深く多面的に、考える。

地方創生・成長企業の本質 #02

「スマート農業」の新福青果が目指す姿 全国から人材を呼び寄せた組織改革

今回から都城を代表する成長企業の本質を探っていきます。1社目は「スマート農業」で知られる新福青果。「農業の既成概念を変えたい」と展望を語る新福朗社長に、農業の目指すべき道や、大切にしていることを聞きました。

「スマート農業」の先駆け

宮崎県都城市の中心部からクルマで南下すること10分。短い坂を登った先に、全国的に名が知られる農業生産法人・新福青果のオフィスと工場がある。

都城市梅北町に居を構える新福青果(提供:新福青果)

都城市梅北町に居を構える新福青果(提供:新福青果)

生産する作物は、主にさつまいも、里芋、ごぼう、人参といった根菜類。畑はオフィス周辺のほか、市内にも点在しているが、取材に訪れた11月下旬は農閑期で、作物はほとんどなかった。「今はらっきょうを少し植えてある程度ですね」。案内してくれた栗原貴史執行役員は、そう申し訳なさそうに話す。

新福青果のオフィス近くにある畑

新福青果のオフィス近くにある畑

新福青果の売上高は約7億円(2022年度)。日本農業法人協会が発行する「農業法人白書」(2021年版)によると、協会会員の平均売上高は32987万円。5億円以上の企業は全体のわずか13.6%であり、同社は規模の大きな部類に入るだろう。

ただし、規模が新福青果を有名にしているわけではない。 

25年ほど前から農業にITを取り入れている新福青果は、「スマート農業」の先駆けとして、その名を轟かせている。 

「IT化だけでは何も変わらない」

ドローン・ロボット・人工知能(AI)・モノのインターネット化を指すIoT……。そうした先端技術を活用した「スマート農業」を実証し、社会実装を加速させていく事業として、農林水産省は2019(令和元)年度から「スマート農業実証プロジェクト」を開始している。

新福青果はその初年度に採択され、宮崎県や都城市、南九州大学などとともに実証実験を行った。初年度に宮崎県で採択されたのは、ほかにジェイエイフーズ宮崎だけだ。

新福青果は自社の畑でドローンを活用している(提供:新福青果)

新福青果は実証実験を通じて、ドローンによる畑の空中撮影や、全自動運転のトラクターの活用などを実施。スマート農業の最先端を走り、多くのメディアにスマート農業の急先鋒として取り上げられた。経済産業省「IT経営百選優秀賞企業」や、全国商工会連合会「IT経営大賞優秀賞」を受賞した実績もある。

IT活用やスマート農業が代名詞となりつつある新福青果。だが、当の新福朗社長はこう語る。

「よく同業者などから『IT化で何が変わりましたか』と聞かれますが、『何も変わらないですよ』と答えています。単にITツールを入れれば成果が出るということはありません。実際にはその裏の泥臭い取り組みが大切です」

新福青果の新福朗社長

新福青果の新福朗社長

「取り組み」とは何だろうか。そこには地方の農業が抱える高齢化や人材不足といった課題を解決するヒントがあった。

どのデータが必要かわかっていなかった

新福青果は、現社長の父・秀秋氏が1985年に設立。まだ世の中にインターネットがそれほど普及していない98年ごろ、農業の世界にITを導入したことで一躍脚光を浴びた。

「最初は農作業の“見える化”と“単純化”が目的でした。農場にPCを持ち込み、各作業にどのくらい時間がかかるのかを記録したり、デジカメで撮影した現場写真を取り込んで日報に載せたりしていました」 

2006年ごろには、富士通の農業支援ソリューションを導入し、よりシステマチックに農作業の効率化を図ろうとした。ただし、実際は上手くいかなかったという。

「進まなかった一番の理由は、どういうデータが必要なのか、誰もわかっていなかったこと。とりあえずデータを全部システムに詰め込んでみたけど、最終的に『あれ、何をしたかったんだっけ?』となりました」

作業現場の様子

作業現場の様子

じつは、新福社長は当時、富士通に勤めており、まさにこのソリューションを全国農業協同組合連合会(全農)などに提案していた。ところが、富士通を退社して2013年に都城市に戻り、いざ自分が売っていたシステムを使ってみると、課題があることに気づいたという。 

「確かにデータは膨大にありました。ただ、社員がGPSを付けて畑での移動距離などを計測するのですが、そもそも、その目的がわかっていませんでした。さらにGPSは頻繁にデータを収集するため、電池がすぐに切れます。そうすると、充電するために事務所に戻ってこないといけません。本来の業務とは関係ない無駄な作業が増えるばかりでした」

何よりも、農業生産者とITベンダーの意識の違いが大きかったことを痛感した。

「ベンダーが目指すIT農業と、農業生産者が考えているIT農業には乖離がありました。逆も然りで、農業リテラシーの差がありすぎる。これが埋まらないままシステムを作っていたためミスマッチが起きました」

これではうまくいかないと、新福社長はシステムの活用を止めた。 

勘違いしてほしくないのは、データ活用が悪というわけではない。問題なのは、データ収集の非効率性や、必要のないデータまでを取っていたこと。その罠に気づいた新福社長は、収集するデータの“質”を見直すことにした。

収集するデータは、作業時間のほか、品目ごとの植え付け時期や収穫量など、最低限のものがあれば良いとした。同時に、データを管理する専任部隊を新たに設けた。舵取りを任されたのが冒頭の栗原氏である。

全員にデータを入力させるのではなく、担当者だけがデータを生成する。そうすれば、畑の作業者はデータの意味などを考える必要もなく、農作業に集中できる。

畑で作業する者はデータについて考える必要がなくなった。写真はごぼうを収穫するスタッフたち(提供:新福青果)

畑で作業する者はデータについて考える必要がなくなった。写真はごぼうを収穫するスタッフたち(提供:新福青果)

そのために大仰なシステムを導入する必要はなかった。「いろいろな農業関連システムが出ていますが、やっていることはほぼエクセルと同等。だったらエクセルで十分です」と栗原氏は言う。

拡大路線からの脱却

データ収集を改善した新福社長が次に取り組んだのは、事業改革に向けたデータ活用だった。

同社のピーク時の売り上げは17億円ほどだったが、圃場数や作物の品目も多く、管理手法も多工程だったため、その工数を減らすことから始めた。

「創業者である父は、創業者らしく事業を広げられるだけ広げる傾向がありました。そこで僕は10年後の会社を想像して、事業の取捨選択に着手しました。そのための判断材料として、データ活用を行いました。データを使わないと幹部社員を説得できないからです」

具体的には、過去20年分の販売データを引っ張ってきて、顧客ごとや品目ごとに並び替えたり、分析したりした。するとさまざまな事実が見えてきた。

「例えば、30アール(3000平方メートル)もの畑を使って栽培していた野菜が、まったく売れていませんでした。それなのに、なぜ作り続けるのかを現場担当者に尋ねると、これは古くからの顧客に『作ってくれ』と言われたから、ということがわかりました。こうした問題の根っこを見つけては、しらみつぶしに対応していきました」

ところが、当時の社長である父をはじめ、古株の幹部社員は、事業のリストラに理解を示さなかった。だったら自分が権限を持って変えるしかないと新福社長は考えた。

2017年に2代目社長に就任した

2017年に2代目社長に就任した

幸いにも、社内の若手社員や外部の契約農家、世話になっていた経営コンサルタントなどが新福社長の改革に共感し、積極的に推してくれたことで、2017年に晴れて社長に就任。その後すぐに新福社長は事業の「選択と集中」を進めた。

現在の畑の総面積は約30ヘクタール。社長就任時の3分の1まで減らした。 

具体的には、それまでメインではなかった根菜類を主力商品にした。これが同社の収益性を大きく押し上げることになる。

「以前はキャベツや白菜、レタスなどの葉物野菜も作っていました。ただし、農場もそれほど広いわけではないし、葉物は痛みやすい。保管などを考えたときに、品目を絞る必要がありました。販売・顧客・原価データを見て、作業効率を考えたとき、さつまいも、里芋、ごぼう、人参の4品目に絞った方が良いと判断しました」

中でも大きく化けたのが、さつまいもだ。生産と取扱いを本格的に始めた5年前には出荷量100トン、売上高1000万円程度で、実質赤字だったのが、現在は2300トンを生産し、約38000万円の売上高を稼いでいる。しかも最小限の人員で効率的に作業しているため利益率が高い。 

新福青果の主力商品となったさつまいも

新福青果の主力商品となったさつまいも

「温暖化などの異常気象において、長期間保存可能な野菜は、冷凍野菜にもできますし、これからも需要はあります。当時は不安がありましたが、今はこの品目に絞って良かったなと思います」と新福社長は胸を張る。

選択と集中の結果、新福青果の売上高は最盛期の半分以下になったが、逆に営業利益は伸びているという。詳細な数字は非公開だが、利益はV字を描いた。

改革に際して、確かに販売データなどを活用したが、これをスマート農業だとは新福社長自身、考えていない。

重要だったのは、社内の幹部社員を納得させるプロセスや、自身の地位向上のための地道な努力といった“アナログ”な取り組み。「データは、説得のため、あるいは自身の決断が正しいことを示すための道具に過ぎない」と新福社長は振り返る。 

農業のプロはいらない

新福社長は社長就任後、組織や社員の役割も大胆に変えた。

「『トラクターに乗れるベテランが方針を決めないと決まらない』という農業の世界の常識を、早くどうにかしたかった」と新福社長は言う。

一般に、農業は親方と呼ばれるようなベテランと、社員やアルバイト、外国人研修生といったそれ以外の作業者という、2階層の組織になっている。ベテランになるには莫大な年月が必要で、30年はかかるという世界だ。

「俺たちは何でもやらないといけない。野球でいうと走攻守そろっているタイプにならないといけないと思っている人たちが農業には多いです。このキャリアを目指していても埒が明かない。それよりも、“農業の素人”でもできる仕事や役割を作り、農業の素人でも回る仕組みを作るべきです」

そこで新福社長は、ベテランである農場長とそれ以外の2階層から、農場長と農場社員とアルバイトの3階層に細分化。一般的な会社のように農場長が畑の計画立案をして指示を出す。指示に従って農業機械などで作業をする農場社員、そして、アルバイトなどを中心に単純作業を行う部隊が、役割分担をしながら工業製品を作るように野菜を作るという、新しい農業の組織を目指した。 

これまでは農業のベテランになることだけが唯一のキャリアパスだったが、もはやそういう時代ではない。「極端にいえば、農業のプロは必要ない仕組みを作りたい」。そう、新福社長は言う。

新福青果のスマート農業への取り組みは、それ自体が目的だったわけではない。一般的な製造業と同じように、組織や業務プロセスを洗練させていった。役割分担を明確にし、機械を上手く使いながら全体をマネジメントしていった結果、露見した一側面がスマート農業だった。その意味で、新福社長の改革とは「農業の一般企業化」とも言えよう。 

これが、若く優秀な新たな人材を全国から呼び寄せ、新福青果に新風をもたらしている。

新福社長は、異業種の人材が必要と考え、中途採用で多くの業種・職種から人材を採用している。例えば、システムエンジニア、セールスマン、簿記資格を持った会計畑の人材などだ。しかも大半が、都城市でも宮崎県でもなく、九州の外からやってきている。

実際に、彼ら、彼女らは今、新福青果で大いに活躍している。

元システムエンジニアの社員は、作物の計量システムと仕入れシステムを連携させることで、ペーパーレス化を実現。従来さつまいもだけで年間約4000枚も必要だった紙書類の作成業務をなくした。

外部人材という点では、栗原氏もその一人。東京で公務員をしていた栗原氏は、「スマート農業にも興味はありましたが、それよりも入社前に社長と話をして、従来の農業にはない新しい考え方に惹かれました」と振り返る。 

農業に縁もゆかりもない人材を惹き付けるのは、先述した「農業のプロはいらない」という新福社長の考え方にほかならない。

「農業の世界に入ったから、農業のスペシャリストになるというのはナンセンス。農業でも別のジャンルの仕事をしてもいいと思っています。農業のプロはビーカーのように、狭い範囲で深掘りしていくような人。僕らが用意しているのは、浅いけど大きな器。農業の専門性はなくても、いろいろなことができる人を求めています」

一方で、農業のプロを目指す人材もきちんと受け入れて、キャリアを積める環境も用意している。たとえ若くても、未経験でも、誰でも働けて、活躍できる農業生産法人。これこそが新福青果の強みである。

「今後の地域のことを考えると、農業に従事する人は減るし、畑も余るのは明白。そのために外から広く人を受け入れることが大事だし、農業のベテランがいること以上に、畑や作物についてのデータを持っている農家が強いと思います。だから僕らはデータをしっかり見ることができるプロは作りたい。予測を立てて、実行できる人がいないとこれからの農業経営は厳しいと思います」

新福社長の言うことは、製造業でも、サービス業でも、あらゆる産業に共通すること。農業の特殊性にこだわるのではなく、一般的なビジネスの常識にこだわる。一見、当たり前のようだが、農業という世界において、それは革新的な考え方なのだ。 

「農業のデータを活用できるプロは必要だ」と新福社長は語る(提供:新福青果)

「農業のデータを活用できるプロは必要だ」と新福社長は語る(提供:新福青果)

生産者が力を持てる世の中にしたい

既成概念を壊し、新時代の農業を確立することに挑んでいる新福青果。その先に見据える目標は明確だ。

「農業に関わる人たちのステータスを上げたい」。そう、新福社長は意気込む。

背景にあるのは、販売チャネルである小売や流通などの大企業に対して、価格で勝負しないといけないという現状。その状況を変えて、2030年までには主導権を生産者に取り戻したいという。実現するには、産地から発信し続けることが肝要だと考えている。

スマート農業に関する発信も、知名度を上げ、人材を呼ぶきっかけを作るという意味では、戦略的な武器に成り得ているだろう。

ただし、本質はそこではない。あくまでもゴールは農業の改革や価値向上であり、そのための組織改革の結果のいち側面が、スマート農業なのだ。

誰もが農業に携わることができる「新福青果モデル」。これを都城発で広めていくことが、都城という地域の活性化にもつながると新福社長は信じている。

次回に続く)

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伏見 学(ふしみ・まなぶ)

フリーランス記者/編集者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「沖縄」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。

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