深く多面的に、考える。

メディアリテラシー #16

デマ拡散に立ち向かう「対話型広報」 “誤情報”時代の「信頼」設計(1)

  • 止まらない「誤情報の拡散」にどう立ち向かえばいいのか。
  • デジタルを活用した新しい「対話型広報」がヒントになる。
  • デマに惑わされない政策遂行やコミュニティ作りを考える。
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    誤情報拡散から数日で打ち消し

    誤情報が政策を動かす時代。私たちは、なにを信じ、どう決めるべきか――。

    前回記事で見たとおり、国際協力機構(JICA)が打ち出した「JICAアフリカ・ホームタウン構想」にまつわる騒動では、ナイジェリア政府の誤情報発信などをきっかけに、海外メディアが報じ、「アフリカからビザなしの移民が日本に押し寄せる」といった根拠のない噂や批判がSNSで急速に拡散した。

    結果、同構想は撤回を余儀なくされた。公的機関によって誤情報が即座に否定されたにもかかわらず……。

    アフリカ・ホームタウン構想が明らかにされたのは、2025(令和7)年8月21日。ナイジェリア政府が誤情報を公表したのは翌22日で、その翌23日、英BBC傘下のアフリカ向けニュースサイト「BBCピジン」などがその誤情報を含む記事を配信している。この流れで、23日から24日にかけて、SNSで誤情報が急速に拡散した。

    この事態を重く見たJICAは25日、異例のプレスリリースを公表し、誤った情報や認識を打ち消そうとした。

    アフリカの現地紙等による報道や現地政府による発信の内容に、事実と異なる内容及び誤解を招く表現等が含まれております。

    (中略)現地の報道等の『JICAアフリカ・ホームタウン』のもとで山形県長井市がタンザニアの国の一部になると誤解を与えるような記載や、移民の受け入れ促進、日本と当該諸国との往来のための特別な査証の発給等の記載は、いずれも事実に反します。

    同日、JICAを所管する外務省も同様の報道発表を出している。各自治体も即座に“火消し”に走った。しかし、公式の「否定」はSNSでの拡散には無力だった。

    届かない公式の否定

    公式見解が出された後も、SNSのXでは「火のない所に煙は立たぬ」などと懐疑的な声がくすぶり続けた。

    JICAや外務省は、ナイジェリア政府や報道機関に対して訂正の申し入れも行っている。これを受けてか、26日にはナイジェリア政府が訂正する声明を発表。「The Tanzania Times」やBBCピジンなど誤情報を配信していたメディアも記事内容を事実に即して修正した。にもかかわらず、騒動は収まるどころか、火に油を注ぐ格好となった。

    分析ツール「Brandwatch」を用いてX(旧Twitter)のデータを分析したところ、「ホームタウン」という言葉を含む投稿は、8月23日から9月24日までの約1カ月間で441万件(リポストを含む)あったとNHKは報じている。JICAなどが否定情報を出したあとも、大量の投稿・拡散が続いていた。

    8月28日には松本尚 外務大臣政務官が記者会見で、こう語った。

    「説明をしても、それが誤解をされるとなると、これ以上はちょっとなかなか修正というか、止めることがなかなかできませんけれども、今回のことを奇貨として、やはりJICAも含めて説明をより詳細にやっていかなければ、こういった事態になるということは我々としても強く認識して、今後の対応に当たってまいりたいと思います」

    誤解をした市民を責めずに慮った発言。だが、SNSでは「ホームタウン計画を止めることができない」という旨の発言をしたかのような指摘が流れてしまう。たまらず外務省は9月4日の報道発表などで再度否定を重ねたが、通じなかった。

    誤情報の拡散は止まらず、ついにJICAは9月22日にホームタウン計画について事業の「募集停止」を発表。事実上の撤回となった。

    デジタルを活用した対話型広報

    ホームタウン計画の事業について取りやめとなったのだから、もはや反対する理由はないはず。だがJICAの撤回後もなお、抗議を続けるひとたちがいた。

    JICAホームタウン計画にまつわる騒動や反対デモは、撤回後も収まらなかった東京新聞のWebサイト

    「移民反対」「JICA解体」――。撤回後の9月26日、木更津市役所前で開かれた「アフリカ移民反対デモ」に100人以上が集結。陰謀論的な主張も広がったと東京新聞は報じている

    心理学では、訂正に触れることで、かえって「何か隠しているに違いない」と誤った信念を強化してしまう「バックファイア効果」という現象も知られている。ともかく、否定するほど、あるいは止めたとしても、かえって煽ってしまう結果となったのは事実だ。

    SNSの普及で、市民の情報入手経路や意見表明の方法が多様化している。紙・PDF・HP中心の“一方通行”の広報が届く前に、あらぬ噂が走るSNS時代において、ホームタウン計画の騒動は「旧来型の広報」に限界があることを露呈した。

    スマートフォンが主要な情報源となった現代社会。誤情報やデマもまた、同じ経路で社会へ広がっていくロストコーナー / PIXTA)

    行政や自治体はどう立ち向かえばいいのだろうか。カギとなるのが「デジタルを活用した対話型の広報」である。

    「相手の意見を聞き、自らを変容させる」という「対話型広報」自体は新しい概念ではない。だが、デジタルの普及により、その規模と速度が飛躍的に拡張。SNS、参加型イベント、AIチャットボットなど多様な窓口、チャネルを通じて、市民との対話を続ける「双方向のコミュニケーション」が当たり前の時代になった。

    ただし、「SNSの利用=新時代の対話型広報」という理解は浅い。紙やWebサイトで展開している広報を、単にSNSに置き換えれば良いわけではない。

    誤情報拡散への対策を例にあげれば、ある程度の取り組みが事後ではなく「事前」になされていることも重要。なにより「信頼」を醸成するための広報が求められている。

    オンラインで参加の裾野を広げ、反応を早く回す「デジタル活用の対話型広報」からもう一段階、昇華した対話型広報の“進化系”とも言うべき実例をいくつか紹介したい。

    受信側の「基礎体力」を養う鳥取県

    自治体はデマの拡散にどう対峙すべきか。先進的でユニークな事例として紹介したいのが、鳥取県の取り組みだ。

    同県ではフェイク情報(偽・誤情報)対策として、2024年11月に「フェイク情報対応実証チーム」を立ち上げ、拡散されている情報のモニタリングや注意喚起を行う実証に取り組んできた。

    「X」や「TikTok」などのSNSも含むインターネット上の拡散ワードをデジタルツールで常時監視。県内に関する拡散情報と、県による一次情報を照らし、必要に応じて鳥取県公式サイト「とりネット」や公式SNSアカウントなどを通じて注意喚起をしている。

    最近では、2026(令和8)年1月に山陰地方で地震が発生した際、「鳥取砂丘に巨大な亀裂が入った」「公園が池のように液状化した」といった、AI生成とみられる偽画像・偽動画の拡散を特定。実際の現地の写真を公開するなど「安心情報」を即座に発信し、さらなる拡散やパニックの防止に努めた。

    鳥取県はSNSなど出回る偽・誤情報に目を光らせ、実際の画像を提示することで注意喚起している(鳥取県「第3回鳥取県災害対策本部会議資料」より)

    しかし、これはあくまで「事後」の対策にすぎない。問題が起きてから打ち消すという構造自体は、ホームタウン計画と変わらない。

    従前から事後対策だけでは足りないと考えていた同県は昨年、新たなプロジェクトを発足させていた。それが「情報的健康とっとりプロジェクト」である。

    2025年6月、鳥取県はネット空間のリスクから県民を守るため、デジタル局を軸に、教育委員会や警察本部などが一体となる体制を敷き、同プロジェクトを始動。これは、情報リテラシーを個人の努力に委ねるのではなく、自治体が公共の課題として担うという宣言でもある。このプロジェクトの核にあるのが「情報的健康」という概念だ。

    食が身体をつくるように、情報は心をつくる。偏った食生活が不調を招くように、偏った情報摂取もまた、思考や感情を歪める。だからこそ、情報にも「バランス」と「習慣」が必要だ――。山本龍彦・慶應義塾大学教授や鳥海不二夫・東京大学教授らが提唱した知見を背景に、この情報リテラシーの重要性を”食”に例えたアプローチを実践している。

    誤情報が広がるたび、行政は「正しい情報」を出す。しかし、それだけでは足りない。いくら説明を尽くしても、受け手に“見抜く力”がなければ、誤情報のほうが先に心に届いてしまう。情報は、理屈だけでなく感情にも作用するからである。ならば、受信側の「基礎体力」をつけようという試み。概念は、具体へと落とし込まれている。

    2025年秋、「情報的健康スクールキャラバン」が県内4会場で実施され、延べ100名超が参加した。前半では、世界で8万人以上が体験した情報リテラシー教材「レイのブログ」を用い、参加者は情報の真偽を検証する「ファクトチェック」を実体験した。

    「レイのブログ」とは
    楽しみながら「メディアリテラシー」や「ファクトチェック」を学ぶことができる謎解きゲーム形式の体験型教育プログラム。慶應義塾大学の学生によって開発され、Classroom Adventureが運営している。2023年以来、世界10カ国で8万人以上の学生が体験した。

    ゲームは、プレイヤーが中学時代にタイムスリップし、「レイ」と名乗る謎の人物から挑戦状を受けとるところから始まる。レイが残したブログが手がかりとなるが、偽・誤情報が多く紛れている。プレイヤーは実際にインターネットで情報を検索しながら、真偽を判断する。その過程を繰り返すことで、レイの正体に迫ることができるというゲーム性が学生たちにヒットした。

    後半では、誤情報に惑わされないための啓発ショート動画を制作する「アイデアソン」にも取り組んだ。学ぶだけではなく、自ら教材を作り、誤情報対策を発信する側に回るという取り組み。受動から能動への転換である。

    2025年11月には、「ユースファクトチェック選手権世界大会」に向けた支援講座も開催され、14名が実践演習に参加。さらに、小中高生向けの学習ノートを整備し、家庭で親子が情報との付き合い方を話し合う仕組みも用意された。

    学校、家庭、地域を横断して、情報的健康を生活の中に根づかせようとしている鳥取県。誤情報は消えない。それでも揺らがない土台を育てようとしている。

    発信力の強化ではなく、受信力の底上げをする鳥取県の試みは、対話の前提条件を整える意味で効果的と言える。

    次に、フェーズが「対話」寄りへと進んだ事例を紹介したい。

    「応答」責任を明確にした北海道芽室町

    誤情報時代において、発信者が情報を出して終わる旧来型広報に限界があることは先述した。発信者と受信者のあいだに「信頼関係」が醸成されていなければ、いくら発信したところで伝わらない。

    関係性を積み上げるには、自治体などが住民の声を受け止め、応答する作業が不可欠。というわけで、次のステップとして北海道芽室町の事例に着目したい。

    北海道・十勝地方に位置する芽室町は、人口約1.7万人規模の自治体ながら、オンラインを活用した住民との意見交換を制度化し、継続的に実施している。それが、「めむろ☆未来ミーティング」だ。

    この取り組みは、従来の「パブリックコメント」とは異なり、町長や担当部署が直接、対話の場に出て「顔が見える場」を作ることを重視している。ミーティングは対面でもオンラインでも実施し、2020年度からは「Zoom」を用いたビデオ会議も制度化した。

    このオンラインとのハイブリッド開催によって、従来の対面式ではほぼゼロだった30代〜40代の参加率が大幅に向上。これまでリアルでの参加が難しかった子育て世代や現役世代の声を拾えるようになった。

    特筆すべきは、開催を希望する町民側が自らテーマを提示し、議題設定できる点。町民がテーマを持ち込み、町長や担当部署が応答する――。“放置”しない構造が特徴であり、住民への「応答責任」をともなう新たな関係性を作った。

    オンラインと対面の双方に対応し、情報発信と住民応答を同時に強化するこの取り組みは、信頼形成の土台を作る取り組みと言える。

    もっとも、人口約1.7万人という規模だからこそ、町長が直接対話の場に立ち、一つひとつの声に応答できるという側面はある。大規模自治体で再現することは容易ではないだろう。それでも、「声を受け止め、応答する」という原則そのものは、規模を問わず広報の基盤となりうる。

    応答が積み重なれば、次に問われるのは「誰がどう決めるのか」という課題である。

    鳥取県の「受信力」や芽室町の「応答」は、対話を進めるうえで極めて重要な取り組みだが、それはあくまで「入り口」に過ぎない。土台の先で対話は「熟議」へと移り、やがて「誰が、どう決めるのか」に至る。

    「合意」までをプラットフォーム上で完結させるには、予算編成や住民投票のような機能を備える高機能なデジタルプラットフォームと、住民のデジタルリテラシー、そして、行政内部の手続きとの接続という極めて煩雑で難儀な作業が必要となる。

    それでも乗り越えた先に、どんな景色が広がるのだろうか。この高いハードルに挑んでいる自治体が、海の向こうにあった。

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