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地方から始まる変革 #03

なぜ霧島酒造は脱炭素に本気なのか 江夏拓三 代表取締役専務が語る真実

なぜ霧島酒造はこんなにもサステナビリティや脱炭素へ本気なのか。「焼酎粕は宝」と言い続けてきた霧島酒造の江夏拓三 代表取締役専務に、本気の理由や背景を語っていただきました。

なぜ本気になれるのか

—— 地球環境のサステナビリティ(持続可能性)、特に脱炭素社会の実現につながる取り組みが、あまりに大規模かつ広範囲です。なぜ霧島酒造は、こんなにもサステナビリティに対して本気なのでしょうか。あるいは、本気になれるのでしょうか。

霧島酒造の江夏拓三 代表取締役専務

江夏 私どもが使っているさつまいもや、そこから作る焼酎の量は、桁違いの規模です。東京ドーム640個分の畑から来るさつまいもから、一升瓶で年間5000万本を製造している。900mlの「五合瓶」に直したら1億本、日本国民に1本ずつ配れる量です。

一方で、焼酎を作ったあとに年間21万トンもの「焼酎粕」が残る。とんでもない量です。燃やすとか、畑に還元するとか、そんなことでは、とても処理しきれません。きちっとしたことをやっていかない限り、うちはもう次がない。このままいったら危ない、生産を止めないといけないところに追い込まれる。というのが見えていた。

九州中を探してもうちの量を処理できる人たちはいません。産廃処理業者が処理できる量じゃない。だから、自分たちでやるしかない。自分の足で立つしかない。

じゃあ、決断を下すしかない。何十億円かかったとしても、焼酎粕からバイオガスを作るエネルギー化をどーんとやっていこうと決めたわけです。

脱炭素にかける霧島酒造の凄み[前編] 「さつまいもリサイクル」の全貌

—— 膨大な廃棄物に対して責任を持たざるを得ない、必要に迫られて決断したということですね。焼酎を作る過程でも、膨大なエネルギーを消費しています。霧島酒造が費やしているすべてのエネルギーを「ジュール」に換算した資料を拝見しました。

江夏 当社の工場全体のエネルギー消費量、排出量、それから仕入れているさつまいもが持つエネルギー量、処分した量など全部を調べて、あの表ができあがったんです。

霧島酒造のエネルギー収支(霧島酒造提供、「TJ」はテラジュール)

江夏 ジュールの計算って、ぱっと簡単にできるものじゃない。温排水がどれくらいの熱量かとか、それが1時間あたり何トン流れてとか、そういう計算を全部集積しないと出ない数字なんです。うちの社員が何人も何カ月もかかって、やっと出てきた。

そうしたら、年間で943テラジュールという、すごいエネルギーを使っていたんですね。これは一般家庭7万3000世帯分に相当します。都城市が7万世帯弱ですので、都城市の全家庭のエネルギー(電力消費量)とだいたい似たような量を、当社1社で使っている。

会社として、やっぱりそのエネルギーに対する責任も持たないといけない。そう思います。

日本最大級のバイオガス発生量

—— その責任の一端が、1日約3万4000ノルマル立方メートル(N㎥)ものバイオガスを生み出す巨大なリサイクルプラントに表れています。

江夏 うちの焼酎粕自体がふんだんにエネルギーを持っていて、有機物の量を示すいわゆる「BOD(生物化学的酸素要求量)」という指標では、5万ppmもある。それを有効活用できるかどうか。やっぱり巨大な装置を含めて、いろいろなことをやらないといけない。

そこに対する投資は、今までの累積で言ったらとんでもない額だと思います。リサイクルプラントの建設だけでも、何十億円かはしています。

最初に鹿島建設さんから、「うちは建設会社なので、作るならこの規模、大きなものになる」と言われて、僕は「えーっ、そんなにでかいの!?」と驚きましたが、10年、15年単位で見ると安いものになっていると、今では思います。

—— 何十年という計画なのですね。

江夏 そうですね。自然から恵みを得たものを無下に捨てることはできない。しっかりとまた自然に循環させなければいけない、という考えで、焼酎粕と言えども捨てたらだめ。得られたものは「宝物」として有効に活用すべき。この循環をずっと前から考えていた。

46年前、1977(昭和52)年に入社してから、僕はずっとそのことを言い続けています。

入社と同時に社内でケンカ

江夏 じつは入社した当時、焼酎粕は“厄介者”だから燃やして処理しようということになり、社内で議論になったことがあります。

当時、バベルの塔みたいな円筒の装置の中で、焼酎粕を上から霧のようにまいて、重油のバーナーで一気に燃やす技術があり、それを入れようとしていた。

僕は入社と同時に、「そんな無駄なことをすべきじゃない」と反対しました。うちの親父が社長だったけれど、当時の課長さんや部長さんの勧めもあって、やろうということで、結局、焼却施設を建ててしまった。

建てたはいいけれど、ちょうどイラン革命の時期で、油が高くなった。2倍ならまだしも、3倍、4倍と上がっていったんですね。

焼酎粕を燃焼するのに1日あたり軽トラ1台が買えるくらいの燃料費で済むはずが、クラウン1台分になった。

当時は、今みたいに300日も操業できていなくて、100日間しか焼酎を作っていなかったけれど、それでも年間で100台のクラウンを買うのと同じ額の重油代がかかってしまうということで、それで、燃やすのをやめたのです。

—— しかも輪を掛けてCO2も出る。単に燃やすのですから。

江夏 そういうことは、その当時は考えていません。とにかく、焼酎粕は“公害”であると。いち早くそれを処分しないといけないということで、本当に厄介者としての取り扱い。だから、考え方自体が間違っていたんです。

新入社員だった僕は、その時点で「焼酎粕は宝である」と言いだして、当時の部長さんや課長さんとも机を叩いてケンカしましたからね。

不思議なことよね。今こうしてバイオガスを生んでいるのが。そのときから、もう46年ですから。

「臭い」に泣かされた飼料と肥料

—— 焼却のプロジェクトがとん挫して、どうしたのでしょうか?

江夏 慌ててやったのは、4トンか5トンの焼酎粕が入る「サイロ」を50カ所くらいに設置して、下にホースをつけて、乳牛に飲ませよったんです。この辺は牧場が多いですし、焼酎粕は豊富な栄養分を含んでいますからね。

ところが、2年か3年か続いたのちに、焼酎粕を飲ませると牛乳に臭いが出るという話があがって、それもできなくなった。実際に牛乳に臭いが出ることはなかったと思うのですが、恨みつらみを言うより、自分たちで処理していこうということで、今度は土壌還元を始めました。

「ツーデフ」と呼ばれる大型の2軸トラクターを買って、僕も畑に撒きに行きよった。すぐにロータリー(耕運機)をかけると、微生物が分解しますから、1日で臭いはなくなる。ただ、そのまま放置して雨が降ったり、風が吹いたりすると、臭いが出る。

加えて、焼酎粕は、そのままでは窒素分が多く、リンとカリを足してあげないと葉っぱだけが茂ってしまうとか、いろいろなことが出よったんですね。ですから、大半は廃棄せざるを得ない状況がしばらく続きました。

—— 「黒霧島」が売れに売れ、「赤霧島」の人気と相まって大ブームになり、日本一になって、どんどん粕は増える。従来のやり方で処理しきれるものではなくなっていくわけですね、成長とともに。

江夏 そういうことです。あれこれと知恵を絞り続け、ようやくたどり着いたのが、メタン発酵によってバイオガスを発生させるエネルギー化です。

鹿島建設さんとの共同開発ということで、最初にうちも鹿島さんも同じ分のお金を出し合って、実験から着手しました。「成功するかどうかわかりません。それでもやりましょう」と始めて、うまくいき、どんどんと規模を拡大しながら、今に至ります。

これを、世界中に持っていけるかもしれません。「かもしれません」という仮定ですけれど、夢があります。

その場で否決、「2030年」に上方修正

—— リサイクルプラントが軌道に乗り、2021(令和3)年11月には「2030年度までに工場と事務所からのCO2排出量を実質ゼロにする」という、とんでもない目標を宣言しました。

脱炭素にかける霧島酒造の凄み[後編] 他社も巻き込み「CO2実質ゼロ」へ

江夏 あれは、3年くらい前、2020年くらい。当社のサステナビリティ戦略を担うグリーンエネルギー部が「2050年までにCO2をゼロにします」なんて言ってきたので、もうその瞬間に駄目だと。生ぬるいことを言っているなと思った。

江夏 今、地球環境だ何だと騒がれているなかで、うちはこれだけのエネルギーを使って、これだけの有機物を出している。世の中に迷惑を掛けたらいかん。地球環境をきれいにせないかんということで、その場で否決して「2030年までにやりなさい」と言ったんです。

僕は、ダイナミックに物事を考えて、ダイナミックに行動していくことの重要性というのを、いつも若い連中に言っています。これだけの量の焼酎を作るって、単一工場ではあり得ないことであって、ダイナミックに考えていかないと追いつきません。

—— 今回、ニチレイロジグループ本社との協働の発表がありました。自社から出る焼酎粕にとどまらず、バイオガスの原料となる食品クズなどの廃棄物を他社からも引き受け、ガスを増産していくという試みは、大きな転換です。

江夏 まずは、当社向けのさつまいもを加工したときに出る芋クズを1カ月30トンほど引き受けます。ニチレイさんに聞いてみたら、ほかにもイチゴのへたとか、いろいろな青果の食品クズを持っておられると。それらをかき集めて、ちょっと圧縮してもらって、うちに持ってくれば、リサイクルプラントにどんどんと入れられるわけです。

今回、よかったなと思うのは、これまで厄介者だった食品廃棄物を通じて、企業間の友好というか、ウィン・ウィンのコラボレーションを生むことができたこと。

だいたい企業というのは壁がありますからね。その壁をぶち破ってでも、いいことはやりましょうよという気には、経営者も従業員もなかなかならない。

でも、これを皮切りに、うちも含めて、企業間で仲よくしましょうというコラボが増えていくんじゃないでしょうか。有機物を扱っている企業は全国にある。今回のニュースを聞かれて、いろいろな社長さん同士が話されたり、実務担当者同士が話したりして、次々とそういうことが起こるんじゃないかと期待しています。これから、素晴らしいことが起こると。

だから、スタートとしては非常によかったと思います。

全国から集まってくる若者が活力に 

—— 「地方創生」と言われてから丸8年経ちましたが、東京一極集中や過疎化といった課題は解決していません。地方はなにを武器に活力を得ていけばいいのか。「サステナビリティ」や「グリーン」といったキーワードが大きなカギの一つとなるのではないでしょうか。

江夏 やっぱり一生懸命やっていると、今、ネットの時代だから、皆さんそれを見ているんですね。うちの行動を全国の人たちが見ている。

それで、これまでだったら考えられないようなところ、例えばスキーで有名な蔵王から来たり、長野県の大学でエネルギーを勉強して博士号を取った人がうちに入社したりしています。

うちの会社で博士号を取りなさいと言って取った人はたくさんいますよ。だけれど、自分で博士号を取ってうちに来たいという人はなかなかいない。博士号があれば、どんな一流企業でもどこでも行けるはずですが、うちに来てくれました。

そういうように、当社のグリーンエネルギー部に入りたいという学生が全国からやって来る。エネルギー変換の技術がある霧島酒造で仕事をしたいと、若者が応募してくるわけです。それは、やっぱり活力になると思います。

—— 地域活性にも貢献されていますね。

江夏 焼酎の生業というのは、この地方でじわじわ愛され、そうこうしているうちに宮崎県の人に支えられ、どんどんと九州全体に広まっていった。だから、やっぱり地域に還元しないといけない、という気持ちになります。

それと、今までの企業というのは誰かが儲けるためにやっていたのかもしれないけれど、まずは全従業員の物心両面の幸せを願うことが大事であって、この基本があって初めて社会にまたいろいろな還元ができるんですね。

これは、僕が稲盛和夫さんの盛和塾で勉強させていただいたことですが、そのとおりだと思います。

江夏 だから、一人ひとりの従業員さんが喜んで働けるよう、少しでも幸せになるように仕向けていく。それが、地域への貢献にもつながる。従業員さんが喜ばない会社はもうアウトです。

うちの企画室でも今、男性が半年間、育休を取りだしたりしています。そういうのも、お互いに協力して力を合わせながら、大いにやろうと言っています。

結局、従業員さんが喜んでいるとこっちも明るくなるし、冗談も言えるしね。たまに叱っても、ちゃんと実現してくれます。偉そうに威張ってばかりいても仕方がない。そういうことで、やっぱり経営には基本理念というのが大事なのだと思っています。

次回に続く)

地方に寄り添うシフトプラス 巨大市場の黒子が狙う次の官民“共創”

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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