再考したい。

広告主が明示されない広告

まずは、ステマとはどんな行為を指すのか。そして景表法がどんな法律なのかということに改めて触れていく。

10月の景表法改正に先立って消費者庁が3月に告示した言葉をそのまま用いれば、ステマとはすなわち「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を指している。

分かりやすい例としては、宣伝したい企業などの事業者が、芸能人やSNSなどで多数のフォロワーを抱える「インフルエンサー」などに金銭などを渡していながらも、その関係性を明示させずに商品やサービスを好意的に紹介してもらうことなどが挙げられる。

ネットの口コミマーケティングに関する業界団体である一般社団法人「クチコミマーケティング協会(WOMJ)」では、消費者庁よりも踏み込んだかたちでステマを定義しているので、こちらも紹介しておこう。

クチコミマーケティング協会(WOMJ)」はステマについてより詳細な定義をしている

2023年3月に消費者庁が公開した景表法の指定告示と運用基準によれば、ステルスマーケティングは「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」とされています。しかしながら景表法は商品やサービスの取引に関わる表示が対象の法律で、世の中には景表法の対象範囲外での「ステルスマーケティング」も存在すると考えられます。

一般的には「広告主がいるにもかかわらず、広告主が明示されない広告」、「広告という形態をとらずに行われるマーケティング活動で、主体が明らかにされないもの」、「本来の広告主とは異なる名称の主体によって行われる、広告・マーケティング活動のこと」などといわれています。

共通するのは「『広告・宣伝・マーケティング』であるとわからない」かつ「主体が明らかにされない」ことです。マーケティングであるという事実、あるいはマーケティングの主体が消費者から隠れている(ステルス)マーケティング活動であり、そのようなものが総称してステルスマーケティングと呼ばれています。

宣伝を依頼する事業者側の行為

ちなみにステマという言葉を聞くと、芸能人やインフルエンサーなどの行動が取り上げられがちだが、あくまでもステマの主体は、商品やサービスの宣伝を求める事業者(広告主)側であると定義されていることに注意してほしい。後述する罰則も、インフルエンサーなどではなく、事業者側に科せられるものだ。

今回、ステマを規制する法律となった景表法は、事業者が過度な広告を展開したり、過度な景品を“エサ”に消費者を惑わし、不利益を与えたりすることを防ぐための法律。

ちなみに、過去には「ソーシャルゲーム(ソシャゲ)」と呼ばれるネットゲームにおいて、「コンプガチャ」と呼ばれる、くじ引きのような仕組みが規制された。その根拠となったのも、この景表法である。

コンプガチャとは
「コンプリートガチャ」の略で、一定額の課金により、特定の確率でさまざまなアイテムを獲得できる課金システム「ガチャ」の一種。ガチャにおいて、複数のアイテムなどを完全にそろえる(コンプリートする)ことで、さらなる報酬が得られる仕組みのこと。

今回の規制により、ステマは景表法における「不当表示(商品やサービスが、実際よりも著しく優良だと誤認される表示)」として扱われることとなった。

ステマを行った事業者は、消費者庁が再発防止を命じる措置命令の対象となり、企業名も公表される。これに従わなければ、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」などといった罰則が科される。

今回ステマが規制対象となった背景には、これまで大小問わず数多くのステマが横行してきた背景がある。現代では、メディアを読み解く能力「メディアリテラシー」において、ステマを見抜く能力も求められることは言うまでもない。

芸能人が加担した「ペニオク」事件

IT業界を担当する記者として、筆者もその実態を目の当たりにすることもあったが、中でも記憶に残っているのは、11年前の「ペニーオークション(ペニオク)」にまつわるステマ。事件化して逮捕者も出た結果、複数の芸能人がステマに関与したことが明らかになったというものだ。

2012年12月、ペニオクサイトを運営していたある企業の役員と社員が、詐欺容疑で逮捕され、最終的に執行猶予付きの有罪判決を受けることになった。

ペニオク詐欺事件を伝える当時の報道(日本経済新聞電子版より)

ペニオクとは、当時流行した、入札時に固定の手数料が必要なインターネットオークションのこと。開始価格が安価であり、入札手数料は固定である。あくまで理屈として言えば、「競争相手が居なければ安価に商品を落札できる」というものだ。だが落札できなくとも入札手数料自体はかかるほか、たとえ落札しても入札手数料と落札価格を合計すると、最終的な取得価格は高くなるというもの。

今となればその構造自体にも疑問が浮かぶが、当時はサイバーエージェント子会社のCAモバイルやDMM.comといったメガベンチャーから、別業界からやってきた事業者など、10を越える企業がペニオク事業に参入していた。逮捕者が出た企業も、そんなペニオクサイトを運営する1社だった。

同社のペニオクサイトが問題になったのは、「参加者が入札しても落札できない仕組み」を作っていたからだ。このサイトでは、架空の会員名義を持った複数のボット(ネットで稼働するロボット)が落札価格を競うように見せてつり上げ、利用者がどれだけ入札しようとも落札できないようになっていたのだ。

結局、詐欺事件として立件されたわけだが、結果として顕在化したのが、ペニオクを紹介していた芸能人らによるステマだった。

「Twitter」や「Instagram」に今ほどの波及力がなかった当時、日本のネットユーザーを動かす一つの要素として注目を集めていたのは「芸能人ブログ」だった。芸能人ブログの中に、「ペニオクで安く商品が買えた」として商品を所持した写真を掲載したり、サービスを勧めたりする内容が複数見つかったのだ。

「詐欺で落札できないはずのペニオク」で、芸能人らはどうして安価に商品を入手できたのだろうか――。 もちろんそれは実際に落札したのではなく、対価を得てサービスを紹介したステマに加担したからに他ならない。

最終的にはステマに関与したとして8人の芸能人の名前がメディアやネットで取り沙汰されるに至った。詐欺への加担を疑われた芸能人の中には謝罪や釈明に追われた人物、警察の事情聴取を受けた人物、ブログを削除し当面の活動自粛を余儀なくされた人物も出るなど、大きな騒動となった。

四者が絡むステマ疑惑

当時こそ「ステマは悪」という風評がネットを駆け巡り、ステマは沈静化したように見えた。だが実際は、多くの人々に影響を与えられる芸能人やインフルエンサーとステマの関係は切っても切れないものになっていった。

常習的脅迫や名誉毀損などで今年逮捕された前参院議員・元ユーチューバーの「ガーシー」こと東谷義和被告も、かつて自らのYouTubeチャンネルで、芸能人によるステマの横行について指摘をしていた。

筆者は直接取材したわけではないため、個別事象の真偽に言及する立場にはない。だが少なくとも、芸能人らとステマの距離が今も近いからこそ出た話だとは想像できる。

また、ステマは芸能人だけの問題ではなくなっていった。何万人というフォロワーに影響力を与えるインフルエンサーやユーチューバーが次々と勃興したからだ。

消費者にPRしたい事業者と、影響力をお金に変えたいインフルエンサー。両者の利害が一致し、「案件」と呼ばれる仕事が増えていった。その一部は「広告」「PR」といった、事業者からの依頼であることを示す表示がなされてきたが、すべてではない。

インフルエンサーへのアンケート調査(消費者庁)

注:出所は「消費者庁 ステルスマーケティングに関する検討会報告書 」。インフルエンサーのマネジメント会社に登録している現役インフルエンサー(300名)に対して、2022年8月17日から同月19日にかけてインターネットを用いたアンケート調査による

法規制を前にした消費者庁の検討会による調査では、インフルエンサーの41%がステマを依頼された経験があり、そのうちの45%、全体の2割近くが実際にステマと判断できる事案に関わっていたことが明らかになっている。

実際には、グレーなものもかなり多い。当事者に自覚がなくとも、ステマと指摘されることもある。例えば、約3万人以上のチャンネル登録者を抱えるユーチューバーの動画について2023年1月、ある地方紙が「自治体によるステマではないか」という報道をした。

湖の周辺を自転車で駆け巡る14分ほどの動画だが、じつは自治体の補助金が使われ、自治体が事務局を務める協議会が動画制作を請け負うPR業者に62万円以上を支払っていた、という内容。動画にはPRであることを示す表示などがなかった。

自治体、協議会、PR業者、ユーチューバーと四者が絡むこの案件は非常に複雑であり、当初、自治体は「ステマではない」としていた。しかし、地方紙の取材があった後、当該動画には「プロモーションを含みます」という表示がなされ、加えて概要欄に協議会からの「提供」である旨が書き加えられた。

当該動画をYouTubeで再生すると「プロモーションを含みます」という表示が出ていた

法規制の曖昧な運用基準

実際に、この動画の“案件”が景表法違反に該当するか否かについても、筆者は言及する立場ではない。

ただし、SNSやYouTubeなどのネットメディアが盛り上がるほど、ステマやステマと疑われる行為の構造は複雑化している、ということは言える。そして、案件と呼ばれるビジネスの市場が拡大するほど、関係する事業者やインフルエンサーが増えている、ということも。結果として、事業者側もステマかどうか判断しにくくなっているのは間違いない。

裏を返せば、一般の消費者や視聴者がステマかどうかを見抜くのは、ますます困難になっていると言える。だからこそ、ステマ規制が始まったわけなのだが、これで一件落着かと言うと、そう単純な話ではない。

ステマ規制は、9月30日以前の投稿も規制の対象になるとしている。

ブログやSNSなどで成果報酬型の広告を掲載して商品やサービスを紹介し、それらが売れることで利益を得る「アフィリエイター」。筆者が観測した範囲では、法施行の直前、アフィリエイターに広告やPRを依頼する「アフィリエイト・サービス・プロバイダー(ASP)」が、「過去の記事も含めて見直してほしい」といった注意喚起のメールをアフィリエイターに何度も送っており、X(旧Twitter)をはじめとするSNSでも話題になった。

ただし、その見直しはあくまでアフィリエイターに委ねられており、当のアフィリエイターは規制や処罰の対象ではないことから、その実効性に疑問を呈する声があがっていた。

景表法の運用基準が曖昧だと困惑する事業者も多い。個別の事案や案件が規制対象かどうかは、消費者庁が「事例ごとに総合的に判断する」としているからだ。

運用基準は、事業者がインフルエンサーやアフィリエイターといった「第三者」に広告やPRをしてもらう際、明確な依頼や指示がなくとも、第三者による表示や表現内容に“関与”していれば規制対象になるとする。

だが、関与があっても、第三者による「自主的な意思によるもの」と判断された場合は、規制対象ではないとしている。この、文言が厄介である。

倫理観が揺れるメディアの現場

例えば、「モニター」などの名目で商品の無償提供を受けたインフルエンサーがいたとしよう。商品が送られてきただけで、何の指示もない。インフルエンサーは、あくまで自主的な意思に基づいて、商品を褒める動画を投稿し、それがヒットした。

今度は同じ会社から、より高額な商品が送られてきた。気を良くしたインフルエンサーは忖度して、また褒める動画を自主的な意思で出した。それが繰り返された場合、果たしてステマになるのかどうか、線引きが非常に曖昧になってくる。

中には「自主的な忖度」を狙う事業者も多く出てくるだろう。いや、すでにそういった事例は数多くある。そして、それはインフルエンサーやアフィリエイターの領域にとどまらない。中立公正を謳うジャーナリズムや、テレビ、ファッション・ガジェットなどを扱う雑誌など、「マスメディア/ネットメディア」にも古くから存在する話なのだ。

例えば、メディアが事業者から商品を貸与されてレビューなどを行うケースは多々ある。真っ当なメディアであれば貸与物はレビュー後に返却するわけだが、時には事業者から「モニターとして使用し続けてほしい」といった言葉とともに、譲渡の提案を受けるという話も聞く。

ステマ規制の観点で言えば、そういうことがあっても「この記事はA社から商品提供を受けています」「これは広告です」といったかたちで関係性を明示すればいい。だが、「広告」としての料金が発生していない場合、単なる商品レビューを目的とした貸与の場合、通常の記事や番組などでそう謳うことはない。

しかし、もしその商品を結果として返却しなかったのであれば、そのレビューに公正さは備わるのだろうか。定価が10万円以上するスマートフォン(スマホ)をモニターとして手渡されたとき、メディアはフェアな評価ができると言い切れるのだろうか。

こういった誘惑があるからこそ、特にガジェットメディアなどでは「自腹レビュー」と銘打つ企画をすることが少なくない。つまり、「自腹で買った商品なので、事業者の意図は入らない」という信頼性を読者にアピールするのだ。

それでも、商品の貸与や提供がなくとも、何らかの招待制のイベントがあり、仕事としてそこへの入場権を得るために事業者へ忖度することもあるかもしれない。その忖度を狙ってコントロールしようとする事業者が存在する可能性も、多いにある。

商品やサービスを選ぶのは自分自身

少し話がそれてしまったが、正しい情報を伝えるべきメディアも目の前の“エサ”で心が揺れるということだ。

ステマが法的に規制されたことは、消費者が正しい情報を得るための一助になることは間違いない。だがそれは、ステマが法律で規制するほど蔓延しているということの裏返しでもある。そして、法律の網から漏れてしまう「意図」もまた、蔓延しているのだ。

SNSでインフルエンサーが活躍するようになってからは、「どんなモノ・コト」であるかよりも「誰が言ったモノ・コト」であるかが重要視されがちだが、その意見の裏側に何かしらの意図があるのかもしれない、と注意深く観察する必要がある。

消費者である私たちは依然として、メディアやSNSを通じて流れてくる情報を鵜呑みにしてはいけない。自分自身の目で商品やサービスを選ばなければいけない。それは、ステマ規制があろうとなかろうと変わりないのだ。

これまで日本は、先進国の中で唯一、ステマに関する法規制がなく、「ステマ天国」と呼ばれていた。法規制云々の前に、まずは消費者自身がステマも視野に入れたメディアリテラシーを高め、意識を変えなければいけない。法規制だけでは汚名を返上することはできないだろう。

もちろん、マスメディアを始めとする情報発信する側も、その倫理観のあり方を問い続ける必要があることは言うまでもない。

  • 筆者
  • 筆者の新着記事
岩本 有平(いわもと・ゆうへい)

DIAMOND SIGNAL編集長。SIerなどを経て朝日インタラクティブ「CNET Japan」編集記者に。その後AOLオンライン・ジャパン(現:Boundless)「TechCrunch Japan」副編集長を務める。創業期のスタートアップからメガベンチャーを中心に広く取材。並行して2500人超の集客を誇るスタートアップイベント「TechCrunch Tokyo」企画・運営を行う。出版社などを経て2019年よりダイヤモンド社 ダイヤモンド編集部の副編集長。2020年7月より現職。

  1. 複雑化する「ステマ」広告 ステマ規制開始でも安心できない消費者

  2. デマを“現実”にするSNS時代 昭和と令和の「取り付け騒ぎ」に学ぶ

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