躍動する「経済の道」
「都城志布志道路が全線開通して、もう全然違います。国道10号はすごく混む。それが都城志布志道路に乗ってしまえば、スーッと都城インターチェンジ(IC)までストレートで行けちゃいますから」――。

西久大運輸倉庫の都城支店。都城志布志道路「梅北IC」の至近距離に位置する
九州を中心に全国に輸送網を張る物流企業の西久大運輸倉庫。その「都城支店」の支店長(取材当時)を務めていた久保山省吾氏はこう話す。同社の都城支店は、都城志布志道路の梅北ICから約2キロメートル(km)の立地。梅北ICまでは3分もかからない。

都城市、曽於市、志布志市を縦断する都城志布志道路(都城市のパンフレットから)
都城ICまでの所要時間は全線開通後、下道を使っていた頃に比べて20分短縮した。「我々の仕事にとって20分はとても大きい。だいぶ変わります」と久保山氏。「物流業界でいま、都城は熱いエリア。お客さんからも『倉庫に空きスペースはないですか』と多くのお問い合わせをいただいています」。
西久大運輸倉庫が都城に拠点を構えたのは2022(令和4年)年。当然、2025(令和7)年3月に迎えた都城志布志道路の全線開通を見越してのことだ。
都城に立地を決めたのは物流企業だけではない。製造業や食品加工業などあらゆる大手企業が物流インフラの強化を目的に進出している。
全線開通でさらなる躍動を見せる「経済の道」。どんな企業がどんな狙いで集まって来たのか。企業立地の観点から深掘りしていく。
「乙房インパクト」と「2024年問題」
都城市では2011(平成23)年度以降、184社の企業が立地し、約5000人の新規雇用が創出されてきた。
「2001(平成13)年度から2010(平成22)年度の10年間、新たな企業立地は50件くらいしかありませんでした。それが、2011年度以降は3倍以上のスピードで進み、都城志布志道路の絶大な効果を感じています」
都城市企業立地課の瀨之口祐一 副主幹がこう話すように、都城の市民や企業が初めて都城志布志道路の恩恵を受けた時期から、都城市の企業立地は加速した。
2011年度は、都城志布志道路の都城市側で初となる部分開通があった年。同年4月に「五十町IC〜梅北IC」区間が開通すると、翌2012(平成24)3月にはその隣の「平塚IC〜五十町IC」区間も開通。都城志布志道路が動き始めた。

出所:都城市 企業立地課
注:立地件数、新規雇用者数のいずれも2011年度からの累計
呼応するように都城市の企業立地も右肩上がりで成長していく。注目すべきは2022(令和4)年度の躍進。それまで年間5件から多くて16件で推移していた新規立地件数は同年度、前年度比約86%増となる年間「26件」となり、成長の角度を変えた。
2020(令和2)年に担当となった前出の瀨之口副主幹は、こう言う。「担当に着任した頃はコロナ禍もあって、今に比べると企業の進出意欲はそれほどなかったと感じます。それが、『乙房IC開通』あたりから急激に相談が増えた印象です」。
2022年度が始まる直前の2022年3月、「乙房IC〜横市IC(延長3km)」の区間が開通した。同区間の開通で、全体の約80%(同35.3km)が完成。乙房ICは比較的、中心市街地に近く、市内からのアクセスも良い。都城志布志道路の利便性を多くのひとや企業が享受できるようになった。

2025年2月15日、都城IC〜乙房ICが開通。式典も行われた(都城市提供)
折しも、この時期は物流の「2024年問題」がささやかれ始めた頃と重なる。輸送業(トラック運転業務)は当初、2018(平成30)年に成立した働き方改革関連法による労働時間規制の対象拡大の猶予対象だったが、2024(令和6)年4月から新しい時間外労働上限の適用が決まっており、期限が近づくにつれ業界全体で懸念が高まっていた。
ネット通販の需要拡大が続くなか、ドライバーの高齢化問題や長時間労働問題、燃料費の高騰なども相まって、物流が限界を迎える。その前に物流の効率化で手を打たねば――。
乙房ICの開通が、産業側の問題意識と合致して企業立地の急拡大というインパクトを生んだ。西久大運輸倉庫も、その1社である。
立地企業や工業団地が生んだ雇用
西久大運輸倉庫の都城支店は2022年12月、鹿児島・宮崎エリアの配送拠点として、旧・都城市郡医師会病院があった大岩田町に開設された。
44 カ所の拠点と450台以上のトラックを擁する同社は、九州だけで22の拠点を構える。それでも「福岡や大牟田の拠点を経由して南九州との輸送をカバーしていたが、2024年問題や時間外労働の問題で限界を迎えつつあった。大隅半島の南までを考えると、どうしても労務管理が難しかった」と久保山氏は言う。
そこで、南九州をカバーする新たな拠点設置の計画が持ち上がり、条件にあった立地だったことから、都城支店を新設した。梅北ICから近い「地の利」を感じている。

西久大運輸倉庫も都城支店の地の利をアピール(西久大運輸倉庫のウェブサイトより)
冒頭で記したように、全線開通によって北側へ向かう場合、都城ICまでの時間が20分短縮できた。時間もさることながら、「信号待ちや渋滞によるドライバーへの負担が減ったこともありがたい」(久保山氏)。さらに、南側の志布志港までは、都城志布志道路の完成以前は1時間以上かかっていた道のりが30分程度で着いてしまう。
労働力の確保でもメリットを感じていると久保山氏は話す。「倉庫の作業で多くのパートさんにご協力いただいていますが、ここだからいいという方が多い。曽於市など大隅半島からも来てくださるので、その意味でも中継地点としての地の利を感じています」。
都城志布志道路の恩恵を感じているのは物流企業だけではない。しかも伸びているのは立地件数だけではない。前掲のグラフを見てわかるように、雇用数も爆発的な伸びを見せている。その起爆剤となっているのが「工業団地」だ。
都城市は都城志布志道路に歩調をあわせ、大規模倉庫などの企業拠点を誘致する工業団地の整備も推し進めてきた。中核となったのが、「都城インター工業団地」。3つの地区に分かれており、「大井手地区」「穂満坊地区」、そして「桜木地区」から成る。

都城インター工業団地「桜木地区」(都城市提供)
「都城インター工業団地は、3地区で約20社の企業立地がありましたが、その数字以上に雇用数のインパクトが大きい」。企業立地課の瀨之口副主幹がそう言うように、3地区合計で約1400人もの雇用が見込まれている。
とりわけ桜木地区は、2022年度に即完売した人気の工業団地。総面積約28.49ヘクタール(ha)と3地区で最も広大な敷地を誇る。
この桜木地区に進出したのは物流企業だけではない。都城志布志道路による“変化”に誘発され、製造業や食品加工業なども動いた。その1社が、食肉用若鶏(ブロイラー)生産大手の児湯食鳥だ。
国内最大規模の「児湯食鳥 都城工場」

都城ICを下りて数分、国道10号沿いに巨大な工業団地が出現する
都城志布志道路の起点、都城ICからわずか数分。都城志布志道路と直結する国道10号沿いに壮大な白い建物が見えてくる。
約6万3750平方メートル(㎡)の敷地に建つ縦213メートル(m)、横約100mもある巨大工場が視界を埋める。ここは、児湯食鳥グループの「都城工場」。国内でも最大規模という最新鋭のブロイラー処理工場だ。

都城インター工業団地の桜木地区に立地した児湯食鳥グループの都城工場
宮崎県川南町に本社を構える児湯食鳥グループは、ブロイラーの生産・販売を手がける国内大手。県内を中心に国内外7つの工場を持ち、総従業員数は約4000名、年間の生鳥処理羽数はグループ合計で約5307万羽(令和7年度・計画)を誇る。“鶏”王国でもある宮崎を代表する企業グループだ。
もともとは、高崎町に1984(昭和59)年稼働の旧・高崎工場と、南横市町に1987(昭和62)年稼働の旧・都城工場があった。
稼働から約40年の歳月が経ってもなお、まだ十数年は十分に使える見込みだった。にも関わらず、将来を見据え、いずれ新しいものに作り替えたいと考えていた時、都城市が工業団地の公募を計画していることを耳にした児湯食鳥は、その立地条件の良さから市に赴き、土地を譲ってもらう交渉に入った。

児湯食鳥の戸高宗幸 顧問
「できればともに歴史を作ってきた今いる従業員にそっくりと移ってもらいたい。一緒にまた仕事ができる場所をと考えると、都城インター工業団地は最適な場所でした」
取材に応じた児湯食鳥の戸高宗幸 顧問はこう話す。2023年2月から工事に着工、翌24年10月からグループの新たな基幹工場として稼働を開始した。
約200億円をかけて整備されたという新しい都城工場を訪れると、その設備や規模に驚かされた。
工場の生産性向上と流通面のメリット

機械化が進む都城工場の内部。将来は1日13万羽まで拡張する余力がある
都城工場では、低脂肪、低カロリー、低コレステロールの三拍子が揃った銘柄鶏「日向鶏」とブロイラーを処理しており、機械化も進んでいる。
新工場では骨付きもも肉を機械に投入するだけで、骨と正肉に分離する前川製作所の最新機械「トリダス マークⅢ」を導入。もともと旧工場で導入していた「マークⅡ」の処理能力は1時間あたり960本だったが、それが1200本へと向上した。むね肉とササミ、手羽元に分離する機械「イールダス」も導入することで、省人化と処理能力が大幅に上がっている。
「これが今、世界最速の機械と言われておりまして、とにかく早い。かつ骨抜きも正確です」。工場を案内してくれた対馬淳 副工場長はこう胸を張る。
旧2工場の処理能力は、合計で1日8万2000〜3000羽。新工場では現在、1日9万羽を処理している。本社を置く 川南工場の 7万羽、八代工場の 3万6000羽を凌ぐグループ最大の処理能力。さらに将来は1日13万羽まで拡張する余力がある。
戸高顧問はこの新工場がもたらすメリットについてこう語る。
「大きさを確保できるというメリットもさることながら、物流の使い勝手の良さも大きなポイント。高速道路を使った陸上輸送、フェリーを使った海上輸送、いろんなことを考えた時、非常に大きなメリットがあると考えています」
鶏を育て、処理し、出荷するプロセスにおいて、さまざまな「輸送」が発生する。都城志布志道路はそのいずれにも寄与しているという。まずは、「餌」の運搬だ。
契約農家との運搬、商品出荷に貢献
児湯食鳥では、川南町の本社近くに直営農場を保有しているが、現在は鳥インフルエンザなどのリスク対策も考慮し、仕入れるブロイラーの大半が宮崎、鹿児島、熊本などに広がる契約農家からとなっている。
なかでも大隅半島までを含めた都城地区は一大生産地。約240ある委託生産農場のうち、94農場が都城地区にある。それら農場への餌の運搬で、都城志布志道路は絶大な効果を発揮していると戸高顧問は言う。
「1キログラム(kg)の餌を食べたら1kgの鶏ができるわけじゃありません。1.6kgの餌で1kgの生体を作る。つまり、鶏を運ぶほうが安い。当然、餌工場と農場が近いほど生産コストは抑えられる。主力の餌工場が志布志にあり、都城志布志道路の開通で農場への時間的な距離が非常に近くなった。そのメリットは非常に大きいと感じています」

志布志港から輸送される配合飼料の5割以上が都城志布志道路を経由する(都城市のパンフレットから)
以前は、コストを考え、川南町などにある中間ターミナルまで大量の餌を運び、タンクで貯蔵して、都度、契約農家まで運んでいた。しかし、都城志布志道路のおかげで、餌工場から農家への直送に変わりつつある。
そうした各契約農家から出荷されたブロイラーの生鳥を工場まで運搬する経路としても、都城志布志道路は貢献している。例えば、大隅半島にある契約農家から都城工場まで、全線開通によって20分は短縮できたという。
それだけではない。今度は工場で一斉に骨抜き処理をした鶏肉を全国の卸や飲食店、小売りなどに向けて出荷していくルートとしても都城志布志道路は役立っている。
約400人の従業員の通勤も改善
9万羽を処理する都城工場から、1日あたり10トン(t)トラック約25台分の製品が出荷されている。うち、4割に相当する10台が志布志港へ向かい、フェリーに載せている。全線開通前に比べ、こちらも片道で約20分、短縮できた。
ほかのトラックは、宮崎港、鹿児島支店、末吉支店、福岡などへ向かう。都城志布志道路と宮崎自動車道の結節点にある都城インター工業団地は、あらゆる輸送でその利便性を享受できる好立地だと戸高顧問は言う。
これらのメリットに加え、「従業員のことを思っての立地」という面でも効果が出ている。

機械化に加え、約400人の従業員もグループ最大の処理能力を支えている
現在、都城工場で働く従業員数は約400人。旧2工場の中間地点のため、通勤距離は近くなったひとも遠くなったひとも、変わらないひともいる。ただ、都城志布志道路の全線開通で、国道10号を始めとする渋滞が緩和されたため、通勤時間は減った。
渋滞がひどい時はICから工場まで20分かかることも。それが全線開通で常時、2〜3分でたどり着けるようになった。
都城志布志道路は、餌、生鳥、製品、すべての輸送ルートを変えた。企業の経営戦略だけではなく、日々働く人々の暮らしすらも変えている。
もう一つ、企業に大きな変化をもたらすであろう新規立地の深層を、同じ桜木地区で追った。
(次回に続く)