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スポーツ立国への道 #05

千葉ロッテ「都城キャンプ」の深層 「球場整備」だけじゃない都城の魅力

  • 2026年2月、千葉ロッテマリーンズ1軍が都城で春季キャンプを敢行。
  • 「コアラのマーチスタジアム」を中心に、まちなかは盛り上がりを見せた。
  • 施設以外にも魅力を感じる球団や選手。キャンプ地・都城の深層に迫った。

熱気に包まれた「コアラのマーチスタジアム」

2026年2月11日、建国記念日の祝日。この日は、プロ野球・千葉ロッテマリーンズ1軍の春季キャンプ前半最終日。キャンプ地となった「都城運動公園」はかつてない雰囲気に包まれていた。

千葉ロッテ1軍がキャンプインした都城運動公園。多くのファンで賑わった

足を踏み入れると、都城運動公園がちょっとした“ボールパーク”の様相を醸している。

球場正面の広場では、選手の顔と背番号が写った「のぼり旗」が出迎え、その先には「コアラのマーチスタジアム」と書かれた旗も続いていた。

球場正面に並ぶ選手の「のぼり旗」

キャンプイン直前の1月29日、ネーミングライツによって、都城運動公園野球場が「コアラのマーチスタジアム」になったと発表された。同時に屋内競技場は「パイの実ドーム」、投球練習場(ブルペン)は「クーリッシュブルペン」という愛称が付けられた。

コアラのマーチスタジアムに入り、階段を上がると、内野席に出る。多くの観客がグラウンドで練習に励む選手たちを見守っていた。パイの実ドームやクーリッシュブルペンにも観覧エリアが設けられ、観客は非公開練習時以外、自由に選手を追って移動していた。

「コアラのマーチスタジアム」では内野席が開放され、ファンが練習を見守った

スタジアムの外では、飲食を提供するテントやキッチンカーが並ぶ飲食ゾーンも。「都城メンチ」や「チキン南蛮カレー」など、宮崎・都城を感じられるメニューが多い。

周囲には、グッズ販売やガチャガチャコーナーなども設けられ、2月28日開催のオープン戦「千葉ロッテvs埼玉西武」を伝える巨大ポスターも目立っていた。

飲食ゾーンにはテントやキッチンカーが並んだ(上)。オープン戦は新市誕生20周年記念事業として開催された(下)

直前の土日だけで約1万人もの来場者があったという。祝日のこの日は、都城最終日ということもあって約6000人を集めた千葉ロッテ1軍。熱気をそのままに、二次キャンプ地の沖縄県糸満市へと向かっていった。

延べ4万9000人の来場者を記録

千葉ロッテの“1軍”が都城でキャンプを張ったのは今回が初めて。

2025年春季、千葉ロッテ2軍が都城をキャンプ地に選んだことで話題となったが、2026年春季は1軍もそれまでキャンプ地としていた沖縄県・石垣島から都城へと場所を移し、都城は千葉ロッテ1軍の一次キャンプ地、および2軍の二次キャンプ地となった。

都城運動公園野球場では、1963(昭和38)年から1974(昭和49)年にかけて読売ジャイアンツ(巨人)のキャンプが行われたことがある。

それから半世紀。屋内競技場やブルペンなども備え、装いを新たにした都城運動公園は、久方ぶりにプロ野球を呼び込み、都城の空気を変えた。

道の駅『都城NiQLL』にもキャンプの熱気が及んでいた

2軍中心だった2025年春季、観客の来場者数は延べ1万9000人ほど。それが2026年春季は1軍効果で、2.5倍を超えた。春季キャンプ期間の「GLOBAL FRIENDSHIP SERIES 2026」や「2026球春みやざきベースボールゲームズ」、オープン戦の来場者も含めると、都城運動公園への来場者数は概算で延べ約4万9000人を記録している。

活気づいたのは都城運動公園だけではない。変化は、球場の外にまで及んだ。

「ぜんぜん違います、1軍は。まちの人出やお客さんの数も、初日から違います。1軍のパワーを感じています」。そう話すのは、中心市街地にある老舗のおでん屋「雨風」店主の野村英樹氏。同店の徒歩圏には、千葉ロッテの宿泊施設もある。キャンプ期間中は、雨風も県外からのお客で連日、賑わったという。

まちなかのホテルも、一部で宿泊価格が普段の2倍以上に高騰。満室で予約が取れない日もあった。

球場に、まちに、賑わいをもたらした千葉ロッテ。施設ばかりが注目されがちだが、キャンプ地としての魅力は、ほかにもある。

サブロー監督も絶賛、充実した施設

都城キャンプを高く評価したサブロー監督

「今年はわりと天気も良くて、新たに練習設備も増設してくださって、選手の仕上がりも早いですし、非常に効率よく練習ができた。ここ都城で土台を作って、いい調整をして、開幕に合わせる。すごく順調なキャンプが過ごせたと思います」

都城キャンプの最終日、千葉ロッテのサブロー監督は、Think都城にこう話した。サブロー監督は2025年10月、1軍監督に就任したばかり。就任後初となる春季キャンプの前半を終え、満足げな表情を浮かべていた。

選手・コーチ時代も含め、様々な場所でキャンプを経験しているサブロー監督。キャンプ地としての都城の評価を聞いた。

「ここは、すごくやりやすい。多分ね、環境面で言うと、もう僕がやってきたなかでナンバーワンって感じです」――。

野球場は大規模改修で生まれ変わり、屋内競技場(左奥)など新たに3施設が整備された

監督も絶賛するキャンプ地・都城。施設は近年の改修や増設で、大幅にグレードアップしている。

1962年竣工と老朽化が進んでいた都城運動公園野球場。施設を管理する都城市は、2019(令和元)年度に大規模改修工事を実施し、フルカラーLEDのスコアボード一体型バックスクリーンや内外野のラバーフェンスなどを導入した。

2022(令和4)年からは、野球場に付帯する3施設(屋内競技場、ブルペン、サブグラウンド)の整備にも乗り出した。スポーツ団体などの利用のほか、非常時の防災拠点としても役立つよう設計されている。

2025年1月に供用開始された6人立ちの投球練習場(ブルペン)

1軍キャンプにあわせアップグレード

付帯3施設はともに、プロ野球のキャンプには欠かせない。新施設が2025年1月に供用開始を迎えたことで、2025年春季の千葉ロッテ2軍キャンプが実現した。以降、同球団は秋季キャンプも都城で行っている。

その秋季にも参加した小島和哉投手は、都城の印象をこう語った。

都城キャンプに2度参加した小島和哉投手。“食事”を絶賛する

「施設が抜群にいい。メインの球場もとてもきれいですし、ブルペンも屋内練習場もすごくきれいで、屋内にはウエイトトレーニングがしっかりとできる場所も大きくあって。朝から晩まで野球をとことんやるのに、とてもいい環境だと思います」

両翼やセンターまでの距離は横浜スタジアムより大きい野球場。まだ真新しい3施設。輪をかけ、市は1軍キャンプを機にさらなるアップグレードを施した。

2025年10月、野球場外野側にある「防球フェンス」の高さを40mまで上げたほか、2026年2月には、バッティング練習用のゲージ、通称「鳥かご」をサブグランドの芝生エリアに仮設で設置した。

ケータリング会場にも空調を整備した(都城市提供)

これまで、ロッカールームやケータリング会場など、野球場内の屋内で空調が行き届いていない場所もあったが、それも1軍の受け入れに合わせて完備した。

こうした施設そのものの評価もさることながら、“組み合わせ”の評価もまた高い。都城の環境は、サブロー監督が掲げた「昭和のキャンプ」の方針と噛み合っていた。

「コンパクト」なキャンプ地

2025年、リーグ最下位に沈んだ千葉ロッテ。その立て直しを担ったサブロー監督は、高い強度のメニューを繰り返し行う「昭和流」の厳しいキャンプを掲げ、挑んだ。

「監督がキャンプ地に求めるポイントは?」という質問に、サブロー監督はこう答えた。「そうですね、まずはやっぱり“効率がいい練習”をしたいので、コンパクトであるべきだと思うんですよね。そういう面で、ここはすぐに移動ができる。本当に時間のロスが少ない。そういう面が、僕は1番大事かなと思うんです」。

都城運動公園では、野球場を取り囲むように屋内練習場、ブルペン、サブグラウンドが集まっており、移動効率が良い。

各練習施設が近接し、選手もファンも効率よく移動できる

例えば、千葉ロッテ1軍が2025年春季までキャンプ地としていた石垣市中央運動公園では、メインの「ロートスタジアム石垣(石垣市中央運動公園野球場)」と、サブグラウンドの第二野球場のあいだに、陸上競技場とテニスコートがあり、移動に徒歩10分以上はかかってしまう。ブルペンや屋内練習場もしかりだ。

しかし、都城ではそれが「数分」で済む。

コンパクトなキャンプ地は、一度、温まった体を冷やすことなく、次なる練習へつなげることができる。千葉ロッテはその利点を享受していた。

練習場所だけではない。選手が宿泊するホテルから球場までは車で5分ほど。渋滞することはまずない。距離の短さは練習効率に直結する。

中心市街地から都城運動公園まで車で数分。渋滞することはほぼない

石垣島の場合、ホテルからロートスタジアム石垣まで20分以上かかることもあったという。移動に時間をかけないという点でもキャンプ地としての都城は優れていた。

球団や選手が魅力に感じているのは、こうしたハード・インフラ面だけではない。

選手に大好評の「食事・ケータリング」

「臨時コーチとして来られた松井稼頭央さんも『キャンプで出るお肉じゃないよな』って言われていましたけど、食事もみんなおいしい、おいしいって言って食べています。からだ作りという面でも、本当に環境を良くしていただいて、感謝しています」

サブロー監督がこう言うように、都城キャンプの魅力は「食事」を抜きに語れない。前出の小島投手もこう話す。

「まず、ホテルの食事がとてもおいしくて、僕もすごく好きで、外食には、ほとんど出ていないです。多分、ほかの選手に聞いても、みんなそう言うと思います」

大好評の食事の調理や準備は、一貫して宿泊していたホテルが担当。ホテルでの朝食と夕食、練習場所でのケータリングともに、ビュッフェ形式で温かい食事が並んだ。

スタジアムでも、ホテルでの食事と同じように温かく豊富なメニューが提供された(都城市提供)

都城がもともと持つ素材の質と、ホテルの技量。そこに「おもてなし」が加わり、食事の質を一段引き上げていた。

「ビュッフェに行くと、いろんな料理に『どこどこ様からいただきました』と、たくさん貼ってある。たくさん差し入れをいただいて、その一つひとつがおいしくて」。小島選手が言うように、キャンプ期間中は連日、市内各所から協賛というかたちで差し入れが届き、随時、提供された。

都城産の「宮崎牛」をはじめ、豚肉や鶏肉、野菜、フルーツなどの地のものがふんだんに並ぶメニュー。提供元は、都城市と都城市観光協会、都城プロ野球キャンプ協力会、都城市スポーツコミッション(MSC)などが中心。そこに、協力会に属する地元企業も加わり、差し入れは充実した。

都城観光協会からは「餃子」などが贈呈された(都城市提供)

「すごく温かく迎えていただいていると感じています」と小島選手。「なんて言うんですか、サポートしますっていう感じの雰囲気だったり、アットホームな感じだったり、そういうのがすごく伝わってきます」。

食の差し入れは“都城流おもてなし”の象徴。選手の物心両面の満足度を上げていた。

雰囲気づくりに奔走した「スポーツ部」

おもてなしの対象は、球団や選手に限らない。

都城市は、施設の整備や食事面でのサポートに加え、雰囲気づくりでも精を出した。象徴が、キャンプ会場に多数並んだ、のぼり旗である。

市内事業者の協力も得て「コアラのマーチスタジアム」の旗などを多数、用意した

「迎え入れられている」感覚を得られるという点で球団や選手もうれしいだろう。だが、訪れたファンもまた、ワクワクさせられ、よりキャンプを楽しめる。

のぼり旗を含め、都城運動公園全体の受け入れ準備や、都城流のおもてなしを中心となって進めたのが、都城市役所の「スポーツ部」だった。

3つの機能を持った「観光スポーツPR部」内に、キャンプやスポーツ合宿などの推進を担当する「スポーツ政策課」が配置されたのは2024年度。スポーツを軸にした施策が積み重ねられてきたが、2025年度はさらに強力な体制となった。

観光スポーツPR部から独立するかたちで、スポーツ部が2025年4月に新設。スポーツ政策課も移管され、単独の部としてスポーツ関連業務に集中できる体制となった。

このスポーツ部が、MSCや協力会などと連携しながら、限られた時間で受け入れの輪郭を整えた。

「コアラのマーチスタジアム」と決まったのは2026年1月のことで、発表されたのは2026年1月末。春季キャンプまで時間がないなか、大急ぎで市内事業者の力も借り、コアラのマーチスタジアムと書かれたのぼり旗や印刷物などを準備した。

スポーツ部の初代部長となった原口文代部長は、こう振り返る。

「2026年春季キャンプの準備は、12月くらいからしています。ネーミングライツについては年内にロッテさんの本社と交渉して、1月になってから正式に決まったかたちなので、もうすっごい大変で(笑)。なんとか間に合いました」

受け入れを主導した都城市スポーツ部・原口文代部長

千葉ロッテなどあらゆるスポーツ団体との窓口役となって奔走した原口部長。一方で、球場を訪れるファンへの対応についても、余念がなかった。

ファン向け対応も拡充、キャップの返礼

「ほかのソフトバンクさん、巨人さん、オリックスさんとかのキャンプ地のイメージをここ、都城にも作りたくって。秋季の時は3〜4店舗だった飲食ゾーンを、10とか11くらいに大幅に拡大しました」

原口部長が言うように、2026年春季キャンプからは飲食を大きく拡充。ファン向けの駐車場についても、改善があった。

休日、球場隣接の駐車場は常時、満車状態に(上)。サテライト駐車場を設け、観客を分散誘導した(下)

球場に隣接した駐車場は、拡大することができない。そこで、サテライトの駐車場を約1500台分確保し、球場に停められないドライバー全員にマップを配布して誘導した。さらに、一部のサテライト駐車場からはシャトルバスによるピストン輸送も行った。

球場からほど近い大王小学校も訪れた(都城市提供)

こうした飲食やアクセスの設計もまた、キャンプ地を訪れるファンにとっては“体験”の一部。対応は当然、千葉ロッテへの愛着にもつながる。

千葉ロッテは春季キャンプを前に1月中旬から2月にかけて、市内小学校の全校生徒向けに千葉ロッテのキャップ約1万個を配布した。2025年2軍春季キャンプの際は小学校6年生のみの配布だったが、1軍キャンプに合わせて大幅に拡大した。

都城市出身の森遼大朗選手は、自身が卒業した五十市小学校や球場に近い大王小学校に出向き、直接、小学生にキャップを手渡すなどのサービスも行った。

千葉ロッテと地域との交流も深まっている。

市内小学生に配布されたキャップ

すべてが関連し、結果を出した「政策」

都城に活気をもたらした千葉ロッテ。2軍のキャンプインからわずか1年で1軍のキャンプも実現した背景には、ハード面とソフト面を充実させる複合的な要因、そして、おもてなしの努力があった。

それだけではない。選手の宿泊施設がある中心市街地の整備に市が乗り出していなければ、食事や宿泊での高い評価は得られなかっただろう。都城志布志道路の全線開通がなければ、ファンもこんなに集まらなかったかもしれない。

個別の施策が連動し、一つの流れをつくっている。千葉ロッテ1軍のキャンプインは、決して、施設だけで成立するものではない。

来年も、再来年も、千葉ロッテ1軍が都城をキャンプ地に選ぶという保証はない。だが、初年度の結果を見る限り、安心して良さそうだ。光明もある。

今回のネーミングライツ契約は、2027年3月までの時限的なもの。しかし、一般にネーミングライツは同じブランドが複数年にわたって契約を続けることが多い。千葉ロッテのグループ企業であるロッテ本社が契約をしたのは、「今後も都城にキャンプを張り続けたい」という意思の現れかもしれない。

市も2027年以降、ネーミングライツの複数年契約を検討している。ただし、安穏としているわけではない。原口部長はこう気を引き締める。

「2軍キャンプ、秋季キャンプと経験して、お客様の受け入れなどで、これじゃちょっとダメだよねっていうところを自分たちなりに改善して来ました。でも、まだまだっていうところはある。グルメの部分も、都城の食をもっと前面に打ち出して、強みを生かせるようなしつらえにしていきたいと思っています」

観客動員についても、満足はしていない。

「もっと多くのお客さんに来ていただきたい。地元のファンも、もっと増やしていかないといけない。地元の民間が設立した千葉ロッテマリーンズ都城応援団という組織ができて、110社くらいの加盟がありますので、そういう方々にももっと足を運んでいただいて、応援していただけるよう、工夫していきたいです」

プロ野球と地域活性の好循環は始まったばかり。新たな“資源”として静かに、しかし力強く動き始めている。

しかし、いったいどういう流れで、こんなにも早く1軍キャンプが実現したのだろうか。次回、池田市長が舞台裏を語る。

(次回に続く)

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