国道10号沿いに現れた“船”

国道10号沿いにある霧島酒造の本社工場手前に新たな施設がお目見えした(堀之内恵子撮影)
都城を南北に貫く大動脈、国道10号を南下すると、右手に巨大な霧島酒造の工場群が見える。その景色が変わった。
2026年1月27日。霧島酒造本社工場に隣接する敷地に、新たな複合施設「KIRISHIMA GREENSHIP icoia(以下、イコイア)」が誕生した。

2026年1月27日、「KIRISHIMA GREENSHIP icoia(イコイア)」がオープンした(堀之内恵子撮影)
中心となるのが「スターバックス コーヒー 都城 KIRISHIMA GREENSHIP icoia店」。都城では2店目で、ドライブスルーも備える。
しかし、ここはただのスターバックスではない。

ドライブスルーを備えるスターバックスは都城初(堀之内恵子撮影)
施設内には霧島酒造の直営店舗も入り、お酒とコーヒーが同居。巨大な船をイメージさせる建物の屋上には庭園があり、屋内にはガラス張りの亜熱帯植物園がある。そして、施設全体で進められる活動に市民も参画している。
霧島酒造とスターバックスの出会いから8年以上。イコイアは「地域」と「環境」をテーマに誕生した。両社にとってここまで密接にかかわり合い、施設や店舗を築いた例はない。
施設の構想段階から協働

オープニングイベントで挨拶をする霧島酒造の江夏邦威社長(堀之内恵子撮影)
「この『KIRISHIMA GREENSHIP icoia』は、弊社が長年大事にしてきた、自然環境と地域社会への思いを胸に、構想段階から本日に至るまで、スターバックス様と手を取り合って作り上げた施設です」――。
霧島酒造の江夏邦威(くにたけ)社長は、オープニングイベントの挨拶でこう話した。
霧島酒造とスターバックス双方ともに、店舗や施設の構想段階から協働するコラボレーションはこれが初めて。それだけに、イコイアには両社の“思い”がふんだんに詰め込まれている。

店舗や施設の構想段階からともに手を取り合い作り上げた(堀之内恵子撮影)
2017年にスターバックスの従業員が研修で霧島酒造を訪問したのがきっかけで交流が生まれてから長い月日を経て誕生したイコイアは、企業コラボレーションの新たな可能性も示す。
その歴史を把握すれば、イコイアの特異性や希少性がさらに浮き彫りとなる。都城で起きていることの大きさに気づくはずだ。
全国的にも珍しいイコイアの誕生と内実をどこよりも深掘りする2本立て。初回ではまず「イコイアの全貌」を理解し、続く記事では焼酎とコーヒーの覇者が組む「夢のコラボレーション」が実現した理由を追っていく。
隈研吾氏の「集大成」、溶け込む自然素材
イコイアのコンセプトは「地域社会や自然環境への想いをのせて未来に進む、みんなの憩いの場」。地域と自然という軸で未来に前進する船をイメージして「GREENSHIP icoia」と名づけられ、「いこいに、いこう」という意味も込められた。

ロゴは、左上から都城盆地の夕日・温かな大地・木々の若葉・霧島裂罅水(キリシマレッカスイ)をイメージ。3つのパーツでは「施設に集まりくつろぐ人」「さつまいも」「未来へ進む船の帆」に、全体では霧島連山にも見えるデザイン
まず目につくのは、施設全体が「緑」や「木」に囲まれていること。施設全体のデザインや設計は、建築家・隈研吾氏率いる「隈研吾建築都市設計事務所」が手がけた。
同事務所はこれまでも、「スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京」や「太宰府天満宮表参道店」などの建築を手がけている。率いる隈氏は、3店舗目となるイコイアについて、オープニングイベントでこう語った。

オープニングイベントで挨拶をする隈研吾氏。イコイアを自身の「集大成」と評した(堀之内恵子撮影)
「私どもが考えてきた、緑の屋上庭園(見晴らしの丘)や温室(植物園「めぐりの森」)、自然素材や職人の技など、そういうものが全部合体した、ある意味で私にとっても“集大成”のような場所ができあがりました」
イコイアは隈氏に「集大成」と言わしめるほど、地域に根ざした自然をふんだんに生かした設計となっている。
竹のトンネルのように見えるエントランスをくぐると、天井などの内装にもまた竹があしらわれ、来訪者を出迎える。外装は風雨による劣化を防ぐ人工素材だが、内装はすべて国産の晒竹。和や木の温もりを感じさせる。

どこまでも竹が続く店内天井

シラスにコーヒーかすが混ぜ込まれた壁材
壁面には、スターバックスから出た「コーヒーかす」や、九州南部の土壌を形成する「シラス」が混ぜ込まれたリサイクルボードを使用。カウンター下には、コーヒーかすと、霧島酒造の焼酎づくりで出た芋くずを再利用した素材も使われている。
芸術性にもこだわっている。カウンター横に掲げられているスターバックスのロゴ「サイレン」は、九州南部のシラスを使って職人が仕上げた唯一無二の作品。店内には、竹藝家の中臣一氏によるアート「8祝ぐ(はちほぐ):Blooming」がシラスの壁に展示されている。

シラスで作ったスターバックスロゴ「サイレン」

竹藝家・中臣一氏作「8祝ぐ(はちほぐ):Blooming」

大川組子職人・木下正人氏作「水巡」
JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」や「或る列車」などの車内装飾も手がけた伝統工芸「大川組子」の職人、木下正人氏による作品も店内に溶け込むように置かれていた。
店内を抜けると、芝生エリア「いこいの庭」が広がる。シダレエノキなど、季節によって表情を変える樹木や草花が植栽されており、子どもから大人まで思い思いの時間を過ごすことができる。

芝生エリア「いこいの庭」を臨むテラス席
エントランス脇の階段を上がった先には屋上庭園「見晴らしの丘」がある。霧島連山や沖水川など都城の雄大な自然を一望でき、コーヒーを購入しなくても、誰でも自由に楽しめる。

霧島連山の雄大な自然を感じることができる
亜熱帯植物園「めぐりの森」
こだわり抜かれた自然との調和。より心地よく、自然に触れられる空間。
自然にまつわる例は枚挙に暇がないが、なかでも象徴的なのが併設された「亜熱帯植物園」。施設内では「めぐりの森」と名づけられた植物園と、霧島酒造の店舗、そしてスターバックスの店舗が壁を介して隣り合っている。

亜熱帯植物園「めぐりの森」
植物園全体が温室となっており、店舗部分とは異なる温度で管理されている。約60種類の亜熱帯植物を育てているためだ。一般的な植物園に比べて規模は小さいながら、4つのテーマごとに違った感覚で楽しめるよう工夫されている。
霧島酒造とスターバックスを象徴する「さつまいも」「コーヒーノキ」が仲良く並ぶのは「味覚で楽しむ植物」のエリア。「暮らしを支える植物」では洗剤や化粧品の原料となる「アブラヤシ」や「ゴムの木」など、「彩りを添える植物」では「サガリバナ」や「テイキンザクラ」などが植えられている。

さつまいも(手前)とコーヒーノキが仲良く植えられている
そして、「水と共に生きる植物」エリアでは、立派な錦鯉が泳ぐ水槽が鎮座。湿地を好む多年草「シぺラス」などが囲む。
なぜ、イコイアに植物園を設けることになったのか。それは、温排水の有効利用から来たアイデアだった。

使い切れていなかった「蒸留温排水」
1日約400トンの九州産さつまいもを使用し、日本で最も焼酎を製造する霧島酒造。焼酎を蒸留する際に排出される「蒸留温排水」は1日約2500立方メートル(m³)にもおよぶ。
約80度の温排水は、熱エネルギーを持っている。霧島酒造はこれまで、工場ボイラーの給水や設備の洗浄などに再利用し、工場内やオフィスなどの冬場の暖房にも活用してきた。それでも熱エネルギーとして再利用できている温排水は4分の1程度だった。
「少しでも温排水の再利用率を上げ、エネルギーの循環をお客さまにも感じていただけるよう、イコイアでも活用することにしました」。霧島酒造でイコイアの責任者を務める、霧島ファクトリーガーデン事業本部NSプロダクト課の井手政哉課長はこう話す。

霧島ファクトリーガーデン事業本部NSプロダクト課の井手政哉課長
ちなみに、井手課長は2023年9月に稼働した「霧島さつまいも種苗生産センター『イモテラス』」の建設プロジェクトにも携わっていた。その経験と個人的な“趣味”から、イコイアの建設プロジェクトのために新設されたNSプロダクト課の課長に抜擢された。
井手課長は、無類のコーヒー好き。「ちょっと皆さんより本格的にやっているほうではあります。エスプレッソに手をつけたのが、コロナの時くらいからで、まだ浅いんですけれど」と謙遜するが、焙煎機まで自宅に導入するほどの本格派。最近はベトナムのコーヒー豆がお気に入りだ。
さらに、植物にもはまっており、自宅はちょっとした「植物園状態」。イコイアにもある「ビカクシダ」のほか、オーストラリア原産で、ビンを洗うブラシそっくりの花を咲かせる「ブラシノキ」などの常緑性花木も育てていた。
「まさにイコイアのプロジェクトにうってつけということで抜擢されたのですか?」と聞くと、「社内でもちょっと言われたりしますけれど(笑)。そういうのもあるのかなっていうふうに、今は思います」と井手課長。適任であることに違いはない。

タンク容量をアップデート
話を戻そう。亜熱帯植物園に温排水のパイプを引いて、植物園全体の暖房とする――。温排水ありきの植物園のために、霧島酒造は大がかりな設備投資をしたことを井手課長は明かす。
「温排水の貯留タンクは、当初は工場で使用することを想定した設計だったので、それほど大きくなく、使い切れていない温排水がありました。今回、利用頻度が低かった焼酎かす用の“予備”タンクを温排水向けとし、イコイアにも温排水を供給するようにしました」

焼酎工場から出る蒸留温排水を熱源とする暖房器具。植物の裏側にいくつも設置されている
既設の温排水タンクの容量は約80m³。加えて、約150m³分を増やし、合計230m³を貯留できるようになった。オープン間もないこともあり、イコイアでは1日約80m³ほどの温排水利用にとどまるが、「タンク増設によって可能性が広がった。イコイアを機にさらなる熱エネルギーの有効活用を模索していけるようになりました」と井手課長は話す。
一方で、店舗など植物園以外の屋内には電気駆動のエアコンが設置されているが、その電力もまた、リサイクルによるものだ。
霧島酒造では、芋の選別時に生じる芋くずが1日約15トン、製造工程で水分を含む「焼酎かす」が1日約850トンも出る。「焼酎かすは宝」として、その有効活用に長年、取り組んできた。
詳細は「脱炭素にかける霧島酒造の凄み[前編]『さつまいもリサイクル』の全貌」に譲るが、リサイクルプラントに運ばれた焼酎かすと芋くずは、メタン発酵によってバイオガスを生成。そのガスは焼酎製造工程のボイラー燃料として利用するほか、発電にも利用されている。名づけて「サツマイモ発電」だ。

本社工場エリア内に立ち並ぶ「バイオリアクター(メタン発酵槽)」。焼酎粕からバイオガスを発生させる
このサツマイモ発電から、イコイアで消費する電力の100%が供給されている。コーヒーを淹れる熱源がじつは芋焼酎のかすから生まれていると考えるとおもしろい。都城でしか成立しない循環のループが、イコイアにはある。
「ハード」だけでは終わらない
さらに、駐車場に設置されたEV充電器の電力もサツマイモ発電によるもの。イコイアの随所に地域と環境を大切にする思いを反映させている。その思想は「ソフト」面にも現れている。

霧島ファクトリーガーデン事業本部NSプロダクト課の後藤智美係長
「施設や設備などのハード面だけじゃなくって、ソフト面でも継続的な“活動”をやっていくというのが、イコイアの特徴なんじゃないかなと思います」
井手課長のもとNSプロダクト課でイコイアに携わる後藤智美係長はそう言い、2社でディスカッションしながら作成した内部資料を見せてくれた。

「イコイアを語るうえでこの資料がわかりやすいかなと思います」と後藤係長
イコイアのコンセプトを1枚にまとめた資料には、「戦略:ハードとソフトの両方で地域や環境への想いを伝えていく」と書かれ、ソフトの枠には大きく「焼酎粕×豆かす」「『たい肥づくり』から拡がる活動」とある。
霧島酒造とスターバックスはイコイアがオープンする1年以上前から、開業に先駆け、この「『たい肥づくり』から拡がる活動」を始めていた。
起点は、焼酎かすとコーヒーかすの存在。どちらも本来、捨てられるものだが、霧島酒造とスターバックスはそれぞれ、有効利用を模索していた。先述のように焼酎かすはバイオガスに。スターバックスも、コーヒーかすをたい肥にしたり、牛の餌として飼料にしたりする活動をしていた。
内容は違えど、思いは共通。水面下でイコイアのプロジェクトが進むなか、2024年、「たい肥クラブ」が立ち上がった。
焼酎かすとコーヒーかすを使い、たい肥を作る。そのたい肥で地域の資源循環につなげていくことを目的とするクラブ。霧島酒造やスターバックスの従業員に加え、活動に賛同した南九州大学環境園芸学部の前田隆昭教授(果樹園芸学研究室)と同科の学生も参加し、たい肥の切り返しなど、今日に至るまで継続的な活動を続けている。

「イオンモール都城駅前店」で告知されたガーデンワークショップの案内版
その活動の輪は、地域にも広がっている。
2025年6月、都城の市民15人が霧島酒造の直営施設「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」を訪れた。都城初のスターバックス「イオンモール都城駅前店」で告知された案内を見た市民がワークショップに参加。イコイアのプロジェクトメンバーとともに、たい肥づくりや苗木の植え替えを体験した。後藤係長は言う。
「おもしろいなって思うのは、焼酎かすってすごく匂いが臭いんですけれど、コーヒーかすを入れると消臭効果で消えるんです。そういうのを体験しながら、子どもや親子、みんなで混ぜていると、ひととひととの壁がなくなって、会話が進んだりとか、無心になれたり。“たい肥ケーション”って呼んでいますけれど、来られたお客さんはけっこう楽しんで帰られていました」
「たい肥クラブ」が都城市などと連携
同年11月には霧島酒造による地域活性化イベント「霧島秋まつり2025」にもブースを出店。焼酎かすとコーヒーかすのたい肥を混ぜた土にどんぐりの種子を植えるワークショップを開催した。
ちょうど、イコイアのオープン日が周知され、大きな話題となっていた時期。オープンに先行したたい肥クラブの活動は、多くの参加者が集まり秋まつりを盛り上げた。
その翌12月には、都城市と森林保全団体「more trees」が取り組む「多様性のある森づくり」と連携し、イコイアが「みやこんじょ資源循環森林プロジェクト(通称:ODEN)」に参加するという発表もあった。
このプロジェクトにおけるイコイア側の中心は当然、たい肥クラブ。たい肥クラブで作ったたい肥でどんぐりなどの苗木を育て、都城の森に戻すことを計画している。これは、クラブ活動が一過性ではなく、継続的なものであることを示す。
「後々の話にはなりますが、今、育てているどんぐりの種がいずれ苗木に成長したら、都城市内のどこかの山に植樹できればいいなという思いで、プロジェクトに参加させていただきました」と井手課長は言う。
すでに、たい肥クラブの「舞台」はイコイアの庭先へと移っている。芝生が広がる庭を進んでいくと、土が入った大きな木枠がいくつか並んでいる。そのなかには、たい肥が混ざった土が。コーヒー豆の袋にどんぐりを植えたかわいらしい簡易プランターも見える。

イコイアの庭先に並ぶ木箱の中に、芽吹くのを待つどんぐりの種もあった
いずれも、たい肥クラブを通じた活動で市民などとともに作ってきた資産。南九州大学の学生も定期的に訪れ、春先に芽吹くのを見守っている。今後はたい肥クラブのワークショップも、この庭で開催される予定だ。
これから始まる2社のコラボ
「継続的な活動」は、たい肥クラブに限らない。
「施設構想を考える段階から手を携え、オープン後のコラボレーション活動まで見据えて共創していくことは、両社とも今回が初めて」――。イコイアのオープンに伴い霧島酒造とスターバックスが出したプレスリリースに、こんな文言が書かれている。
両社の“協働”が建てて終わりではないことを強調した文面。コラボレーション活動のメインは、たい肥クラブになるが、それ以外にもいろいろなアイデアが検討されている。霧島酒造のサツマイモ発電の原料にコーヒーかすを混ぜる、という案もその一つだ。
「一般廃棄物処理業」の許可をもたない霧島酒造が“他社”の一般廃棄物を処理することはできない。だが、都城市が2026年1月に創設した「再生利用業指定制度」に霧島酒造が申請し、指定を受けたことで“市内の他社”、つまり市内のスターバックス店舗から出るコーヒーかすに限定して受け入れることが可能になった。
実際に3月から、イコイアとイオンモール都城駅前のスターバックスから出る1日約20キロのコーヒーかすを、霧島酒造のリサイクルプラントで受け入れ始めている。

電力を生むバイオガスエンジン発電機。発電した電力の大半は電力会社へ売電している(霧島酒造提供)
2店舗のコーヒーかすをメタン発酵させてバイオガスを取り出し、発電に使用した場合の1日の電力量は約1.4世帯分。1日2400世帯分というサツマイモ発電の規模からすれば微々たるものだが、生業が異なる企業同士が同じプラントで食品廃棄物による発電を行うという挑戦は極めて珍しい。
再生利用業に指定されても、依然として”市外”の事業者の廃棄物を処理することはできない。ただ、今後、国から特例が認められるかもしれない。法制度が変わる可能性もある。
今回の2店舗からの受け入れ開始は、いつか、自治体を越えた受け入れが可能になるかもしれないその日に向けた大きな一歩だろう。都城で食品リサイクルの革新への挑戦が始まった。
「店舗」でのコラボレーション活動も計画されている。
「KIRISHIMA LIFE STORE ipomea」で情報発信
先述のように、イコイアにはスターバックスのほかに、もう一つ店舗がある。霧島酒造の直営店「KIRISHIMA LIFE STORE ipomea(以下、イポメア)」だ。イポメアの企画を担当した後藤係長は、こう話す。

「スターバックスを訪れるお客さまには、霧島酒造と接点がなかったひとも含まれます。『焼酎って飲み方がわかんない』とか『おじさんの飲み物だよね』とか思っていそうな、遠くにいるひとたちと出会える店舗にしたいというのが、最初の構想でした」
「20代前半の女子」「軽自動車に乗っている」「お酒は甘い酎ハイや低アルコール飲料」――。イポメアを訪れる客層のペルソナを検討した際に出たキーワードだ。霧島酒造の「遠くにいるひとたち」に向け、単に焼酎を並べるのではなく、お酒のシーンが楽しみになるような食品、酒器、雑貨なども販売するセレクトショップとなった。
ジュースや炭酸飲料など、あらゆるもので割って楽しめることを陳列とポップで表現。「焼酎は自由な飲み物」であることを発信するコーナーも設けた。情報発信に重きを置くイポメアもまた、ソフト面の活動と言える。

「KIRISHIMA LIFE STORE ipomea(イポメア)」店内の一角では、「夜のジンジャーエール」など焼酎の割り方の提案をしている
「今後は試飲も企画している」と明かす後藤係長は、イポメアとスターバックスとのコラボレーションにも意欲を示す。
「まだ完全にアイデア段階ですが、霧島焼酎の味の番人『ブレンダー』と、スターバックスさんのコーヒースペシャリストによるコラボなどを考えています。共演なのか提案なのか、アウトプットは色々ありそうだなと。焼酎とコーヒーの相性の発見のような糸口で発信してみたいです」
「公民館みたいに使ってほしい」
ただし、焼酎とコーヒーのことばかりを考えているわけではない。たい肥クラブの活動だけに注力しているわけでもない。あくまでも、イコイアが大切にする最上位の概念は、地域と環境。後藤係長はこうも言った。
「お金を使わなくても行っていいの?と聞かれるんですけれど、全然来てよくって。散歩のついでに、コーヒーを飲まなくても、植物園を歩いたり、屋上庭園に登ったりしていただきたいですし、お友だちと集まるだけでもいいですし、『公民館』みたいにイコイアを使ってもらいたいです」

ただのスターバックスではない唯一無二のイコイア。それをどう表現すべきか思案していたが、「サステナブルな新手のおしゃれな公民館にスターバックスも入っている」と理解すれば合点がいく。公民館をどう活用するかは、地域住民にかかっている。
霧島酒造の江夏社長はオープニングイベントの挨拶で、こうも語っていた。
「本日の施設オープンは、一つの区切りではありますが、決してゴールではなく、むしろ、『新たな船出』だと考えています。この場所が、皆さまにとって、『いこいに、いこう』とふと立ち寄りたくなる、そんな身近な“居場所”となれるよう、これからも都城に根差しながら、明るい未来に向けて力いっぱい漕ぎ出してまいります」
焼酎とコーヒーという異なる文化を積み込み、都城から新しい航路へと漕ぎ出したばかり。地域と環境という2つの大きな帆をなびかせるイコイアの真骨頂や価値が発揮されるのは、これからだ。大海原には、まだ見ぬ可能性が広がっている。
ただ、一つ疑問が浮かぶ。スターバックスはなぜ焼酎メーカーとここまで深く協働したのか。出会いから完成まで8年超。その裏側には知られざる長いストーリーがあった。

