深く多面的に、考える。

里山に追い風 #05

中山間地域の挑戦者② ばぁばの知恵袋さくら・末永陽子氏(高城地区)

  • 「なぁんにもない」高城町石山で2005年から地域活動
  • 田舎体験イベントや地域食堂「ばぁばのお勝手」を実施。
  • コロナ禍乗り越え、常設カフェなどの企画を復活へ。

「なぁんにもない」高城町石山

都城市の中心市街地からクルマで北上すること約30分。オートキャンプ場などを併設する「観音池公園」を右手に通り過ぎ、田畑が広がる道を突き進んだ先に、“ばぁば”の活動拠点はあった。

高城町石山にある「ばぁばの知恵袋さくら」の拠点

広い敷地に元電気店だった建物がポツンと佇み、緑に囲まれている。看板も案内板もないが、そこは地域食堂としても親しまれている場所だという。ばぁばがドアを開け、出迎えてくれた。

「本当になぁんにもないでしょう(笑)。このへん(高城町石山)には小さい商店が4店くらいあったんだけど、最後の店が10年以上前になくなって。あるのは、セブンイレブンと観音池ポークの直売所。ひとより牛豚が多く、4人に1人が高齢者という場所です」

都城市の高城地区で地域活動を続ける末永陽子さん(70歳)

ばぁばの名前は末永陽子さん(70歳)。都城市の北東部に位置する「高城地区(旧・高城町)」で、「ばぁばの知恵袋さくら」という任意団体をベースに18年前から地域活動を続けている。

2023(令和5)年、新型コロナウイルスが「5類」に移行し、世間が落ち着きを取り戻すと、末永さんの活動も完全復活。水を得た魚のように活動を強化している。

地域住民にカレーやお惣菜などを提供する地域食堂「ばぁばのお勝手」は、今年2月から9月まで計7回開催した。

2023年9月、「ばぁばのお勝手」が用意したお惣菜と観音池ポーク入りのカレー

子どもたちにはお菓子も

9月17日の「カレーの日」は、同じ地域のブランド豚「観音池ポーク」がたっぷり入ったカレーと、鶏肉の甘酢煮、キュウリの酢の物を計40食分用意。おまけのお菓子などもつけて地域の子どもたちを中心に配り、売り切れた。

郷土料理など地域の伝統や田舎暮らしの楽しさを伝える「あそばんねみやこんじょ」というイベント企画も復活。2023年中には、いつでも地域住民が立ち寄ることができるイートインのカフェもオープンする計画だ。

2023年5月、「宮崎県地域づくり顕彰」の優秀賞を受賞した

こうした活動が宮崎県の目にもとまり、ばぁばの知恵袋さくらは2023年5月、地域振興に貢献した個人や団体をたたえる「宮崎県地域づくり顕彰」の優秀賞を受賞。宮崎県の河野俊嗣知事から表彰状を手渡された。

長年にわたる地域活動は、行政からも評価されている。ただし、当初は地域活性化のために立ち上がったわけではない。

テーマは「更年期障害からの脱却」

「高城地区(旧・高城町)」も、都城市の中山間地域等振興計画の対象

高城地区は、都城市による「中山間地域等振興計画」の対象である、中山間地域など8地区(以降「中山間地域等」と表現)の一つ。国の「過疎地域」にも指定されている。

その高城地区のなかでも、末永さんが住まい、活動拠点を設けている「高城町石山」は高齢化率(人口に占める65歳以上の比率)が高い。

住民基本台帳のデータによると、高城町石山の人口は高城町全体の15%ほどにあたる1459人(2023年9月時点)。令和に入ってからも1割ほど人口減が進んでおり、高齢化率の上昇が顕著だ。同時点での高城町石山の高齢化率は「42.9%」。都城市全体の「32.1%」や高城地区全体の「39.2%」と比して、高い。

都城市高城町石山の高齢化率(人口に占める65歳以上の比率)の推移

注:数値は、各年9月1日時点での住民基本台帳による。「高齢化率」は、人口に占める65歳以上の比率。数字は四捨五入

そんな場所で2005(平成17)年、末永さんら近所の長男の嫁どうし4人は、ばぁばの知恵袋さくらを、まだ合併前の旧・高城町で立ち上げた。

「4人とも更年期障害。地域を盛り上げたいとかじゃなくて、『更年期障害からの脱却』がテーマだったんです」。末永さんは立ち上げの理由をこう言い、続けた。

「当時、近隣地区だけで年配のかたが3人も自ら命を断って。『気合いがはいっちょらん』『甘えがある』などと言われていました。更年期障害への理解はなかった。私らも、みんな長男の嫁で、どこどこの嫁と言われ続けて。そういうことが、なにかおかしいと気づいて。単純に、自分たちが楽しむ時間をほしい、笑って過ごしたいと思ったんです」

立ち上げた4人は、とある会のメンバーとしてつながっていた。地域の講習会にそれぞれが参加し、その体験談を教え合ったり、ときには愚痴を言ったりする“女子会”を月に1度、行っていた。皆、アクティブで、楽しむことに貪欲だった。

ばぁばの知恵袋さくらの立ち上げメンバー

立ち上げの前年、女子会の面々が観音池公園で花見をしたときのこと。地元で採れたたんぽぽの花やよもぎの天ぷらなどをつまみに興じた。通りがかったおばちゃんから夜、電話がかかってきた。「あんたたちだけ楽しい思いしてずるいねー」と言われた末永さんは、「みんなもやりたいんだ!」と感じた。

ほかのひとからは、「末永さんたちがやっているのは『グリーンツーリズム』みたいなもんだよ」とも言われた。

グリーンツーリズムとは、「農山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動」のこと。もともと欧州で広がった概念だが、平成に入ってから日本でも浸透しつつあった。

当時、宮崎県もグリーンツーリズムを推しており、末永さんはグリーンツーリズムの講習会に参加。インストラクターやコーディネーターの資格を取った。

「このあたりでなにかをしようとしたら、免許とか資格はあるの? と必ず言われます。私たちは、ただのおばちゃん。でも、資格があれば『できるんですよ』と言える」。かくして、2005年6月、ばぁばの知恵袋さくらが発足した。

庭で摘んだ野草を食べる体験

郷土料理の「そば汁」や「あくまき」づくりから、さまざまな食材の燻製、草木染や拾った木の実を炭にする花炭づくりまで……。

松ぼっくりや栗など木の実を炭にする「花炭」づくりは末永さんの得意分野の一つ

「いなか暮らしの楽しさを、ばぁばと体験せんね。あそびにこんねー」。そんな思いを込めて、ばぁばの知恵袋さくらは「あそばんねみやこんじょ」という体験イベントを定期的に開催した。

合言葉は「出来ることを出来る人が出来る分だけ」。畳んだ末永さん夫妻の電気店とその庭を使い、グリーンツーリズムの資格を活かしながら、田舎ならではの体験を提供してきた。

2018年4月に開催した「春をムシャムシャ食べよう!」の様子。庭で採れた野草を食した

特に、毎春開催してきた「春をムシャムシャ食べよう!」という企画は大好評で、「食べられる草を知れば、単なる草むらが宝の山に変身します」と末永さん。庭で摘んだ野草を使った天プラやチヂミ、ヨモギ大福や、かまどで炊いた筍と鶏の炊き込みご飯などを振る舞い、参加者からは「春を食べた!」と喜ばれた。

そして十数年の時が流れ、2018(平成30)年。ばぁばの知恵袋さくらは新展開を見せる。

いつもひとが集まれるような場所へと、倉庫や拠点としてきた元電気店をリノベーションしようと画策。同時に、新たな企画も立ち上げ、クラウドファンディング「CAMPFIRE」も活用した。応援を募る説明文には、こう記されてある。

「俺、何にも出来ないからな…」と知人の男性がポツリ…

そんな彼は、お米を育てる他に、めっちゃ美味いトマトを作る技術を持っています。

「自分には何もない、誇れるものもない」と大半の人がつぶやき、そう思い過ごしているのですが、誰しも長年培った光る経験や技術を必ず持っています!

60歳以上の人が自分の得意なことで働き、情報交換をする居心地の良い場所を作ろう!

長年心の中であたため続けてきました。

新挑戦の柱は2つ。みんなの“たまり場”である「ばぁばカフェ」と、地域住民が得意分野を生かす「日替り店主の店」である。

いずれも、長年、末永さんが活動拠点としてきた元電気店の建物をさらに有効活用しようという発想だ。

クラウドファンディング「CAMPFIRE」で支援を呼びかけた

常設カフェと日替わり教室で活性化

ばぁばカフェは、イベントの時だけ使ってきた建物をその名のとおりカフェとし、子どもからお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんまで、誰でもいつでも立ち寄れる「居心地のいい居場所」をつくる試みである。

「昔は、漬物とか黒砂糖をエプロンに入れて、『ちゃのんけ、きましたー』って近所の家にでかけて、おばあちゃんたちが縁側でお茶を飲んでいたものです。そんなふうに、誰でも気軽にきて、お茶飲める場所にしたいねーって。若いお母さんも、いっぷくしながら、人生相談ができるようにしたいねーって、ずっと言っていたんです」

そう話す末永さんは、地域の民生委員を2010年から担っており、公民館で同じようなコンセプトの「ちゃいっぺカフェ」というイベント企画を続けてきた。その常設版だ。

一方で、もう一つの日替わり店主の店は、このカフェのスペースや敷地内の倉庫などを活用して、得意分野を生かした「教室」を開こうというアイデア。

例えば、絵画を趣味にしてきたひとが絵画教室を開いたり、農家を続けてきたひとが耕作放棄の畑で体験農園をしたり。“先生”は高齢者を想定しており、暇を持て余すのではなく、得意なことで月に数万円でも稼いでもらいたい、という思いがあった。

「高齢者は、長年の経験や技術を活かし、年金にプラスαの収入を得ることができます。そして、次の世代を担う子どもたちに生きるために必要な知恵や力を伝えていくこともできると考えたんです」。そう、末永さんは説明する。

ただし、課題があった。建物の老朽化と、水回りだ。

電気店を畳んだあと、本格的な内装工事はしておらず、古さが目立っていた。自分たちの作業場として使っていたため、もてなす雰囲気ではない。なによりトイレがなかった。

そこで、壁紙の張替えなど内装費用は自分たちで工面し、トイレの設置費用として80万円をクラウドファンディングで募ることにした。ばぁばカフェと日替わり店主の店が合わされば、もっと活力が生まれる。末永さんは支援募集に際し、こうメッセージを伝えた。

それぞれの色に輝いているじぃじとばぁばが、話し合うたびに、子どもの頃にタイムスリップしたようにワクワクし、脳も活性化!

そして、子ども達も一緒に集まりワイワイ!

この居場所に来れば何かしら元気になる。

そんな生きがいを作り出せる場所を作ります。

クラウドファンディングは2018年11月から年末まで募集。目標には届かなかったものの、26万6000円の支援を得た。この支援金に加え、“お父ちゃん”の許可を得て老後の蓄えを崩し、リノベーション費用に充てた末永さん。翌2019年、約半年かけて内装をきれいに整え、トイレも設置し、なんとか出迎えられるようにもっていった。

「やっときれいになったねー」。そう、仲間と喜んでいた矢先に、新型コロナウイルスが襲った。

コロナ禍乗り越え、徐々に復活

ひとが集まる場所を目指した末永さん。しかし、新型コロナにより、ひとが集まることは忌避された。ばぁばカフェと日替わり店主の店は、いずれも計画倒れとなってしまう。

コロナ禍に入った2020年8月、ばぁあのお勝手を野外で開催。皆でナンを焼いて、カレーと一緒に食べた

ばぁばの知恵袋さくらはコロナ禍前から、ばぁあのお勝手と名づけた「子ども食堂」を月1回のペースで開いていた。新型コロナが本格化した2020(令和2)年は、野外の庭にテーブルやテントを出して数回、イベントを開催。しかし、コロナ禍は収束の気配を見せない。せっかくリノベーションした建物を使いづらい空気がまん延していた。

それでも、「テイクアウトでもなんでもいいから、とにかく続けようね」と末永さんたちはくじけなかった。

常設のカフェや子ども食堂は諦めたものの、ばぁあのお勝手のコンセプトを変え、テイクアウトを基本とした地域食堂の試みへと路線転換。2021年8月から、お年寄りも子どもも大好きなカレーを主軸に、お惣菜、子どもにはお菓子もつけた配布を定期的に重ねた。それが、冒頭に紹介した「カレーの日」である。

新型コロナが落ち着きを見せた2023年2月からは、原則、毎月第3日曜日の開催とし、40食分を用意。開催のチラシは公民館が市広報と一緒に配ってくれており、毎回、売れ切れるほどまでに定着した。料金は大人300円、子ども100円。足りない分は助成金や企業からの食材寄附などで賄っている。

コロナ禍以前から続けていたグリーンツーリズム、あそばんねみやこんじょのイベント企画も徐々に復活しつつある。

2023年3月、花炭づくり体験を子ども向けに開催し、13人が参加した。4月には4年ぶりに「春ムシャ」の企画も開催。採れたての山菜や筍に、15人の参加者が舌鼓を打った。

2023年3月に開催した「花炭」づくりのイベント。木の実を炭にし、右上のようなオブジェに仕上げる

イベントの告知は、市役所のロビーにチラシを置かせてもらったほか、MRT宮崎放送のラジオ番組なども協力してくれた。ほとんどが都城市内からの参加だが、一部、宮崎市からの参加者も。こうした活動に、2021年と2022年は「高城町まちづくり協議会」から、2023年は都城市から助成金を得ることもできた。

活動への理解が進み、広がりつつあるが、なにより地域の「居心地のいい居場所」になりつつあることが、末永さんはうれしい。

2023年4月、コロナ禍前は恒例だった体験イベント「春をムシャムシャ食べよう!」が4年ぶりに復活した

常設カフェ、日替わり店主の実現へ

「カレーを受け取って、すぐどっかに行くんじゃなくて、どうってことないおしゃべりも生まれています。よく顔を出すお母さん(40〜50歳代)から、『ここにきて世間話するのがストレス発散になる。末永さんとつながれてよかったー』と言ってもらえて。続けてきて、よかったなって思います」

一度はコロナ禍でとん挫してしまった常設のカフェだが、復活の兆しはある。「テイクアウトは中高生に需要があるから続けていきますが、今年はイートインの会食も始めようかな」と末永さん。いつでも誰でも立ち寄れる居場所へと、準備を進める。

日替わり店主の店のコンセプトも、自分を皮切りに復活させる考えだ。洋裁が得意な末永さんは、職業用ミシンや家庭用ミシン、ロックミシンを計4台も持っており、洋裁士の資格もある。ミシンをカフェに持ち込み、来年(2024年)4月から洋裁を教える教室「ミシンカフェ」を開催しようと企画を温めている。

今は物置小屋になっている部屋を片付けて「ミシンカフェ」を開催する計画

コロナ禍を越え、意欲に満ち溢れる末永さん。じつは彼女の活動の領域は、ばぁばの知恵袋さくらにとどまらない。

高城地区の民生委員としての活動のほかに、都城市全域の子どもの食を支援する市民団体「むじっこみまもりたい」の会長としても精力的に動いている。

末永さんのFacebookのタイムラインが、いかに激しい夏だったことを物語っている。そのごく一部を以下に抜粋する。

7/18 呼ばれました❗😅
都城市障害者自立支援協議会地域生活支援部会から
都城圏域で活動されている団体がどのような取り組みをしているか知ると言う事で
ばぁばの知恵袋さくらの立ち上げから現在の活動まで☺️
勿論、ぼんち地域・子ども食堂ネットワーク、むじっこみまもりたい、何故健康マージャンをするのか等話しをしました。
ありがとうございました❗


7/25 夏祭りの買い出し❗
29日のむじっこみまもりたいとアシストリンク協働の夏祭り
お父ちゃんがタコ焼き焼くので
ポイント2倍に惹かれてハピネスへ、タコが高価い😱
それでも子ども達が喜ぶなら😅
去年の台風で転けた車庫兼倉庫出来上がりました💕
洋裁室にある米等片付けて来年4月に向けて、ミシンカフェの準備をします❗😁


8/7 朝からバタバタ❗
午前中は民生委員の定例会❗
午後は高城ボランティア協会の役員会、4年ぶりの11/3ボランティア福祉まつりについて❗
役員会後、土砂降りの中ディリーへヨーグルトの受け取り❗🙏
夕方はむじっこみまもりたいの仕分け❗


8/19 お疲れ様です❗
明日の地域食堂ばぁばのお勝手カレーの日の準備❗
サイドメニューは頂いたウインナーと沖縄きゅうりの酢の物😋
予約も満席、ありがとうございます💕


8/28  祭りの後❗
朝6時集合❗霧のなか
高城地区ボランティア連絡協議会恒例の観音池祭りのゴミ拾い❗
今年はゴミが少ない、植え込みの中にも2〜3個
露店商の方が自分達のゴミを綺麗に撤去有りがたい❗🙏
毎年こうだといいね❗と解散


8/29 勉強しました❗
高城民生委員障がい者福祉部会の研修で、福山のオレンジ学園に行きました。
重症心身障害児の施設です。
人間としての尊厳を大切に思いやりのある療育を・・・
すごく立派な施設で、案内して下さった婦長さんの思いも熱い❗


9/5  ばぁば喋る❗😅
十文字学園女子大学の松永先生が学生さんとばぁばカフェに訪問❗
ばぁばの知恵袋さくらの成り立ちとぼんち地域・子ども食堂ネットワークの話しをしました❗
お喋り好きのばぁばが、みやこんじょ弁で喋りまくる😩
言葉が理解出来たでしょうか❗


9/23 無事終わりました❗
こども食堂10周年全国ツアー公開ワークショップ❗
ぼんち地域・子ども食堂ネットワークの初ワークショップ❗
こども食堂のイメージをチェンジしたい❗
今の地域・子ども食堂の様子を知って欲しい❗と
7つの地域・子ども食堂が取っておきのエピソード等話しました❗

「地域のためにとは気負っていない」

とんでもなく忙しい末永さん。どうしてそんなに頑張れるのか。聞くと一言、「楽しいから。決して、使命感とか大義名分はない!」と言い切った。

「根本は変わりません。自分たちが楽しいことしかしない。たとえ、行政から頼まれても、自分たちが楽しくなければやらない。無理しない。この活動のために、って縛らない。ばぁばの知恵袋さくらをNPOにしないのも、そこが理由です」

結果として活動が、地域の活性化、伝統や文化を守ることにつながっていることは、末永さんも認めている。

ある春の日、いつものように庭でよもぎを摘んでいた時のこと。小学4年生の子が「なにをしているの?」と聞いてきたので、「おだんごをつくるんだよ」と言って、よもぎを持たせてあげた。後日、その子が来て、「お母さんから、それは雑草で汚いから食べちゃダメって言われた」と報告があった。

こんなに野草豊かな田舎に住んでいるのに、自然を知らないのはもったいない。春ムシャの企画を続けていこうと、末永さんは決意を新たにしたという。

「でも、だからと言って、地域のためにとは気負っていません。よもぎ大福をみんなでつくるのが面白いから、楽しいから。それだけです」。そう末永さんは笑う。

だから、コロナ禍があっても、なにがあっても、続けることができているのだろう。そして、だからこそ地域の仲間もワクワクして、ついていきたくなるのだろう。

ばぁばの知恵袋さくらのメンバーは現在、ばぁばが5人、“じぃじ”が3人。うち、高城町石山の人間が6人で、残りは高城地区内だ。ほかにも多くの協力者や協力企業がいる。

「私がばぁばの知恵袋さくらを続けて来られたのは、立ち上げからずーっと変わらず支えてくれているメンバーの新穂さん、それから、お父ちゃんや高田さん、中山さんなど裏方をずーっとやってくれたじぃじ、人手が足りないと手伝ってくれた友だちなどの皆さんがいたからです。私一人ではなにも出来ません!感謝しかありません」

楽しさを原動力とするばぁばの知恵袋さくらの活躍は止まりそうにない。こんなにも頼もしい“ポジティブばぁば・じぃじ”が、高城地区の将来を照らしている。

  • 筆者
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井上 理(いのうえ・おさむ)

フリーランス記者・編集者/Renews代表。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月日経BPを退職。フリーランス記者として独立し、Renews設立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』。

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