深く多面的に、考える。

里山に追い風 #01

人口減に窮する中山間地域 新・振興計画の存在意義

新テーマ「里山に追い風」では、都城市が振興計画のなかで「中山間地域等」と指定する8地区を「里山」と総称し、その現状と活性化について考えていきます。導入編となる初回は、都城市の里山の“今”に着目し、現状を把握します。

若宮正子さんを招いて講演会

2023(令和5)年5月、都城市の北部に位置する高城町の「高城生涯学習センター」。ここで、有名人が訪れるイベントが開催されるとあって、170人ほどの参加者で沸き立っていた。

若宮正子さんを迎えた都城市高城町でのシンポジウムの様子

「中山間振興×デジタル化推進シンポジウム まずは、やってみよう」。そう題されたイベントの目玉は、ITエバンジェリストの若宮正子さん(88歳)による講演会。彼女は、81歳からアプリ開発を始め、世界最高齢のプログラマーとして知られている。

「デジタル技術を活用して中山間地域で暮らしていく!」というテーマで、中山間地域だからこそ、スマートフォン(スマホ)やマイナンバーカードといったデジタル関連機器・ツールが必要だと説き、自らを例に「高齢者でもできる、怖くない」ということなどを訴えかけた。

イベント終了後は、「都城市デジタル化推進協議会」によるスマホの操作、デジタル技術の紹介などの相談会も実施。市役所によると「想像以上のお客さんが残って参加してくれた」という。

開催された高城町は、2006(平成18)年の1市4町合併前は旧高城町として単独の自治体だった地域。高城町の中心部を少し離れると田園風景や山が広がるのどかな場所で、国が指定する「過疎地域」でもある。

廃れていた中心市街地の活性化も重要だが、真逆の「中山間地域」の活性化も行政にとっては重要なテーマ。山間部に近い地域に暮らす人々の生活を守るべく、新たな「振興計画」が始動している。

高城町でのイベントも、その振興計画に沿った取り組みの一つだ。

「都城市中山間地域等振興計画」始動

2023年4月、都城市は「都城市中山間地域等振興計画(以降、振興計画)」を策定し、2027(令和9)年度までの5カ年計画の展開を開始した。

都城市に合併した旧高城町、高城地区に広がる田園風景

振興計画の対象地域は、冒頭のイベントが行われた「高城地区」のほかに、「山之口地区」「山田地区」「高崎地区」など8地区で、その面積は都城市全体の約89%にも及ぶ。

これらを対象とした振興計画は従前も実施されてきた。しかし、新・振興計画は毛色が異なる。計画の前文にはこうある。

平成26年3月には、都城市中山間地域等振興計画を策定し、重点方針のもと、様々な課題に対応してきたところです。しかしながら、前回の計画策定から9年が経過した現在、中山間地域政策を展開してきたものの、担い手不足や日常生活環境の衰退など、これらの地域が抱える問題はより厳しさが増している状況となっています。

計画策定を担当した地域振興部 地域振興課 地域振興担当の二見建次主幹は、こう補足する。

「ほかの多くの自治体と同じく、都城市でも中山間地域などでは人口減少と高齢化が極端に進んでいます。商店の閉店や移動手段の減少などで負のスパイラルが重なり、生活基盤が保てるのかという状況。でも、保てさせないといけない。なんとかしないといけない。移住促進に加えて、安心して暮らせる環境づくり、いまいる人が離れずに済む環境整備、なんでもやっていきたいと思っています」

これまで以上に、危機感がにじむ振興計画。いったい、どういう状況なのか。

過疎対策、待ったなし

中山間地域、山間部、里山……。地方のなかでも、人口が少ない自然豊かな地域を、私たちはさまざまな呼び方で表現している。全国津々浦々に共通する課題は、高齢化が進み、若年層が減る「人口減」だ。結果、過疎を引き起こす。

「過疎地域」とは、国の「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法(過疎法)」により指定された地域を指す。同法は、こう定義している。

「人口の著しい減少等に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にある地域」

人口減少率や高齢化比率、若年者比率、地域の財政力などさまざまな要件を満たすと過疎地域として指定され、国による過疎対策や支援を受けられる。

その数は、年々増え続けており、2022(令和4)年4月1日、全国1718自治体の約51.5%にあたる885の市町村が過疎地域であることが判明した。市町村の半数以上が過疎となったのは、過疎対策法が最初に制定された1970年以来、初めてだ。

過疎市町村の人口は約1162万人(令和2年)。全国の人口の約9%に過ぎないが、その面積は日本国土の約6割を占めており、自然資源の確保や水資源のかん養、地球環境化防止など、多面的な機能を果たしていることは言うまでもない。

人が減れば自然環境は荒れ、作物の収穫量も減る。商店が消え、路線バスが廃止されれば、残された高齢者の日常生活も脅かされることになる。

過疎対策、待ったなし――。それは、都城市も例外ではない。

「一部過疎」の都城市

都城市も、過疎地域と見なされた全国885市町村の一つにカウントされている。といっても、市町村全体が過疎である「全部過疎」ではなく、市町村内の一部地域が過疎である「一部過疎」というカテゴリーだ。

過疎法は、基本的には市町村単位で過疎地域を指定しているが、過疎地域市町村の市町村合併があった地域は、合併前の旧市町村単位で過疎かどうかを判定し、該当する場合は一部過疎としてみなす“特例”がある。一部過疎の市町村は全国に158あり、都城市はその一つだ。

旧高崎町は1970(昭和45)年に、旧高城町は2021(令和3年)に、旧山之口町・山田町は2022(令和4)年に、それぞれ過疎地域として指定された。

ただし、過疎地域はあくまでも国の基準に照らした結果の呼称であり、基準から外れた地域であっても、人口減や高齢化に悩まされ、対策を必要とする地域は星の数ほど存在する。

それぞれの自治体が、独自の条例などで基準を設け、過疎地域に認定されていない地域も含めて、対策を講じていく必要があるわけだが、都城市ではそれが、先に紹介した振興計画ということになる。

同計画では、過疎地域に指定された「山之口地区」「高城地区」「山田地区」「高崎地区」のほかに、「宮崎県中山間地域振興条例」で中間・山間農業地域と規定された「西岳地区」「中郷地区」を対策の対象に加えた。

「都城市中山間地域等振興計画」の対象8地区

注:都城市役所の資料を基に作成

さらに、政府主導で行われた「平成の大合併」、都城市で言えば2006(平成18)年の1市4町合併以降も人口減が相対的に厳しい「志和池地区」「庄内地区」も加えた8地区が、振興計画の対象地域となっている(この2地区が中山間地域等の「等」に該当)。

同計画の前文には、こうも書かれている。

高齢化や人口減少で各経済活動の維持、特に、各分野の担い手確保が課題となっています。また、地区によっては、生活環境やコミュニティ機能の維持も課題となっています。

では、ここから具体的に「8地区」のを見ていく。

データで見る中山間地域の“今”

市中心部や“まちなか”に比べて、都城市の中山間地域など8地区(以降、「中山間地域等」と表現)では人口減少と高齢化が極端に進んでいることを示すデータがある。

5年に一度ある国勢調査の直近調査(2020年10月)で、都城市の中山間地域等の人口は5万3494人だった。その2回前の2010年時点では6万1438人。10年間で12.9%の人口減ということになる。

同期間、日本全体では1.5%減。都城市全体では5.3%減で、中山間地域はその2倍以上のスピードで人口を減らしているということになる。その速度は加速傾向にある。

国立社会保障・人口問題研究所が過去の国勢調査をもとに人口動態を推計しているが、それによると、都城市の中山間地域等の人口は、2022年から2027年10月までの7年間で、13.7%減少すると予測されている。

人口が減れば、商業や公的施設の維持が難しくなる。8地区では、小売店、医療機関、学校と、あらゆる施設が減少傾向にある。これに窮しているのが、高齢者。取り残された高齢者の比率は増加する一方である。

都城市を、中山間地域等と、それ以外の市街地を含む地域に2分して、高齢化率(人口に占める65歳以上の比率)を比較したのが、以下のグラフだ。

都城市の高齢化率(人口に占める65歳以上の比率)の推移

注:数値は、各年4月1日時点での住民基本台帳による。「高齢化率」は、人口に占める65歳以上の比率

2013年と2023年の高齢化率の推移を見ると、明らかに中山間地域等のほうが伸び率が高い。それ以外との差は、2013年時点で10.4ポイントだったが、10年後の2023年では12.8ポイントまで開いている。

問題は、現在の高齢化率がすでに40%を超えてしまっていることだ。中山間地域等では、10人に4人が65歳以上であり、8地区のうちの一つ、西岳地区では「61.37%」、じつに10人に6人以上が高齢者という状況になっている。

今、まずは人口減を食い止めるための具体的な“事業”が求められている。どげんかせんといかん。実効性のある事業を増やそう――。 

そのために、2023年から新しい振興計画が動き出した。

覚悟を示した「KPI」

前回の計画と今回の新計画で、なにが違うのか。最も特徴的なのは、人口減少対策への覚悟を具体的な「KPI(評価指標)」で示したことだろう。

新計画では、8地区から成る中山間地域等の人口を2028年3月末時点で「4万8217人以上」にすることを目標値として掲げている。

都城市の中山間地域等の人口推移と今後の見通し

注:2010〜2020年までの数値は国勢調査。2022〜2027年までの数値は過去の国勢調査をもとに国立社会保障・人口問題研究所研究所が推計したもの

先述した国立社会保障・人口問題研究所は、都城市の中山間地域等の人口が、その前年、2027年10月時点で4万6150人になると推計している。目標は、この推計通りにならないよう、市の努力で人口減の下げ幅をなんとか緩やかにするんだ、少しでも人口減を食い止めるんだ、という覚悟を示したものと言える。

企業が、将来の売上高や利益、あるいは二酸化炭素排出量削減への数値目標をコミットメント(約束)するようなもの。自治体が人口減少対策に対して具体的な数値目標を宣言することは、それなりの覚悟が必要であり、本気度がうかがえる。

では、その目標達成のために、なにをやるのか。地域振興課の二見主幹は、「今回の計画策定にあたり、中山間地域等のためになる事業を新たに発案しなさい、という指示が市長からあった」と明かす。

効果ある具体的な事業。さっそく、2023年度から新たな人口減少対策が始まっている。

日本トップレベルの移住給付金

都城市は2023年4月から、「10年後に人口増加へ!」という目標を掲げ、これまで以上に力を入れて人口減少対策の各種施策を強化した。

その一つに、「日本トップレベル」と銘打って新設された「移住応援給付金」がある。全国どこから(三股町・曽於市・志布志市を除く)移住しても、1世帯あたり100~200万円の基礎給付金に加え、1子あたり100万円の子ども加算を支給するというもの。

これは、中山間地域等に限らず、都城市のどこに移住しても、支給される制度。だが、中山間地域等に移住した場合は、さらに100万円が上乗せされるというボーナスが加わるのだ。

中山間地域等以外の基礎給付金は、単身世帯で100万円、2人以上の一般世帯で200万円。これが中山間地域等への移住となると、単身世帯で200万円、一般世帯で300万円になる。例えば、夫婦と子ども2人で中山間地域等に移住すれば、500万円の給付金が支給されることになる。

移住して、初期費用として100万円追加でもらえるなら、中山間地域等に住もうか、と考える人は少なからず増える。まさに実効性のある事業と言えよう。

新・振興計画にもとづく事業は、こうした人口流入策にとどまらない。いま暮らしている人、これから移住してくる人々が暮らしやすい環境を整える、つまり、流出を食い止めることも重要。

中山間地域等ならではの課題とも言える「鳥獣被害対策」も、2023年度から強化・拡充された。

民間の協力なくして活性化はない

都城市の中山間地域等は、西はシカが多く出没し、東はサル、全体的にアナグマがよく出る。そこで、「有害鳥獣捕獲対策事業」として、アナグマ等を捕えるための「箱罠」を各総合支所に5基ずつ、各市民センターに3基ずつ、計32基を購入し、配置した。

市民から箱罠設置の希望や依頼があった場合は、各支所・センターで対応し、さらに捕獲した個体の処理についても予算を確保し、委託している捕獲班のほうで対応することにした。

野生猿の対策についてはさらに手厚い。「野生猿用捕獲檻助成事業」では独自の捕獲檻を作成するための経費を助成することにした。また、「野生猿追払い対策事業」では、猟友会との連携により、住民が即時に花火で追い払うことができるよう環境を整備し、それでも効果が出ない場合は、有害鳥獣捕獲班員が即応し、猟銃で追い払う体制を整備するとしている。

都城市高城町の高城生涯学習センターで開催されたスマートフォン講習会

デジタルデバイド(格差)への配慮も忘れない。冒頭で紹介した若宮さんを招いたイベント開催も、その一つ。今後も目標達成に向け、中山間地域等の人口減少を食い止め、活性化するべく、あらゆる方面から盛り上げるための事業を立ち上げるとしている。

ただし、当然ながら、行政のチカラだけでは限界がある。そこに住む地域住民や民間組織の協力なくして、活性化は生まれない。

じつは、都城市の中山間地域等では、あらゆる民間人が活性化のために知恵を絞り、活躍を見せている。

自然という資産を多く持つ8地区はポテンシャルも高い。なにより都城市は畜産業が盛んで、2021(令和3)年の「市町村別農業産出額」で全国1位を誇っている。「関之尾滝」の再開発も進み、観光資源にも期待できる。

関之尾公園は2024年4月末リニューアルオープンを目指し工事中

テーマ「里山に追い風」。2回目以降、里山の“光”に焦点を当て、深掘りしていく。

次回に続く)

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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