「対外的PR戦略」、次のステップは?
都城と言えば「日本一の肉と焼酎」。そのイメージを強烈に植え付けることによって、まずは都城市の知名度を上げる――。
池田宜永市長の号令で2014(平成26)年度から実行された「対外的PR戦略」。その戦略が奏功し、今ではすっかり「肉と焼酎」のイメージが定着した。都城市のふるさと納税返礼品一覧を覗いても、肉に気圧される。焼酎の存在感も大きい。
日本一の肉と焼酎は、都城市のふるさと納税の求心力となり、都城市への寄附額は過去3度も「日本一」を記録。さらに「8年連続トップ10」入りへと導いた。まさに肉と焼酎様様である。
だが、ここで立ち止まってほしい。
対外的PR戦略のゴールは「肉と焼酎を全国に売る」ことではなかった。まずは、肉と焼酎の力を借りて「都城市」を全国に売る。次のステップで、その知名度や集客力を生かし、あらゆる特産品を売るという中長期的な戦略だった。
詳しくは、「都城市ふるさと納税大躍進のなぜ[後編] 日本一へ導いた市長の慧眼と職員の覚醒」をご覧いただきたい。
都城市ふるさと納税大躍進のなぜ[後編] 日本一へ導いた市長の慧眼と職員の覚醒
これまで追ってきたように、肉と焼酎が人気を博し、戦略の前半戦は成功したことは明白。だが、戦略の後半戦は果たして成功しているのだろうか。肉と焼酎以外の返礼品はどうなっているのだろうか――。
今回は、この誰も確かめようとしなかった「肉と焼酎以外の返礼品の人気」「対外的PR戦略のその後」にフォーカスする。
じつは「肉と焼酎」だけじゃない、驚きのデータ
今回、Think都城が入手したデータによると、対外的PR戦略は後半戦も成功している、と結論づけることができる。
都城市のふるさと納税受入額(寄附額)のうち、返礼品ごとの細かい内訳はこれまで公表されてこなかった。今回、Think都城の取材に対しても、都城市のふるさと納税を管轄する「ふるさと産業推進局」は、「詳細は開示できない」とした。
だが今回、「肉と焼酎」カテゴリーとそれ以外について、概ねの比率を初めて知ることができた。それが、以下のデータである。
2014年10月のリニューアル時から1年間は完全に「肉と焼酎」に絞ったため、並ぶ返礼品も寄附額も当然、肉と焼酎が100%ということになる。翌2015(平成27)年度は、肉と焼酎以外の返礼品を10月に“解禁”したものの、やはり品数にも寄附額も、肉と焼酎が圧倒的に強かった。
しかし、リニューアルから8年目となる2021(令和3)年度のデータを見ると、肉と焼酎が強いことに違いはないが、それ以外の返礼品が大きく伸びていることがわかる。品数として約半分。寄附額としても36%を占めるまでに成長した。
2015年度と2021年度ではふるさと納税全体の市場規模も都城市へ入る寄附額も、絶対額が大きく異なる。15年度の都城市への寄附額は約42億円。対して21年度は約146億円。その36%の約53億円が肉と焼酎以外の返礼品によって生み出されたことになる。
肉と焼酎以外の返礼品だけで、初めて日本一に輝いた2015年度の寄附額を超えているのだ。
では、肉と焼酎以外の返礼品で、なにが強いのだろうか。なにが都城の新しい“武器”となっているのだろうか。
「ゴルフ用品」をめぐる規制
前述のとおり、返礼品ごとの寄附額や申込数の詳細は公表されていない。よって、寄附額や申込数による「返礼品ランキング」を作ることはできないが、相対的に強いカテゴリー、あるいは人気が急上昇している返礼品を知ることはできた。
まず押さえておきたいのは「ゴルフ用品」だろう。その前に、少々説明が必要だ。
総務省は2015(平成27)年4月、「ふるさと納税の趣旨に反するような返礼品(特産品)」として、「換金性の高いプリペイドカード等」「高額又は寄附額に対し返礼割合の高い返礼品(特産品)」を挙げ、返礼品として送付しないよう規制を始めた。その規制対象は毎年、具体的になり、種類が増えていく。
2016(平成28)年4月の総務大臣通知で明文化された項目には「ゴルフ用品」も加わった。
ふるさと納税は、経済的利益の無償の供与である寄附金を活用して豊かな地域社会の形成及び住民の福祉の増進を推進することにつき、通常の寄附金控除に加えて特例控除が適用される仕組みであることを踏まえ、次に掲げるようなふるさと納税の趣旨に反するような返礼品(特産品)を送付する行為を行わないようにすること。
- 金銭類似性の高いもの(プリペイドカード、商品券、電子マネー・ポイント・マイル、通信料金等)
- 資産性の高いもの(電気・電子機器、貴金属、ゴルフ用品、自転車等)
- 高額又は寄附額に対し返礼割合の高い返礼品(特産品)
この時点で、都城市のふるさと納税もいったんは通知に従い、ゴルフ用品を返礼品から外している。だが、こうした旧制度がリセットされた。
新しい改正法のもと2019(令和元)年6月から始まった新制度においては、ゴルフ用品という文言は消えている。都城市も新制度下において、「当市におけるゴルフ用品は問題ないか」という確認を総務省にとったところ、「問題なし」との見解を得たため、2019年11月からゴルフ用品を復活させた。
なぜなら、都城市にとってゴルフ用品とは歴とした「特産品」だからである。
「ダンロップゴルフクラブ」のお膝元
そもそも、都城市は寄附額を手っ取り早く増やせる「高額返礼品」として、ゴルフ用品を返礼品としていたわけではない。
世界のゴルフプレーヤーに愛されているダンロップブランドの「XXIO(ゼクシオ)」「SRIXON(スリクソン)」といったゴルフクラブ。国内はもとより世界へ供給する国内唯一の会社が都城市にある。ダンロップゴルフクラブだ。
カーボンシャフトの製造からヘッド塗装、ゴルフクラブの組み立てまでを都城本社の敷地内にある工場でこなし、修理も請け負う。長年に渡る⽣産技術の蓄積から⽣まれた「Miyazaki」シャフトは、アマチュアからトッププレイヤーも愛⽤するブランドとなった。
都城市ふるさと産業推進局の野見山修一副課長によると、「ふるさと納税のなかでは、ダンロップゴルフクラブの商品を提供する自治体は都城市だけで、オンリーワン。地域の宝であり、最も人気の返礼品の一つ」という。
世界のツアーで活躍するダンロップ・スリクソンの契約選手、松山英樹プロの活躍が著しくなってからは、都城市の返礼品の人気も急上昇。2022(令和4)年度、ダンロップゴルフ関連の返礼品による寄附額は前年度比1.4倍となった。
ダンロップゴルフクラブも地域の企業としてふるさと納税に協力的といい、牛、豚、鶏肉各々や焼酎に匹敵するほどの大きな貢献を果たしているという。
根強いファンを持つ「愛のスコール」
南日本酪農協同の「愛のスコール」「ヨーグルッペ」も、“オンリーワン”の地場産品として根強い人気を誇る返礼品だ。
南日本酪農協同は1960(昭和35)年、宮崎と鹿児島の酪農協同組合が「消費者に新鮮な牛乳・乳製品を安定して供給する体制を確立したい」と出資して設立した牛乳・乳製品メーカー。都城市に本社を置き、2021(令和3)年度の売上高は316億円と、九州の乳業メーカーでトップの売上げを誇る。乳性炭酸飲料のスコールは今でも稼ぎ頭として健在だ。
スコールは1972(昭和47)年、日本初の乳性炭酸飲料として発売され、ほどなく全国へと流通していった。関西地区ではセブンアップ飲料(現・チェリオコーポレーション)が、神奈川県・静岡県・山梨県では富士コカ・コーラボトリング(現・コカ・コーラボトラーズジャパン)の子会社が取り扱った。
1970年代半ばには中京地区、70年代後半には東京地区でも発売。高度経済成長下でボーリング場などの自動販売機の定番商品にもなり、人気を博した。
だからだろうか。今でも高齢者を中心に「懐かしの味」として楽しむ根強いファン層を抱えており、ふるさと納税で都城市が取り扱いを始めて以降、毎年安定した申込数がある人気返礼品となっている。
2022年10月、ふるさと納税サイト「ふるなび」が東京・有楽町駅前広場で開催したイベント「ふるさと納税マルシェ」。ここに都城市も出展し、くじ引きも実施した。1等は5万円相当の宮崎牛。2等はサーロインステーキ。3等は参加賞としてスコール1本を配ったが、この評判がすこぶる良かったという。
イベント会場で接客対応した野見山副課長は、「はずれの3等でも、『うれしい!』『懐かしい!』と言ってもらえる。スコールと聞いただけで『おー!』という反応がある。本当に愛してくれているファンが多いんだな、と実感しました」と相好を崩す。
ベジエイト「島津甘藷 紅はるか」
「甘いもの」も都城市ふるさと納税の大きな武器となりつつある。近年、「ものすごい人気」(同前)というのが「さつまいも」だ。
焼き芋の定番として全国的にもその名が知られるようになった糖度の高い品種「紅はるか」。産地も全国に広がっているが、じつは「都城生まれ」であることはあまり知られていない。
紅はるかは、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の「九州沖縄農業研究センター都城研究拠点」で、10年にわたる研究期間を経て開発され、2010(平成22)年に品種登録された比較的、新しい品種。
鹿児島県、大分県、千葉県、茨城県での生産量が多いが、生まれ故郷である宮崎県も負けていられないと、近年、力を入れる農家や農業法人が増えている。その一つが、都城市に本社を置くベジエイトだ。
2012(平成24)年設立のベジエイトは、青果野菜の生産・加工・販売へのシフトで付加価値を高め、急成長している農業生産法人。従業員数は62名。売上高は約6.6億円(2021年7月期)と、農業生産法人としては比較的大きい部類に属する。
その主力良品が、紅はるか。ベジエイトでは「島津甘藷 紅はるか」という独自ブランドを冠して全国に出荷しており、これがふるさと納税の返礼品としても人気となっている。
焼き芋ブームはこれまでも定期的に起きていたが、コロナ禍で気軽にテイクアウトできるスイーツとしてブームが再燃。「全国やきいもグランプリ」が2020(令和2)年から開催されているほか、都市部を中心に焼き芋専門店が急増中だ。
この波に乗り、2021年度、ふるさと納税の返礼品として提供しているベジエイトの紅はるかは前年度比2.1倍と、大きく申込数を伸ばした。2022年度は、それをさらに上回る勢いで推移しているという。
長崎に伍する「御献上カステラ」
スイーツ部門で注目に値するのが、和洋菓子コジマヤが提供する「御献上カステラ」。カステラといえば同じ九州の長崎県が有名だが、御献上カステラも負けじと、ふるさと納税のカステラの人気ランキング上位に食い込むほどの返礼品に成長した。
1899(明治32)年創業のコジマヤのカステラは、1935(昭和10)年と1973(昭和48)年の二度にわたり、天皇陛下に御献上した実績がある由緒ある品。代々、店を次ぐ者しか焼くことが許されず、今は5代目の平岩良介専務取締役がそのほとんどを焼いている。
都城市へのふるさと納税には、2017(平成29)年に返礼品提供事業者として加わった。参入にあたり、常温で保存できるハーフサイズの新商品を開発。パッケージも、著名な書家「紫舟(ししゅう)」さんが制作した宮崎県都城市の公式PRロゴを入れ刷新し、オリジナリティを加えた。平岩専務はその開発経緯をこう語る。
「1本ものの大きなカステラは要冷蔵で、袋を開けたら、あとはどんどん乾燥していく。2人くらいで食べ切れるくらいのハーフサイズにして、なおかつ真空にすれば、常温でも発送でき、寄附者さんも冷蔵庫で保管する必要がないので邪魔にはならない。寄附者さんの利便性を追求した結果、このかたちになりました」
ハーフサイズで常温保存できるカステラの返礼品は、当時、コジマヤの御献上カステラだけ。参入当初はほとんど数が出なかったものの、独自開発の甲斐があって、徐々に人気が上昇。2021年度は、申込数が参入初年度に比べて1466%増となる人気返礼品へと育った。
2022年度はふるさと納税ポータルサイトのカステラ部門のランキングで、一時期2位に浮上するなど、さらに勢いを増している。
「伸びている実感は?」という質問に、「常に仕事に追われながら、嫌というほど実感している」と平岩専務。
「頑張れば、あと2倍くらいの量は用意できると思います。それ以上はお待ちいただくかたちになるかと。ほかにも、『チーズ饅頭』『くずバー』などのお菓子も返礼品に出しているので、お肉などとセットで返礼品にしたり、お茶屋さんとスイーツを共同開発したりするコラボレーションなども増やして、もっと伸ばしていきたい」
「肉」を拡張する新商品「鶏のたたき」
都城市のふるさと納税は、確実に肉と焼酎以外の地元事業者の意欲も掻き立てている。最後にご紹介したいのは、加工品として「肉」のカテゴリーに入るものの、新たな可能性を見せてくれる返礼品だ。
2021年12月、「都城産赤鶏 鶏刺し たたき 真空パック」という返礼品が新たに都城市のふるさと納税に加わった。宮崎牛がメインだった都城市の“肉”に、新たな付加価値をもたらすルーキーだ。
鮮度の良い生食用の鶏肉を軽く炙った「たたき」や、そのまま食す「鶏刺し」は、九州人のソウルフード。宮崎県や鹿児島県など九州南部を中心に、日常的に食べる文化が根付いている。都城市は最も鶏のたたきや刺し身が食される地域の一つ。スーパーマーケットなどでも簡単に手に入るポピュラーなつまみだ。
関東など都市部のスーパーマーケットにはまず置いておらず、都会の人間が食すとしてもたまに鶏専門店で味わうくらい。そこで、九州のソウルフードを都会でも気軽に楽しんでもらおうと、ふるさと納税の返礼品ラインアップに鶏のたたきや鶏刺しを加える自治体がこの数年で増えており、ふるさと納税の市場拡大に寄与しつつある。
都城市の繁華街に店舗を構える鶏専門店の「たしろ屋」も「間違いなくニーズはある」と踏んで参入を決意した一社。返礼品向けに、鶏のたたきの真空パック商品を新たに開発した。たしろ屋を経営するC&Cカンパニーの下田代祐樹社長はこう話す。
「生物なので気を遣う商品。カットするとき以外は冷蔵保存を徹底しています。カットするときも冷房をガンガン効かせ、なるべく涼しい環境で手早く処理するようにしている。解凍したらすぐに食べられるよう、トレーに綺麗に並べるなどの工夫もしました」
同じ九州地区のライバルがいるなか、たしろ屋のたたきは参入2年目の2022年度、前年比3.9倍と申し込み数を急増させ、ふるさと納税全体の鶏のたたきのカテゴリーで大きな存在感を見せている。
「現状の出荷量は、製造能力の限界の7割ほど。鶏のたたきカテゴリーで1位を狙えるところまで来ており、店内調理のキャパシティだけでは追いつきそうもない。2022年の年末には品切れになる可能性もある」(下田代社長)という急成長ぶり。
そこで、たしろ屋は「セントラルキッチン」を新設する方針を固めた。2023(令和5)年度、鶏のたたきの真空パッケージ製造を中心とする製造拠点を都城市内に設け、生産能力を大幅に向上させる。「目標は?」の問いに、下田代社長は「それなりの投資をするので、10倍は行かないと!」と鼻息は粗い。
「肉と焼酎だけじゃない!」と言わんばかりに、オール都城で首位奪還を目指す都城市のふるさと納税。2022年度の結果はいかに。2023年4月には大勢が判明する。
(次回に続く)
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