ドローンに続いた1万2900発の花火
2025(令和7)年10月19日の夜。「2025都城焼肉カーニバル」の会場である観音池公園上空では、500機の編隊によるドローンショーが行われていた。

約15分間のドローンショー。最後は花火へのカウントダウンで締めた
終盤、ドローンは「今年の花火もすごいよ!」「Are you ready ?」と文字をくっきりと夜空に映し出し、カウントダウン。B’zの名曲「LOVE PHANTOM」が会場に鳴り響き、しっとりとしたイントロにあわせ「肉と焼酎のふるさと・みやこんじょ花火大会」が始まった。
イントロが終わり、アップテンポの本編に移行すると、花火が横一列に打ち上がり、会場のボルテージが一気に上がる。時に侘び寂びを感じさせ、時に迫力の乱れ打ちで圧倒させる百花繚乱の饗宴は、約50分間という時を感じさせないまま幕を下ろした。

B’z「LOVE PHANTOM」にあわせたオープニング花火の一幕
発数は例年と同じく、「いい肉」が由来の1万2900発。しかし、500機のドローンショーから始まった光と音の饗宴は、オリンピックや万博といった国家規模のイベントを彷彿とさせるほど、圧巻だった。
その理由はドローンだけではない。今年の花火大会には、日本トップレベルの花火師たちが参加していたのだ。
日本三大花火に数えられる「大曲の花火」の地元で技術と伝統を守る「大曲の花火師」。彼らが今回、初めて九州を訪れ、都城焼肉カーニバルの夜、花火を打ち上げた。その価値やすごさは、あまり伝わっていない。
大阪・関西万博を彩った「大曲の花火協同組合」
大曲の花火大会は毎年、春夏秋に実施されているが、なかでも8月に開催される「全国花火競技大会」は1910(明治43)年から続く国内随一の伝統と格式を誇る花火大会として知られる。国内有数の花火師が腕を競い、最高賞にあたる「内閣総理大臣賞」のほか、「経済産業大臣賞」「中小企業庁長官賞」「観光庁長官賞」などの受賞を目指す。

春・夏・秋と年3回開かれる「大曲の花火」。なかでも8月の「全国花火競技大会」は国内最高峰とされる(公式サイトより)
全国に15ある主要な花火競技大会の最高峰とされ、花火師のほか、全国から約70万人もの観客を呼び寄せる権威ある大会。そのお膝元の花火師たちもまた、全国の花火師やファンから尊敬の念を集めている。
小松煙火工業、北日本花火興業、響屋大曲煙火、そして和火屋――。この4社からなる「大曲の花火協同組合」は、江戸時代から始まったと言われる大曲の花火文化を脈々と受け継ぎ、時代にあわせて切磋琢磨し、常に国内最高レベルを維持し続けている。
速報
— FMはなび (@fmhanabi) September 1, 2024
内閣総理大臣賞は小松煙火工業
第87回(平成25年)以来2度目 pic.twitter.com/45saxlcw8p
実際に、過去20年では2009(平成21)年に北日本花火興業が、2013(平成25)年と2024(令和6)年に小松煙火工業が全国花火競技大会で最高賞を受賞した。
そうした花火の“聖地”に根を張る老舗4社が結束し、チームでも活躍を見せている。
大曲の花火大会で競技会の合間に行われる名物プログラム「大会提供花火」。これを任されているのが大曲の花火協同組合。大会提供花火は打ち上げ幅が1キロメートル(km)近いワイドスターマインで、競技会に引けを取らない人気を博す。音楽にあわせた壮大で荘厳な大会提供花火を見たいがために大曲を訪れるひとも少なくない。
「チーム大曲」の腕前は世界も認める。2024年7月、世界で最も権威のある花火競技大会「モントリオール国際花火競技大会」に、大曲の花火協同組合の4社が日本代表として参加。世界3位の銅賞と特別賞に輝いた。
2025年6月には4社揃って、大阪・関西万博の夜空を飾った。大曲の花火協同組合が関西で打ち上げたのはこれが初めて。伝説の花火が見られるとあって当時、1日あたり最多となる17万7000人の来場者を記録した。
そのあと大曲の花火協同組合が大曲以外で打ち上げたのは、都城。と言えば、価値をわかっていただけるだろう。
なぜ、そんなにすごい集団が都城で花火を打ち上げてくれることになったのだろうか。
思いつきから始まったストーリー
焼肉カーニバルの実行委員長を2011年から務めている瀬尾典史氏は、2025年開催でドローンショーを実現させるために奔走する傍ら、花火大会にも思いをめぐらせていた。
2026(令和8)年1月1日に迎える都城市の「新市誕生20周年」の前祝いとして、花火大会も盛大に盛り上げたい。焼肉カーニバルとしても、2006(平成18)年の初開催から20周年、2015(平成27)年から同時開催して来た花火大会は10周年の節目となる。

2011年から焼肉カーニバルの実行委員長を務める瀬尾典史氏。2025年開催の会場にて
それだけに瀬尾氏の2025年開催への思い入れは強く、花火大会にも、ドローンショーに匹敵する何らかの仕掛けが必要だと感じていた。
縁のあったドローンショー・ジャパンと打ち合わせを重ね、なんとか目処がたった2025年の年明けのこと。焼肉カーニバルの2025年開催でドローンショーの責任者を務めた真方誠也氏と飲んでいた。真方氏も瀬尾氏と同じく青年会議所(JC)の出身。瀬尾氏の次に都城JCの理事長を務めた仲間であり、ともに焼肉カーニバルを作り上げて来た盟友でもある。

瀬尾氏(右)とドローンショーの責任者を務めた真方誠也氏(左)。JC時代以降の仲間で、盟友(瀬尾氏提供)
何気なく、「日本一の花火」と銘打たれた大曲の花火をYouTubeで見ていた2人は、「もしかしたらJCの縁で、大曲の花火師ともつながるんじゃない?」と盛り上がったという。
この時点では「まさか本当に大曲の花火師が来てくれるなんて思ってなかった」(瀬尾氏)。だが、JCでの経験がまたもや縁と運を呼び寄せた。
瀬尾氏は2015(平成27)年度、都城JCの52代目理事長に選任され、1年の任期を務めた。 各青年会議所の理事長をはじめ、すべての役職の任期は1年に限られる。だからこそ、1年に全力を注ぎ、同期の横のつながりも深くなる。
同年度、宮崎JCの理事長を務めた大平紘史氏と瀬尾氏も自ずと良き友人となった。建築用塗料販売などを手掛ける会社を経営していた大平氏は2019年頃からドローン事業にも乗り出しており、ドローンショー・ジャパンとのつないでくれたのは前回記事のとおり。
瀬尾氏は、大平氏に「大曲の花火師なんて知らないよね」とも聞いた。すると、大平氏はこう即答した。「いやいや、大曲の和火屋さんはJCのOBだし、あんたがJCの理事長をした前年の『東北地区会長』やろ」と。
そこから、和火屋4代目社長、久米川和行氏との合縁奇縁の関係が始まった。

和火屋の4代目、久米川和行社長とJCでつながった(和火屋のWebサイトより)
組合を動かしたJCの絆と思い
焼肉カーニバルが半年後に迫った2025年の3月頃。JCのつながりで久米川氏の電話番号を知った瀬尾氏は、自分から連絡がいくことをひとづてで伝えてもらったうえで、「一か八かで携帯に電話した」と振り返る。
「じつはこういう思いでこういうふうにイベントを作っている。だからどうしても花火をあげてほしいという話をして、それこそ『Think都城』の記事も見てもらったりもして。そうしたら『そんなに気持ちがあるんだったら協力します』って言ってくれたんです」
5月の大型連休明け、和火屋の久米川氏が秋田・大曲から都城へ自費で来てくれた。
「大曲の花火協同組合の4社が揃って都城に来てくれたら、こんなにうれしいことはないです」。そう熱く思いを伝える瀬尾氏に、久米川氏は「組合のほかの2業者もJC出身だし、思いが伝わればできるはず。帰って仲間に話をします」と返し、持ち帰った。
本当にそんなすごいことが実現するのだろうか――。半信半疑で待っていた瀬尾氏の携帯に7月、久米川氏から連絡が入った。「決まった。4社全員で都城へ行って、打ち上げる。すごい花火を見せてあげるよ」と。

打ち上げ決定後、瀬尾氏らは大曲を訪れ、製造工程の見学などをさせてもらった(都城観光協会提供)

右端は大曲の花火協同組合の代表理事を務める小松煙火工業の小松忠信社長。右から2番目が和火屋の久米川社長(同上)
「和火屋の久米川さんが『僕は一人でもあげてあげる』と言ってくれていたから、『大曲の花火』は行けるかなと思っていたんですけれど、まさか4社みんなで来てくれるなんて。それも、組合が大曲以外に出向くのは、モントリオールの世界大会、大阪万博、その次が都城だよと。本当、これはすごいわと。驚きました」
瀬尾氏は興奮気味にこう振り返る。地元側で打ち上げを担当した花火師も驚いた。
「なんで呼べるんですか!?」
2025焼肉カーニバルの花火大会には、もう一つの主役がいる。地元・都城市に本社と工場を構える柿薗花火だ。
大曲の花火の陰に隠れる格好となったが、この柿薗花火も九州では有数の花火師集団。宮崎県内では唯一の花火製造メーカーで、花火大会の企画や打ち上げなども一貫して手がける。
伊勢神宮奉納全国花火大会などの競技会にも出品実績があるほか、音楽にシンクロするよう綿密にプログラムされた「芸術花火」を得意とし、京都芸術花火や大阪芸術花火などのイベントを沸かせて来た。

2025年開催の花火大会を地元で担当した柿薗花火の柿薗兼利社長は、大曲の花火師が来ることを知り、驚きをあらわにした(柿薗花火のWebサイトより)
その柿薗花火を率いる柿薗兼利氏は、大曲の花火師が来ることを知り、「なんで呼べるんですか!?ずっと会いたかったひとたちなんですけど」と驚きをあらわにしたという。
大曲の花火師が、花火玉を地方の大会に送ることはある。ただし、花火師も一緒に出向くことは数少ない。しかも組合4社揃ってとなるともっと希少なこと。驚いた柿薗氏は、瀬尾氏にこんな話をした。
「かつてビデオテープが擦り切れるくらい何度も大曲の花火師たちの打ち上げを研究したことがある。その“伝説”の花火師たちが来てくれて、花火まであげてくれるなんて、本当にすごいこと。一緒にやってみたいというのは夢でした」……。
それが、2025都城焼肉カーニバルで現実のものとなった。
ザ・グレイテスト・ファイアーワークスショー
例年と同じ1万2900発ながら、大曲の花火協同組合と柿薗花火による饗宴は、圧巻、見事という言葉では現しきれないほど、迫力に満ちていた。
大曲の真骨頂が発揮されたのは「ザ・グレイテスト・ファイアーワークスショー」と題された終盤のプログラム。名画「グレイテスト・ショーマン」の主題歌「The Greatest Show」が流れ、耳馴染みのあるビートの効いた楽曲にシンクロした芸術花火が展開された。

名画「グレイテスト・ショーマン」の主題歌にシンクロした大曲の花火協同組合の力作
オリンピックか万博かと錯覚するほど、美しく、力強い演目。3分間のショーがあっという間に終わり、息を呑んで見入っていた観客が歓声と拍手を送った。「あれが一番。あれが大曲なんです」と瀬尾氏も絶賛の演目だった。
この日は大曲の4社それぞれが個別に打ち上げるプログラムもあり、観客は九州にいながら大曲の花火ショーを堪能することができた。
ただし、合計発数の過半数は、地元・柿薗花火の担当。憧れの花火師を前に得意の芸術花火を披露した。現地で観覧した印象は、大曲の花火ショーに引けを取らない出来栄え。柿薗花火のショーもまた、素晴らしかった。
特に感銘を受けたのは、ドローンによるカウントダウンからのオープニングとエンディング。先述のようにB’zの「LOVE PHANTOM」に乗せたオープニング花火は曲調にあわせた強弱、メリハリが絶妙で、アーティストのライブを彷彿とさせる迫力もあった。

セリーヌ・ディオンの名曲「TO LOVE YOU MORE」にあわせた柿薗花火担当のエンディングも素晴らしかった
同様に、セリーヌ・ディオンの名曲「TO LOVE YOU MORE」を流した長尺のエンディングも、楽曲とのシンクロに魅了された。しっとりとしたバラードの前半はゆっくりと魅せる花火。サビが盛り上がるにつれ、夜空一面に花火が敷き詰められ、この夜、最も激しい乱れ打ちで幕を下ろした。
「憧れの花火師と一緒に打ち上げることになって、柿薗さんも相当、気合いが入っていたようです。素晴らしかった」。そう瀬尾氏はたたえた。饗宴は競演でもあったのだ。
新たな「メッセージ花火」と協賛席
2025年のみやこんじょ花火大会に隠れたストーリーはほかにもある。
「今年の花火大会では、音楽花火で使用する楽曲のリクエストを募集していました。寄せられたリクエストの中から、今回選出されたメッセージとともに音楽花火をお届けします」
迫力のオープニング花火が終わり、2曲目に移る前、会場ではこんなアナウンスとともに、ある“メッセージ”が読み上げられた。
「7年前の初夏、娘が天国へ旅立ちました。突然の事で生きる気力を見失いそうな時に、この曲を聞いた長男が『この歌、のんちゃんのうただね』と言いました。ずっとずっと大好きだよって思い続けて、生きていかなきゃと思わせてくれた曲です。のんちゃん空からみてますか?? キレイな花火、一緒に見ようね」――。
リクエストされた曲はMISIAの「アイノカタチ」。焼肉カーニバル事務局は応募があったなかから、この1曲を選んだ。

2025年開催から始めた「メッセージ花火」。MISIAの「アイノカタチ」に家族の思いが乗せられた
「今年から新しい試みとしてメッセージ花火の募集を始めたんですが、もうアイノカタチを選ばんとダメやろって。迷うことなく決めました。ご家族にも喜んでいただけて、良かったです」
そう瀬尾氏は話す。2025年から始めた新たな試みはほかにもある。「特別協賛席」だ。ドローンショーと大曲の花火という目玉があったことから、有償の席を100席用意したところ、8月後半の募集から1カ月も経たずに売り切れとなった。
協賛席向けの駐車スペースとして、協賛席会場から至近距離にある観音池公園内の温泉施設「観音さくらの里」の駐車場を確保。観音さくらの里は例年、焼肉カーニバル開催日も通常営業をしていたが、2025年は全面協力のもと休館にしてもらったことから実現した。
続く交流、深まる絆
「温泉施設をお休みにしてもらって、雨天順延で日曜も臨時休館にしてもらえたから協賛席ができたし、ドローンショー・ジャパンの皆さん、大曲の花火師、柿薗花火さん、何より実行委員会の仲間、もう本当にいろいろな方々に助けていただいて感謝しかありません」

あらゆる点で例年とは違う特別な年となった2025年開催。無事終えた瀬尾氏に、次なる21年目の都城焼肉カーニバル、11年目となるみやこんじょ花火大会に向けた抱負を聞いた。
「僕も16年目の実行委員長になりますし、いつまでもするというのもまぁ、あれなので、ちゃんと下を作っていくというのが一つ。あとは、つなげていってくれるみんながやりやすいような環境というか、カタチをちゃんと残すというのが課題であり、抱負です」
瀬尾氏には腹案がある。2025年限りと思われた特別な大曲の花火だが、2026年以降も継続できる可能性が出てきた。大曲と都城の絆が深まりつつある。

都城での打ち上げから約1カ月後、大曲の花火師たちが再び都城を訪れ、反省会が開かれた(都城観光協会提供)
「その後、またわざわざ秋田から来てくれて、大曲の花火師たちと都城で反省会をやったんですけれど、これを機に、花火だけではなくお互いの名産を紹介しあうなどして、大曲がある大仙市と都城市の交流を深めていけたらいいねという話になりました」
「じつは、予算もありますが、現場が初めてだったこともあって、大曲の実力のすべてを出したわけではないんですね。打ち上げ場所と観覧場所の位置関係で制約があったのですが、実際にやってみて、もうちょっと勝負できるとおっしゃっていました」
みやこんじょ花火大会は初回から市による補助金で成り立っている。民間からの協賛金も含めてどれだけの予算を集められるのかにもかかっているが、2026年以降も大曲の花火師が訪れてくれる花火大会になれば、全国的にも唯一無二の珍しいイベントして、一つのカタチを残せることになる。
話題性も抜群だ。2026年、米国は建国250周年を迎える。2025年10月に米ドナルド・トランプ大統領が訪日した際、高市早苗首相は首脳会談の冒頭、「250周年を日本もともに盛大にお祝いをしたい。ワシントンに250本の桜を寄付する。2026年7月4日にはワシントンで日本の秋田県の花火が打ち上げられると聞いている」と伝えた。
大曲の花火が輸出され、場合によっては建国250周年を祝う打ち上げも担当するかもしれない。その3カ月半ほど後の10月、2026都城焼肉カーニバルで大曲の花火が見られるのであれば、大きな話題を集め、集客にもつながるだろう。
「まだわからないですけれどね」と言いながらも、後進にレガシーを残すべく奔走し始めた瀬尾氏。大曲と都城の新たな関係が始まろうとしている。