深く多面的に、考える。

マイナンバーカードの真実 #02

マイナンバー制度の意義と課題 公平を担保する知られざる効用

今回は、マイナンバー(個人番号)制度のそもそもの意義やメリットに着目しながら、より多面的に現状を考察していきます。

じつは怖がっている人はそんなに多くない

2022年10月、河野太郎デジタル大臣による「保険証廃止」の記者会見が世論を分けたこと。そして、懸念に誤解が含まれることは前回の記事で説明した。

普及しないマイナンバーカード まん延する不安や不信感、まつわる誤解

マスメディアは取得しない人の意見として、「紛失時など個人情報漏洩のリスクがある」といったコメントを中心に拾っていた。保険証廃止宣言をした時点でのマイナンバーカードの取得率は49%。国民の半数が「怖がっている」と思いがちだが、現実はそうではない。

マイナンバーカードを未取得の人はどんな理由で取得しないのか。2022年8〜9月にデジタル庁が実施したインターネットモニター2万人を対象とする大規模な調査結果を見ると、その概ねの理由がわかる。

マイナンバーカードの未取得理由 8-9月
マイナンバーカードの未取得理由8-9月

注:出所はデジタル庁。複数回答

複数回答のうち、「情報流出が怖いから」を選択した人は32.9%。最も多いのは「メリットを感じないから」で36.9%。「申請方法がわからないから」「面倒だから」「特にない」という“消極派”も大勢を占めている。

ちなみに、2022年1〜2月に実施した同様の調査では、「情報流出が怖いから」を選択した人は35.2%。約半年で、“リスク派”は2.3ポイント少なくなっているが大差はない。

マイナンバーカードの未取得理由 1-2月
マイナンバーカードの未取得理由1-2月

注:出所はデジタル庁。複数回答

注意すべきは、この数字は全体の意見における割合ではなく、アンケート回答者のうち、マイナンバーカード未取得者のなかでの割合だということ。回答者全体における比率に換算すると、「情報流出が怖いから」マイナンバーカードを作っていない人は1〜2月調査で全体の約14.5%、8〜9月調査で11.7%ということになる。

未取得の人たちのほとんどは、リスクが怖いからではなく、なくても困らないから、面倒だから作らない、ということになる。

なんのために面倒な申請をし、わざわざ役所に行ってまでマイナンバーカードを作らなければいけないのか――。言い換えれば、カードを作る「意義」が理解されていない、ということが普及の最大の壁だと考えるべきだろう。

「国民の利便性の向上」と「行政の効率化」

そもそも、マイナンバーカードとは、マイナンバー(個人番号)制度を推進するうえで欠くことのできない道具。カードのICチップには、個人番号や氏名、住所などの個人情報に加えて、本人であることを証明する「電子証明書」が含まれている。

行政の手続きでは個人番号と電子証明書がセットで使われ、民間での利活用では電子証明書のみが使われる。

では、マイナンバー制度自体の意義とはなにか。政府は当初からこれまで、同制度を導入・推進する目的を大きく3つに集約して説明してきた。

マイナンバー制度

マイナンバー制度の導入のポイント(「総務省」ウェブサイトより)

まずは「国民の利便性の向上」。簡単に言えば、行政手続きがオンラインで済んだり、簡略化されたりすることを指す。具体的には、マイナンバーカードがあれば、コンビニの交付機で住民票などの写しを発行できたり、社会保障・税関系の申請時に課税証明書などの添付書類が削減できたりする。

新型コロナワクチン接種証明書の電子交付も利便性向上の一つ。スマートフォンのアプリを開いて見せるだけで接種証明が可能となる。あるいは、健康保険証と一体となった「マイナ保険証」を持てば、持ち歩くカードが1枚減ることを便利に思う人もいるだろう。

また、マイナンバー制度とは関係がないが、民間でのマイナンバー“カード”の利活用も進んでいる。例えば口座を開設する際、スマートフォンでマイナンバーカード内の電子証明書を読み込むことで本人確認が完了できる銀行も増えている。

一方、コンビニで住民票などの写しを発行する必要のない人も多い。社会保障や税の申請もしかり。ワクチンの接種証明書は物理的な紙でも代用可能だ。銀行口座の開設もマイナンバーカードがなくとも可能。民間での利活用はあまり認知が進んでおらず、これといった“キラー”アプリやサービスがないのが現状だ。

ここまで全国的に普及率が低いということは、そういった利便性だけでは訴求力が弱いということだろう。

次の柱、「行政の効率化」については、もっと国民に伝わりにくい。

総務省は「国や地方公共団体の間で情報連携が始まると、これまで相当な時間がかかっていた情報の照合、転記等に要する時間・労力が大幅に削減され、手続が正確でスムーズになります」としている。

デジタル化と情報連携により、人手が少なくなる。窓口で住民票の写しや所得証明書などの発行にかかわっていた職員は、より住民サービスを充実させるほかの作業に従事することが可能になり、税金の効率的な使い方にもつながる。

その理屈はわかる。だが、いつ、どういったかたちで、何人の労力が削減され、具体的にそれがどう住民のメリットや税金の効率的な使い方につながるのか。明快に住民に説明できている自治体は少ない。

使い回しが可能だった紙の保険証

3つ目の目的、「公平・公正な社会の実現」はどうか。総務省の資料には、「国民の所得状況等が把握しやすくなり、税や社会保障の負担を不当に免れることや不正受給の防止、さらに本当に困っている方へのきめ細かな支援が可能になります」と書かれている。

これを、メリットに思わず、「監視社会へ向かう薄気味悪さや気持ち悪さ」といったネガティブな方向に受け取る人が少なからず存在する。

だが、そう思う人も立ち止まってみよう。

「健康保険証との一体化によるマイナ保険証は、正確な医療の提供といった利便性が強調されているが、じつは公平・公正な社会の実現への寄与も大きい」と話すのは、ある政府関係者。Think都城の取材に、次のように語った。

「紙やプラスチック製の健康保険証は顔写真がないため、友人や家族間での“使い回し”が一定程度あるようだ。対してマイナ保険証は、カード内に記録された写真データと、来院したその場の姿を画像認識で正確に照合するため、使い回しはほぼできなくなると考えていい」

「マイナ保険証」の端末は、目の前の患者をカメラで認識し、カード内の本人写真と照合する

外国人による国民健康保険(国保)の不正利用がたまに取り沙汰される。顔写真のない紙やプラスチック製の保険証が「偽造」されたという報告もある。だが、日本人含め、社会保険全体でいったい不正利用がどれだけあるのか、誰も把握できていない。

だからだろうか、あるいは、監視社会へ向かうという誤解を助長したくないからか、政府もこうした不正が正される効用を声高には語っておらず、3つ目の目的も理解が進んでいないのが現状だ。

しかし、真面目に健康保険料を支払っている人からすれば、不正は迷惑千万。マイナンバー制度は税や社会保険などの不正の監視や抑止に役立つわけで、「正直者がバカを見る社会には住みたくはない」「そのためにも制度を推進すべきだ」というのが真っ当な考えだろう。

監視社会への疑念については、「マイナンバーで預貯金額や医療等のあらゆる個人情報を国が監視するのか?」という質問の答えとして、自民党がウェブページでこう説明している。

監視はしていませんし、できません。マイナンバー制度は個人情報を一ヵ所に集めて管理する仕組みではありません。また、法律に定められた行政事務を行う行政職員だけが、必要な情報に限ってアクセスすることとされています。

再発行まで1カ月、短縮を検討

ここまで、マイナンバー制度の3大目的が、なかなか理解されにくい実情を見てきた。一方で、普及に向けて、いくつかの課題があることも事実。最たるものが、再発行までの期間だろう。

「マイナンバーカードは紛失すると再発行に1ヵ月かかります。役所に受け取りに行く必要もあります。保険証と免許証がマイナカードに吸収されれば、カード紛失で1ヵ月医療を受けられず車にも乗れなくなるのでしょうか。その間の身分証明もできなくなります」

「保険証廃止、24年秋にも」といち早く報じた朝日新聞に対するリアクションとして、Twitterで7万件のいいねと2.4万件のリツイートを集めたツイートである。

既存の健康保険証の再発行までの期間は通例、1週間〜10日程度。免許証に至っては即日、再発行できる。

しかし、マイナンバーカードは現状、再発行まで「1〜2カ月程度」の時間がかかる。マイナ保険証もマイナ免許証も一体化されたものを紛失し、再発行まで1カ月も待たされたら困るというのは、もっともな意見だ。ただし、政府は改善すると約束している。

寺田総務大臣は2022年10月の会見で、既存の保険証を廃止する2024年秋までに、再発行の期間を10日程度に短縮する意向を示した。また、岸田文雄首相はマイナンバーカード紛失時でも「保険診療を受けられるのは当然だ」と明言しており、紛失時に医療が受けられない事態にはならない見込みだ。

運転免許証については、現状は廃止しない方針を政府が示しているため、マイナ免許証が導入され、紛失したとしても、既存免許証があれば運転は可能である。

都城市に学ぶ普及のカギとは

長期間、外出が困難な病人や高齢者などへの対応も課題の一つ。

マイナカードの交付は申請者が自治体の役所を訪れ、職員が本人確認をすることが原則だが、病院や療養施設の責任者や、各自宅で世話をするケアマネジャーなどが本人確認を代行する案や、自治体職員が出向く案などが検討されている。

新生児の扱いも検討課題だ。5年更新のマイナンバーカードに掲載する顔写真について、顔立ちの変化が激しい新生児はあまり意味をもたない。そのため、新生児は顔写真不要とする案も出ている。

新制度には何事も課題がつきまとう。100%の普及率へ向け、解決の策が出ているこうした課題は、さほど問題にはならないのかもしれない。

むしろ、普及への壁となって大きく立ちはだかると認識すべきは、先に述べた意義の部分。とりわけ、「国民の利便性の向上」が理解されない限りは、無理やり押し付けたところで不信感を招くだけだ。

「便利だね」「持ちたい」と思ってもらえる存在になるための努力や説明を尽くす――。結局は、それが普及への最も近い道である。そして、都城市はそれを証明した。

次回は、「マイナンバーカード普及率日本一」を誇る都城市の歩みを通じて、マイナンバーカードの利便性を深く追っていく。

次回に続く)

マイナカード交付率1位、都城の策[前編] 出向いて寄り添う「都城方式」

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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