深く多面的に、考える。

里山に追い風 #04

中山間地域の挑戦者① 星の駅たかざき・大内康勢氏(高崎地区)

  • 「地域おこし協力隊」の参加を機に、都城市へ移住。
  • 仲間と起業し、「高崎町農産加工センター」を事業承継
  • 全国百貨店の催事に参加するなど“外貨”獲得に乗り出す。

楽天のイベントで「都城メンチ」をPR

2023(令和5)年8月2日、楽天グループ最大級のイベント「Rakuten Optimism 2023」が4年ぶりにリアルで開催されるとあって、会場となった横浜みなとみらい地区の展示場「パシフィコ横浜」は熱気に包まれていた。

楽天と言えば、「Eコマース(EC=電子商取引)」。地方自治体のECと言えば、ふるさと納税。初日のカンファレンス(講演会)には、2022年度、寄附額が4度目の日本一に輝いた都城市の池田宜永(たかひさ)市長も登壇した。

池田宜永市長も登壇した「Rakuten Optimism 2023」のカンファレンス(講演会)の様子

別会場では、数百のブースが軒を連ねる物販・飲食コーナーも。広大な会場の一角で、大きく「都城メンチ」と看板を掲げたブースが目立っていた。豚肉ミンチのメンチが3種類に、牛肉ミンチのメンチが1種類。いずれも都城産の肉を使ったもので、同じく都城に本拠を構える霧島酒造のクラフトビールも置かれている。

楽天のイベントで「都城メンチ」のブースを切り盛りしていた大内康勢さん

会期中の5日間、この都城メンチのブースを切り盛りしていたのは、都城市の高崎地区(旧・高崎町)で地域活性化に勤しむ大内康勢(36歳)さん。今回の主人公だ。

「都城市さんからの委託で私どもの会社がブースを運営することになりました。都城メンチは、池田市長も柱に育てたいとかなり推してくれていまして、“高崎産”のお肉を使ったメンチも持ってきています」

接客で忙しい最中、大内さんはこう話してくれた。

大内さんは普段、人口減と高齢化に喘ぐ「中山間地域など8地区(以降、「中山間地域等」と表現)」の一つ、高崎地区で、道の駅ならぬ「星の駅たかざき」を運営し、地元で採れた新鮮な農産物や手づくりの加工食品などを販売している。

「星の駅 たかざき(旧高崎町農産加工センター)」。新鮮な農畜産物や加工品などが集まる

「高崎地区」も、都城市の中山間地域等振興計画の対象

この、星の駅たかざきをベースに高崎地区の「食」をアピール。今は「都城メンチ」の普及拡大にも努めている。

ただし、大内さんは旧・高崎町の出身でも、都城市の出身でもない。「地域おこし協力隊」として都城市に赴任したことが、都城市や高崎地区との最初の「縁」だった。

地域おこし協力隊で赴任

1988(昭和63)年、岡山県岡山市で生まれた大内さんは高校まで岡山で過ごしたのち、大学進学で上京。そのまま東京の会社に就職し、不動産関係の仕事に携わった。

もともと、食べることが大好きだった大内さんは、2011年の東日本大震災を機に人生を見つめ直す。そして、30歳を前に食が豊かな地方へ移住したいという気持ちが湧いた。

いろいろと調べ、宮崎県都城市が食に携わる協力隊を募集していることを知る。都城は母の故郷。幼い頃から母方の実家に訪れており、馴染みもある。なにより国内トップクラスの「肉」のまち。都城行きを決めた大内さんは協力隊員として採用され、2017年9月から3年の任期で赴任した。

最初に携わったのは「高崎町農産加工センター」の支援業務だった。

2017年、「高崎町農産加工センター」の支援業務に携わった当時の店舗スタッフ

同センターは、旧・高崎町役場が主導して1994年にできた農産物や加工品の直売所。地域の“おかあさん”たちが、味噌や漬物などの手づくり品を作り、それを町役場が作った施設で野菜などとともに販売していた。

都城市と旧・高崎町が合併した2006年には組織化。おかあさんたちは事業協同組合の組合員となり、地元住民を店舗スタッフとして雇用した。オリジナルのヒット商品も生まれていった。最たるものが「にんじんドレッシング」である。

星の駅たかざきの人気商品「にんじんドレッシング」

地元で採れた人参をすりおろし、たまねぎやにんにく、九州醤油などを調合した万能調味料。野菜はもちろん、肉にも合う。高崎町農産加工センターで一番の売れ筋となった。

だが、なかなか続くヒット商品が生まれない。30人超いた組合員のおかあさんたちも歳をとり、11人となった。行く末が心配されていたところへ、大内さんが協力隊として加勢したというわけだ。

店舗やバックヤードの整理から、財務、人材募集、イベント企画まで、なんでもやった。新商品の開発にも注力。協力隊として赴任した3年で15品ほどの開発に携わった。

その一つ「粉末椎茸」は、高崎町の名産である原木しいたけを粉末にしたもの。「軸」の部分をとって廃棄していたのを目にした大内さんが、「栄養価があるのにもったいない」と発案し、軸を乾燥させて開発したところ、売れ筋となった。

ほかにも、「みやざき豚ナンコツ大根」や都城市の在来大豆を使用した「みやだいずかりんとう」など、地元のスタッフだけでは気づかなかった価値や魅力をカタチにしていった大内さん。しかし、「人材」の課題だけは、赴任中に解決できなかった。

都城産「おさつポーク」で郷土に伝わる秘伝レシピを再現した缶詰「みやざき豚ナンコツ大根」

若返った「星の駅たかざき」

任期最終年となる2020年時点で、スタッフの平均年齢は75歳。3年で、若手人材の獲得までには至らず、後ろ髪を引かれる思いもあった。

2005(平成17)年、1万726人だった高崎地区の人口は、わずか10年で約2000人も減っていた。まさに、中山間地域が窮する人口減と高齢化を目の当たりにした大内さん。このままでは、事業協同組合の解散もあり得る。

「ここを継いでもらえないか」。事業協同組合の坂元順子 元理事長からそう言われ、都城に、高崎に残ることを決めた。

まずは、宮崎県内の他地域で同時期に地域おこし協力隊として赴任していた仲間と2019年12月に起業。社名は「ROPES(ロープス)」と名づけた。

「当時、売られていた加工品は本当に美味しくて。作られた方々の思いなども地域おこし協力隊として取材させてもらったりして、思い入れが強くなって。でも、担い手がいないわけですよ。これをなくすわけにはいかないな、と思ったのが起業したきっかけです」

「社名には、伝統と今を繋ぎ、地域を束ね、地域と都市と世界を結び、よきものを受け継ぎ、そして次世代に繋げる。私たちは変幻自在に機能する万能道具『ロープ』のような存在になりたい――。そんな思いを込めました」

ROPESは、高崎町農産加工センターを事業承継。同センターは2020年10月、星の駅たかざきとして生まれ変わった。

「日本一星空の美しい街」 にちなんで名付けられた

星の駅としたのは、環境省による星空観測で10年連続 「日本一星空の美しい街」 として認められたことがある旧・高崎町の魅力を表現したかったからだ。

新生・星の駅の船出を、コロナ禍が襲ったものの、人材の課題から着手。継いだ当時は、「正直なことを言うとかなり不安でした」と話す大内さんだが、地元の主婦層をターゲットに攻めた結果、好転した。

もともといたスタッフにも残ってほしいが、新しい若い人材も必要。比較的、年配のスタッフが引退していった代わりに、20代から50代まで、5人の女性スタッフに入ってもらえた。残ったスタッフと合わせると10人。規模を縮小せず、若返りを果たした。

「私だけのチカラでは、高崎地区を出ていくひとを止めることはできません。でも、出たくはないけれど、働き口がないから働いていない、というひとはいる。星の駅たかざきが、子育て世代の女性の受け皿になれている、と言えるとは思います」

そして、大内さんはコロナ禍にめげず、新商品開発や新規事業の開拓でも攻めた。

「和牛オリンピック」1位をメンチに

冒頭でも紹介したように、都城市は今、肉と焼酎に続いて、「メンチカツ」を推している。転機となったのは2年前の2021年9月、福岡市の博多大丸が運営する老舗百貨店「大丸福岡天神店」での催事出店だ。これを、大内さんのROPESが引き受けた。

「都城市が市として初めて“外”にメンチカツを売りにいこうとなったのですが、地域おこし協力隊のご縁もあって、大丸福岡天神店での出店運営の委託をROPESにしていただいたんです。高崎地区にメンチカツを扱うお肉屋さんがあったので、それと、市内の1店舗、自社、合計3店舗のメンチを持っていきました。」

「都城メンチ」を売り出したい都城市から「博多大丸」の催事出店を任された

これが大盛況。6日で約2200個も売れた。

「この波に乗ろう」。そう考えた大内さんは、星の駅たかざきとしても、オリジナルのメンチ開発に乗り出す。

原料とするミンチ肉はもちろん、高崎産。2021年9月に高崎地区の牛肉ミンチを使った「都城牛メンチ」、翌10月には高崎地区の豚肉ミンチを使った「スウィートメンチ」が完成した。

豚肉のジューシーな甘みが美味しい「スウィートメンチ」

高崎には、「和牛オリンピック」とも称される全国和牛共進会で、内閣総理大臣賞を2017年に受賞した生産者がいる。快挙を達成した「薬師畜産」の希少な和牛のミンチをわけてもらうことに成功した。

希少なだけあって、店舗では数量限定・予約必須の人気商品に。楽天のイベントにも、1日150食限定で持っていったが、飛ぶように売れたという。豚肉のスウィートメンチとともに、星の駅たかざきの新たな顔となった。

これをどう売るか。“オール都城”の顔ぶれの一つとして催事などに参加する傍らで、星の駅単独としてもPRしていった。

福岡三越などで独自出店

「百貨店などと独自に交渉して、星の駅としての催事出店にも注力してきました。直売所で販売して、地域の人々の生活基盤に寄与する。それはもちろん、続けていくんですけれども、高崎のものを外に売って“外貨を稼ぐ”ことも、しっかりやっていきたいと思っていまして」

そう話す大内さんは、独自のルートで百貨店と交渉。神奈川・上大岡駅の「京急百貨店」を始め、福岡市の「福岡三越」や「岩田屋本店」などの催事に計10回以上参加してきた。

星の駅として出向く際は、もともと強かったにんじんドレッシングを中心に、オリジナルのめんつゆで仕立てた「からあげ」、新開発したメンチカツなど、高崎の魅力を最大限、伝えるよう心がけているという。

外貨獲得はこれにとどまらない。都城メンチは、冒頭で紹介した楽天のイベントのように、オール都城としても攻勢を強めている。

2022年、都城市と博多大丸は、観光庁による「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業」を活用し、地域で愛されるメンチカツを「都城メンチ」として展開していくプロジェクトを開始。国の補助金に加え、博多大丸の協力も得て、独自のロゴやイラストを使ったのぼり、横断幕、そして特設サイトなどを制作するなど、都城メンチの拡販プロジェクトが本格化した。

都城メンチプロジェクトの本格化により、2022年12月には特設サイトもオープン

この動きに連動して、2022年12月には、都城市と博多大丸は、「地場産品に関する連携協定」を締結し、都城メンチプロジェクトを対外的に発表した。また、2023年2月には、メンチを提供する市内の生産者直売店や精肉店、飲食店など15事業者による「都城メンチ協議会」も発足。星の駅を運営するROPESも、その1社となった。「道の駅都城(現NiQLL)」や老舗の「観音池ポーク」などの顔ぶれに新参者の星の駅たかざきも交じり、健闘している。

都城メンチは都城市が「寄附額日本一」になったふるさと納税の返礼品にもなっている。

例えば、楽天市場にある「『道の駅』都城NiQLL★都城メンチ 食べ比べセット」。いくつかあるセットメニューの一角に、星の駅たかざきのスウィートメンチがちゃんと食い込んでいる。

注目の返礼品としてもピックアップされている「『道の駅』都城NiQLL★都城メンチ 食べ比べセット

星の駅たかざきの名物も「パカッとふるさと『おさつポーク』豚ナンコツ大根6缶セット」として返礼品となっている

池田市政による「対外的PR戦略」の効果で高まった都城ブランドのチカラを借りて、高崎地区もアピール――。いわば、高崎地区版の対外的PRを独自に行っているわけだ。

高崎地区の“食”が大好き

大内さんはさらなるヒット商品の開発にも余念がない。大内さんは言う。

「ドレッシング、メンチに続くヒット商品を開発して、星の駅たかざきの3本柱をつくりたいと思っているんです。からあげなのか、別の商品なのか、頑張ってはいますが、いまいちヒットには至らず……。ただ、高崎ってお肉がめっちゃ美味しいので、肉に関するヒットを生むのが当面の目標です」

大内さんの夢は、さらに広がる。じつは、ROPESは高崎地区だけではなく、宮崎県高千穂町にある漬物屋「ひやくしようや」の事業承継もしている。

高千穂町で生まれた味を守り続けている「ひやくしようや」の漬物

「宮崎県内に150ほどある小さい加工場のうち3分の1しか後継者が決まっていない、ということを協力隊時代に知りました。南九州ではもっと大きな規模で味が失われていく。高崎地区の活性化や外貨獲得に貢献しつつ、この地域で得たノウハウをほかの地域にも生かし、南九州全域の後継者問題が解決できるようなお手伝いができたら嬉しいです」

大内さんが都城にやってきたのは、わずか6年前。今ではすっかり馴染んだ。「高崎地区まちづくり協議会」にも参加し、地域活性化に取り組む大内さんは、この地に骨を埋める覚悟だ。

なぜ、そこまで出身地でもない都城に入れ込むのだろうか。聞くと、大内さんはこう答えた。

「今の自分がいるのは、事業承継に導いてくれた坂元元理事長と池田市長のおかげです。協力隊として来て、都城市の職員さんにもすごくお世話になりましたし、高崎地区の皆さんも、最初はよそ者扱いでしたが、いったん受け入れてくれたら、すごく温かくて。そんな皆さんへの恩返しをちゃんとしていきたい」

2023年4月にリニューアルを果たした「道の駅 都城NiQLL」のプレオープンイベントにて。ブースを訪れた池田市長と

「あとは、やっぱり、都城市、もっと言えば、高崎地区の“食”が大好きだから(笑)。ずっと食べていきたいし、守っていきたいです」

協力隊として赴任した当時から体重は16kgも増えたという。持ってきたスーツはすべて捨てた。それくらい美味しいものが多いことを身体で体現した大内さん。都城の中山間地域等の一つ、高崎地区には、こんなにも頼もしい人間がいる。

次回に続く)

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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