深く多面的に、考える。

甦る中心市街地 #06

街に新風吹き込む“高級”焼き鳥店 「とり喜多」店主、北薗泰信氏の願い

  • 中心市街地のど真ん中で気を吐く焼き鳥店「とり喜多」。
  • 中心市街地活性化策で2022年5月にオープンしたばかり。
  • こだわり抜いた高級路線で客がついた今、店主は願いを語る。

中心市街地に佇む串焼きの焼き鳥屋

都城市の中心市街地の中でも中核を成す「中央通り」。そこから、都城最大の歓楽街「牟田町」方面に路地を入った場所、かつては賑わいの中心地でもあった「千日通り」とのあいだに、その店は佇んでいた。

中央通りから牟田町方面(写真奥)の路地に佇む「炭火焼きとり とり喜多」

「炭火焼きとり とり喜多」。その名の通り、“焼き鳥”店である。

鶏もも肉を強い火力で豪快に炙る宮崎名物「もも焼き」「炭火焼き」を売りにする店が多いなか、全国的に知られている焼き鳥を看板に掲げる店は都城において珍しい。

2023(令和5)年11月下旬、暖簾をくぐると、いかにも職人気質を絵に描いたような店主が控えめな声で「いらっしゃい」と迎えてくれた。

とり喜多の店主(左)とアルバイトの2名で多忙な年末の夜も乗り越える

カウンターが4席、奥にテープルが2つある座敷が11席のこじんまりとした店舗。しばらく一人で切り盛りしていたが、手が回らなくなり、最近、アルバイトを雇ったのだという。

ご挨拶だけで済まそうと考えていたが、たまたま次の約束まで40分ほど時間があり、席も空いていたため、「おまかせ焼き鳥5本+1品」をお願いした。その味に驚かされた。

「とにかく美味い」こだわりの店

店主は手際よく、仕込んであった串を、炭火の火力が強い下段と上段に置き分け、串を回していく。最初に出てきた串は「ささみわさび」。単品では220円で提供されている。

「ささみわさび」(左)の中はほぼレア。「はつ」はスモーキーで臭みはない

大ぶりの肉を口に入れた瞬間、ジューシーな肉汁が溢れ出した。まわりを軽く炙り、中身はレアな状態。絶妙な焼き加減に、塩加減。聞けば、3種のこだわり抜いた塩をブレンドした特製塩をふっているという。

続いて出てきたのは「はつ」。単品では200円だ。血はしっかりと抜かれ、臭みはまったく感じない。食すと、スモーキーでジューシーなうま味が口全体に広がった。ハツを食べているとは思えない。まるで高級な牛タンを食べているかのような錯覚すら覚えた。

ぷりっとした食感の「砂ずり(左)」と噛むほどに味が染み出す「わらじ」

「砂ずり(180円)」「わらじ(180円)」「ねぎま(280円)」と続く。単品だと合計価格が1060円のところ、ここにこの日のおすすめである「もずく酢」が一品ついて950円とは、お得だ。

いずれも美味としか言いようがない贅沢な味。高級焼き鳥を標榜する東京都内の店と遜色がない、いや、お値段も考えれば勝るとも劣らない実力を備えていた。

この店は、中心市街地活性化策の一環として、2022年5月にオープンしたばかりの新店。にもかかわらず常連客がつき、2023年12月上旬時点で、すでに年内の週末は予約がとれない状況。平日と合わせても5割ほどの席が予約で埋まっているという。

「間違いなく都城界隈でナンバーワンの焼き鳥屋さんだと思います◎」「とにかく美味い。鶏のタタキも串も最高に美味かった。値段はやや高め。だけどまぁその価値は充分あると思います」「都城で間違いなくナンバーワンの味です!ここまでこだわられているお店はここらじゃ珍しい」……。

食べログやGoogleの口コミには、食べればその上質さがわかると言わんばかりに、こんな評価が並ぶ。合計15席と小規模で、派手な宣伝もしていない。まだ知名度はそこまで高くはないが、知られていくのは時間の問題だろう。

都城らしく「鳥刺し盛り合わせ(1580円)」も用意。鮮度良く、人気を博している

14年のキャリアを積んだ名古屋

都城市が力を入れる中心市街地活性化策と、それをサポートする「タウンマネージャー」の奮闘で、中央通りの中町交差点を中心に随分と賑わいが戻ってきた。

タウンマネージャーとは、まちづくりの専門家であり推進役。都城市では2015(平成27)年8月から初代を二宮啓市氏が努め、2023年9月には2代目が就任している。

約8年で二宮氏が手掛けてきた店舗は60店舗以上。とり喜多もその1店である。

とり喜多店主の北薗泰信さん。故郷の都城に錦を飾った

「名古屋で念願の独立を果たしたんですけれど、それがちょうどコロナ元年。ばっちり当たってしまって、全く勝負をさせてもらえなかった。1年でやめて、出身地の都城に帰ってきました」

とり喜多店主の北薗泰信さん(46歳)は、独立当時のことを、こう振り返る。まだ4年前、42歳の頃の話だ。

北薗さんが料理人を目指したのは2004(平成16)年、26歳の時。名古屋の調理師専門学校に入学し、2006年に卒業。名古屋市内のステーキハウスから北薗さんのキャリアは始まった。その後、天ぷら懐石店、寿司店などの板前も経験し、2014年、36歳でろばた焼き店の料理長に抜擢された。

客単価がわりと高めの人気店。ここで炭の扱いも学んだ北薗さんは満を持して2019(令和2)年2月、自分の店を構えた。

人が消えた名古屋のオフィス街

2019年に構えた「赤鶏と九州料理 島津」。店舗面積は17坪と広めだった(提供:北薗泰信氏)

立地は名古屋屈指のオフィス街である中区丸の内。屋号は「赤鶏と九州料理 島津」とし、宮崎県産の赤鶏に加えて、モツ鍋、からし蓮根、馬刺し、さつま揚げなど、九州の美味を揃えた。

ところが、オープンした2月はちょうど豪華客船「ダイアモンド・プリンセス号」の乗客に新型コロナウイルスの感染が認められた時期。ほどなく緊急事態宣言がなされ、オフィス街から人が消えた。

店舗は17坪(約56平米)と比較的、広め。アルバイトも5人も雇い、万全の体制で船出しただけに、なんとか耐えようとテイクアウト業態に挑んだり、ビラを配ったりした。ところが、緊急事態宣言が開けても世の会社はリモートワークに移行して人は戻らない。ビラを配りに出たアルバイトは「不謹慎って怒られました」としょげて帰ってくる。

ビジネス客を相手に接待でも使えるような品の良い料理を提供する、という目論見は雲散霧消した。

幸いにして、飲食店を対象とした補助金のおかげで収支は赤字になることはなかった。だが、北薗さんは続ける意味はないと判断した。

「今、振り返ればコロナ禍は3〜4年で収束しましたが、その当時は5年なのか、10年なのか、本当にいつまで続くかわからなかった。落ち着いたら改めてやったほうがいいと思い、2020年2月に店を閉めることにしました」

長年、苦楽を味わった名古屋をあとにし、同年春、都城へと戻った。

牟田町で働きながらリサーチ

都城には実家がある。しばらく、不動産会社を経営する兄を手伝いながら過ごした。「もう飲食はやめて、家業として不動産会社で続ければいいじゃないか」。家族からそう言われたこともある。

だが北薗さんには、まだ挑戦すらさせてもらえていないという思いがあった。

「やっぱり自分で店を構えたい、挑戦したい」。そう覚悟を決めた北薗さんは、2021年半ばから牟田町の大衆串焼き屋でアルバイトをしながら、リサーチを始めた。

名古屋に戻る気はなかったが、都城で出店すると決めていたわけでもない。最初は週1回、宮崎市まで出向き、街の様子を観察したり、不動産屋に通ったりした。

駅前や宮崎随一の歓楽街「ニシタチ」がいいだろう、という頭があったが、不動産屋が「熱いエリアですよ!」と勧めてくる地名はどれも馴染みがない。考えてみれば、宮崎県を出て数十年。土地勘のない“よそ者”が、地元の人間には勝てないだろうと悟った。

とり喜多のある路地から目と鼻の先に「TERRASTA(テラスタ)」がある

都城も同じだが、まだ宮崎市よりはわかる。同級生や兄の知り合いなどの人脈もある。牟田町でのアルバイトで、徐々に土地勘もついてきた。さらに言えば、中心市街地活性化策で、新規出店の内装工事費用などに手厚い補助金も出る。

「市をあげて活性させようとしているエリアなら、間違いない。なにかあっても助けてくれるはず。これは乗っかったほうがいい」――。

そう思いたった2021年秋に出会ったのが、タウンマネージャーの二宮氏だった。

都城市中心市街地活性化タウンマネージャーの二宮啓市氏

熟慮した出店戦略

「補助金申請の書類を作るのに、けっこう時間がかかった記憶があります。でも、二宮さんは面白い人ですし、ざっくばらんで固くなく、楽しくやれました。感謝しています」

北薗さんは二宮氏のサポートについて、こう語る。初期投資は約500万円。厨房機器は補助金が下りないが、内装費用は出る。うち、300万円ほどを補助金で充当できたのは大きかった。そのプロセスに、二宮氏が寄り添ってくれたことも大きい。

出店戦略は、名古屋での経験も踏まえ、熟慮した。

もともと北薗さんは和食全般に自信があり、とりわけ魚料理を得意としている。だが、都城は土地柄、魚介系の店が弱い。逆に、鶏肉を始めとする畜産系は強い。ただし、もも焼き・炭火焼きを売りとする店はごまんとある。逆に串に差した焼き鳥の文化は薄い。

炭の扱いはろばた焼き店で熟知している。都市部では、炭を使った本格焼き鳥が高級路線にシフトしている傾向もある。そのトレンドを都城で先取りすれば勝負できるはず。そう結論を下した。

ちょうど、手頃な物件も出てきた。現店舗の物件だ。

コロナ禍を経て、一人でも回せる広さで再出発をした

名古屋で出した九州料理の店に比べると、店舗面積も席数も半分程度と狭い。しかし、コロナ禍を経て、飲食業界が人手不足に喘いでいるのは肌感覚でわかっていた。

「まずは、僕一人でも回せるようなキャパシティーでやったほうがいいなと。名前が売れてから好きなところに移るのはいいですけれど、最初はなるべく小さく、手持ちも抑えて。それがセオリーじゃないかなと思いまして」

「冷静ですね」と水を向けると、「そこは、考え抜きました」と北薗さん。静かなる闘志を感じた一瞬だった。

「“尖った焼き鳥”屋ができる」

物件が決まってから半年以上の準備期間を経て、2022年5月にとり喜多はオープンした。最初の出店経験があっただけに、極めてスムーズにことが運んだ。

とは言え、まだコロナ禍が収束したとは言い切れない時期。オープン1カ月目は物見遊山の客などで溢れたが、徐々に落ちていく。

だが、オープンした5月、新型コロナウイルスはインフルエンザと同じ「5類」に移行し、潮目は変わっていった。その年の年末は、夜の街にコロナ前の光景が戻っていた。そこから、とり喜多の快進撃が始まる。

2023年5月で1周年を迎えた当時、店頭には花輪が飾られていた

2022年の年末からほぼ連日、満席。年が明け、2023年になっても勢いは持続し、年度末にかけて売り上げはオープン当初の約2.5倍まで増えていった。

前述のように今年の年末の予約状況も好調。大衆的な焼き鳥店に比べ、約2倍の客単価ながら受け入れられたのは、それだけの“価値”があると認められたからにほかならない。

「鶏も食事も飲み物も、すべてに付加価値をつけていこうと考えました。ぜんぶにこだわる。このキャパシティーであれば、攻めることができる。“尖った焼き鳥”屋ができる。それをわかってもらいたい」と北薗さん。

鶏肉の仕入れから加工、炭火、お飲み物と、あらゆる面で店主がこだわり抜いた付加価値とはいかに。

「宇納間備長炭」に朝じめの「地頭鶏」

火力も強く香り高い高級炭「宇納間備長炭」を操り、鶏の旨味を最大に引き出す

まず、炭火の「炭」にこだわった。

とり喜多が仕入れているのは、日本三大備長炭の一つである宮崎特産の「日向備長炭」。その中でも、高級とされる「宇納間(うなま)備長炭」である。

都城市内の飲食店で宇納間を扱うのは、Think都城でも取り上げた都城おでんの「雨風」と、とり喜多、そしてもう一店舗しかないという。

「付加価値をつけようと思ったら、普通の炭で焼いていたらダメだとずっと思っていました。お客さんにとっても、高級な備長炭で焼かれている雰囲気というか、そう思って食べることも付加価値の一つなんだと思います」

こだわり抜いた「3種のブレンド塩」を絶妙な加減でふる

店主が選りすぐった3種の天然塩のブレンドも付加価値の一つ。同業が食べに来た時、真っ先に聞かれたのはこの塩の中身だった。だが、モンゴル岩塩以外は非公開としている。「真似されちゃうと付加価値にならないですから、教えられないんです」。

鶏そのものにも、こだわりが詰まっている。鶏はすべて県産。ブランド鶏の「みやざき地頭鶏」と、都城産の銘柄鶏を使い分け、すべてその日にしめた新鮮なものを仕入れている。仕入先も付加価値を維持するため、非公開だ。

刺し方にもこだわりがある。仕込み段階で、串は中心に重心がいくよう、しかし、縫うように差して、張りを出しているという。北薗さんはこう説明する。

「レバーや砂ずりは、表面をぷりんって焼いて、お客さんが口に入れたとき、パンって弾ける。そういうこだわりです。ここまで焼き鳥に手間をかけてこだわっているのは、都城ではうちが一番だという自負がある。自信がないと、この値段で出せません」

和食全般を得意とする北薗さん。鶏以外のおつまみも充実している

あえてのレアな日本酒

飲み物にもこだわりがある。もちろん、霧島酒造を始めとするご当地の焼酎もあるが、なかなか都城ではお見かけしないようなレアな日本酒も揃えている。

「芳醇旨口」を代表する山形の「十四代」はその一つ。入手困難で、都内の和食屋などではプレミアムがついた価格で提供されていることが多い。そのほかにも、青森の「田酒」各種に、秋田の「新政酒造」が出す「亜麻猫」「陽乃鳥」なども置かれている。

豊富に揃う日本酒。各地の名酒がいただける。飲み比べセット(1900円)も人気だ

焼酎文化一強の都城であえて日本酒を取り揃える理由を、北薗さんはこう語る。

「日本酒好きは都城にもいるはずですし、その旨さが知られていないだけで、知ってもらえればついてきてくれるはず。そう考えて、日本酒もやっていこうと決めました。高いんですけれど、最近では、わかるお客さんがその価値を理解して、飲んでくれています」

結果、店主によるこだわりや付加価値を理解してくれる常連客が徐々に増えていった。「安くて当たり前の焼き鳥のイメージを変えたかった」と言う北薗さん。名古屋での出店にも通じるその目論見は、ようやく花開きつつある。

肩がぶつかり合ったかつての賑わい

今の夢はなにか、北薗さんに聞いた。

「ちゃんとした焼き鳥の文化を都城にも根付かせたい。もも焼き、炭火焼きもいいけれど、ちゃんとした焼き鳥も美味しいんだよということを知ってもらいたい。TERRASTA(テラスタ)などのホテルも近くにあるので、もっと県外の方にも来てほしい。でも店舗が小さいのでお断りすることも多いんです。なので、今は店舗を大きくしたいと思っています」

今年の「まちなかイルミネーション」。年々豪華になり、県外から訪れる人も少なくない

「最初はなるべく小さく」という第一段階を無事に乗り越え、より大きな規模の第二段階へと思いを馳せる北薗さん。だが、都城へのこだわりは変わらない。名古屋でも、宮崎市のニシタチでもなく、都城の中心市街地で移転先を探したい考えだ。

「久しぶりにこっちへ帰ってきて、常連さんがついてくれて、お店を育ててもらったという恩がある。調子よくなったからって、そうした方々に不義理をするのはちょっと違うような気がするというか、できません」

そのもっと先に、ある願いがあるという。

まだ、北薗さんが高校を卒業したての頃。卒業パーティーで中央通りや牟田町に皆で繰り出す文化があった。その当時は、肩がぶつかるほど人で溢れかえっていた記憶がある。中心市街地に活気が戻りつつあると言えども、そこからすれば、まだだいぶ寂しい感は否めないと北薗さんは話す。

都城出身の北薗さんは、中心市街地の未来にも思いを馳せる

「役所など、活性化させたいと願っている多くの方々も、まだまだ足りないと感じていると思います。かつての賑わいや盛り上がりを望んでいるはず。もっと県外から人を呼んで、もっと活性化していってほしい。本当の夢はそこだと思います」

「そのためにも、うちらが努力しなければならない。うちらが適当なことやっていたら、中心市街地の活性化はない。一生懸命やり続けることで、街の潤いに、微力ですけれど、貢献できるかなと思っています」

都城に骨を埋める覚悟の料理人が、また一人増えた。“高級”焼き鳥店が、中心市街地に新風を吹き込み、新たな街の一面を飾ろうとしている。

炭火焼きとり とり喜多
住所 宮崎県都城市中町1-2 羽木ビル1階
電話番号 050-8883-8610
営業時間 【夜】18:00〜22:00 【昼】12:00〜16:00(昼営業は現在休業中)
定休日 火曜日
アクセス JR「都城駅」より3分
SNS

営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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