都城市を代表する観光地がリニューアル
都城市の中心市街地から車で20分ほど北上した場所に、「日本の滝百選」にも選ばれた名瀑「関之尾滝」を中心とする「関之尾公園」がある。「高千穂牧場」や「観音池公園」などと並び、都城市を代表する観光地として長年親しまれてきた。
その緑豊かな公園が生まれ変わった。
2024(令和6)年4月27日、約1年半の工事期間を経てリニューアルオープンを迎えたのだ。都城の観光を盛り上げる起爆剤として、都城市の池田宜永(たかひさ)市長も大きな期待を寄せる。
「関之尾公園は都城市の大事な宝。今回のリニューアルは、この宝をこれまで以上に輝かせる取り組みだと思っています。宝を次の世代により良いかたちで引き継いでいき、都城市の活性化につなげていきたい」
リニューアルオープン前日の26日、オープニング記念式典に出席した池田市長はこう語った。都城市がいかにこのプロジェクトに力を入れてきたのかが伺える。
「全国各地のアウトドア派の方々がこぞって来ていただけるような施設になったのはもちろん、何より市民の皆様にもこれまで以上に来ていただきやすい施設になった」と池田市長が言うように、多くの人に親しまれた「関之尾公園」という名前は残しつつ、中身はこれまでと全く違う。
一度足を踏み入れて散策を始めると、その施設全体の異質さに気付く。
キャンプグッズや都城市の特産品も購入できる「ストア」や「レストラン」、「コテージ」などの宿泊施設が集結するエリアはすべてが真新しく、森の中にいることを忘れるほど小洒落ている。そこから10〜15分ほど歩いた場所にある「キャンプ場」は広大で、最新の設備も備えている。
それらの中心に鎮座するのは悠久の関之尾滝。周囲にも風光明媚な自然が広がる。
新しい施設のすべてが洗練された雰囲気を醸す一方、色合いや作り込み含めて自然の景観を邪魔しない設計・デザインとなっており、まるで元からそこにあったかのように調和が取れている。その様は既存のキャンプ場のイメージからはかけ離れ、森の中に突如として現れた複合施設やリゾート施設のようでもあるが、しっくりと来る表現は見当たらない。
ただの公園ではない。ただのキャンプ場でもない――。その全貌を1日で知るのは困難なほど広大で奥が深い。
新しい都城の観光にフォーカスする新テーマ「観光に吹く新風」。まずは、今後間違いなく都城市の観光をけん引するであろう「新生・関之尾公園」の魅力を、2回に渡って深掘りしていく。
スノーピークとの始まり
関之尾公園には、もともと地元のお土産品などを販売する「滝の駅せきのお」、宿泊やプールを楽しめる「関之尾緑の村」といった施設もあり、人気の観光スポットでもあった。
一方で、大半の観光客が少し立ち寄って離れてしまう「通過型」であったことに加え、近年では施設の老朽化や針葉樹の巨木化などが問題視されており、対策が急がれていた。
そこで市は、関之尾公園の雄大な自然環境を生かしつつ、より多くの人が訪れやすい場所とするため、国の交付金も活用しつつ総事業費約20億7000万円をかけて関之尾公園を整備することとなった。
最大の目玉は、人気アウトドアブランドのスノーピークが運営する「スノーピーク都城キャンプフィールド」が備わったことだろう。
同社が展開する直営キャンプ場(キャンプフィールド)としては、鹿児島・宮崎の南九州で初となる。
スノーピークの担当者と都城市が最初にコンタクトを取ったのは約5年前。小さな話し合いから始まり、キャンプフィールドを新設する候補地として関之尾公園内の南側にある「北前公園」が挙がった。
話し合いは進み、関之尾公園の再開発は単なるキャンプフィールド新設だけではなく、レストランや宿泊施設も備えた大規模な計画へと昇華。その提案が評価され、2022年7月、都城市は「関之尾公園実施設計及び管理運営業務委託事業者」としてスノーピークを指定管理予定者に選定した。
その後、市は2024(令和6)年4月1日から2029(令和11)年3月31日の期間、スノーピークを指定管理者として正式に選定。つまり、スノーピークはキャンプフィールドを作るだけではなく、関之尾公園のリニューアル全体の実施・運営・管理を任せられたのだ。
リニューアルの指定管理者としてスノーピークを選んだ理由として、都城市役所みやこんじょPR課の担当者は「関之尾の魅力を伝えられる設計」「地元のものを大切にする姿勢」「キャンプ場運営の実績」という3点を挙げた。
実績は申し分ない。同社が展開する直営キャンプフィールドは北海道・十勝から南は大分県・奥日田まで10カ所(都城を除く)。うち、十勝や奥日田を含む7カ所が自治体との連携による指定管理者制度を活用して運営されている。
今回の都城キャンプフィールドは自治体の指定管理者としては全国8カ所目。スノーピークの直営キャンプフィールドとしては全国11カ所目となる。ただし、全国に広がるスノーピーク直営キャンプ場の中でも「都城は特に珍しい」存在なのだという。
「ここ(都城)の業態は、我々が手掛ける中でも結構、珍しいと言えます。都城キャンプフィールドには『キャンプをしない方でも1日中楽しめる』というテーマがある。つまり、キャンパーでもキャンパーじゃなくても、どんな方でも自然に触れ合うことができて、楽しめる。既存のキャンプフィールドだとやはりメインはキャンパーの方が楽しめる場所となるのですが、ここはより多くの方が集う場所にしたかった」
スノーピーク都城キャンプフィールドの田中芳正店長がこう話すように、新生・関之尾公園や都城キャンプフィールドには様々な工夫が施され、魅力が引き出された。
田中店長は、スノーピークが運営するストア・宿泊棟・キャンプフィールドをメインに施設全体の管理・運営の責任を負う。その田中店長とともに、2時間以上をかけて公園内を歩いた。
最初に案内してもらったのは、メインとなるキャンプフィールドだ。
キャンプフィールド自体の魅力
チェックインは離れた場所にあるストアで行い、車でキャンプフィールドに移動してゲートを通過。そこには、合計100区画もテントを張れる広大なフィールドが広がっていた。
キャンプフィールドの施設や設備自体、本格的なキャンパーから、キャンプ未経験者の層までを惹きつける魅力に溢れている。
大きくひらけた「フリーサイト(計79区画)」をはじめ、車で直接乗り入れてテントに横付けできる「区画オートサイト(計21区画)」も用意。フリーサイトはAからEまで5ブロックに区切られ、ブロック内であれば好きな場所にテントを張れる。
トイレや炊事場がある「サニタリー棟」はフィールド内に2カ所。トイレは市街地の商業施設顔負けの清潔感で保たれ、すべて暖房・温水洗浄便座付きだ。洗い物ができる流し台は、いつでも温水が出てくる。
「お湯が出る設備は、油汚れも落としやすく、冬場も快適にご利用いただけます。ストレスを少なくする快適な環境作りは、ポイントの1つであります」
そう話す田中店長が続いて「すごいです」と案内してくれたのが、シャワー設備である。
シャワーに電源、充実の設備
管理棟脇にあるサニタリー棟には、シャワールームも設置されている。入口は暗証番号方式のオートロックで施錠されているが、チェックイン時に番号を教えてもらい、空いていれば24時間いつでも利用できる。
複数人でも利用しやすい大型シャワールームもあり、ファミリーでも安心して利用可能。キャンプ場にいることを忘れてしまいそうな空間で、田中店長が自慢するのも頷ける。
かつてのキャンプ場は、清潔感や利便性が乏しい印象があり、そのイメージから足が遠のいてしまっていた人も多いだろう。しかし、都城キャンプフィールドは、キャンプ場でありながら水回りの設備がかなり充実している。そこには、小さい子連れのファミリーや若い女性も気軽に来られるよう、細かな配慮が施されていた。
「最近では、女性が使いやすいキャンプ施設もスタンダードになりつつあります。女性が使いやすい、ということは『誰もが楽しめる』ということにもつながる。大型シャワールームやバリアフリー設計など、小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで楽しめる施設を目指しました」
「誰もが楽しめる」配慮は、水回りにとどまらない。管理棟にはスノーピークブランドの「焚火台」などキャンプに必要なレンタル備品も揃っており、10〜15分ほど歩いてストアまで足を伸ばせば氷や薪、地元直産品の食材まで調達できる。
後編で詳述するが、ストアではスノーピークブランドのテントやマグカップ、Tシャツといったキャンプギア・グッズも購入可能。都城キャンプフィールドでしか購入できない限定グッズも販売予定のため、マニアにはたまらないだろう。
電源を確保できるスポットも豊富だ。オートサイトのうち13区画ある「電源付区画オートサイト」では合計1500ワットの電源を利用でき、キャンプで利用するような電化製品であれば一通り使える。キャンピングカーなどの外部電源取り込みも可能だ。また、キャンプ利用者は無料でWi-Fiを利用でき、スマホを充電できるスペースも設置されている。
だが、こうした施設や設備は、都城キャンプフィールドの魅力を増す一要素に過ぎない。
「滝」が見えるキャンプ場
元々「北前公園」だったキャンプ場の周囲には、雄大な景色が広がっている。四方を山に囲まれているため、目に入るのは小さな集落と田園、そして野山だけ。耳をすませば鳥のさえずりと川のせせらぎが聞こえて来る。何とも言えない癒しの空間だ。
春は桜、秋は紅葉と、四季折々の風景も楽しめる。その顔は、場所によっても変化する。テントを設置できるフリーサイトのスペースは庄内川沿いに広がり、設置場所によって微妙に景観が変わる。そんな自然味溢れたキャンプフィールドの中でも、田中氏が「絶対に作りたかった」と語る特別な場所がある。
「広大なキャンプフィールドで、関之尾滝が直接、見える場所があるんです。最初はそこもフリーサイトにしようと思っていましたが、本当に景観が素晴らしいので、独立して切り分けるべきだと考え直しました」
田中氏がそう絶賛するのが「関之尾滝眺望サイト(10区画)」。広大なフリーサイトや区画オートサイトの先、キャンプフィールドの端に位置するが、関之尾滝には最も近い。実際にその場に立つと、絶賛の理由がすぐにわかる。
視界の奥に広がる圧巻の滝と耳に入る水音。取材した日は水量が多く、かつ晴天。大瀑布の様相を呈し、そこでしか感じられない刺激を独り占めしているかのような感覚に陥った。
「これだけ滝と近い距離感のキャンプ場はここしかないのでは。少なくともスノーピーク直営では都城だけ。全国でも、この規模の滝を直接見ながらテントで寝られる場所はほかにないと思います、うん」。こだわって作った関之尾滝眺望サイトから滝を眺めながら、田中店長はそう噛みしめるように語った。
ただし、関之尾滝眺望サイトの宿泊者だけが滝を独占するわけではない。少し歩けば関之尾滝を望めるスポットがいくつもあり、誰でも、いつでも堪能できる。
「大自然を行き来」する魅力
関之尾滝眺望サイトの向こう、キャンプフィールドを抜けて木々に囲まれた遊歩道を少し歩くと、リニューアルで新設された「女滝展望所」に辿り着く。
ここでは、正面に関之尾滝、右側には「女滝」と呼ばれる小さな滝を楽しむこともできる。滝壺側に立ちながら最も関之尾滝に近づける新スポット。オープンすれば、キャンプ宿泊者に限らず、多くの利用者が写真を取りに集まる場所になるだろう。
さらに滝に近づきたい場合は、遊歩道を登り、従来の関之尾滝展望コースへ合流すればいい。
キャンプ場から5分ほど歩けば、関之尾滝を最も間近で見られる吊り橋に到着。水量が多い時は水飛沫が飛んでくるほどの圧巻の光景を楽しめる。
自然の迫力はさらに続く。吊り橋を渡り、遊歩道を少し歩くと、滝の上部に辿り着く。そこには、川一面に甌穴(おうけつ)が並ぶ「甌穴群」が長さ約600メートル、幅約80メートルの川床に広がっている。
砂利や小石を巻き込んだ急流が渦巻き、川床を直径1~3メートルの円筒形に削り込んだ自然の創作。それが千数百も観察できる関之尾の甌穴群は世界最大規模と言われ、国の天然記念物にも指定されている。
田中店長はこの甌穴群にも熱い思いを抱く。
「今までは、関之尾公園では滝だけが有名だったけれども、じつは滝上にある甌穴群は世界最大クラス。自分は外から来た人間で、最初にこの甌穴群を見た時は本当に感動した。だからこそ、関之尾には甌穴もあるということを多くの人に知ってもらい、見てほしいんです」
元来キャンプ場は自然に囲まれ、自然を楽しむ場所。だが、スノーピーク都城キャンプフィールドは、フィールドの外にも迫力の自然が広がり、一体となっている。キャンプ場から歩いていける環境に、これだけの見どころが詰まった場所は稀有だ。
雄大な公園を行き来して、大自然を味わいながら過ごせる――。それこそが、都城キャンプフィールド最大の魅力なのだと田中店長は言う。
「これだけ広大なエリアを散策できて、世界に誇れる自然豊かな景色を楽しめるキャンプフィールドというのは、ほかにはなかなかない。キャンプ場というより、自然を主役にいろんな遊び方や過ごし方ができる総合施設というイメージ。それが、このキャンプフィールド1番の魅力であり、メリットだと思っています」
「自然を楽しめるキャンプ場ランキングがあるとしたら、1位だと思いますか」という問いに、田中店長は「1位を目指します!」と即答した。
全国から予約殺到、地元民も
都城キャンプフィールドが備える独自の魅力は、すでに一部のファンに伝わっているようだ。
「たぶん、予約開始でゴールデンウィークはすぐに埋まってしまうと思います」との田中店長の言葉どおり、2024年3月29日の一般予約開始から全国から予約が殺到した。
連休期間、4月27〜28日、5月3〜5日の休日・祝日はすでに開業前の時点で満サイト。中日の平日は若干の空きがあるものの、埋まりそうな勢いという。
予約は、関東や関西などの都市部のほか、スノーピークの本拠地がある新潟からもあった。ただし、田中店長が「都城市在住の方も結構、予約を入れてくれているんですよ。それはうれしかったです」と言うように、地元からの注目も集まっている。
スノーピークが手がけることで、市外・県外からのキャンパーや観光客を呼び込む効果が生まれることは間違いない。地元民からも愛される施設となれば、関之尾公園の価値はさらに高まり、盛り上がっていくだろう。
関之尾公園の大自然と一体となった都城キャンプフィールド。その魅力は、ほかにもある。
ただの公園ではない。ただのキャンプ場でもない。後編では、キャンプフィールドや大自然以外の魅力を深掘りしていく。