半世紀ぶりのプロ野球キャンプ
2025(令和7)年2月1日、都城駅や中心市街地から車で数分の距離にある「都城運動公園」が活気づいていた。この日、都城市では初めての受入球団となるプロ野球・千葉ロッテマリーンズ2軍の春季キャンプが始まったからだ。

2025年2月、「都城運動公園」で千葉ロッテ2軍の春季キャンプが行われた
ロッテのキャンプ受入は宮崎県内でも初めて。都城運動公園野球場では1963(昭和38)年から1974(昭和49)年にかけて8回、読売ジャイアンツのキャンプが行われたことがある。それ以降、同球場ではじつに51年ぶりとなる快挙に地元は沸き立った。
1日は、50メートル(m)四方に人工芝が敷かれた真新しい「屋内競技場」で歓迎セレモニーが行われ、球団へ都城産宮崎牛などが贈られた。2月のキャンプ滞在期間中、練習試合や地元小学生などとの交流イベントなども行われ、選手をひとめ見ようと延べ約1万9000人が訪れた。

千葉ロッテのキャンプ期間中、延べ約1万9000人の来場者が訪れた
中心部にある都城運動公園から車で30分ほど北上した場所にある「高城運動公園」では、2023(令和5)年から連続で読売ジャイアンツ3軍のキャンプも行われている。2025年2月のキャンプでは期間中、約7800人の来場者を集めた。
宮崎県はプロ野球キャンプ王国として名を馳せるが、キャンプ地のほとんどは宮崎市や日南市。そこへ、都城市の存在感がにわかに増している。
だが、スポーツで都城に集まるのは「プロ」だけではない。
バレー合宿で強豪校が集結

2025年5月の大型連休中、女子バレーボールの名門、都城商業高校に西日本から強豪校が集まり合宿をした
2025年5月のゴールデンウィーク。女子バレーボールの強豪校が西日本から都城商業高校に集結していた。各都道府県で開催される「全国高等学校総合体育大会(インターハイ)」予選を前に、仕上げの「合宿」を行っていたのだ。
ホストとなった都城商業高校の女子バレーボール部は創部70年の名門で、県内屈指の強豪校として知られる。2024年のインターハイ県内予選では11度目の頂点に輝き、全国へ。2年連続出場を目指した2025年5月末の予選では決勝で日南学園に惜敗している。
この都城商業高校に、徳島県立城南高等学校、鹿児島城西高等学校など県外の強豪4校が連休を利用して合宿に訪れていた。

大分商業高校の女子バレー部は都城市へ何度も合宿に訪れている
その1校である大分商業高校は、年間7回から多い年は10回ほど都城市へ訪れているという合宿常連校。2024年のインターハイ予選では“絶対王者”の東九州龍谷高等学校に決勝で敗れたものの、全国大会の開催地枠で掬われ、インターハイへの初出場を果たした。
同校女子バレーボール部の森栄一郎監督はこう話す。
「都城商業高校の松元(一太)監督が就任されてからのお付き合いですから、もう10年以上。13年くらいは都城にお世話になっていると思います」
高校だけではない。小学校から中学、大学まで。そして、社会人のスポーツ団体も含め、アマチュアの合宿先として都城が急成長を遂げていることはあまり知られていない。
急成長した市外からの「スポーツ合宿」
まずは、以下のグラフを見ていただきたい。

出所:都城市
都城市は過去10年、ふるさと納税の寄附金額や移住者数などあらゆる指標で急成長しているが、合宿実績もすさまじい伸びを示している。
市外からスポーツ合宿で都城市を訪れた団体数や人数は2013年度、年間で19団体661人だった。それが2024年度は256団体7487人まで成長。10年余りで10倍以上の伸長率だ。内訳も見ていこう。
最新の2024年度のデータを見ると、都城市をスポーツ合宿で訪れた全256団体中111団体(約44%)が「バスケットボール」。これに「バレーボール」が57団体(約22%)、「サッカー」が31団体(12%)、硬式・軟式を合わせた「野球(硬式・軟式)」が28団体(約11%)、「テニス(同)」が8団体(約3%)と続く。

出所:都城市
バスケットボールやバレーボールが多いのは、体育館やアリーナなどの屋内競技施設が充実していることや、都城市に強豪校が多いことなども影響している。バスケットボールに関しては、「都城バスケットボール協会」が合同合宿の開催に熱を入れているという理由もあるという。
特筆すべきは、2024年度にスポーツ合宿に訪れた256団体のほとんどが、アマチュアだったこと。「高校」が99団体、「少年団」が89団体、「中学校」が50団体だった。これに「大学」の10団体も含めたアマチュア団体の比率は全体の約97%も占める。人数ベースでは7487人中、約95%に相当する7128人がアマチュアだ。
そして、256団体のうち、約80%に相当する206団体が「県外」からの来訪である。
なぜ都城は、県外のアマチュアを引き寄せているのか。合宿地として人気を集めているのか――。その理由は、アマチュアを狙ったハード・ソフト両面の戦略にあった。
プロよりアマチュア優先で合宿誘致
「池田(宜永)市長が2012(平成24)年に就任した当時も、市としてスポーツ合宿誘致に取り組んでいました。ですが、(市外から訪れる団体は)年間で20件いかない程度。プロではJリーグのFC東京と栃木SCなど3団体がキャンプをしていましたが、さらに受け入れるとなるとそれなりの充実した施設が必要になるということで、まずはアマチュアを優先して誘致しようという方針で動き始めました」

都城市スポーツ政策課スポーツプロモーション担当の安田隆志 主幹(左)と吉元健 副主幹(右)
都城市スポーツ政策課スポーツプロモーション担当の安田隆志 主幹は、成長の“起点”についてこう語る。
都城市には、運動施設が充実しているという強みがある。プロ向けとしては少々心もとないが、「平成の大合併で、合併もとの旧町にもアマチュアを受け入れるには十分すぎるほどの運動施設が整っていました」(同)。
大規模リニューアルを経て、2025年4月にオープンを迎えた「霧島酒造スポーツランド都城」は長年、「山之口運動公園」として市内外の学校や団体に親しまれていた。もともと合併前の旧・山之口町が整備した大規模施設である。

それだけではない。旧・高城町が整備した「高城運動公園」、旧・高崎町が整備した「高崎総合公園」、旧・山田町が整備した「山田運動公園」。そして、旧・都城市が整備した冒頭で紹介した都城運動公園に、「早水公園体育文化センター」‥‥。
都城市には、面積や規模で霧島酒造スポーツランド都城に匹敵する大規模な運動公園がいくつも点在している。

注:「都城市スポーツ合宿ガイドブック」のマップを一部加工
この大合併で築かれた“資産”を生かそうと、池田市長が就任した2012年度以降、アマチュアの合宿誘致を念頭に置いた再整備が行われてきた。
百聞は一見にしかず。それぞれどんな施設なのか、各所を巡った。
プロも使う大規模な「高城運動公園」
キャンプ場などを併設する巨大な名勝地「観音池公園」からほど近い場所。都城市の中心市街地から国道10号を20分余り北上したところに、「高城運動公園」がある。

都城随一の名所「観音池公園」からほど近い場所に「高城運動公園」はある(上)。駐車場へ続く“エントランス”に「生涯スポーツ推進のまち」と掲げられていた(下)
とにかく広く、高原にいるかのような開放的な雰囲気。入口に大きく掲げられた「生涯スポーツ推進のまち 都城市」という看板が印象的だった。
道路を進むと、満車になることはないだろうと思える平置きの無料駐車場、540台ぶんの広大なスペースが広がり、駐車場を囲むように各種施設が鎮座する。
売りは、サッカーコート2面がとれる広大な天然芝の「多目的広場」。ここでは、2025年1月にはJリーグ・横浜FCなどのキャンプも行われている。
「野球場」「テニスコート」「総合体育館」なども備え、前述のように野球場は読売ジャイアンツ3軍の春季キャンプでも利用されている。
2012年の池田市長就任後に手を加えられたのは、体育館と「屋内競技場」。老朽化が目立っていた体育館の床を張り替えたほか、雨天時の練習環境を用意すべく、新たに屋内競技場も設置した。
ドーム屋根が象徴的な建物内部には、65m四方の人工芝アリーナが広がっており、フットサルコート2面がとれる面積だという。各種トレーニング器具が揃うトレーニングルームなどが入った「クラブハウス」や、6人立の「弓道場」まで備わり、充実した運動公園と言える。
バレーボールコートが3面とれる体育館は、バレーボールやバスケットボールのチームの合宿にもよく利用されている。
「高城の総合体育館や、早水(公園体育文化センター)のアリーナなど、いろいろな施設を利用させていただいています」と話すのは、前出の大分商業高校女子バレーボール部の森監督。高城運動公園の周辺にホテルはないものの、同公園から大動脈の10号線1本で中心市街地まで行けるため、「それほど遠くは感じない」(同)という。
近隣にある観音池公園内の温泉宿泊施設「観音さくらの里」を利用する団体も多い。露天風呂など13種類の温泉があり、バンガローや研修センターで宿泊することも可能だ。
主な施設 | 対応競技・設備等 |
---|---|
多目的広場 | サッカー・ラグビー(2面)、ソフトボール(4面) |
野球場 | 野球(硬式・軟式)、ソフトボール |
テニスコート | テニス・ソフトテニス(砂入り人工芝コート4面) |
屋内競技場 | グラウンドゴルフなど(人工芝アリーナ65m×65m)、フットサル(2面) |
総合体育館 | バレーボール(3面)、バスケットボール(2面)、バドミントン(8面)、ハンドボール(1面) |
弓道場 | 弓道(6人立) |
クラブハウス | トレーニング室、更衣室、シャワールーム、会議室 |
駐車場 | 540台 |
次に、大分商業高校もよく利用するという、もう一つの場所へ移ろう。
屋内充実の「早水公園体育文化センター」

いくつもの大きな池をたたえる「早水公園」
中心市街地やJR都城駅から車で数分。周囲にはイオンモールや国立病院機構 都城医療センターなども立ち並ぶ市街地のはざまに、風情ある広大な池をたたえた早水公園がある。
子どもたちが走り回ったり、市民がランニングしたりできる広大な芝生広場も備えるが、「早水公園体育文化センター」の目玉は屋内競技施設である。

「アリーナ」には1182席の観客席が設けられている(内部は「みやざき観光ナビ」より)
メインの「アリーナ」は、バレーボールなら3面、バスケットボールなら2面がとれる広さ。2階部分は1182席の観客席が周囲を囲む。空調が完備されており、夏場でも快適な環境で練習できるとあって、アマチュア選手に人気の施設という。
これに加えて池田市長の就任後、3つの施設が次々と新設されていった。「弓道場」と、アリーナの奥にある「サブアリーナ」、そしてその奥にある「武道場」だ。
弓道場については、本テーマ「スポーツ立国への道」で続く記事で詳報するため詳細は割愛するが、2017(平成29)年2月にオープンした比較的新しい施設。宮崎県内では唯一、60mの「遠的弓道場」を備えており、九州ブロックや、国体レベルの大会が開催できる。実際、2019(平成31)年度に開催されたインターハイ・弓道競技の会場にもなった。
弓道場に続いて2018年10月から供用開始となったサブアリーナは、サブと名が付くもののメインにさほど劣らないスペック。バレーボール3面、バスケットボール2面をとることが可能。空調も完備され、2階観客席も639席が用意されている。

アリーナに匹敵する「サブアリーナ」(「みやざき観光ナビ」より)
サブアリーナの整備とともに、メインアリーナの改修も行われ、多目的室やトレーニング室、ドーピング室などが設けられた。
メインとサブ、一体として大規模な大会で利用されることを想定しており、アリーナも19年度インターハイ・バレーボール競技の会場となった。2027年に宮崎県で開催される第81回国民スポーツ大会(国スポ=旧・国体)」ではバスケットボールとバレーボールの試合会場になることも決まっている。

充実した屋内競技施設が自然に囲まれている
サブアリーナと同時にオープンしたのが、柔道6面、剣道4面、空手4面などがとれる武道場。こちらも空調完備で、観客席も1階に120席、2階に248席と武道場としては多い。観客席は選手の休憩場所、飲食場所としても利用できるため、使い勝手がよいと評判だ。
早水公園体育文化センターは市街地に立地するため、都城駅周辺に集中するビジネスホテルなど、宿泊場所に困ることもない。
大規模な運動公園・施設はこれらにとどまらない。
主な施設 | 対応競技・設備等 |
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アリーナ | バレーボール(3面)、バスケットボール(2面)、バドミントン(10面)、ハンドボール(2面)、卓球(24台) |
サブアリーナ | バレーボール(3面)、バスケットボール(2面)、バドミントン(10面)、ハンドボール(1面)、卓球(18台) |
武道場 | 柔道(6面)、剣道(4面)、空手(4面) |
弓道場 | 近的弓道場(25m・12人立)、遠的弓道場(60m・9人立) |
駐車場 | 866台 |
自然豊かな「高崎総合公園」と「山田運動公園」
都城市の最北部に位置する高崎(たかざき)地区。中心市街地から車で30〜40分ほど北上した場所に、旧・高崎町時代から続く「高崎総合公園」がある。
軟式野球やソフトボールができる「野球場」に、砂入り人工芝コート4面の「テニスコート」、陸上トラック(400m)がありサッカーも可能な「陸上競技場」、それとは別にサッカーができる「多目的広場」、バレーボール3面やバスケットボール2面がとれる「体育館」まで、総合的に競技を網羅している。
ほかの運動公園・施設と比べると老朽化が否めないが、なにより自然豊かな環境で気持ちよく合宿できそうな雰囲気が印象に残った。
高崎町は環境省が2013(平成25)年まで実施していた「全国星空継続観察」の調査で7回の日本一を記録している「星空のまち」でもある。継続観察の場所となった「たちばな天文台」は高崎総合公園の中だ。
空気が澄んでいることに加え、同公園内には“美肌の湯”が自慢の温泉宿泊施設「ラスパたかざき」もある。温泉に加え、温泉水を活用したプールや最新のトレーニング器具を揃えたトレーニングジムも備わっており、県内外から多くの学生合宿で利用されてきた。
主な施設 | 対応競技・設備等 |
---|---|
野球場 | 野球(軟式)、ソフトボール |
テニスコート | テニス・ソフトテニス(砂入り人工芝コート4面) |
陸上競技場 | 陸上トラック(400m)、サッカー(1面) |
多目的広場 | サッカー(1面) |
体育館 | バレーボール(3面)、バスケットボール(2面)、バドミントン(6面)、ハンドボール(1面)、フットサル(1面)、卓球(16台) |
駐車場 | 830台 |
この高崎総合公園から車で15分ほど南下したところには旧・山田町から続く「山田運動公園」もある。
両翼が小さいながら少年野球ができる「野球場」、砂入り人工芝コート4面の「テニスコート」、小さめの「陸上競技場」、軟式野球やソフトボールもできる「多目的広場」、バレーボール2面やバスケットボール2面がとれる「体育館」など、それなりに充実している。
そこから車で数分の距離圏には、サッカー2面がとれる天然芝のコート「山田かかしの里市民広場」や、立ち寄り湯として現地民から絶大な支持がある温泉宿泊施設「かかしの里 ゆぽっぽ」などもあり、山田地区で様々な合宿が完結できる。
主な施設 | 対応競技・設備等 |
---|---|
野球場 | 少年野球(硬式・軟式)、ソフトボール |
テニスコート | テニス・ソフトテニス(砂入り人工芝コート4面) |
陸上競技場 | 陸上トラック(200m) |
多目的広場 | ソフトボール(1面)、軟式野球(1面) |
体育館 | バレーボール(2面)、バスケットボール(2面)、バドミントン(6面)、卓球(2台) |
駐車場 | 170台 |
注:近隣の「山田かかしの里市民広場」にサッカーコート(2面)あり
全国トップレベルの「スポーツ合宿補助」
一つの自治体として、これだけの運動公園・施設を保有しているのは稀だろう。「平成の大合併」の恩恵とも言えるが、改修なども行いながら丁寧に維持管理してきたからこそ、市も合宿候補地の「リスト」として掲げている。
都城市が用意した最新の「都城市スポーツ合宿ガイドブック」。再整備が終わったばかりの「霧島酒造スポーツランド都城」や「都城運動公園」はこれからとして、それ以外にもこれでもかというくらい、紹介してきた運動公園・施設の候補地がリストに並ぶ。

都城市が配布している「都城市スポーツ合宿ガイドブック」
こうした“ハード”面の保守や再整備に加え、“ソフト”面でも市は攻勢をかけていった。それが、ガイドブック冒頭に大きく記されている「全国でもトップクラスのスポーツ合宿補助事業」である。
従前から1人あたり600円のスポーツ合宿補助金を出していた都城市は2014(平成26)年、補助金額を約3.3倍の2000円へと一気に引き上げた。前出のスポーツ政策課 安田主幹はこう説明する。
「当時、全国的にもいろんな自治体がスポーツ合宿の補助金を出して誘致していました。調べると高いところで1人1泊2000円。じゃあうちも全国トップレベルの補助をしよう!と目指しました。少なくとも県内でその水準はなかった」
宮崎県の「スポーツ合宿受入支援事業」の補助金と併せて申請することも可能で、例えば15人の団体が「1泊6000円(食事なし)」の宿に2泊した場合、18万円の宿泊費がかかるが、都城市と宮崎県の補助金を使えば、半額の9万円で済むことになる。
効果はてきめんだった。補助金を引き上げた2014年度、スポーツ合宿で訪れた団体数や参加人数は前年から約2.3倍に急増。そこから右肩上がりに成長した。

出所:都城市
2019〜2021年度にかけては、新型コロナウイルス流行の余波で一時的に下がったものの、コロナ禍が明けて、伸びはさらに加速した。拍車をかけたのが補助条件の緩和だ。
「補助には『宿泊人数×宿泊日数=30泊以上』という条件があったのですが、県内の部活動を調査すると、少子化もあってクリアが厳しいということがわかりました。15人の部員だと、2泊以上しなければいけませんが、土日の1泊でやる場合は満たさない。15人が1泊したとしても補助金が出るよう、条件を『15泊以上』に引き下げました」(安田主幹)
条件緩和は2019年11月1日から実施され、さらに「アフターコロナ」を見据えた施策も2021年度から始まった。
コロナ禍では、県をまたぐ移動が制限され、競技団体も思うように合宿ができなかった。そこで都城市は2021年4月、コロナ以前の4年間(2017〜2020年度)に都城市で合宿した団体へ「おかえりクーポン」を発行。既存の補助金に加え、1人1泊あたり1000円分の補助を追加するもので、クーポンの利用団体は1人1泊あたり計3000円の宿泊補助が受けられるようになった。
コロナ禍以降の伸びは、もちろん人の移動が一気に増えたことも要因。だが2022年度以降、コロナ禍前を上回る“V字回復”を果たしたのは、こうした政策の影響も大きいだろう。
「営業」や「おもてなし」で攻勢
主にスポーツ政策課が主導したソフト面での攻勢はほかにもある。
スポーツ政策課スポーツプロモーション担当の業務の一つに「合宿誘致の営業活動」がある。年に一度、2人1組で2泊3日の“ツアー”に出て、西日本や九州のスポーツ強豪校や大学などをまわり、合宿地としての魅力を伝え続けている。これとは別に、年に5〜6回ほど関東や関西に出張し、旅行代理店などにもPRをしている。
「まさか市役所に入って営業をするとは思いませんでした」と笑う安田主幹。涙ぐましい努力はさらにある。実際に合宿に訪れてくれた団体に対して、心ばかりの「おもてなし」をすることも、スポーツ政策課の伝統の仕事として引き継がれている。
例えば、4泊以上滞在するスポーツ団体には、都城産「豚肉」の差し入れもする。1人あたり180グラムの豚肉を宿泊施設に提供し、調理してふるまってもらうという。4泊以上となるとハードルは高いものの、2023年度は23団体に提供した。
こうした、ハード・ソフト両面の攻勢や積み重ねが、アマチュアスポーツ団体の合宿受入を増やしていった。
もう一つ、もともと備わっている「地の利」もあるようだ。合宿に頻繁に訪れている常連校、大分商業高校の森監督はこう話す。

大分商業高校女子バレーボール部の森栄一郎監督
「あまり予算があるわけじゃないので、とにかく助成金は助かる。ありがたいです。あとは、市街地を中心にスポーツ施設がうまくまとまっていて、どこへも行きやすいのもいい。鹿児島に近いので、鹿児島チームとの交流がうまくできる点も気に入っています」
鹿児島県は高校を中心にあらゆるスポーツ強豪校がひしめく。鹿児島に加え、宮崎県内や大分などの学校や団体と練習試合をしたり、合同合宿をしたりするとなると、それぞれが行きやすい都城が結節点となり、合宿地として選ばれやすいというわけだ。
そこへ、都城運動公園と霧島酒造スポーツランド都城の再整備が終わり、アマチュアのみならず、プロや国レベルの大会を呼び込むまでハード面の魅力は進化した。
プロを呼び込んだ「都城運動公園」

「都城運動公園」では、野球場周辺施設とテニスコートの再整備が一体で進められた(都城市の資料から)
冒頭で触れた千葉ロッテ2軍の春季キャンプが行われた都城運動公園。2024(令和6)年9月、真新しい「テニスコート」16面が全面供用開始となった。
野球場周辺の整備と一体で行われたテニスコートの再整備は、北側3面と離れた場所にあった4面のクレイコート、南側6面の砂入り人工芝コートと体育館を撤去し、それまでの13面から16面に規模を拡大して作り直すという大掛かりなもの。2027年に宮崎で開催予定の国スポで、ソフトテニス成年男女の会場になることが決まっている。
5月下旬の平日夕方、テニスコートを訪れると、広大な光景が広がり、小学生・中学生中心にすべてのコートが埋まっていた。ナイター照明設備もあり、大会と同じような環境で本格的な練習ができることが魅力だろう。もちろん、予約をすれば市外・県外の団体が合宿などで利用することも可能だ。
そしてテニスコートに続き、2025年1月には野球場に付帯する3つの新施設「投球練習場(ブルペン)」「サブグラウンド」「屋内競技場」が供用開始を迎えた。
「野球場」は先立って2019(令和元)年度に大規模改修工事を実施済みで、内野黒土の入れ替えや外野天然芝の張り替えなどを行ったほか、スコアボードをフルカラーLEDのスコアボード一体型バックスクリーンへとリニューアルした。
観客席は約4000人。両翼やセンターまでの距離は横浜スタジアムより大きく、プロ野球の利用でも十分耐えうるスペックだが、足りないものがあった。それが今回の新施設だ。
まずは、防災機能に加え、市民が多目的な用途で利用できるスポーツ施設として整備を計画。6つの経済団体から「プロ野球キャンプ誘致を目指してほしい」との要望もあり、市は約28億円をかけて3施設の整備を完遂した。
プロ野球の試合やキャンプを呼ぶには、投手が投球練習やウォームアップをするブルペンが必要。キャンプでは、野球場のほかに守備練習などができるサブグラウンドや、雨天時でも練習できる屋内競技場も必要となる。整備したところで球団が来てくれる保証はないが、結果として千葉ロッテが最初の利用者となり、“賭け”に勝った。
新施設は、一般のスポーツ団体の練習にも貸し出すほか、非常時の防災拠点としても役立つよう設計されている。ブルペンは非常時の備品庫を備え、災害発災時には避難者受付所として機能させる。屋内競技場は食料などの物資保管や消防援助隊の受け入れ拠点として、サブグラウンドは避難者広場として利用する計画だ。
主な施設 | 対応競技・設備等 |
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野球場 | 野球(硬式・軟式)、ソフトボール |
投球練習場 | 投球練習・ウォームアップ(6人立ち) |
サブグラウンド | 守備練習(両翼50m) |
屋内競技場 | フットサル、野球、グラウンドゴルフなど(人工芝アリーナ50m×50m) |
テニスコート | テニス・ソフトテニス(砂入り人工芝コート16面) |
陸上競技場 | 陸上トラック(400m・8レーン)、砲丸投げ・走り高跳びなど(フィールド天然芝) |
駐車場 | 300台 |

都城運動公園の「陸上競技場」はウレタン走路のトラックではないものの、きれいに維持されている
プロ・アマの好循環へ
「実家が都城運動公園のすぐそばで、よく遊んでいた」と話すのはスポーツ政策課 スポーツプロモーション担当の吉元健 副主幹。「都城運動公園にプロ野球が来るというのは自分にとっても大きな出来事。たくさんのアマチュアを呼ぶことに集中してきましたが、一方でいつかはプロも呼べるよう着実にやってきた。その結果が今回、現れたと思います」。
アマチュア誘致から始まったスポーツキャンプ・合宿の誘致はフェーズが変わった。アマチュアからプロまで、幅広いチーム・スポーツ団体を呼び込む段階となり、国レベルのスポーツイベントも呼んだ。一連の施設整備の仕上げが、山之口運動公園だろう。

「霧島酒造スポーツランド都城」の主競技場「クロキリスタジアム」は、世界陸上競技連盟の国際規格「CLASS2」に県内で初めて認定された
2025年4月に供用開始となった「霧島酒造スポーツランド都城(山之口運動公園)」。詳しくは前回記事をご覧いただきたいが、2027年開催の「日本のひなた宮崎 国スポ・障スポ」のメイン会場になることが決まっている。
「KUROKIRI STADIUM(クロキリスタジアム)」と名付けられた主競技場は、日本陸上競技連盟(陸連)公認の「第1種陸上競技場」。この6月には、世界陸上競技連盟の国際規格「CLASS2」に県内で初めて認定され、世界レベルの大会も呼べるようになった。

主な施設 | 対応競技・設備等 |
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KUROKIRI STADIUM (クロキリスタジアム) | 陸 上トラック(400m・9レーン)、サッカー、ラグビー、砲丸投げ、走り高跳びなど(フィールド天然芝) |
AKAKIRI FIELD (アカキリフィールド) | 陸 上トラック(400m・8レーン)、サッカー、ラグビー、砲丸投げ・走り高跳びなど(フィールド天然芝) |
投てき練習場 | 投てき(砲丸投げ、円盤投げ、ハンマー投げ、やり投げなど) |
多目的広場 | 野球(軟式)、ソフトボール、サッカー、ラグビー(ポールなしの 練習)など |
体育館 | バレーボール(2面)、バトミントン(6面) |
3×3コート | 3人制バスケットボール(2面) |
駐車場 | 1200台 |
アマチュアの誘致を起点に、十数年かけてやってきたスポーツ関連施設の整備と戦略。それが十数年後、ここまで昇華するとは誰も想像しなかっただろう。スポーツ立国を夢見て地道に着実に歩んできた成果とも言える。
プロが来れば、また多くのアマチュアも訪れるようになるに違いない。合宿地・都城の好循環が始まろうとしている。