「投資アプリ」上で3億円の利益
じゃあ、グループに参加させてください。
関西地方に住む50代の男性は2023年10月、「LINE」で著名投資家のアシスタントを名乗る女性とこんなやりとりを交わしたあと、グループLINEに参加した。アシスタントとは、「Facebook」で流れてきた広告をタップしたのち、LINEでつながった。
グループLINEで数週間ほど様子を見ていると、同じような参加者が実際に投資を始め、日々、数万円から数十万円の利益を出し、歓喜していた。そろそろ自分も……。そんな甘い思いから、地獄へと引きずり込まれてしまう。
独自の投資アプリをスマートフォン(スマホ)にインストールするよう促され、まずは50万円をネットバンキング経由で振り込んだ。“先生”の指示どおりに取引をすると、すぐに数万円の利益が投資アプリ上で表示された。
取引を重ねると利益は雪だるま式に数十万円、数百万円と増えていく。気をよくした男性は先生やアシスタントの助言を受け、50万円、100万円と追加の入金を増やした。「今、利益確定(利確)をして現金を出すのは損をする」「もっと利益が増えるまで利確は待って、今は投資額を増やしたほうがいい」。そんな助言を真に受けた。
気づけば振込総額は1000万円を超えていた。しかし、投資アプリ上での利益総額も3億円を超えている。
そろそろ、潮時だ。満足した男性は利確して現金化しようと考え、そうアシスタントに伝えると、手数料として利益総額の1%に相当する約300円を要求された。さすがにおかしいと思い、最寄りの警察署に相談。「詐欺の可能性が高い」と伝えられ、青ざめた。
その後、LINEグループは解散。先生やアシスタントとの連絡も途絶え、振り込んだ1000万円以上も、もちろん利益とされる3億円も、手元には戻っていない。著名投資家は一切、関与しておらず、LINEグループの参加者も多くが“サクラ”だったと見られる。
こんな、SNSとネットバンキングで完結した「SNS型投資詐欺」の被害が、恐ろしい勢いで急増している。そして、被害者は一様にこう口を開く。「まさか自分が詐欺に遭うとは思ってもみなかった」と。
「特殊詐欺」を凌駕する「SNS型」
警察庁は2025(令和7)年2月6日、2024(令和6)年の「犯罪情勢」統計を公表。衝撃的な数字が明らかとなった。

注:2024年の数値のうち、「SNS型投資・ロマンス詐欺」「特殊詐欺」は暫定値、それ以外は確定値
出所:警察庁「令和6年の犯罪情勢」
「オレオレ詐欺」「架空料金請求詐欺」「還付金詐欺」といった、電話や対面で親族や公的職員などを装う「特殊詐欺」は、ほとんどのひとが知るところとなった。
ところが、これとは別の犯罪形態に区分けされる非対面の「SNS型投資・ロマンス詐欺」という新手の詐欺がこの数年で勃興。被害者や被害額を急増させている。
2024年、特殊詐欺の認知件数は「2万987 件(前年比10.2%増)」、被害額は「約 722 億円(同59.4%増)」だった。被害額が過去最多だった2014(平成26)年の約566億円を大きく上回る深刻な事態となっている。
だが、SNS型投資・ロマンス詐欺はこれを凌駕する。警察庁によるSNS型投資・ロマンス詐欺の定義は、以下だ。
SNS型投資詐欺とは、SNS等を通じて対面することなく、交信を重ねるなどして関係を深めて信用させ、投資金名目やその利益の出金手数料名目等で金銭等をだまし取る詐欺(SNS型ロマンス詐欺に該当するものを除く)をいう。
また、SNSロマンス詐欺とは、SNS等を通じて対面することなく、交信を重ねるなどして関係を深めて信用させ、恋愛感情や親近感を抱かせて金銭等をだまし取る詐欺をいう。
つまり、「SNS型投資詐欺」とは、SNS等を通じた非対面でのコミュニケーションで相手を信用させ、“儲かる話”で釣り、金銭をだまし取る詐欺である。ここにいわゆる「色恋」が絡むと「SNS型ロマンス詐欺」ということになる。
この新手の詐欺は、SNSの爆発的な普及に伴い急増。2023(令和5)年から警察庁が主要な詐欺として統計の対象とした。つまり、“主役級”へと躍り出た。
2024年のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は「1万164件(前年比164.3%増)」、被害額は「1268億円(同178.6%増)」だった。その増加率は認知件数、被害額ともに特殊詐欺を大きく上回っており、いかに悪の“成長産業”となっているかがわかる。
被害額を認知件数で割った1件あたりの平均被害額は、特殊詐欺が「約344万円」。対してSNS型投資・ロマンス詐欺のそれは「約1248万円」と約3.6倍も多い。一人からだまし取れるお金が多く、詐欺師からすれば高効率なのだ。
SNSは今や、犯罪者が犯罪に加担させる「闇バイト」を募る温床であると同時に、被害者を釣る大きな“釣り堀”にもなっている。
なぜ、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害額が大きいのか。なぜ、だまされてしまうひとが後を絶たないのか。
「偽広告」からLINEへ誘導

注:構成比はいずれも四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはならない
出所:警察庁「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値版)」
2024年のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数1万164件のうち、ロマンス詐欺は「3784件(前年比140.3%増)」で、それを除いた投資詐欺は「6380件(同180.9%増)」。被害額では計1268億円のうち、ロマンス詐欺は「397億円(同123.9%増)」で、投資詐欺は「871億円(同213.4%増)」だった。
内訳を見ると、ロマンス詐欺よりも投資詐欺のほうがボリュームも伸長率も大きい。まずは、このロマンス要素のない投資詐欺の手口を詳しく見ていこう。
2024年に認知した投資詐欺の6380件について、警察庁は詳細な調査内容も公表している。最初の接触として最も多かったツールは「Instagram(23.0%)」。次いで「LINE(17.5%)」「Facebook(15.5%)」と続き、これらで過半数を占めていた。
ただ、「X(旧Twitter、6.4%)」「TikTok(6.4%)」「YouTube(2.1%)」とかなり分散しており、“罠”はネットやSNSのどこにでも潜んでいると考えたほうが良い。気にかけるべきはどのようにアプローチしてきたかという「接触手段」だろう。
警察庁は6380件の「当初の接触手段」も公表。「バナー等広告(44.8%)」と「ダイレクトメッセージ(DM、31.9%)」という2つの罠が全体の8割近くを占めていた。

Facebookなどにあふれた「偽広告」。詐欺師グループのLINEに誘導することが目的だ(画像の一部を加工)
2023年以降、前澤友作氏や森本卓郎氏、池上彰氏といった著名人や、著名な投資家の画像を無断で使い、あたかも本人の関係者が出した広告かのように装う偽のネット広告がSNS上に大量にあふれた。
「より多くの人が経済的自由を達成できるよう、無料の株式知識トレーニングクラスを開くことにしました」「私は自分の専門知識を活かして、経済的に困っている人々に無料の投資講座を提供することに決めました」……。
いずれも本人が語りかけているかのように偽り、「無料講座」「無料セミナー」への招待と称して、LINEアカウントで友だち登録させることが目的だ。
しかし、こうした「偽広告」は前澤友作氏がInstagramやFacebookを運営する米メタに対して対策するよう大きく声を上げたことなどから収束。2024年5月以降、広告による接触は減少に転じ、 同年7月以降はDMによる接触が広告を上回っている。
Meta社及びFacebook… pic.twitter.com/J1N9xYftqY
— 前澤友作 (@yousuck2020) May 15, 2024
時間をかけて信頼を醸成
DMによる接触方法は千差万別。LINEに突然「偶然に友だち登録しちゃいましたが、よろしくお願いします」といったメッセージが届くものから、InstagramやFacebookで「投稿見てファンになりました」と連絡してくるアプローチまで多様だ。
SNSには著名人を装った「偽アカウント」も多数、紛れている。投資で儲かることをアピールするアカウントに「いいね!」やリプライといったリアクションをしてしまうと、それを機に先方からDMが届くケースも多い。
DMの主は、著名人「本人」を騙る先生役、その先生のアシスタント役、はたまた生徒役まで、その“設定”も多種多様。共通するのは、自身が投資で成功していることをひけらかし、「無料で教える」「無料で学べる」とアプローチし、偽広告同様、とにかくLINEで友だち登録するよう勧めてくることである。

詐欺師からのLINEでのコミュニケーション例(「LINEみんなの使い方ガイド」の啓発ページより)
LINEという、より閉鎖的で、かつ日常的なSNSツールへ誘導することが、SNS型投資詐欺を働く輩の最初の重要なミッション。LINEに誘い出せば、次の「信用させる」というフェーズに移行する。
この「第二段階」では、すぐにお金をだまし取るようなことはしない。オレオレ詐欺のような特殊詐欺で見られる短期決戦ではなく、1カ月、場合によっては数カ月かけてお金を抜き取る長期勝負であることも、SNS型投資詐欺の大きな特徴である。
先生、アシスタント、生徒……。様々な“顔”を持つ詐欺師とのLINEでのコミュニケーションは、個別のやりとりと「グループLINE」でのやりとりの2系統がある。
まず、個別のやりとりでは、投資に関する「儲かる手段」があることが伝えられ、冒頭で紹介したように、「先生の話だけでも聞いてみないか」と、多数の“生徒”が存在するグループLINEに参加するよう誘導するのが常套手段。
グループLINEでは先生役が、株式、FX、暗号資産、金など、様々な投資の基礎やトレンドを語り、「絶対に儲かる投資ツール」の存在をアピール。その投資ツールを使い、先生の指示どおりに投資をしているとする生徒役のサクラが日々「今日は10万円増えました!」「先生ありがとうございます!」などと狂喜乱舞する。

警察庁もSNS型投資詐欺の啓発サイトで手口の一例を紹介している(警察庁「特殊詐欺対策ページ」より)
個別のLINEやグループLINE上で、投資ツールの利用を強要するようなことはない。それどころか、プレッシャーを与えないよう、「今日はなにを食べた?」「どこへ行った」といった日常会話を織り交ぜてくる。個人的な相談に乗ってくれることもあれば、無償で書籍や資料などを送付してくれることも。
この第二段階は、あえてがっつかないふりをして、親身な存在であることを装い、不信感を排除することが目的。被害者の多くは、「仲良くなった」「仲間のように思えた」「信頼できると思った」と感じ、罠にはまっていったと述懐している。
「洗脳」にも近い。その度合いを詐欺師グループはじっくりと見極め、いよいよ最後の「回収フェーズ」へと移行していく。
すべて見せかけ、フェイクの取引
詐欺師としては、着実に“集金”できるツールへと誘導することが最終目的。そのツールは詐欺師側が用意した独自の「サイト」や「アプリ」であることが多い。
先生と同じ売り買いができる「コピートレード」のツール。FXの「バイナリーオプション(二者択一取引)」を有利に展開できるツール。はたまた、米国の大手ネット通販向けに商品を仕入れて販売利益を得られるというツールまで。じつに多様な独自サイトやアプリが報告されている。
共通項は、得体の知れないそのサイトやアプリに入金しなければ取引ができず、利益も得られない点。「とりあえず入金」して、「みんなと同じように儲けよう」と誘導していく。参加できる最低入金金額の設定は数十万円のことが多い。「1回だけなら……」とネットバンキング経由で振り込んでしまうと、連中による“ショー”が始まる。
金をせしめることだけが目的であり、そのサイトやアプリ上では“見せかけ”の取引を偽造しているだけ。株・為替・鉱石・暗号資産といった取引市場のチャートも、実際のものの一部を巧みに改変する。最初は小さく儲け(勝ち)、たまに負け、次第に勝ちの金額が膨れていくよう演出するなど、利用者の高揚感を高める巧妙な“シナリオ”が組まれる。
場合によっては、最初の小さな勝ちで得た利益を、ネットバンキングの口座に戻すことで信用させる手口もある。だが、取引の金額が大きくなり、利益も大きくなるにつれ、「手数料が大きくなる」「まだステイしたほうがいい」などと、容易には利益を引き出せない“口実”を次々と出してくる。
さらなる「現金投資」を追加すれば、利益は莫大に膨らんでいくと持ちかけられ、気づけば数百万円、数千万円を入金させられてしまうのだ。
その頃には、ツール・アプリ上での見せかけの利益が数千万円〜数億円に膨らんでいることが多い。「これだけ利益があるのだから」と感覚が麻痺し、さらなる入金を繰り返してしまうという罠。それに気づくのは、冒頭で紹介した事例のように、見せかけの利益が「引き出せない」という現実を知る時である。
「利確して出金したい」という強い意志を見せた時、詐欺師は最後の搾り取りを試みる。「引き出すには手数料の入金が必要」というものから、「ハッカーに乗っ取られたので、出金のための保証金として100万円が必要」といったわけがわからない理由を並べ立てる。関係がこじれたら、手仕舞いに向かうだけだ。
ターゲットは切り捨てられ、連中とは連絡がとれなくなる。この段で警察に相談してもあとの祭り。入金したお金や、見せかけの利益が返ってくることはない。
長い心理戦のSNS型投資詐欺。これに色恋が絡んだものが、SNS型ロマンス詐欺ということになる。
80代男性、ロマンス詐欺で2億円被害
2025年2月5日、広島県警はある事件の被害を公表し、世間に驚きを与えた。SNSで知り合った“女性”を名乗る相手から、県内に住む80代の会社役員男性が2億円近くをだまし取られたというのだ。
犯行期間は、2024年10月上旬から11月下旬の2カ月弱。80代男性はSNSでのやり取りを重ねるなかで「銀貨」への投資を勧められ、指定された口座に7回にわたって振り込んだほか、男性の会社を訪れた“スタッフ”と名乗る女性に現金を手渡した。
その額、じつに計1億9971万5千円。SNS型詐欺の1件の被害額として、同県では過去最悪の数字となった。県警はSNS型ロマンス詐欺とみて捜査を進めている。
恋愛感情を利用するSNS型ロマンス詐欺の対象は、男性だけではない。

ある50代女性は、2024年3月から韓国人男性を名乗る者とLINE上で、多い日は1日に100〜200往復もこんなやりとりを交わし続けた。
きっかけは「今度日本に行きたいです。どの季節がいいですか?」という突然のメッセージ。カタコトの日本語で愛をささやく韓国人男性に、女性はつい「韓流ロマンス」を重ねてしまい、恋に落ちた。夫もいたが、頭のなかは韓国人男性でいっぱいになった。
1カ月ほどして、男性から急に暗号資産の投資を持ちかけられた。「ハワイに家を買って、将来、二人で一緒に住もう」。そんな甘言に踊らされ、指定された取引サイトに約550万円を入金してしまう。その後、日本で会う約束が果たされることはなかった。
こんなSNS型ロマンス詐欺の事案が、全国各地で2024年から続出している。
入口の主流は「マッチングアプリ」
ロマンス要素のないSNS型投資詐欺と違うのは、接触ツールや接触手段。警察庁が2024年に認知したSNS型ロマンス詐欺の3784件について、最初の接触に使われたツールで最も多かったのは「マッチングアプリ(35.0%)」だった。「Instagram(22.4%)」「Facebook(20.5%)」が続き、これらで全体の8割近くを占めている。
投資詐欺の当初の接触手段は広告とDMに二分されていたが、ロマンス詐欺はほぼDMで全体の84.6%におよぶ。

SNS型ロマンス詐欺のアプローチと見られるDM。日本人女性を装っているが、よく読むと日本人が使わない不自然な言い回しがある
ただし、被害を受けた際の連絡ツールは、全体の94.1%がLINE。結局、LINEに誘導することや、その後に独自の投資サイトやアプリなどの利用を促して金銭をだまし取るなどの手口がSNS型投資詐欺と共通していることから、SNS型投資・ロマンス詐欺として括られている。
マッチングアプリや主要なSNSだけではなく、動画サイト・アプリも詐欺師連中の“狩り場”となりつつある。被害者からすれば、動画というメディアはより異性の存在を身近に感じられ、イメージもつきやすいのだろう。
中部地方の60代男性は2024年夏、若い台湾人“女性”と動画アプリ「TikTok」のDMでつながり、その後、LINEでやり取りを重ねるなかで恋心を募らせた。そして、ネットショップの仕入れビジネスへの投資を持ちかけられ、約400万円をだまし取られている。
詐欺師は、単なる投資詐欺同様、信用させるフェーズでは拙速に投資を勧めることはせず、じっくりと時間をかけ、ターゲットを恋の罠に落とし入れていく。相手の設定が日本人であれ外国人であれ、たわいもない日常会話と甘いささやき、時には相談ごとに親身になって乗ることで、心の隙にじわりと入り込む。
投資に興味がある者を投資ツールに向かわせるSNS型投資詐欺より、自分に恋心を抱かせ、“自分たち”のために投資させるSNS型ロマンス詐欺のほうが、難易度も手間も遥かに大きい。
ただし、そのぶん「詐欺師だったらここまでやらないだろう」と思わせることができる。恋に目がくらみ、判断能力がにぶったところで、詐欺師は食いにいく。その後の流れは、ロマンス要素のない投資詐欺とほぼ同様だ。
世界中から狙われている

SNS型“ロマンス”詐欺の認知件数と被害額。2024年は右肩上がりで急増した(警察庁「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値版)」の広報資料から引用)
先に紹介したように、ロマンス要素のない投資詐欺に比べて、ロマンス詐欺は件数も被害額も低く、伸長率も小さい。とはいえ油断は禁物。恐ろしいのはその勢い。月別の認知件数や被害額を見ると脅威が浮き彫りとなる。
SNS型ロマンス詐欺の認知件数と被害額は、2024年1月以降、増加の一途をたどっており、同年12月には認知件数・被害額ともに過去最多を更新した。そして、認知件数ベースで、初めてSNS型投資詐欺を上回っている。
一方で、同様にSNS型投資詐欺の月別推移を見ると、2023年から2024年4月までは右肩上がりだったが、偽広告への対応が本格化した2024年5月以降、凪の状態であることがわかる。これがなにを意味するのか。
歴とした根拠や公的な分析はないが、SNS型投資詐欺の広告ルートを潰された詐欺師グループが、徐々にロマンス詐欺へと軸足を移しつつある可能性がある。
これに加担している一勢力が、前回の「闇バイト」の記事で詳報した「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」。警察庁は2024年の「犯罪情勢」で、トクリュウがSNS型投資・ロマンス詐欺に関与していると指摘している。
特殊詐欺については、事件の背後にいる暴力団や匿名・流動型犯罪グループが、資金の供給、実行犯の周旋、犯行ツールの提供等を行い、犯行の分業化と匿名化を図った上で、組織的に敢行している実態にあるほか、SNS型投資・ロマンス詐欺についても匿名・流動型犯罪グループの関与が認められる。
ロマンス詐欺の被害者からすれば、登場人物は一人だが、実際にネットの向こうで指を動かしているのが一人とは限らない。
非対面のSNS型ロマンス詐欺では、だまされた皆、誰一人、恋心を抱くその相手と会ったことがない。実在する人間が個人で動く古典的な「結婚詐欺」とは違い、すべてが作り物であることが多いのだ。60代男性が恋に落ちた台湾人女性のふりをしていたのが、複数の中国人男性という可能性も十分に考えられる。
トクリュウのほかに、海外の犯罪組織も大規模に関与している可能性も出てきた。
警察庁は2025年2月、ロマンス詐欺などで日本人から金をだまし取ったとして、ナイジェリアを拠点とする詐欺グループ(ナイジェリア国籍の男女11人)を現地当局との共同捜査で検挙したと発表した。医者や宇宙飛行士を装ってSNSで日本人にDMを送り、将来の結婚への投資などとして14人から計1億5000万円をだまし取った疑いがある。
同月には、タイとの国境地帯にあるミャンマーの大規模な詐欺拠点で、日本の高校生2人が保護され、大きな話題となった。同拠点では外国人1万人が監禁され、日本人もまだ取り残されているという情報もある。全容はまだ明らかになっていないが、こうした拠点で日本人を狙うグループがSNS型投資・ロマンス詐欺も働いていた可能性は十分にある。
世界のどこからでも企て、実行することができるSNS型投資・ロマンス詐欺。言い換えれば、日本人は世界中の犯罪者からSNS上で狙われていることを肝に命じるべきだ。
「私利私欲」が発覚を遅らせる
日本人が狙われる背景には、投資への関心の高まりがある。
2023年6月、岸田文雄前首相は「今年を『資産所得倍増元年』とし、『貯蓄から投資へ』のシフトを大胆かつ抜本的に進めていきます」などと国民に呼びかけた。2024年1月からは非課税の限度額を大幅に引き上げた「新NISA」も始まり、国民の「投資」へのアレルギーが全体的に薄れている。そこに詐欺師はつけこみ、アプローチしている。
スマホがほぼ全国民に普及し、シニア層もSNSを活用し始めたことも被害が増えている要因だろう。特に、寂しさを覚える独り身の心情に、ロマンス詐欺は刺さりやすい。
そして、恋愛や金銭的利益という「私利私欲」を満たそうという感情を利用する犯罪であるがゆえに、なかなか周囲に打ち明けにくいというのも、被害拡大の大きな要因だろう。親族や自分の身を案じてお金を払ってしまう特殊詐欺とは異なる論理がある。
「この歳になってSNSで出会ったひとに恋をしているなど誰にも言えない」「必ず儲かるこのツールを誰にも教えたくない」――。
そんな他人に秘匿したい感情が芽生え、一人で抱えたまま、事態が取り返しのつかないところまで進行する。それが、SNS型投資・ロマンス詐欺の本当の恐ろしさと言える。
「一部の人間が稼ぐには、そういうやり方もありかなって思ってたんですよ」「数%のひとが儲けてる。儲けてるひとは儲けている。株で、その入り方の一つなのかなと僕、思っちゃったんですよね」……。
SNS型投資詐欺の被害に遭った静岡県の男性は、静岡県警のYouTube公式チャンネルでのインタビューで、こう吐露していた。
そんな儲け話がSNSからある日突然、入ってくるはずはない。感情が揺さぶられる前に、最初の接触時点で一歩立ち止まって考えてほしい。「これは詐欺かもしれない」と。
少なくとも見知らぬ他人からの突然のDMはすべて「詐欺被害への入口」と疑うべきだ。