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地方創生・成長企業の本質 #06

タマチャンショップ新展開[後編] 海外目指す田中耕太郎社長の覚悟

  • 2024年、節目を迎えた自然派食品のタマチャンショップが新展開。
  • 新開発した欧州向け商品の投入など、海外進出を本格化させる。
  • 海外にこだわる理由、そして地元・都城への思いと覚悟を語る。

フランスの見本市に参加

フランス・パリの中心部。2023(令和5)年2月、セーヌ川の中洲に建つノートルダム大聖堂から徒歩15分ほどの場所にある展示ホール。ここに、タマチャンショップの“キャプテン”こと、九南サービスの社長(当時は副社長)である田中耕太郎氏の顔があった。

フランス・パリでの見本市に出展し、自社商品をふるまう九南サービスの田中耕太郎社長(右)

自然派食品を扱うタマチャンショップのブースにも多くの来場者が詰めかけた

3日間の日程で開催されていたのは、「フランス最大級の日本の観光と食のイベント」を謳う「セボン・ル・ジャポン」。9回目となった2023年は、33社の日本企業が出展し、欧州各地から訪れた1万6000人以上の来場者にアピール。その1社として、タマチャンショップも初参加した。

本格的な海外進出に向けた市場調査。タマチャンショップの祖業である原木しいたけや、主力商品の「三十雑穀」を使用した和牛丼などの販売、オリジナル商品の試食提供などを通じて、現地でタマチャンショップが受け入れられるかどうかを見極める狙いがあった。

イベント後には、フランスの地方都市やドイツの都市なども訪れ、スーパーなど小売店の市場調査や商談もこなして帰国した耕太郎氏は、手応えをこう話す。

「商品自体のクオリティについては、すごく良い評価をいただけた。同時に、商品パッケージの問題点など課題も見えてきて、とても有意義な経験になりました」

2023年2月開催の「第9回 セボン・ル・ジャポン」。33社の日本企業が1万6000人以上の関係者にアピールした

そこから約1年。課題もクリアしたタマチャンショップは2024年、満を持して初となる海外向け戦略商品の出荷を始めようとしている。

欧米・アジア圏へ徐々に浸透

2023年はタマチャンショップにとって、あらゆる節目の年だった。

九南サービス創業30年、タマチャンショップ創業20年、耕太郎氏がタマチャンショップのリブランディングを手掛けて10年。そして耕太郎氏の社長就任。初となるリアルでのイベント「タマフェス」も開催した。

2023年11月、タマチャンショップ初のリアルイベント「タマフェス」が開催され、賑わった

これまでの20年、10年と、これからの10年、20年をへだつものはなにか。その一つとして、間違いなく海外市場への挑戦が挙げられるだろう。

タマチャンショップが放つ「自然派食品」「オーガニック」という軸は、国境を超えても通用する世界的なトレンド。すでに、欧米とアジア圏へオリジナル商品を輸出している。

欧州へは、2022年くらいからドイツやオーストリアを中心に輸出を始め、国内でも人気の三十雑穀シリーズや、しいたけ類などが売れている。米国では、きくらげや生姜の粉末加工品、ローストした炒り豆など、香港や台湾、マレーシアなどのアジア圏では、それらに加えて小魚を使ったおやつ「OH!オサカーナ」シリーズやコラーゲン粉末「こなゆきコラーゲン」などが人気だという。

栄養たっぷりのおやつとして人気の「OH!オサカーナ」シリーズ

米国では日系スーパーの店頭という販路が中心だが、それ以外の国では、各国の事業者へ卸すケースが多い。ただし、いずれも現地企業からのオファーによるものが多く、“受け身”の姿勢でオーダーに応えてきた、というのがこれまでの実情だ。

しかし、これからは違うと耕太郎氏は語る。

即席みそスープを欧州仕様で新開発

「日本のマーケットは縮小傾向にあるなっていうのと、物価もまだ安定していないと感じていまして。一方で海外は、人口から考えてもその可能性はめちゃくちゃ大きいですし、海外売り上げは数年前に比べて自然と2〜3倍くらいになってきている。より良いものを適正価格で購入してくださる方も多い。軸足を海外に置き始めてもいいのかなと思い始めました」

「その国の文化に自分たちの商品を合わせていかなければならないなど、まだまだ課題点は多いですし、学びながらではありますが、2024年2月くらいから欧州向け輸出の拡大を図っていこうと準備しています」

「軸足を海外に置き始めてもいい」と海外展開を本格化させる田中社長

受け身から“攻め”の姿勢へ。その第一弾となる戦略商品の仕込みは終わっている。みそスープのフリーズドライ食品だ。

大麦、もち麦、はと麦、黒ごま、えごま……。栄養価が高く美容や健康にも良いとされる30種の国産雑穀をブレンドした三十雑穀シリーズは、タマチャンショップの急成長を支えた主力商品群。派生の「三十雑穀スープ」シリーズも看板商品へと育った。

三十雑穀スープ」シリーズは、みそ、チゲ、薬膳、トマトなど8種類が並ぶ

なかでも、ベーシックな「みそスープ」は、30種の雑穀で作った味噌に、しいたけエキスと黄金しょうがを配合したスープの素で、好きな具材とあわせて美味しい味噌汁を手軽に作れると人気を博している。化学調味料、着色料、保存料は使用していない。

今回、タマチャンショップはこの“自然派”みそスープをベースに、欧州向けフリーズドライ食品「三十雑穀みそスープフリーズドライ」を新たに開発。2月から輸出を開始すると耕太郎氏は明かす。

「向こう(海外)は、即席の味噌汁の需要がすごくあるということで、今回はパッケージから中身まで完全に欧州仕様で開発。素材も畜肉や魚介系を外して、ベジタリアンやビーガン志向の方々にも食べていただけるような商品が出来上がりました」

タマチャンショップが準備している海外向けフリーズドライ味噌汁

最初から海外市場をターゲットにオリジナル商品を開発したのは、これが初めて。「海外への挑戦という意味で、2024年は正念場。大きな年になる」と耕太郎氏は期待を寄せる。

ただし、国内をおろそかにするわけではない。むしろ、商品開発やコミュニティ運営など国内向け事業もこれまで以上に強化していく。それが、海外市場の開拓にもつながると考えているからだ。

カギとなりそうなのが、タマフェスでも見せていた「コラボレーション」である。

霧島酒造と共同開発「サクまいも」

2023年10月、タマチャンショップはエポックメイキングとなる新商品を国内向けに投入した。地元・都城の焼酎大手、霧島酒造と共同開発した「サクまいも」だ。

霧島酒造との共同開発で誕生した「サクまいも

都城を拠点に全国区で勝負する霧島酒造とタマチャンショップ。今回、その両社が初めてタッグを組んだ。

霧島酒造の焼酎製造に使用されているさつまいも「黄金千貫(コガネセンガン)」を原材料としたサクまいもは、減圧フライ製法でさつまいも本来の色や味わいを残し、サクっとした食感に仕上げた新感覚の芋けんぴ。「プレーン」「ソルト」「スイート」の3種類があり、おやつや酒のつまみとして、子どもから大人まで楽しんでもらえるよう工夫した。

売れ行きは好調で、初回生産分は完売。製造をいったんストップして立て直したほどだ。耕太郎氏はこう喜びを隠さない。

「霧島酒造さんもヘルシー志向のお酒をずっと昔から作られていて、コンセプトは近いと感じていました。そうしたなか、お互いの強みを出し合って、思いもしっかりとシンクロして、新商品をリリースできたのは感慨深かったですし、自分としてはすごく大きかったです」

同時期、もう一つの企業間コラボレーションが実現している。長野県に本拠を置く総合きのこ企業、ホクトとのコラボである。

コラボで「日本の強さを発揮」

原木しいたけを祖業とするタマチャンショップ(九南サービス)は、ルーツであるきのこのスナック菓子「キノコッチ」シリーズを展開。こちらも人気商品となっている。

“森のおつまみ”「キノコッチ」シリーズ。都城本店ではホクトのキャラクター「きのこ組」もお出迎え

2023年11月、ここに新たな種類「霜降りひらたけ エリンギ&ブナシメジ御一行ミックス」を冬季限定で加えた。味はすきやき風味で、ホクトと共同開発した。

霧島酒造は焼酎売り上げで全国1位を続ける地元を代表する名士。ホクトも地域は違えど、同じきのこ類を扱う企業としては国内最大手。そうした有力企業にコラボレーションの相手として認められた、ということは、もちろん嬉しい。

しかし、それ以上に新たな可能性を感じられたことが、耕太郎氏をより興奮させている。

「企業間のコラボは、単なる足し算じゃなくて、掛け算でお互いのお客さまに新しい発見やサービスを提供することができると感じていまして。それだけじゃなく、日本の強みを最大化できる手段だと思っているんです」

「これからは日本企業同士でタッグを組んで、海外に発信していくことが急務。お互いの魅力を生かしたイノベーション的なプロダクトを生み出せば、日本の強さみたいなものを改めて発揮できるんじゃないかと感じています」

つまり、こうした企業コラボが、海外市場開拓の武器になり得ると耕太郎氏は考えている。当初は国内向けであっても、新商品開発の目線は常に海の向こうにあるのだ。

海外でのテストマーケティングを経て手応えをつかんだ田中社長はアクセルを踏む

もう一つのコラボレーション、顧客・ユーザーとのコミュニティも、海外展開を拡大していくうえで重要になってくる。

着実に成長する「タマリバ」

タマチャンショップの“ファン”が交流を深めるためのオンラインコミュニティー「タマリバ」。約1年前の2023年2月に掲載した記事で、耕太郎氏はこう語っていた。

「海外展開を考えたときに、お客さまやファンも巻き込んで、一緒になって企画を立てたり、プロダクトやカルチャーを作ったりするほうが、魅力が増すと思います。なによりも楽しんでもらえると思うんですよね」

「コミュニティの会員数が1万人になってくると米Apple(アップル)にも負けないんじゃないかなと。今後はきっと海外企業がライバルになります。海外企業に負けないためには、1万人くらいのアイデアや発信力が不可欠だと思っています」

当時、約1500人だった会員数は2024年1月時点で約4200人まで急増。耕太郎氏がマイルストーンとする1万人へ着実に近づき、やりたかったことが徐々に具現化しつつある。

もともと、タマリバではタマチャンショップの商品を使ったアレンジやレシピの紹介が活発になされており、前編で紹介したようにタマフェスではユーザー考案のアレンジレシピが実際に提供された。商品開発自体への参画も進んでいる。

2022年から、リリース前の試作品をタマリバの会員に配布し、その反応を見て改善したり、最終的に売り出す商品を決めたりといったテストマーケティングに活用。タマリバでの声をもとにした新商品も投入しつつある。

2023年11月には、スマートフォン向けアプリもリリース。プッシュ通知機能により、ユーザー同士の交流がより活性化している

例えば、女性向けプロテインの「タンパクオトメ」。タマチャンショップの名を全国に知らしめるきっかけとなった主力商品だが、タマリバで「タンパク質を摂取したいけれど動物性は避けたい」といった声がベジタリアンやビーガン志向の女性からあがっていた。

そこで、新たに大豆やえんどう豆など植物性タンパク質のみを配合した「ソイシリーズ」を開発。2023年9月に発売したところ、人気を博した。さらに2024年、「たまねぎスープ」「オサカーナ」「しあわせナッツ」といった人気商品群に、タマリバの声を反映した新ラインナップを次々と追加していく計画だという。

タマリバ会員が事業に参画し、数千人、数万人の“社員”のように貢献してくれる――。そんな構想へ実際に近づいていますね、と聞くと、耕太郎氏はこう話した。

「本当に、そうなんですよね。なにか困ったり、迷ったりした時、『ちょっと、タマリバで相談してみようかな』っていうふうに自然となってきている自分がいます(笑)。2024年はさらに加速して、商品開発のアイデアだけでなく、パッケージのデザインやネーミングなんかも含めて、皆さんに関わっていただけたらと考えています」

海外戦略のエース候補

日本の食材の良さを生かしたヒット商品がタマリバから生まれれば、海外に売り込めるかもしれない。あるいは、海外在住や海外市場に詳しいタマリバ会員から、いろいろなヒントやノウハウを得られる可能性もある。いずれにせよ、会員数が増え活性化するほど、タマリバは海外展開への大きな武器にもなり得るというわけだ。

耕太郎氏が海外開拓に向けて仕込んでいる武器は、これにとどまらない。

2023年11月から、ドイツへ研修に出向いている“関係者”がいる。都城出身で、宮崎大学4年生の杉村拓志さんだ。

「卒業したらタマチャンショップに勤めたい」と言う彼は、もともとタマチャンショップのファン。都城本店にインターンシップで来たのち、アルバイトとして勤めていたが、卒業前に海外留学したいという希望があり、すでに英国での語学留学を決めていた。

その彼を耕太郎氏が口説き、ドイツ行きへと変更してもらった。ドイツには、タマチャンショップの欧州進出をサポートしてくれているパートナーの日本人、大矢健治氏がいる。大矢氏は30年、欧州で日本食レストランの経営や日本食材の輸出入を手掛けている。

「大矢さんの“弟子”として1年間、働きながら、語学も身につけてみないか。渡航費などのサポートもする。そして、戻って卒業したら、タマチャンショップの海外戦略のエースになってほしい」――。

この耕太郎氏の熱い誘いに、杉村さんは英国行きをキャンセルして乗った。タマチャンショップのファンでやる気もあり、欧州での実務も短期ながら経験済みの有望な新入社員候補。海外展開を考える企業の新卒採用担当者からすれば、垂涎の的だろう。

有望な社員候補の杉村拓志さん、宮崎大学4年生。耕太郎氏に口説かれドイツで研修中

海外売り上げ比率を5割以上に

前回の取材時、耕太郎氏は、「5%程度の海外売り上げ比率を5年以内に3割にもっていき、ゆくゆくは5割に伸ばしたい」と意気込んでいた。その考えは変わっていないかと聞くと、「もう、5割以上にしなければと思っています」としたうえで、こうも話した。

「正直言って、売り上げ拡大はあんまり考えていなくて。どちらかというと『食のワンダーランド』という文化も含め、自分たちのビジョンや世界観を広げていくほうに重きを置いています。それをどこまで広げられるんだろう、というほうに楽しさや興味があるんです」

前回の取材から約1年。耕太郎氏は着実にアップデートを続け、やりたいと語っていたことを形にしつつあった。それは、自身の力ではなく、“アベンジャーズ”のおかげだと謙遜する。

「うちの会社は、僕がポンコツなので、スタッフがめちゃくちゃ頑張るというスタイル。うちのスタッフは本当に真剣に取り組んでくれますし、無理だと思えることでも乗り越えてくれて、“アベンジャーズ”(スーパーヒーロー映画のチーム名)なんじゃないかなと思います。チーム力に感謝しかありません」

タマフェスでは、ふだんネットの向こうの顧客を相手にする従業員がリアルでの接客も経験した

一方で、地元・都城への思いも忘れない。

「東京や世界に出ることよりも、自分たちが都城という地方にいながらでも世界で活躍できる、発信していけることを証明しないといけない、と僕は思っています。やっぱり、地域が栄えてこそ国が栄えると思っているので。なおかつ、自分たちの行動や挑戦を、ほかの地方、地域の皆さんに見ていただいて、刺激や参考にしてもらえたら嬉しい」

耕太郎氏にとっては、「都城から世界へ出ていく」ことが重要なのだ。軸はぶれていない。都城で開催した初のリアルイベントは、その再確認の意味もあった。

地元とともに。他社とともに。そして、ファンとともに。タマチャンショップの成功ストーリーはまだ序章に過ぎない。

タマチャンショップ 都城本店
住所 宮崎県都城市平江町47-10
電話番号 090-3857-6554
営業時間 10:00〜18:30
定休日 毎月第3木曜、年末年始
アクセス 宮崎自動車道都城ICから車で約20分
SNS

営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

  • 筆者
  • 筆者の新着記事
井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

  1. 周産期医療で都城が先⾏する理由 中山産婦人科医院・中山院長の理解

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