「夢のような組み合わせ」と隈研吾氏

霧島酒造本社に隣接する「KIRISHIMA GREENSHIP icoia(イコイア)」
「霧島酒造とスターバックスがコラボレーションし、施設の建築を手がけるというお話を最初にいただいたとき、夢のような組み合わせだなとびっくりしました」「日本そして世界を代表する2つの企業がここ『都城』でコラボレーションするということは、ドリームマッチ、夢でしかありえない」――。
2026年1月27日、霧島酒造とスターバックス コーヒー ジャパン(以下、スターバックス)の2社による複合施設「KIRISHIMA GREENSHIP icoia(以下、イコイア)」がオープン。建築を手がけた世界的建築家の隈研吾氏は、イコイア開業のセレモニーでこう評した。

イコイアの建築を手がけた隈研吾氏(堀之内恵子撮影)
深く知れば、これがリップサービスではないことがわかる。
「スターバックス コーヒー 都城 KIRISHIMA GREENSHIP icoia店」がイコイアの中核。だが、それだけではない。
詳しくはイコイアの全貌を描いた前回記事に譲るが、施設内には霧島酒造の直営店舗「KIRISHIMA LIFE STORE ipomea(以下、イポメア)」や、ガラス張りの植物園「めぐりの森」もある。屋外には芝生エリア「いこいの庭」と屋上庭園「見晴らしの丘」が広がり、「たい肥クラブ」の拠点にもなっている。

店舗を抜けると芝生エリア「いこいの庭」が広がる
これらのコンセプトや設計を霧島酒造とスターバックスが一体となって築いた。これほどの「共創」は2社にとって、初めてのことだ。
初ものづくしの稀有なプロジェクト
スターバックス側の視点に立てば、他企業とのコラボレーション自体、珍しいことではない。「TSUTAYA」や、スノーピークが運営するキャンプフィールドなど、他企業の施設内へ“テナント”出店をする事例もある。コラボレーションしてグッズを作ることもある。
しかし、今回の出店は単なるテナントとしてではない。イコイアの「プレスリリース」にはこうある。
「施設構想を考える段階から手を携え、オープン後のコラボレーション活動まで見据えて共創していくことは、両社とも今回が初めてとなります」——。

イコイアのエントランスでは両社のロゴが出迎える(堀之内恵子撮影)
全国に約2100店舗を展開するスターバックスも、霧島酒造も、こうした施設の建設や、継続する「協働」は前例がない。
スターバックス広報部の田中有紀氏は、こう話す。
「施設があるのは、霧島酒造さんの敷地で、建物を建てられたのも霧島酒造さんですが、弊社の設計担当も隣で並走しながら一緒に考えてきました。お客さまに届ける“体験”だけではなく、地域に寄り添い、未来の絵までも見据えた店舗づくりは、私たちも初めてです」
田中氏はPR担当でありながら、自身もプロジェクトに深く携わり、その内実をよく知る中心メンバーの一人。「設計担当は『スターバックスに入社してまさか植物園の設計を考えるとは思っていなかった』と言っていました」と当時のエピソードを話す。

イコイア内には亜熱帯植物園「めぐりの森」があり、誰でも自由に散策できる
もちろん、霧島酒造にとってもそうした他社との施設作りは初めてであり、大手の飲食店とコラボレーションをしたこともない。
両社にとって初ものづくし。よく考えれば、コーヒーとお酒は、ともに嗜好品のライバルであり、基本的には交わらない。
コーヒーと焼酎を代表する2社がなぜ手を取り、世界的に活躍する建築家に“夢”とまで言わしめた共創が実現に至ったのだろうか。8年前の出会いまで遡り、“知られざる”ストーリーを紐解いていく。
「奇跡の出会い」と出店の相談
「霧島酒造さんとの出会いというのは、本当に“奇跡の出会い”でした。のちに対話を重ね、お互いを知るなかで、両社が大切にしている部分がすごくマッチした。だからこそ、あの場所が生まれたのだと思います」(スターバックス・田中氏)

スターバックス コーヒー ジャパン広報部の田中有紀氏(イコイア提供)
発端は2017年、スターバックスの一団が霧島酒造を視察に訪れたことだった。
スターバックスには優れた店長を表彰する制度があり、選ばれた店長向けに社外の企業訪問などの研修を実施している。その訪問先が霧島酒造だった。
それまでは北海道の酪農家や沖縄のコーヒー農園など、本業にダイレクトに関わりのある訪問先が多かったが、2017年は「地域貢献」という文脈で、霧島酒造の本社を訪問することになったのだ。のちにこれが“縁”を紡ぐきっかけとなったと田中氏は話す。
「じつは私たち、当時まだ都城に店舗展開ができておらず、出店をずっと考えていたんですね。やはり『10号線』は一番の大動脈ですし、ドライブスルーのお店があったらいいよねと、社内では検討をしていました」

10号線沿いにそびえる霧島酒造の本社工場(堀之内恵子撮影)
検討を進めるなか、霧島酒造の敷地に目がいった。今のイコイアがある場所ではないが、本社工場の近隣にスペースを見つけた。
「ここってもしかして霧島酒造さんの敷地なのではないかな、みたいなところから、ちょうど研修で店長たちがお世話になっておりましたので、改めてお礼とともに、出店のご相談ができないかと霧島酒造さんにご連絡を差し上げたのが2020年のことです」
このスターバックス側からのダメ元の提案に、霧島酒造は悩んだ。約半年間、社内での喧々諤々の議論を経て、今のイコイアがある場所をスターバックスの出店候補地とすることが承認されたのは、2021年3月の社内会議だった。
とはいえ、この時点で今のイコイアになるとは誰も想像していなかった。

霧島酒造 企画室PR課の山崎優希氏(イコイア提供)
「スターバックスさんというと、すごく大きな先進的で都会的な外資系企業、みたいなイメージ。都城にまだ店舗がないなかで、私たちも最初は“黒船”が来たというか、どう出店するのだろうかと身構えていたところがあります」
早い段階からスターバックスとのプロジェクトに参画していた霧島酒造 企画室PR課の山崎優希氏は、当時の雰囲気をこう語る。
しかし、現場の担当者らによる「初顔合わせ」で空気は一変した。
可能性を感じた初回「ミーティング」
霧島酒造側での社内承認を受け、2021年4月、スターバックスの一団が霧島酒造本社を訪れ、両社の初ミーティングが持たれた。
この時点では霧島酒造側で社内承認が下りていたに過ぎず、スターバックス側での正式決定もない。“テナント候補と貸主”という関係に過ぎなかった。だが、両社のメンバーによる「ブレストミーティング」の場を設けたことで、共創への一歩を踏み出した。
本社工場の敷地にスターバックスを作るとしたら、どんな店舗がいいだろうか――。
夢を語り合うような場で、なにかを決めるわけでもない。それでも、現場担当から多数のアイデアが飛び出した。
以下が、霧島酒造側のメンバーから出た「アイデア」の一部だ。



ブレストミーティングで霧島酒造側から出たアイデアの一部(イコイア提供)
エコ、くつろぎ、アート、ネイチャー、温水、排熱、亜熱帯、サステナビリティ、地域、霧島山……。今のイコイアにも通ずるキーワードが、アイデア出しのメモにいくつも散らばっていた。
そして、不思議とスターバックス側から出たアイデアも似通っていた。



スターバックス側から出たアイデアの一部(イコイア提供)
「本当に柔らかいワークショップというかブレストでしたが、なんか似ている匂いがする、じゃないけれども、実現していきたいことを一緒に寄り添ってやっていけるかもしれない、みたいな可能性をお互いに感じた瞬間だったと思います」と田中氏。
このミーティングを境に、コーヒー屋と焼酎メーカー、テナントと貸主という関係性は「パートナー」へと昇華。いわば「恋の予感」を感じた両社は、約1年半後、急接近する。
「普通のスターバックスじゃない」
スターバックス社内でも出店に関する稟議が通った。だが決まっていたのは「霧島酒造の敷地への出店」のみ。事態が動き始めたのは、2022年の秋口のことだ。
この頃を、前出の霧島酒造・山崎氏はこう振り返る。
「それまでは、スターバックスさんの店舗開発や営業の方が窓口になっていた印象ですが、2022年の秋口頃から田中さんも入られて、都城の地域について一緒に考え、地域の皆さんと店舗でどんなことができるのか、『ソフト面』のお話をするようになりました」
スターバックスの田中氏はこう続ける。
「そうですね。そのあたりから『この店は普通のスターバックスじゃない新しいやり方ができるんじゃないか』という考えが社内で持ち上がり、そこで私たちも呼ばれて、一緒にプロジェクトとして秋口からオンラインでミーティングを重ねていました」
スターバックスで広報・PRを担当する田中氏がジョインしたのには理由がある。
通常の店舗開発のプロジェクトにプランニングの段階から広報・PR担当が入ることはほとんどない。だが、「企業コラボレーション」「地域との共創」の色が濃くなりそうだったイコイアのプロジェクトには、それなりの経験者が必要だった。
そこで白羽の矢が立ったのが、スターバックス25周年に実施した「47JIMOTOフラペチーノ®」など、地域関連のプロジェクトに深く携わってきた田中氏だった。

47都道府県それぞれの特色を生かした「47JIMOTOフラペチーノ®」(スターバックス提供)
このあたりから、スターバックスと霧島酒造はお互いのことを深くまで知り、本格的な“交際”へと発展することになる。
じつは、両社に共通する価値観や行動が多いことに気づかされたのも、この頃だったと霧島酒造の山崎氏は言う。
「まだ、夢を語り合うようなかたちで会議をさせていただくなかで、2社ともに、地域に根ざして事業活動をしていることや、先進的な環境への取り組みをしていることがキーワードとして出てきて、じつはすごく価値観が似ていると感じたことを覚えています」
スターバックスと地域。どういうことなのか。
地域とつながるスターバックス
「スターバックスというと、どうしてもコーヒーの会社、フラペチーノの会社、みたいなイメージが非常に強いんですけれども、じつは私たち、それらと同じくらい、地域との関わり方、つながり方も非常に大切にしております」と田中氏。
今や全国2100店舗以上。だが、全国チェーンながら、それぞれの店舗が地域固有のつながりを育んできた。例えば京都二寧坂ヤサカ茶屋店は、日本家屋をそのまま店舗にし、京都の文化を伝えていく店づくりとなっている。

京のまちに溶け込むスターバックス京都二寧坂ヤサカ茶屋店(スターバックス提供)
一見“普通”に見える店舗でも、地域コミュニティの拠点機能を備えることもある。宮崎市の「スターバックス ティー&カフェ イオンモール宮崎1階店」では、子育て支援のNPO法人と組み、月に数回「子育てひろば」を開催している。
「小さいお子さんを連れての外出はハードルも高く、外に出づらい方もいらっしゃる。ティーを片手に会話をしたり、悩みを共有したりするママの居場所づくりをNPOさんと一緒にやっています」と田中氏。
対象はママに限らない。防災に興味があるひと、認知症患者の家族……。各店舗が、あらゆるコミュニティを醸成している。
今年で創業110年を迎える霧島酒造もまた、地域との共生を重視してきた。
これまで30年以上、地元の食素材を社員自らが取材して紹介する広告企画を地元紙で展開。そこで得た生産者との繋がりなどを生かし、2000年からは地域の食や文化を発信するイベント「霧島まつり」を開催している。地域へ感謝を伝えるイベントとしても定着し、2日間で約3万人を集めるまでに成長した。
2022年秋口から始まったスターバックスと霧島酒造の新たな“交流”のなかで、そうした事例や思いが両社から共有され、お互いに刺さった。
もう一つ、共感を生んだのが、環境への取り組みである。
共通する「かす」、資源化の歴史
紙製ストローの導入や使い捨て紙カップの削減などにもいち早く着手し、環境への対処を着実に進めてきたスターバックスは、「コーヒーかすリサイクル」にも取り組んでいた。
コーヒー抽出後に出る「コーヒーかす」は1店舗1日あたり平均約11kgで、店舗が排出する食品廃棄物の約7割に相当する。この資源化に2014年から乗り出した。
2014年、コーヒーかすによる「食品リサイクルループ認定」を初めて取得し、リサイクルされた飼料や堆肥から生まれた牛乳や野菜が、ふたたび店舗でラテやサンドイッチとして提供される「循環」を確立。10年以上にわたって積み上げてきた。
このリサイクル実施店舗は2025年6月時点で全国約1000店舗まで拡大。年間約4000トンの廃棄物削減効果があるとし、2030年までに国内全店舗でのリサイクル実現を目指す。
対して霧島酒造にも「焼酎かすリサイクル」の歴史がある。焼酎の製造過程で出る大量の「焼酎かす」を、長年の試行錯誤の末にバイオガス化してきたのは既報の通り。
コーヒーかすを資源化するスターバックスとは「副産物を有効活用する」という思想で同じ系譜にいる。商品は違えど、構造は同じ。両社が組む必然につながったと田中氏は語る。
「地域活動や環境への取り組みは、スターバックスも霧島酒造さんも、それぞれのやり方でずっとやってきたこと。ですが、2社が交わることで、新たな価値を提供できるのではないかという可能性を感じた」
地域と環境という軸は揺るがなそうだった。では、どんな“新たな価値”を提供できるのか――。気づきとなったのが、2022年秋口からのオンラインミーティングに続いた「ワークショップ」だった。
目線がバチっとあったワークショップ
霧島酒造・山崎氏、スターバックス・田中氏も交え、オンラインミーティングを何回か重ねたのちの2022年11月、リアルで顔を合わせるワークショップが開かれた。
メンバーがお互いの企業の共感できる点をポストイットに書き、ホワイトボードに貼っていくと、地域や環境への取り組みが目立っていた。
次のテーマは「地域を知る」。都城市の強み・弱みを洗い出した結果、あるエピソードが浮かんだと霧島酒造・山崎氏は話す。
「都城市って子育て世代も多いのですが、そうした方々が一息つける場所、“憩える”ところが意外とない。車の中が一人の時間、自分らしい時間を最も過ごせる空間になっている、というエピソードが上がりました。そこから、新しい施設がどうあるべきなのか、ヒントが見えてきたような気がします」

2022年11月のワークショップの様子。「エスケープできる場所」「車社会」「娯楽の少なさ」といった括りが見える(イコイア提供)
スターバックス・田中氏も、イコイアの名称の由来にもなった「憩いの場」という道筋がここで見えたと同調する。「“憩いの場”は、ただ過ごしやすいというだけでなく、地域の役に立てる場所、市民の皆さんにとっての気づきの場所にもしていきたいというところで、両社の目線がバチっとあった感じです」。
秋口に本格交際を始めた両社は、数カ月後の11月には早くも“婚約”一歩手前まで距離を縮めた。
そして、ともに作る施設を拠点にどんな活動ができるのか、具体的な検討へと踏み込んでいく。
コーヒーかすと焼酎かすから「たい肥」を作る
2023年3月に開催された2回目のワークショップは、事前にプロジェクトメンバーが考えた「地域活動」のアイデアを披露し、整理する場となった。

2023年3月、2回目のワークショップが開かれ、具体的な地域活動のアイデアを検討した(イコイア提供)
メンバー各自が書いてきた「エントリーシート」をテーブルにずらっと並べ、「一人5票」分のシールを用意し、投票。最もシールを集めたのが、「コーヒーかすと焼酎かすを使ったたい肥作り」というアイデアだった。
先述のように、それぞれ、「事業活動で排出される廃棄物の資源化」に取り組んできた経緯がある。合流した先に、なにができるのか。
「『たい肥作り』って可能性ありますよね、というところが見えてきたのが、そのワークショップでした」と田中氏。ただし、こう釘を刺す。「たい肥作りは手段であって、目的ではない。たい肥作りをどう地域につなげていくかがポイントだったので、霧島酒造の皆さんに、大阪のスターバックス店舗での取り組みの視察に来ていただきました」。
ちょうどその頃、コーヒーかすと地元の森林組合から出た木材チップを原料としたたい肥作りのプロジェクトが、スターバックスの河内長野高向店で進んでいた。

スターバックスの河内長野高向店で取り組んでいる「たい肥作り」(スターバックス提供)
同店舗がある大阪府南東部の河内長野市は、約7割を森林が占める。2021年9月、スターバックスの出店を機に、つながりのあった地元森林組合とのプロジェクトもスタートした。毎月、森林組合の面々と、店舗の庭先でたい肥作りを実施。スギとヒノキの苗木を育て、23年3月の植林へとつながった。
この先行事例を23年6月、イコイアのプロジェクトメンバーが現地で視察。これが、24年に都城で「たい肥クラブ」が立ち上がる大きなきっかけとなった。
詳細は前回記事に譲るが、こちらの特色はコーヒーかすに加えて、焼酎かすも混ぜ、たい肥にするところ。この取り組みが、テナントと貸主という関係を超え、2社が地域で共創するパートナーであることを示す象徴となった。
もう一つ、互いにパートナーであることを確信させた大きな出来事がある。
2社で地域活動、「霧島秋まつり」でコラボ
2023年11月最初の土日、霧島酒造が運営する「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」で、前出の「霧島秋まつり」が盛大に催された。コロナ禍を経て4年ぶりの開催とあって、心待ちにしていた市民が押し寄せた。

「霧島秋まつり2023」の様子(霧島酒造提供)
およそ90の飲食ブースが立ち並ぶ傍ら、霧島酒造と他企業の「コラボレーション体験ブース」も目立っていた。一角に、「霧島酒造グリーンエネルギー部×スターバックス」のブースもあった。
この時点でイコイアの構想は未発表。それでもプロジェクトメンバーは、「一緒に活動する」ということを試してみたかったと田中氏は話す。「それまで、地域活動を2社でやったことがなかったので、まずは体感することが大事だということで、最初の場所として、霧島秋まつりを選ばせていただきました」。
なぜ2社が、と憶測を呼ぶリスクもあったが、前年の2022年6月、イコイアとはべつの文脈で、都城初となる「スターバックス コーヒー イオンモール都城駅前店」がオープンしていた。それを“言い訳”にできたという背景もある。

霧島酒造とスターバックスが初めて公の場でコラボレーションをした(霧島酒造提供)
「食べて!飲んで!未来へつなごう!イモとコーヒーのワークショップ」と題されたブースでは、コーヒーの抽出体験と、さつまいもとのフードペアリング体験が実施された。
焼酎に使われている「霧島裂罅水(キリシマレッカスイ)」でコーヒーを抽出。そのお湯を沸かす電力は、焼酎かすや芋くずから生成したバイオガスによる「サツマイモ発電」。霧島酒造の主力商品「黒霧島」などの原料であるさつまいも「黄金千貫」との食べ合わせが最適なスターバックスの豆をセレクトし、ペアリングを楽しむというもの。
霧島酒造でサツマイモ発電を担当するグリーンエネルギー部のメンバーも参加し、「ミニ環境教室」もセットで行った。

「イモとコーヒーのワークショップ」は盛況に終わった(霧島酒造提供)
1日3回の予約枠はすぐに埋まり、急きょ枠を1つ増やしたほど人気を博したこの試みは、改めてお互いを理解する機会となり、「両社にとって大きな成功体験となった」と田中氏は言う。
「地域と環境に関わる活動を一緒にやることができて、これならいける!みたいな可能性をさらに感じたと言いますか、やっぱり2社で手を結ぶことは大きなチカラになるんだなと確信したのが、その霧島秋まつりでした」
その確信は、翌年の正式な“婚約発表”へとつながる。
「イコイアは一段踏み込んだチャレンジ」
2024年7月、霧島酒造とスターバックスによる初のコラボレーション施設が都城にできることが発表された。
名称は決まっていなかったものの、「船」をモチーフにした建物外観のパース図が公表され、施設の主要なコンセプトや設計はすでに固まっていた。
この発表からオープンまで建設に約1年半を要したが、その間も、プロジェクトメンバーらによる協働は続いた。前回記事で報じた、たい肥クラブはその一つ。2024年の霧島秋まつりでもコラボレーションは連続で実施された。
イコイアがオープンしたのは、当初予定から少し前倒しとなった2026年1月末。当初から予想を超える来場者が押し寄せ、オープンから5カ月以上経った今でも、週末には長い行列ができている。

その意義をスターバックスの田中氏はこう総括する。
「これまでも地域との連携やつながりを大切にしながら店舗展開をしてきましたが、地域のお役に立つフェーズから、地域の課題解決に寄り添える、地域にとってなくてはならない存在となるフェーズへ進むためにできることはなんだろうと、ずっと考えてきました」
そして、こうつなげた。
都城から始まったチャレンジ
「一つの答えとして、地元を知っている皆様と一緒に店舗作りをすることで、もっと地域にポジティブな影響を与えられる存在になれるのではと考え、もう一段踏み込んだ新たなチャレンジをした。それが、今回の霧島酒造さんとのプロジェクトでした」
「当然、並走して、手を携えていただける企業様がいないとできませんが、この1店舗で終わらせるのではなく、ほかの地域でもこういった取り組みが広がっていけばいいなと思っています。私たちは今後、そういったフェーズに入っていきたいと思います」
地域とのつながりや環境への取り組みは、スターバックスの米本社が掲げる重要な方針の一つでもある。
イコイアのプロジェクトメンバーも視察した大阪の河内長野高向店のたい肥プロジェクト。本社CEOも来日時に視察し、大きな関心を寄せたという。
加えて、米本社は2020年1月、グローバル事業・サプライチェーンを対象とする環境ビジョン「Resource Positive」を掲げている。同社のプレスリリースによると「事業を通じて地球から受け取る以上のものを還す」という考え方で、2030年までに温室効果ガスの排出量・廃棄物を50%削減し、水資源についても50%を保全・涵養する目標だ。
グローバルでも大切にされる地域と環境。その方針を、日本のスターバックスが都城という地方都市で、霧島酒造や地域との共創というかたちで、体現したと言える。
この先、都城のイコイアから始まったチャレンジは、国内のみならず、世界へも伝播するかもしれない。両社が8年かけて辿り着いたイコイアの船首は、海の向こうへ向いている。
