深く多面的に、考える。

ふるさと納税日本一の舞台裏 #07

ふるさと納税寄附金の使い道を探る イルミネーションからあのトイレまで

テーマ「ふるさと納税の舞台裏」の最終回は、ふるさと納税の寄附金の活用事例にフォーカス。公開されている情報からはなかなか見えてこない使い道を深掘りします。本テーマの最終回です。

100万球が彩るイルミネーション

都城の冬の風物詩としてすっかり定着した「都城まちなかイルミネーション」。都城市民なら一度は目にしたことがあるだろう。

2022(令和4)年も11月19日から点灯された。2023(令和5)年1月15日までの期間、市街地の中核施設「Mallmall(まるまる)」を中心に、大量のLEDが夜を彩る。

LEDで彩られた都城市立図書館(上)とワンパーク(下)

都城まちなかイルミネーションは、2014(平成26)年から始まった冬の風物詩。市民の期待に応えるかたちで年々、電球の数や範囲が拡大し、豪華になっている。

その規模拡大を、ふるさと納税が支えた。初年度は市の独自予算を当てていたが、2015年からふるさと納税の寄附金が使われていることは、あまり知られていない。

9回目となる2022年は、昨季より23万多い過去最多となる100万球の電球で街を飾った。2022年度、都城市が拠出した予算は約6400万円。市によると、そのほぼ100%がふるさと納税の寄附金を財源としているという。ふるさと納税の恩恵を象徴するイベントと言える。

右肩上がりの歳入、支えるのは?

「都城市にとってふるさと納税は(1)都城市の対外的なPR、(2)地場産業の活性化、(3)市の税収の増加、(4)職員の意識改革をもたらす“一石四鳥”の取り組み」――。

これまで、都城市の池田宜永市長はメディアの取材などで、ふるさと納税の恩恵について幾度となくこう語ってきた。

池田市長の言う「(1)対外的PR」「(2)地場産業の活性化」「(4)職員の意識改革」については、本連載で存分に深堀りしてきた。だが、残る「(3)税収の増加」については、表層的な寄附金総額の増加を紹介するにとどまっている。

というわけで、テーマ「ふるさと納税日本一の舞台裏」最終回は、税収が増加した結果の「使い道」にフォーカスしていく。

その前に、税収はどのくらい増加したのか。ふるさと納税の寄附金は都城市にとって、どのくらいのインパクトがあるのかを確認したい。

都城市の歳入の推移
都城市の歳入の推移

注:都城市の資料を基に作成。金額は四捨五入

上のグラフは、都城市の毎年の歳入総額の推移と、その内訳をまとめたもの。総額は、右肩上がりで伸びている。地方自治体の主要な財源である「市税」や「地方交付税」が伸び悩むなか、2020(令和2)年度以降は新型コロナウイルス対策などで国庫支出金が大幅に増えた。それ以外の純増分は、ふるさと納税の寄附金が支えていることがわかる。

国庫支出金は緊急支援の側面があり「成長」とは分けて考えるべき。歳入の観点から見た都城市の成長とは、すなわち、ふるさと納税の成長と言って過言ではない。

では、その成長は、具体的にどのような恩恵を市民にもたらしているのだろうか。

「寄附金、なにに使っているの?」

2022年11月、街を歩く市民に「ふるさと納税の寄附金の使い道を知っていますか?」と声をかけてみた。異口同音に「知らない」との答え。「市は儲かっていそうだけれど、なにに使っているのか。もしかして、このイルミネーション?」という声も。正解である。

だが、使い道がわからなくても無理はない。理解したり、把握したりするのは、なかなかにして大変なのだ。

寄附金が、どんな事業に活用されたのか。都城市ふるさと納税特設サイトの「活用事業のご紹介」には、年度ごとに、ふるさと納税の活用事業がずらりと並んでいる。毎年4月1日にその年度の情報が一気に更新されるが、これを一つひとつ閲覧するのは骨が折れる。

都城市ふるさと納税特設サイトの「活用事業のご紹介」

加えて、ここにある情報が「寄附金の使途のすべて」というわけではない。冒頭で紹介したイルミネーションのように、ふるさと納税の寄附金をほぼ全額充当する事業は珍しく、基本的には、補助金などほかの財源と組み合わせて活用するのが通例。寄附金とそれ以外の財源の比率は千差万別で、一概にどのくらいとは言えない。

また、特設サイトの活用事業のご紹介に掲載されているのは当初予算分で、そのほかに補正予算で追加する活用事業の分もあれば、中長期的に使う「地方創生基金」に積む分もある。活用事業のご紹介の情報だけでは、なかなかイメージしづらい。

そこで今回、市役所にヒアリングするかたちで、ふるさと納税の寄附金が支えている代表的な事業をピックアップした。

新しい「道の駅」都城の建築

まず、マクロから確認していこう。都城市への寄附者は申込みの際、自らの寄附金の使途を以下の項目から指定できる。

  • ふるさと子ども支援(子育て支援)
  • ふるさとまちづくり支援(協働のまちづくりや中心市街地活性化)
  • ふるさと環境支援(環境・森林の保全)
  • ふるさとスポーツ・文化振興支援
  • ふるさと長寿支援(高齢者支援)
  • ふるさと災害対策支援(災害支援、口蹄疫対策)
  • ふるさと人口減少対策支援
  • 特に指定なし(市長におまかせ)

申し込みをするポータルサイトによって表現は若干違うが、寄附者は概ねこの8つから使ってほしい使途を選ぶ。選択できない/しない場合は、最後の「ふるさと支援(特に指定なし、市長におまかせ)」にすればよい。適時、各種事業へ振り分けられる。

ただし、通常の寄附申込ではなく、クラウドファンディングというかたちで寄附申込をする際は、この8項目以外の使途が期間限定で現れる。2021(令和3)年12月24日~2022年3月25日まで寄附受付をしていた「新しい『道の駅』都城の建築」がそれだ。

これこそが、ふるさと納税の使途として、インパクトも金額も大きい代表格である。

宮崎空港と都城市を結ぶ宮崎自動車道の都城インターチェンジ(IC)を降り、市街地まで通じる国道10号を走ること数分、左手に「道の駅 都城」が見えてくる。こぢんまりとした現在の道の駅に隣接する広大な敷地では、新しい道の駅の建設が着々と進んでいる。旧・地場産業振興センターの建物があった場所だ。

こぢんまりとした現在の「道の駅 都城」(上)に隣接する広大な敷地で、新しい道の駅の建設が進んでいる

都城市は2021年から、新・道の駅の建設工事に着工。2023年4月の開業を控えている。愛称は“肉”を想起させる「NiQLL(ニクル)」。精肉・焼酎・青果から「都城大弓」といった伝統工芸品まで取り揃えた直販所のほか、イベント広場、キッチンスタジオ、4つのカフェコートなどが併設された巨大な道の駅として生まれ変わる。

2022年度は約24億6000万円の予算をつけ、ラストスパート。この一部が、ふるさと納税の寄附金で賄われている。多額であり、大きな経済効果も見込まれている使い道。完成すれば、ふるさと納税の恩恵としても知られるようになるだろう。

小学生4人に1人を受け入れ可の児童クラブ

次に、先に紹介した8つのカテゴリー別に、どれだけの寄附金を集めているか見てみよう。それが、以下のデータだ。

都城市のふるさと納税寄附金の使徒(2020年度)

注:出所は都城市。数字は四捨五入

半数近い圧倒的な支持があるのが「子育て支援」。2020年度のデータになるが、寄附者から子育て支援が最も選択される傾向は、毎年同じだ。

子育て支援向けの寄附金は、一時預かり保育のほか、各種イベントや体験事業、子育て支援団体や地域との交流事業などへの支援に充てられている。中でも、恩恵を最も受けていると見られるのが「放課後児童クラブ」事業だ。

共働きやひとり親の家庭など、昼間に保護者が家にいない小学生は、放課後や夏休みなどの学校休業日、子どもだけで過ごすことになる。放課後児童クラブは、そうした児童に小学校の余裕教室や児童館、保育園等の施設を利用して、遊びや学習、生活の場を提供している。いわゆる学童保育事業だ。

都城市の放課後児童クラブ

仕事と子育ての両立、保護者の子育て支援、子どもの健全育成対策として重要な役割を担う児童クラブ事業。都城市は、ふるさと納税をリニューアルした2014年度以降、その強化にふるさと納税の寄附金を充ててきた。

寄附金を活用するようになってから、毎年2カ所だった児童クラブの増設ペースを5カ所以上へとアップ。児童クラブの拠点数は、2022年4月時点で計72カ所まで増えた。

2022年5月時点で都城市の小学生は9248人。対して児童クラブの定員数は計約2400人。全小学生の4人に1人以上を受け入れられる計算だ。ちなみに、児童クラブ拡充に力を入れているとされる近隣自治体の受け入れ能力は全小学生の5人に1人。都城市はこれを上回っている。

2022年度は、6カ所あった直営の放課後児童クラブのうち2カ所を法人による委託運営に変更するとともに、新たに2カ所のクラブを開設。保護者のニーズに対応したよりきめ細やかなサービスを提供できる体制へと強化している。

そのほか、寄附金を使った子育て支援では「子ども医療費助成事業」が大きい。都城市では、中学生までの児童・生徒全員が、入院と保険薬局の自己負担額が無料になるほか、通院時も未就学児は無料。小中学生は1医療機関当たり月額200円の自己負担で済む。この補助に2021年度、5億3859万円を計上。約8割に寄附金が使われた。

子育てや教育に関する支援は枚挙にいとまがないため、このあたりにしておく。詳しく知りたい方は、先に紹介した「活用事業のご紹介」をご覧いただきたい。

「恋する都城」で“恋活”支援

子育て支援に次いで、選択する寄附者が多いのが「特に指定なし(市長におまかせ)」。冒頭で紹介したイルミネーションや、コロナ禍における「飲食店応援プロジェクト」などは、「市長におまかせ」枠から「まちづくり支援」枠へと振り分けられた案件だ。

この“ワイルドカード”とも言える枠は、事業規模が大きなものに役立っているほか、都城市ならではのユニークな取り組みにも貢献している。

市長のおまかせ枠から分配され、「人口減少対策」枠として寄附金が活用された事業の一つ「若者の出会いと雇用コンシェルジュ事業」は、その最たるものだろう。“恋活”を市が支援するというユニークな試みだ。

「これからやってくるクリスマスイベントに向けて、素敵な出会いや、新しい恋を始めるきっかけづくりのために、2つのイベントを企画しました」

市役所が配布した「恋する都城」のチラシ

「恋する都城」というチラシには、こうした文言とともに、「ハートわくわくマッチング」と題されたマッチングイベントの案内もある。20〜39歳までの独身男女15人ずつを募集し、2022年11月に陶芸絵付け体験を、12月には同じメンバーでクリスマスランチを楽しむというイベント。企画や運営は地元企業が担当するが、主催は都城市総合政策部総合政策課だ。

このイベントは、2回で1人3000円の参加費がかかるが、民間のマッチング事業に比べれば格段に安い。前述した若者の出会いと雇用コンシェルジュ事業の約2200万円から捻出された資金によって補助されている。

これまで紹介した事業に比べるとインパクトは弱いかもしれない。だが、市役所が街をイルミネーションで飾り、若者の恋活支援の策を練ることで、少なからず、やらないよりは、恋が生まれる雰囲気や空気が増すのではないだろうか。

無論、市長におまかせ枠は、こうした変わり種だけに振り向けられるわけではない。

かゆいところにも手が届く

プロサッカーチームのキャンプ誘致などの「スポーツ・文化振興事業」、浄化槽設置整備といった「環境・森林の保全」、食事・洗濯・掃除・買い物などを手伝う「高齢者支援」、台風被害の被災者支援や家畜伝染病の蔓延防止策などの「災害支援、口蹄疫対策」にも、市長におまかせ枠はバランス良く分配されている。

しかし、ある程度自由に使えるふるさと納税の寄附金であれば、通常の財源をもとにした予算編成では実現困難な、あるいは規模が小さすぎて見送られるような事業にも目を向けることができる。その意味で、最後に「公衆トイレ」の整備も紹介したい。

2021年3月、都城北高速バス乗り場に、ちょっとした待合いスペースがついた真新しいトイレが出現した。総工費約1842万円。この大半が、ふるさと納税の寄附金によるものだ。

都城北高速バス乗り場に新設された公衆トイレ

あのトイレ、と気づく市民は少ないだろう。しかし、喜んでいる人もいる。バス停周辺は車通りも少なく、夜は真っ暗だった。街灯がついた綺麗なトイレの存在が、その物騒な雰囲気を一変させた。バス停前にある駐車場に車を停め、幼い子を連れて高速バスで宮崎市へ向かう30歳代の母親は、「本当に助かっている」と話してくれた。

2022年度は寄附金を使い、老朽化している市営西墓地のトイレもようやく整備する。共用開始は54年も前の1967(昭和42)年。多くの市民には関係がないかもしれないが、嫌悪感や恐怖を感じる墓参者もいたことだろう。

ふるさと納税の活用先は、道の駅やイルミネーションのような派手で大物ばかりではない。こうした、かゆいところにも手が届く支援ができるのも良いところである。

ふるさと納税の恩恵を身近に感じていただけただろうか。ふるさと納税の使い道は、奥が深い。機会があれば、今後もさらに深掘りしていきたい。

 

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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