深く多面的に、考える。

ふるさと納税日本一の舞台裏 #02

都城市ふるさと納税大躍進のなぜ[前編] 起点となった「対外的PR戦略」

Think都城が取り組む最初のテーマ「ふるさと納税日本一の舞台裏」。2回目は、都城市を大躍進へと導いた知られざるストーリーをお届けします。

表層的な要因だけでは説明できない躍進

地方自治体への寄附金額が所得税や住民税から控除される「ふるさと納税」制度に参加する自治体は1700以上。その中で、都城市は突出した結果を出し続けている、ということは前回の記事で説明した。

「ふるさと納税日本一」だけでは測れない実力 都城市8年連続トップ10の偉業

だが、なぜ都城市が2014年度から桁違いの結果を出すようになったのか、という理由は前回の記事で説明できていない。

制度開始からしばらく「ふるさと納税受入額(寄附額)」のランキングで3桁台を推移していた都城市の順位は、2014年度に「9位」へと跳ね上がり、以降、日本一の座を3度も獲得した。

さらに、昨年度までの8年間すべてにおいて、トップ10圏内を維持し続けている。

都城市のふるさと納税受入額の全国順位と金額
年度 順位 寄附額
2008(平成20) 325 323万円
2009 455 250万円
2010 144 915万円
2011 417 334万円
2012 559 257万円
2013 266 964万円
2014 9 5億円
2015 1 42億円
2016 1 73億円
2017 3 75億円
2018 6 96億円
2019 2 106億円
2020 1 135億円
2021 2 146億円
出所:総務省。金額は四捨五入

確かに、2014年度は、ふるさと納税全体の市場規模が急激に拡大し始めた年でもある。

ふるさと納税制度が始まったのは、2008(平成20)年5月のこと。立ち上がりから5年間は横ばいと言っていい展開だったが、ふるさと納税サイト各社と自治体がタッグを組み、本格的に取り組み始めた2014年度以降、急成長を遂げた。

もはや、その市場規模は1兆円に届かんばかりの勢いである。

ふるさと納税受入額(全国)の金額と件数

出所:総務省。金額は四捨五入

ただし、この全体の成長をもって、都城市の躍進を説明し尽くすことはできない。

なぜなら、市場規模が小さいほうが順位を上げるのは簡単であり、市場規模が膨み競争が激化するほど、順位を上げる、あるいはトップ10を維持することは難しくなるからだ。

「自分たちも驚いた。混乱もした」

都城市が前面に押し出す「肉と焼酎」の商品力が、いきなり2014年近辺に上がったと考えるのも無理がある。畜産と焼酎産業が強いのは昔からであり、産業としての力が桁違いに上がるような“事変”が2014年にあったわけではない。

ふるさと納税全体の市場規模拡大、都城市に備わった産業の商品力。これらは躍進の要因ではあるが、きっかけではない。

2014年度に、都城市で、市役所で、なにがあったのか――。

「都城市のふるさと納税は、2014(平成26)年度の10月から大きくやり方を変えました。自分たちも驚きましたし、混乱もしました」

ふるさと産業推進局の野見山修一副課長

今年4月の人事で、ふるさと納税を管轄する「ふるさと産業推進局」に出戻った野見山修一 副課長は、こう話す。

彼がふるさと納税の担当部署に戻ったのは4年ぶり。2014年当時からふるさと納税に携わり、役所内の誰よりも都城のふるさと納税を知る一人だ。

都城市は、ふるさと納税のやり方をどう“大きく”変えたのだろうか。

「PRツール」としての、ふるさと納税

きっかけは、2012(平成24)年11月に就任した池田宜永市長の大号令だった。

「都城市は知名度がなさすぎる。もっと全国に都城市のことを知ってもらわなければならない」「“日本一の肉と焼酎”をつかみに、大々的にPRをやっていこうじゃないか」

就任2年目、池田市長は「対外的PR」を市政改革の目玉に据え、2014年度から実行に移した。

2014年4月に「みやこんじょPR課」を新設。「みやこんじょ」とは都城を指す方言で、ポスターやのぼり旗などの制作・設置から、テレビ局などへの売り込み、「みやこんじょフェア」等のイベント開催まで、あらゆるPRに取り組んだ。

今では、ふるさと納税のみならず、あらゆる販促物やポスターに使われている筆書きのロゴマークも、2014年7月から使い始めた。NHK大河ドラマ「龍馬伝」の題字などを手掛けた著名書家の紫舟(ししゅう)さんに依頼した。

これに同期するように、ふるさと納税に関する施策にも手が入れられた。

まずは、組織改編。それまで、ふるさと納税を手掛けていた「経営戦略課」と「行政改革課」が統合され、より新施策の企画に重点を置いた「総合政策課」が2014年4月に発足。前出の野見山副課長は、新任のふるさと納税担当として、その新しい課に着任した。

「ふるさと納税も変えていきなさい。寄附を集める制度としてではなく、対外的PRのツールとして、ふるさと納税を活用しなさい」

そう、市長から直接指示を受けた野見山副課長は、たった一人のふるさと納税の担当者として、ふるさと納税のリニューアルプランを立てていく。だが、一筋縄ではいかない。

市長の最終査定で不採択

「初めは、市長が言う目指すべき目的と手段について、本当の意味で理解しきれていなかった」。野見山副課長は苦笑いしながらこう振り返る。

都城市のふるさと納税のリニューアルは10月に設定されていた。そこへ向け、膨大な資料を伴うプランを作成していった。

当初の野見山副課長のプランは、地場産業を隔たりなくPRする戦略だった。あらゆる産業・業種から幅広く返礼品を確保し、多様さで都城を売る。「公務員は公平・平等を考えないといけない」と考えた。

地場の事業者とも話し合いながら、2014年7月末にようやくプランを固め、市長に提出。だが、「すべてやり直し」というちゃぶ台返しを食らった。

曰く、「PRツールになっていない。都城市をPRするためには『なになにと言えば都城』という、わかりやすいPRが必要。『日本一の肉と焼酎』に特化すべきだ。それを広めるツールが、ふるさと納税。だからリニューアル当初の返礼品も、肉と焼酎だけでいい」といった具合だ。

「とじょうし」と読み間違えられることも

池田市長が言っていることを徐々に理解し、最終的には「間違いじゃない」と気づいたが、そのときは「すぐには体が動かなかった」と、野見山副課長は話す。「肉と焼酎に特化すると、それ以外の事業者からバッシングを食らうと思っていた」。

都城には、日本一の「大弓」や「木刀」もある。お茶どころでもある。野菜やお米などその他の農業も盛んだ。なのに、なぜ……。

どうしても旧来の自治体職員の考え方から抜け出せない。しかし一方で、対外的PRをするためには、それではダメだということもおぼろげながらわかってきた。

畜産業は都城市の基幹産業であり、肉用牛・豚肉・鶏肉の市町村別の産出額は2006年(平成18)度の農林水産統計で1位となっていた。2007(平成19)年度以降からしばらく統計の公表は中断されたが、間違いなく強さは維持している。

一方、都城市に本拠を構える霧島酒造の「黒霧島」が2002(平成14)年頃からブームとなり、同社の業績も急拡大していた。2008年には本格焼酎メーカーの売上高ランキングで2位まで上昇し、2012年には首位まで上り詰め、以降、連続1位を更新し続けていた。

それでも、2014年当時、都城に「肉と焼酎」というイメージは、ほぼなかったという。

特色のない市。かつては、通算で19回の甲子園出場を果たしている都城高等学校が知名度に一役買っていたが、1999(平成11)年の夏季大会を最後に甲子園から遠ざかっている。市の名前自体が轟いておらず、中には都城を「みやこのじょう」ではなく「とじょう」と読んでしまう人もいた。

「確かに、大胆な発想の転換が必要だ。考えを変えよう」――。

野見山副課長はかくして、「肉と焼酎に特化した対外的PR」のために腹をくくった。

後編に続く)

都城市ふるさと納税大躍進のなぜ[後編] 日本一へ導いた市長の慧眼と職員の覚醒

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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