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地方創生・成長企業の本質 #05

タマチャンショップ新展開[前編] 「タマフェス」開催、田中耕太郎社長の思い

  • 2023年、創業20周年を迎えた自然派食品のタマチャンショップ。
  • 11月、初となるリアルイベント「タマフェス」を都城で開催。
  • 準備期間約1年。裏側にある田中耕太郎社長の思いとは。

初開催「タマフェス」に殺到

2023(令和5)年11月23日、勤労感謝の日。中心市街地中核施設「Mallmall(まるまる)」の象徴とも言うべき「まちなか広場」は、かつてないほど盛り上がっていた。

2023年11月、Mallmall「まちなか広場」で、タマチャンショップ初のリアルイベント「タマフェス」が開催された

ネット通販を主軸とする自然派食品ストア「タマチャンショップ」による初のリアルイベント「タマフェス」が開催。本社のある都城市には、リアル店舗の「タマチャンショップ都城本店」もあり、多くの市民からも親しまれている。

それにしてもこの日の賑わいは、想定を超えるものだった。

イベント開始時間の午前10時、図書館などMallmallの周辺施設をつなぐテニスコート約2.3面分のまちなか広場を見に行くと、すでに大勢の客で埋め尽くされ、随所に行列もできている。

和牛丼やカレー、豚汁などのフードを販売するブース前にはイベント開始直後から長蛇の列ができた

宮崎牛のステーキを贅沢に使用した先着30セット限定の「とろける宮崎牛ステーキ丼」は開始5分で完売。タマチャンショップの商品を使用して調理したカレーや唐揚げは、午前中で売り切れていた。

別のブースでは、都城が誇るブランド豚「観音池ポーク」と、タマチャンショップの「たまねぎスープ」を融合したオリジナルのメンチカツ「都城ぼんちメンチ」なども提供。開始直後に行列ができ、メンチを購入する列で10〜20分、受け取る列で20分、計30〜40分もの時間を要していた。こちらも午前中で一旦、品切れとなり、午後のぶんを若干ではあるが急きょ仕込むこととなった。

揚げたての「都城ぼんちメンチ」やコロッケ、しいたけ天などを販売する揚げ物ブースにも客が殺到

群がっていたのは飲食だけではない。生椎茸や野菜の販売ブースでは、タマチャンショップの祖業でもある「原木しいたけ」も並んだ。獲れたてで大判の生しいたけが詰まった袋は500円の特価で売られ、早々に品切れに。タマチャンショップの商品がずらりと並んだブースでもセット割引などの特価販売がなされており、終日、多くの客が取り囲んでいた。

朝から大盛況。多少の混乱も見られる中、ひときわ目立つ動きのスタッフがいた。

うれしい悲鳴「読みが甘かった」

イベント中、せわしなく会場内を歩き回り、来場者に声をかける男性がいた

数百のリーフレットを抱え、会場をせわしなく歩き回る男性。

10時の開催前から、来場者にリーフレットを手渡しては、ブースの場所や行列の最後尾などを案内していた。合間、スタッフに行列のオペレーションの改善を指示したり、スマートフォン(スマホ)で通話したりもしている。

彼こそがタマチャンショップの“キャプテン”こと、田中耕太郎氏。運営会社である九南サービスの社長だ。

タマチャンショップを運営する九南サービスの田中耕太郎社長。社内では“キャプテン”と呼ばれている

「完全に読みを間違えていて、甘かったなっていうか。都城の方々があんなに朝から食を求めて来てくださって、行列ができるとは想定していなかったので、一気にテンパった状態からスタートという感じです。ただ、すごくありがたい課題として、プラスには感じてはいます」

隙を見て耕太郎氏をつかまえると、そう早口で言い、去っていった。地域の特性上、スロースタートになるだろうと読んでいた。だからこそ、午前中から盛り上げる仕掛けとして限定食なども出した。それが蓋を開ければ、良い意味で裏切られた。

会場には子ども向けのワークショップや射的なども。家族連れで賑わっていた

まちなか広場の管理会社からは、イベント開催時の来場者数は「1500〜2000人」と聞いていたため、上限の2000人想定で料理も準備していた。しかし結果は、4300人以上の集客。単純計算で、仕込み量も2倍以上必要だったことになる。

反省あれども、うれしい悲鳴。大盛況に終わったタマフェス。このイベント、タマチャンショップがオンラインに生まれて20周年を記念するものでもある。

節目を迎えたタマチャンショップは今年、本格的に海外進出を目指そうとしている。いろいろな思いや覚悟がイベントの裏側にあったことを知る人は少ない。

避けていた“社長”職に就任

今や、全国的に女性からの認知度が絶大なタマチャンショップ。著名企業や芸能人とのコラボレーション商品の投入など、2023年はまさに全国区での活躍・飛躍を見せた。

その来歴や経緯の詳細については、「タマチャンショップ急成長の秘密 躍進支える田中耕太郎氏の『情熱』」に譲るが、ここでも簡単におさらいしておこう。

タマチャンショップは、運営会社である九南サービスのオンライン事業として、2003(平成15)年に立ち上がった。

九南サービスは、田中茂穂氏(70歳)が1993(平成5年)年に創業した食品卸を中心とする企業。もともと都城市で3代続くしいたけ農家で、原木栽培のしいたけ販売を中心に、自然食品販売や農林機械の修理など業容を拡大。オンラインにも活路を見出した。それがタマチャンショップの始まりだ。

当初、タマチャンショップはしいたけ販売をメインにしていたが、鳴かず飛ばず。劇的に変化したのは、茂穂氏の息子である耕太郎氏が経営に参画してからだ。

「自分たちが本当にやりたいショップに作り変えよう。1年やってダメなら、撤退するしかない」――。2012(平成24)年頃、耕太郎氏はそう心に誓い、ショップを一から作り直した。コンセプトは「しあわせ食を、九州から」。できるだけ地元・宮崎や九州の食材を使い、新たな加工食品を次々と開発した。

そのうち、「三十雑穀」「タンパクオトメ」といったヒット商品が育ち、主に自然食品を求める女性層に受け入れられた。「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれ、2016(平成28)年から2022(令和4)年までに4度も総合賞で上位に入っている。

タマチャンショップ都城本店には、「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー」の受賞盾がずらりと並んでいる

2023年8月期の実績で、タマチャンショップは九南サービスの売上高の7割以上を稼ぎ出す“本業”に成長。この急成長を演出した耕太郎氏は長らく、副社長の肩書だったが、2023年11月に社長となり、父親は会長に退いた。その理由を耕太郎氏はこう話す。

「僕はずっと、社長はやりたくないと逃げ続けてきたんですけれど、いろんな節目の年でもありますし、大企業との契約シーンも増えてきて。そのたびに『僕は社長じゃないんです』とご説明するのもややこしいですし、タイミング的に、腹をくくろうかなと思って交代しました」

キャプテンはすでに事実上、社長だった。ようやく肩書が追いついた格好だ。

九南サービス創業30年、タマチャンショップ創業20年、耕太郎氏がリブランディングを手掛けて10年。そして社長就任。あらゆる節目を象徴するイベントが、タマフェスだったというわけだ。

こだわったのは、「タマチャンショップの世界観を地元の都城で披露」することである。

都城高校とコラボレーション

「20周年っていう時に、改めて地元の方々にもっと貢献したいという思いと、これまで続けてきた『食のワンダーランド』という世界観をもっと感じていただきたいという思いがあって、2023年頭ぐらいからタマフェスの準備をしてきました」

「リアルイベントは初めての試みですが、感謝の意味を込めての還元だとも思っていたので、地元開催はもうマストで考えていました。絶対にやりたいなと思っていたのが、地元の未来ある子たちと一緒になにかできないか、ということです」

そう話す耕太郎氏が白羽の矢を立てたのが、都城高校普通科の食物調理コースだった。

タマチャンショップの食材を使って、カレーと唐揚げ、それぞれのレシピを考案してもらい、1年生の唐揚げレシピと、3年生のカレーレシピが採用された。

「三十雑穀ミヤコンジョカレー」は、タマチャンショップの商品のうち、国産100%の「三十雑穀」や生姜パウダーの「みらいのしょうが」、化学調味料・防腐剤ゼロなど“7つのフリー”を実現した11種の有機スパイス「なないろカレー」などを使って調理したシーフード&秋野菜カレー。

午前中に辛うじて入手できた「三十雑穀ミヤコンジョカレー」

一方、「だしから!!」は、みらいのしょうがに加え、スープの素「三十雑穀出汁スープ」や「べっぴんはとむぎ スナックタイプ」を使用した旨味たっぷりの唐揚げ。ともに、レシピのみならず、イベント当日の調理や接客も、食物調理コースの生徒、総勢9人が担当した。

特に唐揚げは人気が高く、早々に品切れとなった。次いでカレーも仕込んでいた量が午前中になくなり、目当てに訪れ、落胆する客も多かった。

都城高校普通科の食物調理コースから9人が加勢。当日は調理に加え、接客も担当した

「すごく反響が良くて、だしの唐揚げはかなり斬新な味だったので僕たちもびっくりして。今回、見送った2年生のレシピもおいしかったので、2024年、タマチャンショップ本店のカフェメニューとして出そうかという話も進んでいます」

タマチャンショップを象徴する食材を使ったオリジナルレシピを、未来ある地元高校生が市民に提供――。世界観を伝えるにこれ以上ない演出は成功裏に終わった。

もう一つ。イベントでは、タマチャンショップの“ファン”とのコラボレーションも披露されていた。

「タマリバ」ユーザーが考案

公式オンラインコミュニティーサイト「タマリバ」」は多くの“タマチャンファン”を会員として抱える

「お客さまがタマチャンショップの商品を使ったいろんなメニューをSNSやコミュニティサイトに上げてくださっているんですけど、それを実際に体験していただきたいという思いも強かった。自分たちが考えられないようなレシピが次々と出てきたことが本当にうれしくて、今回のタマフェスでは絶対にこのプロジェクトもやりたいと思っていました」

耕太郎氏がそう言うように、タマフェスでは、タマチャンショップのユーザーとのコラボレーションも実現していた。提供されていたパフェと豚汁、2つのメニューがそれだ。

罪悪感ゼロを謳った「キラ美パフェ」と具だくさんの「あっタマろう豚汁」は、タマリバ発のメニュー

2022年8月に開始したオンラインコミュニティー「タマリバ」は、まさにタマチャンショップのファンのたまり場となっている。2023年2月時点で約1500人だった登録会員は、2024年1月時点で約4200人まで増加し、活発な交流がなされている。中でも「いいね!」が多くつく投稿が、タマチャンショップの商品を使ったアレンジやレシピの紹介。2024年1月に入ってからも、こんな投稿が人気を集めていた。

今日は寒すぎるので 体を温める甘酒にみらいのしょうがを多めに入れて飲んでいます♪ 甘すぎるのが苦手なので、しょうがの味が甘さを引き締めてくれて飲みやすく身体がポカポカです!

久しぶりに作るのが苦手なチャーハンを💪🏼💨 いつもべちゃっとなるのに今日は少しだけぱらっとできました💞(パラパラには程遠いですが…🤣) なかなか投稿できていないのですが、毎日タマチャンアイテムと共に過ごしています🌿

タマリバ「しあわシェア【交流】」でコメントとともに投稿された写真

今回、このタマリバから、タマチャンショップの商品を日々愛用している4⼈の⼥性ユーザー(20~50代)がタマフェスの企画に参画。美容や健康に“うれしい”砂糖不使用のイチゴのミニパフェと、三十雑穀出汁スープで旨味を効かせた出汁に都城の老舗味噌屋「ヤマエ食品」の麦味噌を溶かした具だくさんの豚汁を考案した。

イベント当日も、全国各地から4人が手弁当で集結。ボランティアでブースに立ち、ほかのブースの手伝いなども率先して行ってくれたという。

ユーザーとともに、世界観を披露する。耕太郎氏がやりたかった企画を実現させた今、なにを思うのか。

タマフェス継続したいが……

「やっぱり今、都城の若い世代がどんどん都市部へ行くことが懸念されている中で、地方でもこれだけ、関東にも負けないような楽しみやイベントができるんだと感じていただけたらうれしい。うちのスタッフも9割以上が地元出身なので、そういった意味でも都城をもっと活性化させたいという思いがさらに強くなりました」

「自分たちも、普段の主戦場ってオンラインが中心で、もちろんコメントなどでお客さまの反応もありますけれども、顔が見えないぶん、妄想やイメージで補完しながらやってきた世界。それが今回、初めてお客さまと実際にプロジェクトを始めたり、逆にファンとして多くの方にご来場いただいたりして、やっぱり感動したというか……」

「直接、対面して感想をいただいたり、喜んでもらえている姿を見たりして、オフラインでしか感じ取ることができない感動やパワーをいただけた。多くのスタッフも、すごく大きな体験と自信になったのかなと思っています。正直言って今、毎年、都城でやりたいなっていう個人的な思いはありますね」

「普段はオンラインが主戦場のスタッフにとって良い経験になった」と耕太郎氏は話す

そう漏らす耕太郎氏へ、すかさず「じゃあ、2024年も第2回開催をやります?」と聞くと、こう答えた。

「いや、気持ちはあるんですけれど、まだちょっと……。じつは毎年11月、オンラインのほうでも周年祭をやっていて、そちらの準備もありますし、今回やってみて本当に精神的にも肉体的にも大変だったので……。次やるからには、アップデートもしなければいけませんし、まだ今は振り返りをしながら検討中という段階です」

耕太郎氏が逡巡するのには、ほかにも理由がある。2024年、タマチャンショップはさらなる飛躍を求め、海外進出を強化するからだ。そこへのリソース投入もちらつく。

地元への感謝を忘れずに抱きつつ、新境地へ挑戦。タマフェスは、その節目としての意味もあった。

後編へ続く)

タマチャンショップ 都城本店
住所 宮崎県都城市平江町47-10
電話番号 090-3857-6554
営業時間 10:00〜18:30
定休日 毎月第3木曜、年末年始
アクセス 宮崎自動車道都城ICから車で約20分
SNS

営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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