深く多面的に、考える。

メディアリテラシー #11

「闇バイト」の怖さと対策 【特別編】SNSに潜む新たなリスク①

  • SNS上にはびこる「闇バイト」の募集。甘言が絶えない。
  • 足を踏み入れれば最後、本人にも家族にも苦しみが待つ。
  • 犯罪や犯罪組織に関わらないために留意すべきこととは。

抜けたいのに抜けられない

指示役
指示役
家族の住所知ってるけど大丈夫?
家族に言うのは困ります
家族に言わずに仕事をやめさせてください
男性A
男性A
指示役
指示役
やめたら家族に言うぞ!
警察に逮捕されることになるけど大丈夫?
なんとかやめさせてください
男性A
男性A

 

2025(令和7)年1月、「闇バイト」に応募して特殊詐欺事件に関与したとして、大阪府警は都内に住む無職の男(23歳)を窃盗容疑で逮捕した。冒頭は、容疑者の供述をもとに、指示役とのメッセージアプリでのやりとりを再現したものだ。

脅されて抜けられなかった男は、大阪府吹田市に住む80代の男性からキャッシュカードをだまし取る、いわゆる「受け子」を命じられ、5枚を盗んだ。防犯カメラの映像などから関与が発覚し、あっけなく逮捕された。

犯罪に関与あるいは加担してしまう闇バイト。その多くのきっかけとなっているのが「X(旧Twitter)」や「Instagram」といったSNSである。

「メディアリテラシー」とは少々、ずれた話にはなるが、知っておくべき「本質」はこれまで論じてきたことと変わらない。

「SNSに潜む新たなリスク」として、まずは闇バイトの実態や怖さを理解したい。そのうえで、どう立ち向かっていくべきかを考えていく。

増える犯罪と闇バイト

法務省は2024年12月、「2024(令和6)年版 犯罪白書」を公表。2023年の検挙者数は前年比8.2%増の18万3269人となり、19年ぶりに増加に転じたことがわかった。

「新型コロナウイルス感染症が感染症法上の5類感染症に移行され、人の移動がより活発化したことがその(刑法犯認知件数の)増加理由の一つとして考えられる」。犯罪白書はこう分析する一方、闇バイトについても初めて触れ、「大きな社会問題となっている」と警鐘を鳴らした。

2024(令和6)年版 警察白書」では、その実態がより詳しく分析されている。

2023年の「特殊詐欺」被害額は452億円で、7年ぶりに400億円を超えた。同容疑で23年に逮捕・書類送検した2455人中、首謀者やグループリーダーなど「中枢容疑者」は全体の2%にあたる49人に過ぎない。

ほとんどは、キャッシュカードなど受け取る「受け子」や、そのキャッシュカードで現金を引き出す「出し子」といった末端の実行役。SNSなどでの闇バイト募集で集められた“使い捨て”の要員である。

被疑者が「受け子」になった経緯

注:2023年に検挙した被疑者を対象に調査。構成比はいずれも四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはならない
出所:警察庁「2024(令和6)年版 警察白書

実行役2373人の応募経緯を調べたところ、最も多かったのが「SNS」で41.8%。3.5%の「求人サイト」、2.4%の「ネット掲示板」と合わせると半数近くがインターネットで勧誘されていた。「知人からの紹介」が約32.2%と多くを占めるが、ここにはネット経由で知り合った知人も含まれる。ネットは闇バイトの大きな入口なのだ。

「バイト」という軽い文言に踊らされてはいけない。背後には、「匿名・流動型犯罪グループ(匿流=トクリュウ)」と呼ばれている犯罪組織が跋扈(ばっこ)しており、関わったら最後、地獄の苦しみが待っている。

トクリュウを知らしめた「ルフィ」

最新の警察白書は、「匿名・流動型犯罪グループに対する警察の取組」という特集を組んだ。以下は、その冒頭部分の抜粋である。

近年、準暴力団に加えて、新たな特徴を有する犯罪集団が台頭し、治安対策上の脅威となっている。それが、「匿名・流動型犯罪グループ」である。警察が従来対峙(じ)してきた暴力団は、構成員同士が擬制的な血縁関係によって結び付き、多くの場合、「組長」の統制の下に、地位の上下によって階層的に構成されており、組織の威力を背景に又は威力を利用して資金獲得活動を行っていた。

これに対し、匿名・流動型犯罪グループは、各種犯罪により得た収益を吸い上げる中核部分は匿名化されており、また、SNSや求人サイトを通じるなどして緩やかに結び付いたメンバー同士が役割を細分化させ、その都度、末端の実行犯を言わば「使い捨て」にするなど、メンバーを入れ替えながら多様な資金獲得活動を行うため、組織の把握やメンバーの特定が容易ではないという特徴を有している。

この“トクリュウ”の名を知らしめ、警察を本気にさせたのが「ルフィ」「キム」などと名乗る指示役グループだ。同グループの4人は2023年2月、フィリピンから強制送還され、特殊詐欺事件に絡む窃盗の疑いで逮捕され、世間の耳目を集めた。

ルフィら指示役グループは、フィリピンの入管施設から闇バイトを募集。何件もの特殊詐欺を企て、闇バイトで集めた実行役に指示し、受け子や出し子をやらせた。その被害額は60億円を超えるとされている。

さらに同グループの犯罪は強盗へとエスカレート。その被害は少なくとも2022年5月から2023年1月までの短期間で、全国8箇所におよんだ。中でも2023年1月に東京都狛江市で起きた事件は、最も残忍な事件として知られている。

実行役の男らは、宅配業者を装い玄関から高齢者の自宅へ侵入。90代女性の両手を結束バンドで縛り、暴行を加え、約60万円相当の腕時計などを盗んだ。強盗の情報を得た警察官が駆けつけるも、女性は死亡してしまっていた。

警察は翌2月、リーダーを含む実行役の男ら5人を強盗殺人容疑等で逮捕。捜査の結果、実行役の男らはSNSでの闇バイト募集に応募して犯行におよんだことや、秘匿性の高いロシア製メッセージアプリ「テレグラム」を通じてルフィら指示役グループから指示を受けていたことなどが判明し、ルフィら4人の逮捕にもつながった。

2024年10月、この狛江市での事件で実行役リーダーを務めていた土木作業員の男(23歳)の裁判員裁判が東京地裁立川支部で始まり、翌11月、男に無期懲役刑が言い渡された。この裁判で、闇バイトがいかに恐ろしい世界か、浮き彫りとなった。

金欲しさと歪んだ責任感

公判での論告や陳述によると、実行役リーダーの男と指示役グループの“出会い”は2022年11月。当時、石川県内で土木作業員として働く一方、競艇にのめり込み、消費者金融やヤミ金から借金を重ねていた男は、躊躇なく「Twitter(現X)」で「闇バイト」「高収入」などと検索し、キムやルフィらとつながった。

テレグラムに誘導され、ほどなく最初の“案件”が持ちかけられた。神奈川県秦野市の住宅へ侵入して強盗する、いわゆる「たたき」の指示。腕時計など約878万円相当を盗んだ。事前の「自宅に1000万円」という情報に満たないとし、報酬をもらえなかったが、男は密かに腕時計2点を隠し持ち、約170万円で売却。奈落へ落ちていく。

翌12月、東京都中野区の住宅を襲う案件に6人の実行役の一人として参加した。キムから「あなたがリーダー」と言われ、実社会で認められたことのない男に歪んだ責任感とプライドが生まれた。住人の顔を殴り、クローゼットにあった約3200万円を奪取。実行役の一人が駆けつけた警察官に捕まったが、リーダーの男は逃げどおし、約150万円の報酬を得る。「いずれ捕まるなら」とさらに犯行を重ねた。

同月、今度は広島市時計店兼住宅を襲う案件に誘われ、新幹線に乗って参加した。中野の犯行で激しい抵抗にあった男は、自ら「モンキーレンチ」の持参を指示役に提案。指示役も、テレグラムの通話機能で実行役全員に「暴行しないと報酬はあげない」「リーダーがモンキーレンチでじゃんじゃんやってくれます」と煽った。

最終的に男は時計店店主の息子の後頭部をモンキーレンチで激しく殴打し、店主の息子は一時、意識不明に。常時介護が必要な後遺症が残った。

「やばい、血が止まってなかった」。直後、男はキムに伝えると、「おまえらが頼りないからだ」と叱責された。身を隠し、闇社会で生きていくしかないと覚悟した男は、キムのような指示役に転じたいと考え、その資金稼ぎのために、さらなる罪を重ねる。

年が明けた2023年1月、千葉県大網白里市のリサイクルショップを襲った。男性店長の顔を殴り、鼻骨などを折るも、金品を奪うことができず逃走。無報酬の結果に終わったため、すぐに新しい案件への参加を決めた。それが死者を出した狛江市の事件だった。

なお迫る危機、拡大する勢力

トクリュウであるキムやルフィらの指示役グループが引き起こした強盗事件を特異な例と捉えてはいけない。

最新の警察白書(24年版)は以下のようなデータを紹介している。

令和6年4月から5月までの間における匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる資金獲得犯罪について、主な資金獲得犯罪の検挙人員508人を罪種別にみると、詐欺が289人、強盗が34人、窃盗が103人となっており、匿名・流動型犯罪グループが詐欺を主な資金源としている状況がうかがわれる。

また、令和6年4月から5月までの間における同グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪の検挙人員のうち、SNSでの犯罪実行者募集情報に応募する形で犯行に関与した者は155人と、全体の30.5%を占めている。

ルフィらの指示役グループも、大規模な特殊詐欺に加担していた。「ただ、ブツを受け取るだけ」「ただ、ATMから引き出すだけ」という甘言で誘った実行役を脅し、あるいは報酬を餌に釣り、より重大な犯罪へと巻き込んでいくのはトクリュウの常套手段である。

覚醒剤の密売、繁華街での“みかじめ料”の徴収、企業などへの恐喝、公的給付金制度を悪用した詐欺、違法な貸金業や風俗店経営……。トクリュウはほかにも、あらゆる悪に手を染めている。姿形を変えた暴力団組織と捉えたほうがいい。

実際に、ルフィらの指示役グループは暴力団や準暴力団との関係もあったとされている。そうしたトクリュウの組織は国内外にほかにも存在し、今もなお活動を続けている。ルフィ一味が逮捕されたからといって脅威が去ったわけではない。

警察庁は、トクリュウやその規模は「捉えきれない」としているが、最新の警察白書では、情報官や特殊詐欺事件の捜査責任者から得られた「現場の声」として、以下のような認識を示している。

匿名・流動型犯罪グループの勢力については、「全体的に勢力を拡大させている」ないし「部分的に勢力を拡大させている」との認識が大勢を占め、この傾向は、大都市圏のみならず全国的に共通である。

もちろん、警察も本腰を入れてトクリュウの実態解明や摘発に心血を注いでいるが、逮捕者の多くは闇バイトで集められた使い捨ての実行役。指示役は匿名性の高いネットの向こうに身を隠し、言葉巧みに新たな実行役をかき集めている。

国全体で啓発も進んでいるものの、募集は雨後の筍のごとく湧いているのが実情だ。

進む啓発、SNS各社も対策

全国の警察組織は2020年半ば頃からSNSのパトロールを強化し、闇バイトの実行役を募集する投稿に対し警告しているが、その数は減っていない。例えば2024年に北海道警察本部が警告した数は、2023年の約1.5倍となる1306件だった。

そうした投稿に若者が踊らされないよう、総務省や警察庁、東京都などあらゆる行政組織が啓発活動を強化している。

東京都が設置している「特殊詐欺加害防止 特設サイト」では若者にわかりやすく闇バイトの怖さを伝え続けている

東京都は2022年9月から「特殊詐欺加害防止 特設サイト」を設置し、闇バイトに応募しないよう、継続的に呼びかけや啓発を続けている。

「10代のみなさんへ それ、『バイト』ではなく『犯罪』です!!」――。2024年12月、警察庁や文部科学省などはこんなキャッチコピーのチラシを製作し、配布やネット上での掲示を始めた。SNS事業者側での対策も始まっている。

総務省は2024年12月、業界団体を通じて、Xに加え、「Facebook」や「Instagram」を運営するメタ、LINEヤフー、グーグル、TikTokの5社に闇バイト問題への対応を要請。Xでは、「闇バイト」「ホワイト案件」などと検索すると、「求人情報を探しているあなた、気をつけて」といった文言と警察庁へのリンクが最上位に表示されるようになった。

2025年1月末からは、警察庁の取り組みとして、各種SNS・ネットメディア上で「『闇バイト』は犯罪です」と呼びかけるバナー広告の掲載も開始している。

ただし、もはや堂々と「闇バイト」と銘打って募集するトクリュウは少数。“ブラック”な仕事ではない「ホワイト案件」という文言も、闇バイトの偽装文句という認知が広がり、廃れてきた。ひと目で闇バイトとわからないよう巧妙化しつつあるから厄介である。

巧妙化する闇バイト募集

「深夜の散歩が好きな方必見!夜道で猫を探すバイト」――。2024年11月、短期アルバイトを斡旋する大手求人アプリ上に掲載された求人募集が「闇バイト募集ではないか」とSNS上で話題となった。

深夜1時30分から4時30分までの3時間で「7500円」の報酬。都内の指定された道を歩き、「猫がいたところを地図上で印をつけるだけです!」という業務内容。「情報漏洩防止の為、携帯電話や荷物を預かります」といった注意書きもあったことから、「猫は防犯カメラや高級車を指す隠語じゃないか」という憶測を呼んだ。

求人アプリの運営会社は「不適切である疑いのある求人」と判断し、求人を差し止めた。これが闇バイト募集であったかどうかは明らかになっていないが、そういった「一般の求人」に紛れた闇バイトの「偽装募集」が増えていると指摘されている。

先に紹介した東京都の特設サイトは、大手バイトアプリ「バイトル」を運営するディップへの取材協力をもとに、以下のような記事を掲載している。

闇バイトが登場した当初は、一目で「怪しい求人」とわかるような募集内容が多かったですが、最近ではごく普通の求人広告を装う傾向が強くなっています。

たとえば、「架け子」の募集なら、「コールセンターでの仕事です。スクリプトどおりに話すだけです」といったように、仕事内容を具体的に示して、応募者が不安を抱かないよう工夫する動きがみられるようになりました。

また、バイトの報酬にも変化が。本サイトでは「高額報酬、高収入が危ない」と警告してきましたが、その裏をかくように受け子の仕事などを日給1万円程度で募集するケースも出てきているのです。高すぎないバイト代に受け子とは気づかずに応募して犯罪に加担し、逮捕に至った例もあります。

一方、応募者の不安を取り去るために、さまざまな「権威づけ」をする傾向も見られます。例えば「上場企業の仕事です」「行政の許可を得ている作業です」など。真っ赤なウソを並べ立てているだけですが、信用して応募してしまう人も多くいるようです。

SNSを通じた勧誘も見抜きづらくなっている。最近では、騙し取った現金などの受け渡し場所として、宅配ボックスが利用されている。「宅配ボックスから荷物を回収して運ぶ仕事です」などと言われ、犯罪意識がないまま加担してしまうケースも多いという。

若年層やシニア層へも広がる

巧みに偽装する闇バイト案件。そのターゲットは判断能力が乏しい高校生や老人などにも広がっており、事態をさらに深刻化させている。

闇バイト要員確保の魔の手は10代にも及んでいる(写真はイメージ)

2024年7〜9月、埼玉県居住の15〜17歳の女子高校生4人が、複数の特殊詐欺事件に関与した疑いで埼玉県警に逮捕された。SNSで時給の高いアルバイトを探していた16歳の女子高校生が「現金を運ぶだけの仕事」と勧誘され、犯罪ではないと判断し、応募。その後、友人3人を誘い、特殊詐欺事件の受け子や出し子として関わった。

埼玉県警は2024年12月にも、千葉県柏市在住の15歳の男子中学生を詐欺未遂の疑いで逮捕している。遊ぶ金欲しさに安易に闇バイトへ手を出してしまう未成年が増える一方、70〜80代の高齢者が加担する事件も増えている。

トクリュウからすれば、相次ぐ物価上昇などで生活に困窮する人は格好のターゲット。これまで実行役の主体だった20代、30代を次々と使い潰した今、指示を忠実に守り、騙す対象からも疑われにくいシニア層の利用価値が上がっているという。

しかし、理由がどうであれ、闇バイトは犯罪。そして「闇バイトは終わりの始まり」。ルフィらの実行役として逮捕された男はそう言った。

SNSを主な“草刈り場”とし、あらゆる犯罪に手を染める反社会的勢力として拡大しているトクリュウ。関わったら最後、一度、足を踏み入れれば、取り返しのつかないことになる。では、どうすれば関わらずに済むのか。

すべてを疑い、相談する

まずは、この「メディアリテラシー」のテーマで繰り返し、重要な思考と訴えてきた「クリティカルシンキング(批判的思考)」が、闇バイト対策でも基本になるだろう。

鵜呑みにせず、立ち止まって、多面的に考える」という、クリティカルシンキングの姿勢や思考が自分の身を守る。

そもそも、まともな仕事に「ホワイト案件」と銘打つ会社などない。「グレー」や「ホワイト」といった文言が入る求人は問答無用で避けるべきとして、「高額報酬」「リスクなし」「楽に稼げる」といった“甘言”にも、疑いの目を向けるべきだ。

政府広報が「一見おいしいうたい文句はウソで、本当は犯罪実行役で都合の良い『捨て駒』の募集です」と警鐘を鳴らしているように、甘い蜜には罠がある。

具体的な中身を明示せず「運ぶだけの簡単なお仕事です」といった文言にも注意だ。中身を言えない理由がある。「詳細はDMで」などと、電話や電子メールを避ける募集者もかなり怪しい。「続きはテレグラムかシグナルで」などと、秘匿性の高いメッセージアプリでのやり取りを要求されたら、それはほぼブラック、闇バイトだと思ったほうがいい。

それでも「報酬がそこまで高額ではなかった」「相手が非常に丁寧だった」といった理由で、罠にかかってしまうこともある。あるいは、目先のお金欲しさに、思考停止に陥って飛びついてしまったら……。

いつでもいい。「これは闇バイトかもしれない」と気づいたその瞬間に、「#9110」に電話をかけ、一刻も早く抜け出すべきだ。#9110は、警察に相談したいことがある人向けの相談専用電話である。

警察に相談すれば保護してもらえる

昨秋以降、警察庁は闇バイトに応募してしまった人や家族を保護する取り組みを強化。「少しでも不安を感じたら#9110に電話を!」などと周知を重ねる一方、相談を受けた本人や家族の避難、パトロールの強化といった対応をするよう全国の警察に指示した。

すでに個人情報を渡してしまっており、「実家を襲うぞ」「家族に危険がおよぶ」などと脅されても、意に介することはない。警察に相談すれば、ちゃんと保護してくれる。警察庁はあらゆる場所で「相談を受けたあなたやあなたの家族を確実に保護します」と明言しており、2024年10月には防犯対策部門の幹部もわざわざ動画でそう言っている

実際、闇バイトに応募し、指示役グループに脅されるなどした人を保護した事例は2024年10月中旬の強化から11月末までの1カ月半、全国で125件あった。うち7割が10〜20代の若年層で、30代、40代、50代が1割ずつ続く。

トクリュウも、わざわざ警察に目をつけられた場所を襲うようなリスクをとらないだろう。引き止める「脅し」であって、失敗すればまた次の「カモ」を探すだけだ。

家族に危害がおよぶと脅され犯行に手を染めても、結局、家族は苦しむことになる。

闇バイトに応募し、特殊詐欺事件に関わったとして逮捕された30代の男の父親が、NHKの取材に以下のように答えている。

「ご近所さんに知られたらどうしようと、ビクビクしながら生活している状態です。妻とも、もうここに住んでいられないという話をしています」

この父親は息子とは疎遠で7年ほど連絡をとっておらず、逮捕は「テレビのニュースを見て知った」。自身の対策ではないが、あなたの息子や娘が闇バイトに加担していないか注視することも、家族全体の幸せを確保することにつながり、あなたの身を守るうえでも重要と言える。

最後に、狛江市の事件で高齢女性を死に至らしめた実行役リーダーの男の「言葉」を紹介したい。

「全ての方々が苦しむから駄目なんです」

リーダーの男は、無期懲役刑を言い渡されたのち、「被害者家族の近くで服役したい」という理由で控訴。2025年1月、「“闇バイトに手を出さないでほしい”という私の切な願いを記述したもの」とする手記を、拘置所で取材を続けるライターに託した。

同手記で男は、「闇バイトが駄目な理由」としてこう綴っている。

絶対にパクられますよ。(中略)環境や居心地が良くても世の中に楽な仕事なんてありません。パクられた後の事も貴方の楽な仕事には含まれていますか? 信用を失い、不自由な生活を過ごし、再犯率が高くなり再び犯罪に手を染める。良い事は1つもありませんが貴方の楽な仕事とは本当にこんな仕事をする事ですか?(中略)貴方が不幸になるから(闇バイトは)駄目なんです。

道徳心が欠如していた私が申し上げる事にためらいを感じますが、“幸福は他人の犠牲では得られません”。これは身を持って痛感しています。(中略)貴方が安易に手を出そうとしている犯罪は必ず人を傷付け、笑い話に出来ない苦しみを与えます。傷付く相手ですが貴方の周りにいる方、全てが被害者となります。全ての方を不幸にすると知っても貴方は幸せを感じられますか?結論は貴方のご家族、周りの方々、そして被害者の方々、全ての方々が苦しむから(闇バイトは)駄目なんです。(括弧書き以外原文ママ、以下同)

男は便箋7枚にわたる手記で、「闇バイト」「ホワイト案件」などと調べている人に向け、「どうしたら良いか説明します」とし、こう続けた。

周りを頼る。これが答えです。それ以外に貴方の状況を変える方法はないと思います。(中略)自分の欲を自分で抑えられない人はより周りの方に頼るしかありません。恥ずかしいという気持ちもプライドが許さない事も私には理解出来ますが無理して背伸びし続けるなんて貴方には無理です。これまで積み上げてきた貴方の姿が本来の姿ではないなら今から素直になれば良いと私は思います。(中略)貴方の心が変われば貴方の人生が変わります。結論は頼るべき相手に素直に頼るです。

どんな手記を書こうが、反省の意を見せようが、人を殺めた男に同情の余地などない。ただ、公判で「極刑を望みます」「犯行は悪質で、残虐。責任を果たすのは死刑がふさわしい」などと語った男は、情状酌量や減刑のために書いたわけではなさそうだ。

最後にこう書いて、手記は終わっている。

私のように死ぬ程、後悔したいですか? 繰り返しとなり恐縮ですが末路を知っても闇バイトに手を出しますか?皆様の人生ですので皆様が決める事です。ただどんな選択をされても最後は自分の責任です。世の中には果たせない責任もある事は事実としてお伝えしておきます。現在、私に出来る事を模索し文字を綴らせていただいておりますがこんな事で責任は果たせません。皆様にはそんな思いも抱いてほしくないと切に願います。

SNSに潜む闇バイトというリスクは、これほどまでに苦しく重たい。許されない犯罪者の言葉であったとしても、知っておいて損はない。

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