全国紙の全面広告で広告賞
「宮崎県都城市からのお知らせ」「日本一の“霜”にご注意ください」――。2017(平成29)年11月11日付の朝日新聞朝刊に、都城市のふるさと納税をPRするデザイン広告が載った。
全国和牛能力共進会で内閣総理大臣賞を受賞したことも併せて「肉と焼酎のふるさと・都城」を知らしめ、ふるさと納税の寄附を呼び込む狙い。上段には天気図を「霜降り肉」風に加工したもの、下段には逆に「牛肉の断面図」を天気図風にしたものを並べ、「牛肉の霜降り」と「霜注意報」をかけた。
この広告は、「第66回朝日広告賞」で応募数367点の中から「教育・公共部門賞」に選ばれた。都城市による広告に見えるが、出稿したのは都城市ではない。民間事業者が集まった「都城市ふるさと納税振興協議会(以降、振興協議会)」によるものだ。
振興協議会が発足したのは、2016(平成28)年3月。民間事業者がふるさと納税振興のための運営資金を拠出する、全国でも例がない民間組織である。
「市役所ではできないことをやる」という使命
設立時の事業者数は20。なかには、都城で著名な肉卸大手やJA都城の名前も。設立総会の記念写真は、じつに重々しい雰囲気が漂っている。
そうした面々のなか、当時まだ設立10年ほどの「ばあちゃん本舗」を運営する小園秀和社長が“実働部隊”のトップである幹事長に就いた。
小園社長は東京や大阪の高級ホテルでフランス料理のシェフを務めた後、故郷の都城に帰り、加工食品の企画販売に乗り出した。幼い頃に食べた地元の味を土産物として再現した「鶏砂肝の味噌漬け」「豚タンの味噌づけ燻製」は、ばあちゃん本舗のヒット商品だ。
「企画力」に加え、牛・豚・鶏・焼酎いずれも付き合いがある「バランス感覚」が買われ、加盟する事業者の投票で幹事長に選ばれた小園社長。当時をこう振り返る。
「錚々たる重鎮の中、うちみたいな小さな会社でいいのかと恐縮しました。ただ、皆さんそれぞれの立場で強い意見をお持ちの方も多いなか、協議会が一枚岩となって、市が考える方向とちゃんと歩調を合わせていかないと意味がなくなると感じていた」
振興協議会はそれぞれがエゴを主張し、利益を誘導するための組織ではない。「肉と焼酎」を全面的に推していくことで知名度を上げ、お客やファンがついたところで、ほかの特産品も紹介し、一丸となって都城のふるさと納税をさらに盛り上げていく――。
そうした都城市の戦略に歩調を合わせることが肝要と小園社長は考え、発足以来、振興協議会をまとめてきた。
設立の経緯からして、振興協議会は「市役所では実施が難しいことをやる」という使命も帯びている。
「自治体って、できることできないこと、やりやすいことやりにくいことがある。グッズ制作費や、イベントに事業者さんを連れていく旅費はなかなか予算がとれないし、実証実験的な新しい試みもなかなかできない。新たな取り組みの予算を確保するには、実績がないと難しい。そこをなんとか補完していただけないかと振興協議会に期待しました」
そう話すのは、現在も都城市役所でふるさと納税を担当する、ふるさと産業推進局の野見山修一 副課長。振興協議会発足時に奔走した彼である(前編を参照)。
自腹で集結、民間事業者の功績 [前編] 「都城市ふるさと納税振興協議会」発足秘話
来年の2023(令和5)年3月で設立から丸8年。振興協議会は使命を存分に果たし、期待に応えてきた。
検索連動型広告で直販サイトへ誘導
振興協議会が最も威力を発揮したのは、広告宣伝を含む「PR」関連の事業だ。予算の内訳を見ても、PR関連事業費が約5割(2022年度予算)と最も多い。
発足当時は、自治体がふるさと納税の広告宣伝を打つことが“普通ではない”時代。先述のとおり、自治体などの公共機関において前例のない事業の予算を通すことは難しい。
「税金を広告宣伝に費やすくらいなら福祉を手厚くすべき」などと市民から突き上げを食らうリスクもある。たしかに、税金の使いみちは慎重であるべきだ。だが、議会の説得やそれに費やす煩雑な手続きを待っていたら、機を逃す。
そこで、身軽な振興協議会の出番である。なにしろ税金や補助金はゼロ。すべて運営費は加盟する民間事業者の負担のため、何に使おうが文句を言われる筋合いはない。
発足から数カ月後の2016年6月、振興協議会は「検索連動型広告(リスティング広告)」の展開を開始した。すでに、ふるさと納税情報のポータルサイト「ふるさとチョイス」の調べで、2015(平成27)年度(2015年4月~16 年3月)の寄附金額・件数ともに市町村別で日本一になったことがわかっていた。そのため、「ふるさと納税日本一」を広告の文言に掲げた。効果たるや、絶大だ。
ポータルサイト経由の寄附申込みが主流となりつつあるなか、都城市と振興協議会は、独自の「ふるさと納税特設サイト」を立ち上げ、そこへ誘導するリスティング広告を展開。結果、特設サイト経由の寄附額の割合は全体の15%程度まで跳ね上がったという。
振興協議会が手掛けたPR施策は、こうした直接的な効果が見える案件だけではない。
「都城産宮崎牛と焼酎、連れ去られる」
「日本一」になった都城のふるさと納税をさらに盛り上げるため、日本一をアピールする「のぼり旗」やチラシを作り、飲食店などを中心に市内各所に設置してもらった。都城に訪れた観光客やビジネス客などの印象に残る可能性がある。市民も盛り上がる。
その効果を数字にしろ、と言われれば、それは難しい。つまり、市役所の予算で税金を投じにくい案件ではある。だが、確実に上向きの雰囲気を醸成し、長い目で見れば経済効果も見込める。言わば将来へ向けた投資。冒頭で紹介したようなデザイン広告もその一例だ。
2018(平成30)年には、「都城産宮崎牛と焼酎、連れ去られる」と題したミステリーな新聞記事風のデザイン広告を読売新聞に掲載。同年の読売広告大賞 住・資産部門で最優秀賞を獲得した。
振興協議会は、こうしたユニークかつインパクトのある広告を2016年から年1回、朝日新聞と読売新聞に掲載し続けている。発足当時、ふるさと納税の広告を全国紙に出稿する自治体は存在しなかった。一発では効果が見えにくく、自治体として予算も取りづらい。
だが、振興協議会はチャレンジできる。広告賞の受賞は、そのチャレンジが認められた格好だ。
ほかの自治体がやっていない、あるいはやれないチャレンジや投資をすることで存在感を示し、PRに寄与する。このユニークな戦略は、イベントでも効果を発揮した。
全国の自治体から羨ましがられる
「全国から自治体が集まるふるさと納税関連のイベントに出展すると、必ずと言っていいほど『なんで都城市はそんなに事業者さんを連れて来られるの!?』と驚かれる。いつも、ほかの自治体さんから、すごく羨ましがられます」
野見山副課長はこう話すように、前編冒頭でも紹介した「ふるさとチョイス大感謝祭2022」では、市役所からの4人に加え、振興協議会から4人が“助っ人”として加勢した。会場となった横浜市の大規模展示場「パシフィコ横浜」までの出張費は振興協議会持ち。“自腹”で市のサポートに駆けつけた。
2日間のイベントでは、来場者向けの試食・試飲として、「宮崎牛のローストビーフ」1400食分に加え、霧島酒造の「茜霧島」1.8リットルパックを60本(ソーダ割り約4000杯相当)、ご当地の乳酸飲料「ヨーグルッペ」1リットルパックを42本も用意。これらの販促費も、都城市ではなく振興協議会が賄った。
独自予算を持った民間事業者団体が存在するからこそ可能な豪華布陣。厳しい予算で勝負しているほかの自治体から羨望の眼差しを受けるのも頷ける。
こうした光景は、もはや恒例だ。2016年4月の発足以降、振興協議会は都城市が出展するふるさと納税関連のほぼすべてのイベントに帯同し、サポートを続けている。
2016年8月に1週間の日程で開催されたテレビ朝日のイベント「ふるさとチョイスpresentsふるさとコレクションin六本木ヒルズ」に出展した際は、振興協議会から10事業者、20人が帯同し、イベントを盛り上げた。
さらに、振興協議会は、都城市と共催するかたちで単独のイベントも開催している。寄附者を招待する「都城市ふるさと納税大感謝祭」だ。
2016年11月に東京・神田で開催した初回では、2日間で計1400人を招待。料理研究家の服部克久氏や著名シェフの川越達也氏などのゲストによるショーも交え、肉と焼酎で招待客をもてなした。
毎年、東京で開催したほか、福岡県福岡市でも同様のイベントを実施したが、新型コロナウイルス感染症の影響で中断。その代わりかたちを変え、2020(令和2)年から振興協議会単独で「きっとミート」と名付けたオンラインイベントを開催している。
交流イベントでエンゲージメント向上
「都城を食で感じるキッチンミーティング」と題されたきっとミートは、寄附者から希望者を募り、事前に食材を届け、当日は主催者側とライブ中継でつなぎながら一緒に料理をして舌鼓を打つという企画。2021(令和3)年10月は、100人の参加者に「都城産宮崎牛極上ヒレステーキ肉300g」「肉厚椎茸」「高千穂発酵バター200g」などを送付した。
「ただ単に中止にするのは忍びない。なにかできないかということで、寄附者さんと交流できる料理イベントを、ほぼ返礼品の提供事業者さんたちだけで企画しました」
そう話す小園社長は、2022(令和4)年10月開催のイベントでも、美味しい肉の焼き方やソースの作り方などをカメラの前で伝授。元高級ホテルのシェフとして、腕を奮った。
こうしたイベントで触れ合える寄附者の数は、全体からすれば少ないかもしれない。だが、コアなファンとの関係をより深められる。
会場では参加者から「来年も楽しみにしています!」「いくら以上寄附したら来年も参加できますか?」と言われることも少なくない。参加者の寄附額を追うと、独自の交流イベントに参加した人の寄附額は、参加前に比べて約2倍に増えるという。
民間では、企業と顧客の「エンゲージメント(信頼関係)」を高めることがビジネスの至上命題となっているが、振興協議会がやっていることはまさにそれ。市役所の機能を補完するように民間事業者が一丸となって取り組む体制は、都城ならではの強さと言える。
こうしたエンゲージメントや顧客満足度(CS)を高める施策は、枚挙にいとまがない。振興協議会が毎年実施している「ふるさと納税川柳」は、固定ファンがつく隠れた人気イベントとなっている。
2018年から川柳を募集するリーフレットを返礼品に同梱。入賞者は豪華特産品がもらえるとあって、3000〜4000通のハガキが届くようになった。2022年からはウェブサイト経由の応募に切り替え12月末まで募集しているが、10月末時点ですでに5795句の応募があったという。
振興協議会を舞台とした地域活性
強力な都城市のサポーターとして八面六臂の活躍を見せる振興協議会。その存在が「8年連続トップ10」に大きく寄与したと市役所も認める。
「協議会は都城市のふるさと納税の推進力を高める大きな原動力。市役所の弱いところをしっかりとカバーしてくれ、失敗するかもしれないような新しい試みも、我々ができないとなったとき、じゃあ俺たちがやると言ってくれた。振興協議会がいなければ日本一を3度も取れなかった。勢いを持続できなかったと思います」(野見山副課長)
ふるさと納税を盛り上げた。これが振興協議会の大きな功績であり、存在意義でもあることは間違いない。だが、それだけではない。
振興協議会では、返礼品提供事業者の研鑽を目的とした「視察研修」も続けている。今年は北海道の根室市と白糠町へ総勢20人で訪れた。小園社長はこう話す。
「人口わずか約7300人の白糠町が、昨年度は125億円と全国4位の寄附額を集めている。どういう仕組みでやっているのか、もっと上を見てみたいという思いで伺いました。根室と白糠、2つの自治体ともに『配送スピードが大事』と言われていた。あまりそこは重視していなかっただけに、今後の課題として意識しています」
他方、振興協議会では事業者同士のコラボレーションも生まれている。
例えば、「肉とお菓子」のセットを定期便で送付する返礼品などが振興協議会で企画されてきた。「肉」はふるさと納税で最も人気がある返礼品だが、お菓子は単体だとなかなか伸びない。そこで、人気の肉で引っ張り、お菓子の事業者の売り上げに貢献しようという試みが実現した。
また、振興協議会内の6事業者が協調して、海のない都城で「ご当地サーモン」を養殖しようという試みも進行中。経営が厳しくなった温泉施設を改修して養殖場とし、5年計画で出荷につなげようという壮大なプロジェクトだ。
研修とコラボレーション、この2つの例から言える振興協議会のもう一つの意義。それは、参加する事業者がふるさと納税の振興を通じて成長への意欲を高め、自発的に能動的に学び、努力していることにあると言える。
税金や補助金に頼らず、運営資金をすべて自腹で捻出する仕組みは、1円でも儲けたい民間事業者にとってハードルが高い。だからいまだに、そうした組織は都城にしか存在しない。
しかし、ハードルを乗り越えた都城ふるさと納税振興協議会は、身銭を切っているからこそ自分ごととしてふるさと納税を捉え、成長へのモチベーションも高めることができた。
振興協議会の石川洋美氏は、2018年の立ち上げ時から今に至るまで、事務局の業務を一手に引き受け、あらゆるイベントにも顔を出してきた。その石川氏に「そろそろ、補助金をもらってもいいと思いませんか」と水を向けると、こう返した。
「逆に処理が大変なので、補助金はないほうがいいかな。今、アクティブに動けているので、このままでいいです(笑)」
最後に一言と小園社長に聞くと「4度目の日本一に向けて切磋琢磨を続ける」と言った。地元企業の“自律的”な活性につながっている振興協議会。「地方創生」の一つのあるべき姿が、ここにある。
(次回に続く)
返礼品から見る都城のポテンシャル 肉・焼酎だけじゃない! 強い特産品とは