深く多面的に、考える。

人口減に克つ #03

子育て「3つの完全無料化」への思い 池田市長が語る「人口減少対策」 [後編]

  • 2023年度、保育料など「3つの完全無料化」を打ち出し、子育て支援を大幅強化。
  • 移住促進の強化と並ぶ人口減少対策のもう一つの柱として、同時展開にこだわった。
  • 子育て支援策にかける思い、そして今後に向けたビジョンなどを池田市長が語る。

移住促進と子育て支援「同時ありきではない」

—— 大胆な移住応援給付金などによる「移住促進策」に加え、2023年度は保育料の完全無料化を始めとする強力な「子育て支援策」も打ち出しました。これも大きな「人口減少対策」と言えます。

池田宜永市長 おっしゃるとおりです。ただ、移住促進と子育て支援、それぞれの政策を動かすタイミングは決めあぐねていました。

池田市長 頭の中では、人口減少対策に大きく着手する際は移住と子育ての2本柱で行く、と決めていました。前者は「社会増」を確実に増やす。後者は、人口の転入(社会増)にも、転出(社会減)の食い止めにも影響し、なおかつ出生(自然増)を促すこともできる。

2本柱があわさって強力な人口減少対策となるわけですが、裏話を言うと、じつは当初は2023(令和5)年度と24(令和6)年度の2カ年で順次、やろうと検討していたんです。

先に移住。まずは社会増を増やして、次に子どもも増やそうというイメージ。最初から2本同時に、とは考えていませんでした。

—— それがなぜ2023年度、同時に始めることになったのでしょうか。

池田市長 理由がありまして、それが、岸田(文雄)首相が2023年1月の年頭会見で打ち出した「異次元の少子化対策」の存在です。

「異次元の少子化対策」とは
岸田文雄首相が2023年1月、年頭の記者会見で表明した少子化対策のこと。これを受け政府は同年12月、「こども未来戦略」を閣議決定。3兆6000億円の財源を投入する「加速化プラン」を提示した。

加速化プランは、「経済的支援の強化と若い世代の所得向上」「子育て世帯への支援拡充」「共働き・共育ての推進」「社会全体の意識改革」の4つで構成。経済的支援の強化では、「児童手当の所得制限の撤廃」「高校卒業までの支給期間の延長」「第3子以降の支給額を3万円に倍増」などが盛り込まれた。

2024年6月、関連法案の「改正子ども・子育て支援法」が可決。財源は、「既定予算の活用(1.5兆円)」「社会保障の歳出改革(1.1兆円)」「子ども・子育て支援金制度の創設(1兆円)」で確保する方針。このうち、新たな支援金制度は公的医療保険料に上乗せするかたちで26年度に創設するとしている。

突き動かした「異次元の少子化対策」

池田市長 私も一応、国(財務省)にいたので、流れがだいたい見えます。総理大臣が2022(令和4)年度中に言った政策は、翌23年度の「骨太方針」に載り、2024(令和6)年度の予算編成に組まれて、具体的に動き出す。まさに今(2024年度)なんですね。

ということは、23年度って空白の期間になるんですよ。だから、地方自治体にとっては、国が動く前の23年度の動きが重要になると考えました。

これまでも都城市は、「ふるさと納税」や「マイナンバーカード」などの政策で、ほかの自治体より一歩先を行って、いろんなことをやってきました。ある意味、先行者となっているところで、国が本気で動き出すと、背中をバンっと押してもらえる。それで、ものすごく加速できるということを経験してきているんですね。

池田市長 その経験則からすると、子育て支援策や少子化対策も同じで、国が動く前に、先に自治体として動いていたほうが絶対に効果が上がるはずだと。じゃあ、この子育て支援策も含めた人口減少対策というのをパッケージにして、23年度からセットで始めようと考えました。

それで、23年1月からダダダっと動き出して、短期集中で一気に議論をして、23年度から今のかたちで同時に打ち出したというわけです。

財政的なことを考えた時、本当に2本同時にいけるのかという議論も当然、ありました。

でも、状況が変わっていく中、より効果を上げるのであれば、2カ年で分けるよりも“一発”で打ち出していく方が結果につながるんじゃないかと思い、決断した。そうしたら、ありがたいことに想定を超えるインパクトが出たということです。

「3つの完全無料化」の効果

2023年度、都城市は、人口減少対策の2本柱の一つとして、子育て支援策の強化にも着手。子育てに関する「3つの完全無料化」に踏み切った。

そのうち、「保育料の完全無料化」は九州の人口10万人以上の自治体では初めて。「中学生以下の医療費の完全無料化」「妊産婦の健康診査費用の完全無料化」と合わせて、3つの完全無料化の予算は15億5000万円規模となった。

こうした手厚い子育て支援は早くも結果として現れている。

24年度、幼稚園を含む保育施設への0〜5歳児の入所児童数は、前年度比281人増となり5年ぶりに上向いた。うち、市独自の無料化の対象となる0〜2歳児は増加分の75%に相当する211人。保育料の完全無料化が奏功したと見られる。

では、この子育て支援策は3710人という移住者数にどの程度、寄与したのだろうか。

—— 今年4月の定例会見で池田市長は、「若い方々が移住してきているということは、『保育料の無料化』などの負担軽減が大きいんだと思います」とおっしゃっています。移住応援給付金を軸とする移住促進策と、3つの完全無料化を軸とする子育て支援策。それぞれ、2023年度の「3710人」という移住者数にどのくらい貢献したと考えていますか。

池田市長 2本柱は、相互に作用しながらフィフティ・フィフティで“効いた”と見ています。なんらかの影響があったという意味では、移住してきた1663世帯中、世帯主が40歳代以下の若い世代は83%ということですので、8割以上なのかもしれません。

子育て世帯は多く、3710人の移住者中1336人が18歳未満の子どもで、0〜5歳の未就学児は713人。さらにその約6割にあたる416人は0〜2歳児ということです。この比率は、国全体の人口比の3.5倍にあたります。

2023年度の移住者「3710人」の内訳

出所:都城市
注:構成比はいずれも四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはならない

池田市長 多くの0〜2歳児が来てくださったということは、それだけ移住にも子育て支援策が好影響を与えたのではないのかな、と思っています。小さいお子さんがおられる世帯にこそ、「移住応援給付金」と「3つの完全無料化」はダブルで効くはずですので。

「3つ」へのこだわり

—— ここまで手厚い子育て支援策を打ち出す地方自治体は珍しいと思います。人口減少対策以外のモチベーションや思いがあれば、聞かせてください。

池田市長 私も、まだ下の子は小学校6年生なので、親としての思いというのは当然、あります。それから市長としても、時代が変わり、親の感覚も変わってきている中で、時代の要請というものにちゃんと応えていかなければならないという思いもあります。

昔と違うのは、女性も社会に進出して、共働きが増えていることですよね。子育ての負担が大きくなる中で、子育てをしようという気になる人が減ってきています。地域や家族で支え合うにも限界がある。そこは我々、行政もちゃんと支えていかなければなりません。

そういう思いで、市としては以前から、妊娠・出産期から中学生に成長するまで「切れ目ない重層的な子ども・子育て支援」を掲げてやってきたわけですが、その土台に今回の強化が乗っかったということで、市民の皆様により反応していただいている部分もあるのかなと思っています。

—— 2023年度の子育て支援策の強化は、保育料・子ども医療費・妊産婦検診費の3つの完全無料化が軸となっています。ここには、どんなこだわりがあったのでしょうか。

「3つの完全無料化」を周知するパンフレット(ポスター)。市役所を始め市内の至るところで見かける

池田市長 先ほど申し上げたように、市としては切れ目ない重層的な支援、というものが大事だと思っています。妊娠されて、出産され、保育園に通わせて、育てていく中で、医療費もかかる。そのすべてのステージで支援を強化したかった、というのが一つ。

それから、移住応援給付金「500万円」の根拠をお話した時に、「私はどんな政策でもPRの側面を意識してきた」と言いましたが、いつも“キャッチー”なキーワードを考えていまして、だいたい「3つ」に行き着くんですよね。

ホップ・ステップ・ジャンプもそうですけれど、人間って3つまでは頭にすっと入るんです。2つじゃインパクトに欠けますし、5つだともう頭に入らない。私の中では譲れない世界で、1でも2でも4でも5でもなく、3だと。そこは今回もこだわらせていただきました(笑)。

振れて悩んだ「財政的インパクト」

—— ただ、キャッチーですが、それだけ財政負担も重たくなります。

池田市長 相当悩んだ、というのが正直なところです。保育料の完全無料化だけでも、年間6〜7億円と、かなり大きな財政的インパクトがあります。

担当課に事前に調査してもらったところ、保育料の支援を望んでいる子育て世帯の声がすごく大きかった。それで、第1子だけ無料化、第2子以降を無料化、すべて無料化という3パターンで検討を進めたのですが、あの時期は本当に右左に振れていた気がします。

—— 池田市長の中では、最初から「すべて無料化」ありきだと思っていました。

池田市長 いやいや、そこまでじゃないです。行けるのか、行けないのか。感覚的な判断だとしても、やっぱり財政的インパクトの見積もりを見てみないとわからない。数字を見ながら、葛藤をしていました。

だから全然、決め打ちではないんですけれど、最後、行けるんじゃないかと思ったのは、財源の部分で踏ん切りがついたというのと、さっき言ったPR的な部分、打ち出し方を考えた時、「よし、これで行こう」と決断したというふうに記憶しています。

—— 財源というのは、「ふるさと納税」の寄附金の活用ですね。

池田市長 はい。じつは葛藤の大部分が、このふるさと納税の活用です。

私の中では、ふるさと納税の寄附金を、毎年必ずかかってくる「経常経費」にはあまり充てたくない、という思いがずっとありました。というのも、私、財務省にいたこともあって、不確実な財源をあてにするのが、もともと嫌なんですね。

ふるさと納税の寄附金というのは、「地方交付税交付金」のような恒久財源ではありません。制度がいつまで続くのか、誰にもわからない。おかげさまで2022年度は、都城市へのふるさと納税の寄附金額が196億円に達し、2年ぶりの全国1位となりましたが、それもいつまで続くかわかりません(注:2023年度も1位を獲得)。

だから、基本的にはイニシャルコストがかかる「箱物」とか、単年度で終わるような事業に寄附金を活用させていただいていました。

保育料の完全無料化も、1年だけやって、次の年から「財源がないので半額負担にします」というのは、できなくはないけれど、なかなかやりにくい。私の中では経常経費として見ていましたので、そこにふるさと納税の寄附金を充てていくのは怖かったわけです。

財源として信用した「ふるさと納税」

池田市長 じゃあなぜ今回、保育料の完全無料化を始め、人口減少対策にかかる費用に寄附金を充てたのかと言うと、ふるさと納税の制度に対する信頼度が上がったからです。

都城市は、2014年のふるさと納税リニューアルから本格的に関わっていますが、当時はルールがあるような、ないような感じで、不安定と言いますか、先行きが見通せないような雰囲気もありました。そこから総務省が毎年のように厳格化を重ねたこともあって、だいぶ制度として安定してきたな、と感じられたのが一つ。

それから、ふるさと納税が年々成長し、国全体で「1兆円市場」になりました。その規模を冷静に考えた時、じゃあ今年や来年に「はい、もうやめです」ってなるかと言ったら、そう簡単な話ではなくなってきている。関わっている人間が多すぎますし、そんなことをしたら潰れる会社が全国でたくさん出てくる。

ということを考えると、恒久財源とまではいきませんが、全然あてにならない、ふわふわした財源かというと、そうでもなくなってきた。

中間くらいになってきている感覚で、私としては、今までよりも一歩、財源として前に進めてもいいんじゃないか、経常経費に活用し始めてもいいんじゃないか、という思いが生まれてきた。それが、ちょうど2022年秋くらいから23年にかけてでした。

—— なるほど。いろんな思いや要素、条件が「惑星直列」のように重なり、「今だ!」と決断できたわけですね。

池田市長 そうですね。それが2023年度の直前だったということです。特に子育て支援策の強化は、一義的には、今いる市民のためになる政策ですし、移住促進策とのバランスを取るという意味でも、打ち出せて良かったなと思います。

移住と子育て支援、2つのバランス

—— 移住促進、子育て支援の2本柱を走らせた結果、市内の未就学児も増えています。そこで2024年度からは保育人材の確保に向けて、保育士の「就職支援金」と「継続支援金」を最大40万円支給する施策も始めました。

池田市長 やっぱり我々としては、若い世代の方々に移住して来ていただいておきながら、「急激に人口が増えたので、お子さんを預けるのはしばらく我慢してください」なんていう事態になるのは本意ではないですし、それは我々の責任として避けなければならない。

どなたに移住していただいてもありがたいのですが、都城の中長期的な発展を考えると、20年、30年後を支えてくれる若い世代は、よりありがたい存在です。そういう方々のためにも、保育の受け入れ体制をちゃんと準備しておかなければいけないと思っています。

保育人材の確保に向けた支援事業を周知するパンフレット(ポスター)

池田市長 保育園だけではなく、小中学校にも移住してきた子どもが転入しています。そちらからも今、「備品が足りない」「学習用の端末が足りない」という声が来ていますので、そこも含め、しっかりと早急に対応するよう動いているところです。

それから、先にお話したように、今年度、移住制度をチューニングし、移住者数を程よい人数にソフトランディングさせ、巡航速度で増えていくかたちにもっていこうとしています。

そうなると、移住促進策の予算って少しずつ減っていくはずです。その分、保育施設や子育て支援に回せるかもしれない、というシミュレーションやイメージもしていて、移住促進策と子育て支援策、うまくバランスを取りながら前進させていければと思っています。

—— 移住増や人口増は、住民サービスにかかる支出も増やしますが、一方で、税収が増える効果ももたらします。

池田市長 そのとおりで、税収効果の部分でバランスが取れる可能性もある。2つのバランスを取れるオプション(選択肢)を持っているので、よりやりようがあるし、バランスの取り方次第で、人口増に伴う課題も落ち着いてくるのかなと思います。

「数十年後を見据え、継続的に取り組む」

—— 2024年度は移住応援給付金の金額を下げ、移住者数を「1500人」と見積もっています。その数字が理想的な増え方というか、うまくバランスを取る目標値なのでしょうか。

池田市長 「1500人」というのも、2023年度に「600人」と見積もった担当課が出してきた数字なので、実際にどうなるかはわかりません(笑)。ただ、いきなりバンって増えた翌年度、またいきなり減少するというのが、一番良くないことだと思っています。

今、都城市の自然減はだいたい年間1000〜1300人くらい。コロナ禍もあって出生数が落ちているので、そこでも子育て支援策が効いて、自然減が改善されればいいなと思っているんですけれど、叶わなかったとしても、少なくとも年間1300から1500人くらいの社会増があれば、都城市の人口は維持、もしくは増加できるんですね。

ですから移住者で1500人増というのは、いいところを突いているラインだと思います。

都城市は2024年度、人口減少対策による将来推計を上方修正した(「広報都城 令和6年6月号」より

池田市長 ただ、どのくらいが適切なのかというのは、その時々で変わってくるものだと思いますし、初年度のインパクトがもたらしたエネルギーというものがどれほど残っているのかも我々にはわかりませんので、目標値は都度、変化していくのだと思います。

大事なことは、この取り組みを回し続け、最低でも人口を維持し続け、10年、20年、30年後の都城市の未来を明るくするということです。

ある記者の方から「この人口減少対策って、今年度、来年度、1〜2年の政策ですか」と聞かれたことがありますが、「いや、そんなことは一切考えていません」と答えました。一過性の政策とは微塵にも考えていません。人口減少対策や移住も、最重要政策の一つとして、これからも継続的に取り組んでいく所存です。

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

  1. 子育て「3つの完全無料化」への思い 池田市長が語る「人口減少対策」 [後編]

  2. 移住応援給付金「500万円」の真意 池田市長が語る「人口減少対策」 [前編]

  3. 移住者「3710人」の衝撃 給付金だけじゃない人口増のワケ

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