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地方創生・成長企業の本質 #01

遅々として進まない地方創生 地方の“リアル”と都城市の現在地

このテーマでは、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的とした「地方創生」のカギを、都城を中心に探していきます。第1回はさまざまな統計データを基に、地方の市町村の“現実”をマクロ的に示します。

日本の半分が過疎地域に

2022(令和4)年41日。衝撃的なデータが政府から公表された。

2020年に行われた国勢調査によって、全国1718自治体の約51.5%にあたる885の市町村が「過疎地域」であることが明らかになったのだ。

ピンク色に塗られた市町村が「全部過疎」(総務省自治行政局過疎対策室の「過疎関係市町村都道府県別分布図」より)

過疎地域とは、「過疎地域持続的発展の支援に関する特別措置法」において、次のように定められた地域のことを指す。 

「人口の著しい減少等に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にある地域」

今回新たに27道府県・65市町村が追加されたことで、過疎対策法が最初に制定された1970年以来、初めて半数を超えるという結果になった。

あれから8年。「地方創生」は、いまだ途上にある。

地方創生から丸8年

「改造内閣の最大の課題の一つが、元気で豊かな地方の創生であります」――。地方創生という言葉が公に登場したのは、201493日に開かれた第二次安倍改造内閣発足直後の記者会見だとされている。

安倍晋三元首相は内閣改造会見で「地方の創生」を初めて口にした(政府インターネットテレビより―安倍内閣総理大臣記者会見―2014年9月3日)

その場において安倍晋三元首相は上記のように力強く訴え、地方創生担当大臣の新設や、まち・ひと・しごと創生本部の設置など、矢継ぎ早に政策を打ち出していった。

地方創生の最大の目的は、人口の「東京一極集中」を防ぎ、「地方の人口減少」に歯止めをかけることである。熱気を帯びたあの会見から丸8年が過ぎた今、地方はどう変わったのか。前述のとおりである。

地方の人口問題解決に躍起になっていたわが国だったが、人口減少を食い止めるどころか、ますます過疎化を加速させる事態を引き起こしてしまっている。国勢調査の中身について、別の角度から見てみよう。

以下は人口増加率(201520年)の大きい都道府県を並べたものだ。

2015〜20年の人口増加率トップ5
1位 東京都 4.1% 増
2位 沖縄県 2.4% 増
3位 神奈川県 1.3% 増
4位 埼玉県 1.1% 増
5位 千葉県 1.0% 増
出所:総務省統計局「2020年国勢調査」

この5年間で人口が増加したのは、東京都、沖縄県、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、福岡県、滋賀県、大阪府の9都府県のみ。他方、39都道府県の人口は減り、うち33道府県では減少率が加速している。以下はそのトップ5である。

2015〜20年の人口減少率トップ5
1位 秋田県 6.2% 減
2位 岩手県 5.3% 減
3位 青森県 5.3% 減
4位 高知県 5.0% 減
5位 山形県 4.9% 減
出所:総務省統計局「2020年国勢調査」

コロナ禍でも止まらぬ一極集中

さらに人口増減率をエリア別で比べると、より顕著な結果が浮かび上がってくる。

全国エリア別人口増減率
全国エリア別人口増減率

注:総務省統計局「2020年国勢調査」を基に作成。数字は四捨五入

東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県からなる東京圏、および関東エリアだけ人口が増加していることがわかる。「一極集中」が解消されていないことの動かぬ証左である。

じつは、チャンスもあった。新型コロナウイルスの感染拡大によって、東京都への転入と転出の比率が逆転したのである。

住民基本台帳の人口移動報告によると、20215月から8カ月連続で東京都は転出超過となった。2014年以降、初の快挙に関係者は小躍りした。

コロナ禍を契機にこのまま東京一極集中が崩れると期待された。しかしながら、それはぬか喜びだったと言わざるをえない。20221月以降は、再び東京都は転入超過に戻ったのである。

それだけではない。確かに東京都については一時期転出が増えたが、その分、神奈川県や埼玉県などでは転入超過が続いた。東京圏で見ると、2021年は81699人の転入超過となり、これで26年連続の転入超過だ。

結局のところ、地方との人口格差は埋まることはなかった。

地方が抱える問題は人口減少だけではない

そもそも、なぜ人口減少が問題なのか。

端的に言うと、住民からの税収が減り、行政サービスの質が低下する。例えば、ゴミ回収が有料化したり、道路や公共施設の老朽化に対応できなくなったりといったことが起こり得るだろう。

住民の数が減ると、住環境の劣悪化にもつながる。象徴的なのは空き家問題だ。総務省「平成30年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家率は13.6%。都道府県別に見ると、ワースト10は以下のようになる。

空き家率の高い都道府県ランキング
1位 山梨県 21.3%
2位 和歌山県 20.3%
3位 長野県 19.6%
4位 徳島県 19.5%
5位 高知県 19.1%
6位 鹿児島県 19.0%
7位 愛媛県 18.2%
8位 香川県 18.1%
9位 山口県 17.6%
10位 栃木県 17.3%
出所:総務省「平成30年住宅・土地統計調査」

この空き家問題は、治安の悪化や災害時の被害拡大など、さまざまなリスクをはらんでいる。それが地方に集中していることがよくわかる。

地方の課題は人口減少だけではない。高齢化も頭痛の種だ。高齢化が引き起こす問題の一つに事業承継がある。

帝国データバンクの調査によると、2022110月の後継者難倒産は408件で、10カ月累計では過去最多を記録。また、都道府県別の後継者不在率に関して、22年のトップ5は以下だった。

後継者不在率が高い都道府県ランキング
1位 島根県 75.1%
2位 鳥取県 71.5%
3位 秋田県 69.9%
4位 北海道 68.1%
5位 沖縄県 67.7%
出所:帝国データバンク「全国企業 後継者不在率動向調査2022」

実のところ、後継者不在率はここ数年で改善傾向にあり、全国平均は22年に初めて6割を下回った。とはいえ、依然として57.2%という、決して低くはない水準であることには変わりない。

今後ますます高齢化が進み、社会保障費が増大するのに、それを支えるための税収は減り続ける。それを地域経済で補いたいところだが、若年層を中心とした労働力人口の減少と、後継者不在による企業倒産は避けられない。こうしたデフレスパイラルに地方は苦しんでいる。

まだ傷の浅い都城市

地方の“リアル”を踏まえた上で、都城市の現状を見てみよう。

まずは人口だ。2020年の国勢調査では16640人と、5年間で2.6%減少したが、宮崎県の他市と比較するとその割合はまだ低い。

宮崎県内人口増減率
宮崎県内人口増減率

出所:総務省統計局「2020年国勢調査」

宮崎県第2の都市であるため、土地柄的に県内からの転入者が多く、他よりも有利な状況にある。

では、スコープを九州エリアに広げてみよう。全108市を対象に、5年間の人口増減率を比べると、都城市は上から34番目のポジションにつけている。さらに南九州(諸説あるが、ここでは熊本県、宮崎県、鹿児島県とする)に絞ると、42市中9番目。健闘していると言っていいだろう。

全国トップの農業と、日本一の焼酎メーカーが地元経済をけん引

ほかの地方都市と比べて、都城市が目を見張る成果を挙げているのは、地場産業だ。 

農林水産省による「2020年市町村別農業産出額」において、都城市は約8646000万円と全国トップに。そのうちの83.7%は肉用牛、豚、鶏といった畜産が占める。

以下は上位10市町村のランキングだが、2位の愛知県田原市とは約40億円の差がある。

市町村別農業産出額トップ10
1位 都城市 約864億6000万円
2位 愛知県田原市 約824億7000万円
3位 北海道別海町 約662億6000万円
4位 茨城県鉾田市 約640億円
5位 新潟県新潟市 約569億9000万円
6位 千葉県旭市 約489億円
7位 静岡県浜松市 約471億3000万円
8位 栃木県那須塩原市 約456億5000万円
9位 熊本県熊本市 約451億4000万円
10位 青森県弘前市 約449億7000万円
出所:農林水産省「2020年市町村別農業産出額」

また、都城市には日本を代表する焼酎メーカー、霧島酒造の本社もある。 

「黒霧島」「赤霧島」をはじめとする焼酎を、同社では一日に20万本分(一升瓶換算)製造し、国内はもとより世界25カ国に輸出している。コロナ禍の影響で2021年度の売上高は前年度比2.6%減の5843766万円となったものの、10年連続で焼酎メーカー売り上げ1位をキープ。名実ともに日本の焼酎業界を支えている。 

肉と焼酎。こうした経済基盤があることは都城市にとって大きなアドバンテージである。さらに、その財政を補強するのが「ふるさと納税」だ。

「ふるさと納税日本一」だけでは測れない実力 都城市8年連続トップ10の偉業

ふるさと納税の受入額は8年連続でトップ10に入り、しかもその額が増え続けているのは、他に類を見ない強さ。多額の寄附金は、都城の財政を潤し、あらゆる公共サービスに活用されている。

ふるさと納税寄附金の使い道を探る イルミネーションからあのトイレまで

高齢化社会からは逃げられない

ただし、都城市がこの先も順風満帆というわけではない。 

主力の農業は、確実に担い手の高齢化が進んでいる。農林水産省「農林業センサス」によると、都城市の農業従事者の平均年齢は、2015年の63.6歳から20年には64.1歳に。並行して総農家数も6581戸から5460戸へと約2割減少している。

今は日本一を誇る順風満帆の畜産業だが、いずれ、事業承継の課題にぶち当たる。

高齢化はそのほかにも、社会保障費の負担増を招いたり、介護サービスに対する需要増に応えるための人材確保が急務になったりと、さまざまな面で影響を及ぼす。

また、運転免許証の自主返納などによってクルマに乗れなくなった高齢者は、スーパーマーケットや病院などへ行きづらくなるという、いわゆる“買い物難民”の問題もある。

広大な面積を有する都城市の夕景

都城市は言わずと知れたクルマ社会。都城市の面積は653k㎡と広大で、622k㎡の東京23区をしのぐ。宮崎県内では延岡市に次ぐ2位だが、可住地面積は297k㎡と、延岡市の135k㎡を凌駕する。この広さがクルマ社会の根底にある。

クルマに頼らざるを得ないのも無理はない。国土交通省が定める「基幹的公共交通路線の徒歩圏人口カバー率」は9.1%。全国平均が55%、人口約30万人規模の都市が40%であることを見ても、極めて低い数字である。高齢者の移動手段の確保は急務と言える。

かたや、進学や就職などを目的とした若年層の流出も止まらない。都城市が公表する統計データによると、2012年からの10年間で全人口に占める1020代の割合は、18.8%から17.6%へと減少した。とりわけ20代は急速な人口減の一途をたどっており、世代別(80代まで)で見ると、現時点で最も割合が小さい。

都城市の年齢別人口構成(2021年)
10歳未満 8.7%
10代 9.7%
20代 7.8%
30代 10.4%
40代 12.6%
50代 11.4%
60代 14.4%
70代 13.2%
80代 8.5%
出所:都城市

有利な条件は確かにある。しかし安穏としてはいられない。都城市もほかの地方と同じ課題や悩みを抱えている。抜本的な解決ができないままでいるという現状は変わらないのだ。

強い産業を持つ都城市であっても、少子高齢化・担い手不足・若者の流出といった課題に向き合わなければ未来はない。

では、どうすればいいのか。どう地方創生を前進させ、さらなる活力を創出していけばいいのか。

次回以降、そのためのヒントを地元の企業3社から探っていく。

次回に続く)

「スマート農業」の新福青果が目指す姿 全国から人材を呼び寄せた組織改革

  • 筆者
  • 筆者の新着記事
伏見 学(ふしみ・まなぶ)

フリーランス記者/編集者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「沖縄」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。

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