深く多面的に、考える。

子育てにやさしいまち #03

「保育料完全無料化」の舞台裏 本気の子育て支援、隙のない多面的政策

  • 2023年度、保育料の完全無料化を始め「3つの完全無料化」に踏み切った都城市。
  • 切れ目ない重層的な子育て支援に加え、「こどもまんなか会議」など体制も整備。
  • 保育施設への入所児童数が増加に転じたことで、保育士確保策でも手を打つ。

「3つの完全無料化」を実施

「笑顔としあわせ 子育てしやすいまち みやこのじょう」――。都城市は2023(令和5)年2月15日、「ベビーファースト宣言」を行い、こう掲げた。

ベビーファースト宣言は、子どもを産み育てたくなる社会を実現するための「ベビーファースト運動」に賛同した企業や自治体が掲げるもの。公益社団法人日本青年会議所が推進しており、都城市は宮崎県内の自治体として初めて同運動に参画した。

同日、都城市は“宣言”どおり強力な子育て支援策を打ち出す。

2023年2月15日、池田宜永市長は記者会見で強力な子育て支援策を打ち出した

都城市は人口減少対策の一環として「保育料の完全無料化」を2023年度から実施すると発表。九州の人口10万人以上の自治体では初とあって、テレビや新聞などのメディアでも大きく報じられた。

この発表は、2023年4月からの新年度(2023年度)の入園申し込みが締め切られたあと。とは言え、無料化になるとは思わず、2023年4月以降に0〜2歳児を預けることが決まっていた保護者からすればサプライズのニュース。保育所や幼稚園などの保育関係者も驚かせた。

その他にも都城市は2023年度から、「中学生以下の医療費の完全無料化」「妊産婦の健康診査費用の完全無料化」も実施。保育料とあわせた「3つの完全無料化」は、子育てにやさしいまちとしての大きな看板となった。

そして2024年4月からの新年度、早くも数字に変化が現れた。減少傾向にあった都城市の保育・幼稚園の入所児童数が5年ぶりに増加に転じたのだ。

都城市の保育施設への入所児童数

出所:都城市役所
注:数字は公立・法人立の保育所、認定こども園、幼稚園、法人立の小規模保育事業所の合計

子育てにやさしいまちを謳う自治体は多い。しかし、人口10万人以上の規模で、ここまで強力な子育て支援策を打ち出す自治体は珍しい。その舞台裏を追った。

国から補助されない層をカバー

市が打ち出した3つの無料化のうち、最もインパクトをもたらしたのはやはり保育料の完全無料化だろう。2023年度予算として6億6831万円を計上。3つの中で、新規予算としては最も大きい額だ。

「3つの完全無料化」を周知するパンフレット(ポスター)。市役所を始め市内の至るところで見かける

保育料の無料化(無償化)自体は、消費税の増税分を資金源とした国の制度によって2019(令和元)年10月から全国的に始まっている。ただし、その対象は限定的だった。

国の制度ではまず、幼稚園や保育所、認定こども園等に通う「3〜5歳児」の保育料を無償化。一方で「0〜2歳児」は、住民税非課税世帯のみ無償。住民税非課税世帯以外は、保育所等を利用する最年長のこどもを第1子とカウントした場合、0〜2歳までの「第2子」は半額、「第3子」以降は無償となっている。

保育の無償化を紹介するこども家庭庁のWebサイト

子育て世帯には有り難い制度だが、少々複雑であり、0〜2歳児は限定的だ。

子育て世帯が多い30〜40歳代のうち住民税非課税世帯は9%程度(全国平均)ほど。ほとんどは課税世帯で、「保育料が高くて産めない」という声も挙がっていた。そもそも住民税非課税世帯の多くは年収100万円以下の単身世帯。脱・少子化策として、0~2歳児について住民税非課税世帯だけを支援することへの実効性にも疑問符がつく。

都城市の政策は、国の制度で無償化されていない0〜2歳児の保育料を、所得制限や子どもの年齢・人数に関係なく市の財源でまかなうというもの。つまり、すべての子どもが、保育料は0歳から無料。それが、“完全”無料化たるゆえんだ。

認可外保育施設等についても、都城市は国の制度では補助されない0〜2歳児の利用料を、保育の必要性の認定を条件に月額4万2000円を上限として無料化した。

「認可外保育施設等の無償化」について
国の制度では、認可外保育施設や一時預かり事業、病児保育事業、ファミリー・サポート・センター事業の利用料について、市町村から「保育の必要性の認定」を受けた「3〜5歳児」は月額3万7000円まで、住民税非課税世帯の「0〜2歳児」は月額4万2000円まで利用料が無償化されている。

市の試算によると、最も対象者が多い所得階層が同時期に2人を預けるケースでは、第1子の自己負担(月額3万9000円)と第2子の自己負担(同1万9500円)併せて、年間で70万2000円の保育料負担が軽減されるという。

0〜2歳児の保育料完全無料化は、少子化の課題解決に間違いなく有効。とは言え、財政負担は大きく、第1子から制限なく無料にしている自治体は人口数万人規模を中心にまだわずか。大都市では、大阪市の横山英幸市長が今年2月、2026年度から完全無料化にする方針を表明しているくらいである。

そうしたなか、約16万人の人口を抱える都城市は、新規に7億円弱の予算を投じ、完全無料化へと踏み切った。そのプロジェクトが走り始めてから実施までわずか半年余り。驚異的な速度で実現へと至った。

人口に左右される無料化策

「子育て支援で新たな政策を打ち出したい。市内の未就学児の保護者は、市になにを求めているのか。リサーチしてほしい」

2022(令和4)年9月、当時、保育課などを抱える福祉部に、そんな依頼が池田宜永(たかひさ)市長から舞い込んだ。

人口の層の厚い高齢者が亡くなる「自然減」が増える一方、子どもが産まれる「自然増」は減るばかり。この国全体が抱える人口減という課題に市として独自に向き合いたい、という池田市長の思いが背景にあった。

指示を受けた福祉部は、未就学児の保護者にアンケート調査を実施。結果、子育ての経済的負担、とりわけ保育料の影響が大きく、第2子以降の出産に向かうことができないことが浮き彫りとなった。当時、調査に関わったこども部保育課の有馬洋視副課長はこう話す。

こども部保育課の有馬洋視副課長

「母親が就労しないと園に預けられない。仕事で稼いだお金は保育料に取られてしまう。そんな状況を苦にしているというのは、窓口で保護者と話をするなかで感じていました。それがアンケート結果にも現れた格好です」

新たな政策の一つとして、保育料無料化の拡充が定まった。だが、最初から「完全無料化」ありきではなかった。

2022年11月、保育施設を管轄する保育課は無料化に向けたプラン作成と対象人数や財源の試算に取りかかる。想定したプランは主に「第1子を無料化」「第2子以降を無料化」「すべてを無料化」の3つ。対象となる想定児童数は順に844人、1095人、1939人と増える試算だった。

第1子無料化は初子を誘発できるかもしれないが、第2子以降につながるかは不明であり、ともすれば一人っ子政策になってしまう恐れがある。「すべてを無料化」が最もインパクトが大きいのは言うまでもないが、重い財政負担がのしかかる。人口増、多子化を念頭に置けば、第2子以降の無料化が現実的だった。

岩手県では2023年度から、第2子以降の0〜2歳児について独自に保育料の無償化を実施している岩手県のWebサイトより)

実際に、人口約40万人の大阪府枚方市や同30万人の兵庫県明石市、同10万人の長崎県大村市など、比較的人口の多い自治体が第2子以降の保育料を負担している例はある。岩手県も2023年度から県全域で、第2子以降については年齢にかかわらず、保育料を無償にしている。

岩手県宮古市や秋田県にかほ市、福島県南相馬市など、第1子からすべての無料化を実施する自治体も存在する。だが、いずれも人口は数万人規模だ。

九州でも、大分県豊後高田市や福岡県田川市などがすべての無料化を実施しているが、それぞれ人口約2万1000人、約4万5000人。宮崎県内では都農町、西米良村、諸塚村の3自治体がすべての無料化に踏み切っていたが、いずれも人口は数千から1万2000人規模と小さい。

少なくとも当時、人口10万人以上ですべての無料化を果たしている自治体は九州では存在しなかった。

すべてのA案か、第2子以降のC案か

2022年の年の瀬。保育課は、急ピッチで調査や分析を進め、プランをまとめていた。池田市長への年内の提出を目指したからだ。

現場には「市長は2023年度の政策の目玉として考えているのだろう」という予感があった。本来、2023年度予算に組み込むには、前年の2022年9月か10月頃には予算案を財政課に出さなければならない。特別扱いの案件でも、年明け1月上旬がデッドラインだ。

間に合わせるには、12月の仕事納めまでにプランを見てもらう必要がある。問題は部署としてどう結論づけるか、だった。

都城市が検討した保育料無償化のプラン案
無償の対象者 対象人数 効果など
すべての児童 1939人
  • すべての子育て世帯の経済的負担を軽減
  • 効果やインパクトが最大だが財源がネック
第1子 844人
  • 第1子への経済的負担を軽減
  • 初子を誘発。第2子以降につながるかは不明
第2子以降 1095人
  • 多子世帯、あるいは多子を望む世帯への経済的負担を軽減
注:都城市への取材をもとに編集部が作成。各案の対象人数は2022年10月時点

最終的に、すべてを無料化の「A案」と、第2子以降を無料化する「C案」に絞った。市役所としては2人目にチャレンジしてほしい。その意味ではC案でも妥当性がある。A案のほうが効果的であることは言うまでもないが、財源がネックになる。

幸い、2022年度のふるさと納税による寄附額は好調だった(最終的に約196億円に達し、2年ぶりの全国1位に返り咲いた)。しかし、すでに子育て支援の財源として寄附金を活用してはいたものの、毎年度の支出が必要になる「経常的な費用」に充てることを池田市長が自制していたという事情もある。

保育料の無料化は一度始めたら、なかなか後戻りはできない。まさに経常的な費用であり、市長の決断が求められることになる。

提出資料では2案を強調し、気持ちA案を推したが、内実は「A案もありえなくはない。でも、落とし所はC案なんじゃないかという思いだった」とプランをまとめた有馬副課長は振り返る。

有馬副課長らは2022年末に向け急ピッチでプランをまとめた

だが、その予想は裏切られた。

年が明けて2023年1月4日の仕事始め。保育課の課長に呼ばれた有馬副課長は、「市長がA案で行くと決定した」と告げられた。市長が意を決したのだ。

「まさか、全額ですか!?」。その時の驚きを有馬副課長は今でも鮮明に覚えている。「結論を聞いた時は、保育課の職員全員がざわつきました。いきなりすべてはないだろうと思っていたので」。

そこからは怒涛の日々。先んじてすべての無料化を果たしていた岩手県宮古市の人口は約4万8000人(当時)と比較的多い。人口約16万人の都城市からすれば少ないものの、参考にはなる。宮古市の担当課に教えを請うなどして、3月末の瀬戸際まで要綱と予算を作り込み、新年度の制度開始になんとか間に合わせることができた。

「記者発表のあと、保育所などの施設長を呼んで説明会も開きましたが、相当、驚いていました」と有馬副課長。驚きをもって迎え入れられたのは、保育料の完全無料化だけではない。

子ども医療費の完全無償化の効果

2023年度の当初予算を見ると、3つの完全無料化の残りについて、中学生以下の子ども医療費が6億1252万円、妊産婦健康診査費が1億4180万円となっている。

子ども医療費は、2023年度の新規予算ではなく拡充。従前からも市が負担をしてきた。

未就学児の医療費を無料化していた市は2020年度から、その対象を中学生まで拡大。入院・調剤費用や、通院費用の一部を補助し、自己負担は受診する医療機関ごとに月200円としていた。この自己負担を2023年度に廃し、完全無料化とした。そのために、子ども医療費向けの当初予算を前年度から3700万円ほど積み増している。

宮崎県内の自治体を見ると、ほとんどが中学生までの入院費用を無料化しているものの、通院費用については一定の自己負担を設けている市町村もある。

宮崎県内における乳幼児医療費助成事業の実施状況宮崎県のWebサイトより)

高鍋町や国富町など、都城市を除く県内25自治体中15自治体が入院・通院費用ともに無料化していたが、いずれも人口2万人以下。宮崎市や延岡市を始めとする人口2万人以上の8市町村で、都城市は初めて完全無料化を実現させた。

担当するこども部こども政策課の中津川智史主幹によると、完全無料化を果たした2023年度は、「コロナ禍が明けて医療機関を受診しやすくなったことなども手伝い、想定以上に子どもの受診が増えた」という。そのため、急きょ2023年12月の補正予算で7億4089万円へと増額することになった。

たかが200円、されど200円。「インフルエンザなどの流行の影響に加えて、自己負担がなくなったことによる心理的な影響もあったのではないか」(中津川主幹)と分析している。

「妊婦健康診査(14回)」や「子宮頸がん検査(1回)」といった妊産婦健康診査費はそれまで、1万2000円の自己負担が必要だったが、こちらも23年度からすべて無料とした。「産婦健康診査(2回)」「多胎妊娠の妊婦健康診査(5回)」に加えて、「妊婦歯科健康診査(1回)」も新たに追加し、安心して産める環境を整えた。

切れ目のない重層的な子育て支援

アクションはこれにとどまらない。2023年度には「3つの新規・拡充」と銘打ち、「出産・子育て応援事業」を拡充。国の交付金を活用して1億3053万円の予算を確保し、妊娠届出時に5万円 、出産後に5万円を交付することにした。

その他、「家事・育児への支援」「母子生活支援施設整備への支援」への予算を新規で計上。後者は2658万円を投じて母子の保護とともに、自立促進や育児支援を目的とした生活の支援、相談及び助言を実施する支援施設の整備を支援した。

翌2024年度も、3つの完全無料化を継続。ただし当初予算は、前年度の計14億2263万円から計15億6149万円へと膨らんでいる。次のテーマで取り扱う「移住政策」による人口増の効果や、子ども医療費の利用増を織り込んだ結果だ。

結婚から妊娠・出産、乳幼児、小中学生まで、あらゆる支援を用意

さらに、3つの新規・拡充も継続した。24年度は、妊娠・出産後に計10万円の電子クーポンを交付する。

ほかに、子どもの送迎支援や預かり支援を行う「ファミリー・サポート・センター事業」では送迎支援時の燃料費を市が補填。自治公民館加入者が送迎支援を利用する際の利用料を2024年9月から無料とした。預かり支援は引き続き半額を市が負担し、1時間あたり300円(土日祝日は400円)で利用できる。周囲の自治体と比べるとかなりの低水準だ。

市による子ども・子育て支援はほかにもある。

一般不妊治療費の助成(上限3万円)、放課後児童クラブの増設、病児保育の利用料の実質無料化、ひとり親家庭支援(相談員や貸付金)、母子・父子等の医療費助成……。

妊娠・出産・子育てと、各フェーズに応じた切れ目のない重層的な支援環境が整っている。こうした経済的な支援策だけではなく、市を挙げて子育て支援に取り組む「体制づくり」にも注力しているから余念がない。

機運高める「こどもまんなか会議」

2023年度、都城市は子どもと家庭に対する施策を総合的に推進するため組織改編を行い、福祉部から業務を分離したうえで「こども部」を新設した。言わば、部署の格上げだ。

さらに、2023年4月に施行された「こども基本法」に基づき発足したこども家庭庁が推進する「こどもまんなか社会」の実現に、市として敏感に反応した。

2023年8月、都城市が中心となり「第1回こどもまんなか会議」を開催した

2023年8月、市が中心となり、保育園や福祉関係者などが委員を務める「第1回こどもまんなか会議」を開催。子どもたちが将来にわたって幸せな生活を送れる社会実現に向けた官民一体の会議体で、今年度に策定予定の「都城市こども計画(2025年度から5カ年計画)」に意見し、その推進も見守る役割を担う。

こども家庭庁は、「こどもまんなか」の趣旨に共感・賛同し、自らもアクションに取り組んでいる個人や地方自治体・団体・企業を「こどもまんなか応援サポーター」と位置づけ、その活動をあと押している。

都城市と都城市こどもまんなか会議は、この応援サポーターになると宣言。市内の企業や組織にも、応援サポーターへの参画を呼びかけている。基本は市への届け出制で、こどもを尊重し、実践する「こどもまんなかアクション」を宣言すれば、サポーターになれる。

すでに30ほど集まっているサポーターの一つがイオン都城店。「全天候型の無料の遊び場を設置し、こどもたちがアクティブに遊べる空間を創出します」とし、「イオン都城ショッピングセンター」内に親子で楽しめる遊び場を設置するほか、子育て支援団体や子育てサークルへ無償で活動の場を提供している。

保育施設への入所率に変化

子育て世帯への経済的支援を中心に、行政組織の改変や官民協働の体制づくりまで多面的な政策を展開する都城市。3つの完全無料化という大きな柱を、様々な支柱が支える総合的な戦略の効果は、冒頭で示したように早くも現れている。

2024年4月からの24年度、幼稚園を含む保育施設への0〜5歳児の入所児童数は、前年度比281人増となり5年ぶりに上向いた。うち0〜2歳児は増加分の75%に相当する211人。保育料の完全無料化が奏功したことがうかがえる。

ただし、手放しで喜んでもいられない。

24年度、都城市の保育施設の定員数はほぼ横ばいなのに対して、入所児童数が増えたため、定員に対する未就学児(0〜5歳児)全体の入所児童数の割合(入所率)は「92.5%」まで上昇した。0〜2歳児の入所率が前年度から大きく跳ね上がっており、保育施設のキャパシティーは危険水域に入ったと言える。

都城市の保育施設への入所率

出所:都城市役所
注:入所児童数・定員数ともに、公立・法人立の保育所、認定こども園、幼稚園と、法人立の小規模保育事業所の合計。「人口に対する入所率」の母数は、それぞれ全体が0〜5歳人口、0〜2歳児が0〜2歳人口

一方、未就学児全体の人口に対する入所率も年々、漸増しており、24年度は「78.5%」に。0〜2歳児の人口に対する入所率はより上向いており、24年度は「62.4%」まで跳ねた。グラフの角度を見ると、0〜2歳児の子を持つ保護者を中心に保育施設へ預けようと考える人々が増えていることが分かる。

こうした傾向は、今後も続くだろう。というのも、2023年度から24年度の差分に「自然増」が含まれているとは考えにくいからだ。子育て環境が充実したからとて、即座に出生数が増えるわけではない。保育料のせいで預けられなかった保護者の変質に加え、移住者が増えたことによる「社会増」の影響が大きく寄与したと思われる。

2024年度以降、2023年度中に「これなら安心して産める」と考えた人々の子が生まれてくる。移住者を増やす政策強化も続くなか、“本当のインパクト”が訪れるのはこれから。その時、保育の受け入れ体制が課題となるのは明白だ。

だからこそ、都城市は手を打った。

保育人材の確保でも新たな策

2024年度、都城市は保育人材の確保に向けた新たな策に着手。保育士等の資格を有し、これから市内の保育施設に就労する保育士に対して、「就職支援金」と「継続支援金」を最大で40万円支給することにした。

保育人材の確保に向けた支援事業を周知するパンフレット(ポスター)

さらに、保育士や児童の受け入れ増に取り組む施設に対し、「保育士サポーター」の配置に要する費用として1施設あたり年間120万円を支援。これらの保育人材確保策に計1億1711万円の予算で臨んでいる。

市外(三股町、曽於市、志布志市を除く)から移住して来る保育士には、併せて「移住応援給付金」も支給される。例えば、単身者の保育士が中山間地域に移住し、市内保育施設に就職した場合、計120万円を得ることができる。

予算は、常勤職員が98人分、支援金が半額になる非常勤職員も98人分を確保した。すでに相談件数は2024年5月末時点で延べ77件に達し、16人の保育士が制度を利用して新たに就労。目論見は当たりつつある。

変化を捉え、将来に備えた先手。まさに「隙のない子育て支援」と言える。

子育て世帯の経済的な負担を軽減させ、子どもが増える自然増へと導く行政。それを迎え撃つ保育の現場もまた、変わりつつある。

「保育の質」はどうなっているのか。実際に、現場に出向いて確認した。

(次回に続く)

  • 筆者
  • 筆者の新着記事
井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

  1. 「保育料完全無料化」の舞台裏 本気の子育て支援、隙のない多面的政策

  2. 周産期医療で都城が先⾏する理由 中山産婦人科医院・中山院長の理解

  3. 全国トップクラスの周産期医療 都城医療センターにつながる命の波形

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