深く多面的に、考える。

スポーツ立国への道 #01

「霧島酒造スポーツランド都城」の魅力 “記録”と“防災”への期待

  • 山之口運動公園」が大規模リニューアルを経て、2025年4月から供用開始。
  • 霧島酒造スポーツランド都城」として「国スポ・障スポ」会場などに活用。
  • 国際大会にも対応する「クロキリスタジアム」始め、魅力を深掘りする。

「クロキリ」を冠した競技場

「もう、これだけのものができて、オープンすることができて、感慨無量ですよね。ぜひ、ここからスポーツによる地域活性化、元気というものを市内・県内に伝えていければいいなと思います」――。

2025(令和7)年4月12日、“大仕事”を終えた都城市の池田宜永(たかひさ)市長にコメントを求めると、興奮冷めやまぬ表情でそう語り、控室へと入っていった。

2025年4月12日、「霧島酒造スポーツランド都城(都城市山之口運動公園)」のオープニングセレモニーが行われ、都城市の池田宜永市長(左から3人目)らがテープカットに臨んだ

その日は、山之口運動公園が大規模リニューアルを終え、装い新たに「霧島酒造スポーツランド都城」としてお披露目をされた日。朝から大勢の市民なども集結。式典やネーミングライツ(命名権)を得た霧島酒造への命名権証授与式などが開催された。

24ヘクタール(ha)と広大な敷地を誇る同公園は「KUROKIRI STADIUM(クロキリスタジアム)」と名付けられた主競技場と「AKAKIRI FIELD(アカキリフィールド)」と名付けられた補助競技場の2つを核とし、投てき練習場や多目的広場なども併設する。

主競技場「KUROKIRI STADIUM(クロキリスタジアム)」(上)と補助競技場「AKAKIRI FIELD(アカキリフィールド)」(下)にはそれぞれ、ネーミングライツを得た霧島酒造の人気焼酎の名が冠された

2027年に宮崎県で開催される第81回国民スポーツ大会(国スポ=旧・国体)」および第26回全国障害者スポーツ大会(障スポ)「日本のひなた宮崎 国スポ・障スポ」のメイン会場になることが決まっており、クロキリスタジアムでの総合開閉会式も予定されている。

セレモニーで挨拶をする宮崎県の河野俊嗣知事

「2年後には、このクロキリスタジアムに天皇皇后両陛下をお迎えして開会式が行われ、それが国スポ・障スポのスタートになるわけであります。まさに大切なレガシーが刻まれる、そういうスポーツ施設である」

イベント冒頭の挨拶で宮崎県の河野俊嗣知事は、そう評した。同公園は宮崎県と都城市の共同運営。河野知事と池田市長はスポーツウエアに着替え、陸上選手やこどもたちと並んで“走り初め”にも挑み、セレモニーは幕を閉じた。

河野知事と池田市長は陸上競技の清山ちさと選手、中川もえ選手らと“走り初め”に挑んだ

県の“新たな顔”と言える新生・霧島酒造スポーツランド都城。その魅力に迫る。

山之口運動公園の“地の利”

山之口運動公園のリニューアルは、宮崎県での国スポ・障スポの開催誘致に端を発する。

伝統ある「国民体育大会(国体)」は1946(昭和21)年の第1回「近畿国体」を皮切りに第2回から都道府県持ち回りで毎年開催され、宮崎県は1979(昭和54)年の第34回「日本のふるさと宮崎国体」の開催地となった。

1988(昭和63)年から持ち回りは2巡目に入り、2001(平成13)年の第56回からは全国身体障害者スポーツ大会と全国知的障害者スポーツ大会を統合するかたちで障スポの同時開催も始まった。

国民スポーツ大会(旧・国民体育大会)の開催地と名称
回(開催年) 開催地 名称
1(1946年) 近畿地区 近畿国体
2(1947年) 石川県 石川国体
3(1948年) 福岡県 福岡国体
34(1979年) 宮崎県 日本のふるさと宮崎国体
特(2023年) 鹿児島県 燃ゆる感動かごしま国体
78(2024年) 佐賀県 SAGA2024国スポ
79(2025年) 滋賀県 わたSHIGA輝く国スポ
80(2026年) 青森県 青の煌めきあおもり国スポ
81(2027年) 宮崎県 日本のひなた宮崎国スポ
出所:公益財団法人 日本スポーツ協会(JSPO)
注:2020年実施予定の第75回鹿児島大会が新型コロナウイルスの影響で中止されたため、2023年に「特別大会」として鹿児島県で開催。2024年の第78回大会から「国民スポーツ大会(国スポ)」へと名称変更

2巡目で宮崎県が動いたのは2015(平成27)年。政策の柱に「スポーツランドみやざき」の全県化を掲げていた宮崎県の河野知事は同年2月、「第81回国体及び第26回障スポの宮崎県開催招致」を県議会で表明した。

翌3月、県議会は全会一致で「誘致に関する決議」を議決。4月には河野知事が文部科学省に「開催要望書」を提出し、県は運動施設の改修など一斉整備に乗り出した。

柱は陸上競技場・体育館・プール。中でも、開閉会式も行われる大会の象徴となる陸上競技場の整備が急務だった県は2016(平成28)年、整備候補地の調査に着手。翌17年9月、手を挙げていた都城市の山之口運動公園を陸上競技場の整備候補地とした。

池田市長も2012(平成24)年の就任以来、スポーツ合宿の積極誘致などスポーツ振興に力を入れていた。市内にいくつかある大規模運動施設や陸上競技場はいずれも老朽化が目立ち、市民などから再整備の要望が上がっていたことから、国スポを好機と捉えた。

中でも山之口運動公園は、折しも2016年に宮崎自動車道に開通した県内初のスマートインターチェンジ(IC)「山之口スマートIC」からクルマで数分と目と鼻の先にある。

高速道路からのアクセスが良く、土地も広い“地の利”を生かした整備が可能であり、スポーツランドみやざきの全県展開に資することができる。県と市の思惑が合致し、山之口運動公園の大規模な再整備が進められた。

総面積は旧公園の約2.2倍に

旧・山之口運動公園の面積は11ha。“かけっこ”ができる芝生のトラックや広場などがあったが、県レベルでの陸上競技の大会ができるような場所ではなかった。そこで、運動公園のほぼすべて(既設の体育館以外)を取り壊し、再整備する計画がまとまった。

整備前の山之口運動公園(都城市役所のWebサイトから)

“柱”は当然、国スポのメイン会場にもなる陸上競技場(主競技場)。主競技場と投てき練習場の整備は宮崎県が、それ以外の補助競技場を含む運動公園全体は都城市が担当することとなり、最終的に県が約177億円、市が約80億円を負担することで建設工事が始まった。

2020(令和2)年度から敷地を大幅に拡大したうえで造成工事に着手。22(令和4)年3月からは、主競技場の建設工事も始まり、23年(令和5)年12月にはメインスタンドの大屋根も姿を現した。

2023年12月にはスタジアムの骨格がほぼ完成した(都城市役所のWebサイトから)

この間の2022年7月、宮崎県は目標どおり第81回大会の開催地として日本スポーツ協会から「内定」を受け、2024年には正式決定となった。

整備後の山之口運動公園の総面積は、整備前に比べて2倍以上の約24haと広大に。当初計画は約20haだったが、調整池を増設する必要が生じるなどし、都城市も用地の追加買収などに追われた。2025年3月までこのプロジェクトを国スポ・障スポ推進課で担当していた松下京司朗副主幹は「ただただ、突き進んでいっただけ」と振り返る。

生まれ変わっていった山之口運動公園の様子は、都城市のウェブサイトで詳しく確認することができる。

2025年3月、ほぼ完成した新生・山之口運動公園(都城市役所のWebサイトから)

2025(令和7)年3月、駐車場や外構部も含む施設全体が完成し、霧島酒造スポーツランド都城こと新生・山之口運動公園は翌4月、無事にお披露目に至った。その最大の魅力は、なんといってもランドマーク的存在であるクロキリスタジアムだろう。

1万5000人収容の「クロキリスタジアム」

主競技場「クロキリスタジアム」は日本陸上競技連盟(陸連)公認の「第1種陸上競技場」

クロキリスタジアムと名付けられた主競技場は、日本陸上競技連盟(陸連)公認の「第1種陸上競技場」。第1種は日本選手権や国スポなど日本陸連が主催する全国規模および国際的な大会を想定した陸連公認の最上級で、トラックは「全天候型舗装」だ。

全天候型舗装と言えば、かつては米スリーエムの合成ゴム素材「タータン」をトラックに敷くのが主流だった。その名残りで、全天候型舗装のことをタータンと呼ぶこともあるが、現在は耐久性が高いポリウレタン素材が主流。クロキリスタジアムも1周400m、9レーンあるトラック全面にウレタン素材を敷いた「フルウレタン」仕様となっている。

4月12日には宮崎陸上競技協会主催の県記録会が実施され、選手がウレタンの走路で競った

トラック内側のフィールドには芝が敷かれ、各種陸上競技のほか、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールなどのプロ競技でも使用できるスペックとした。

設備も第1種にふさわしく充実している。スタンド下の競技場1階には人工芝が敷かれた室内の「ウォームアップルーム」を2箇所完備。抜き打ちの「ドーピング検査」を行えるトイレやシャワー室もある。

最新の写真判定装置(上)や視認性の良い大型ビジョン(下)など設備も充実している

「フィニッシュタイマー」や「写真判定装置」といった競技用備品は上位モデルを採用しているほか、大型ビジョンはバレーコート1面分の大きさを誇り、4階にビジョンを操作する約100平米(㎡)の「指令室」も備わる。

観客席の収容人数は第1種の要件を満たす1万5000人。約7000人が収容可能な4階建ての「メインスタンド」のほか、約4500人を収容できる「バックスタンド」、約3500人を収容できる芝生席の「サイドスタンド」がトラックを囲む。

メインスタンドの両脇はよりトラックに近い位置まで張り出し、迫力ある観戦ができる

「かなりトラックに近い張り出しの観客席が自慢ですね。とても臨場感がある観戦ができると思います」。前出の松下副主幹はこう胸を張る。

ただし、国スポの開会式は例年、2〜3万人ほどの観客が入っている。そのため、2027年の日本のひなた宮崎 国スポ・障スポ開催までに仮設スタンドを設け、1万人以上の座席を増設する計画もある。さらに今後、アジア大会などを行うことができる「世界陸連クラス2」の認定も取得予定で、県内初の国際基準に対応した陸上競技場に進化していく。

宮崎県随一の競技場が霧島酒造スポーツランドに誕生したが、その魅力はクロキリスタジアムにとどまらない。

記録を生む「アカキリフィールド」

都城市が運営する補助競技場「アカキリフィールド」

第1種陸上競技場は、「全天候型舗装」「走路一周400m」「第3種相当」の補助競技場を併設する必要がある。それがクロキリスタジアムの南側に隣接する補助競技場のアカキリフィールドだ。

「こんな豪華な第3種陸上競技場は、なかなかないと思います。第1種陸上競技場での大会で、ウォームアップなどに使うことを想定した補助競技場ではありますが、市の陸上競技協会(陸協)の要望も取り入れ、補助競技場単体でも大会ができるよう、観戦スタンドも作りました」

松下副主幹がそう話すように、アカキリフィールドはクロキリスタジアムを除いても都城市で最もグレードが高い競技場となっている。

補助競技場ながら、屋根付きのスタンドがついた

第3種の観客席に細かい規定はないが、約840人を収容できる屋根付きのスタンド席が設けられた。スタンド下の天井高が低く、目線がトラックやフィールドに近いため、より迫力のある観戦を楽しむことができるという。

クロキリスタジアム同様、400mのトラックはフルウレタンの全天候型舗装となっており、フィールドにもきれいな芝が敷き詰められた。フィニッシュタイマーなど競技用備品の一部には、クロキリスタジアムと同等グレードが採用されている。

宮崎県が管理するクロキリスタジアムに対し、こちらは都城市の管理運営。例えば高校生以下の団体の利用料金は「1時間470円」と低い。市民の練習場としても抜群の環境を誇るアカキリフィールドに、期待の声が上がる。

「フルウレタン」の練習環境に期待の声が上がる

「ウレタンが敷かれた全天候型の陸上競技場は、スパイクの刺さり方や跳ね返りなど、土の競技場とはぜんぜん違います。これまで都城市には土の競技場しかなく、ウレタンで練習できずに慣れなくて、なかなか記録が出せなかったという側面もある」

お披露目イベントに参加していた都城市内在住の河野なつきさん(33歳)は、新しいスタジアムを前にそう語った。彼女はインターハイへの出場経験がある元陸上選手。練習で使いやすいアカキリフィールドを「これから本気で陸上をやる子たちにとって、めちゃくちゃいい環境だと思います。好記録が期待できる」と評した。

約1200台収容可能な「無料駐車場」

霧島酒造スポーツランド都城に新しくお目見えしたのは2つの陸上競技場だけではない。

都城市が管理運営する「多目的広場」

クロキリスタジアム東側にハンマーややり投げなどの「投てき練習場(県管理)」が、アカキリフィールド西側にはサッカーや草野球などの試合も可能な「多目的広場(市管理)」が設置された。

そのほか3×3の「バスケットコート」が2面に、グラウンドゴルフ1面がとれる「芝生広場」、さらに「児童広場」まで整備された。児童広場には県内2設置目となる「ふわふわドーム」はじめ、大型複合遊具などが設置され、無料で利用できる。

「3×3 バスケットコート」2面も体育館脇に新設された

訪れるひとにとってうれしいのは、大幅に拡張された駐車場。約1200台が収容可能で、しかも利用料金は無料とした。

県運営や宮崎市運営の運動公園では休日に100円〜数百円の駐車料金がかかるところもある。都城市運営の霧島酒造スポーツランド都城でも、駐車料金を公園維持の財源にする案が検討されたが、最終的に無料に落ち着いたと松下副主幹は語る。

「国スポの競技場を都城に作ってよかったと宮崎県の皆さんにも思っていただけるような施設を作りたい。そういう思いで整備してきました。遠方からいらっしゃる方もいるので、少しでも利用しやすいように駐車場代も無料にしたかった」

駐車場は約1200台分。敷地面積のかなりの部分を占める

最後にもう一つ、霧島酒造スポーツランド都城が持つ、“スポーツ”以外の機能を紹介したい。

「防災の砦」という機能も

シーンはふたたび冒頭で紹介した4月12日のお披露目イベントに戻る。式典で河野知事に続いて挨拶をした池田市長は、ネーミングライツを霧島酒造に受けてもらった感謝や2年後に開かれる国スポへの思いなどを語ったうえで、こう続けた。

池田市長は挨拶で山之口運動公園が防災拠点でもあることを強調した

「もう1点、この場所の重要な意味、それは防災拠点であります。仮に南海トラフ巨大地震が起こった場合、沿岸地域に大きな被害が想定されております。その時に本市は後方支援拠点都市、そういう意識で就任以来、まちづくりをしてまいりました」

「じつはこの場所もいざというときは大事な防災拠点になります。そのような活用がないことを心から願っておりますが、いざという時にはそういった重要な役割を担っているということも、ぜひ心に留めておいていただけると大変ありがたく思っております」――。

このあとに挨拶をした地元選出の古川禎久衆院議員は、こうつなげた。

古川禎久衆院議員も防災機能に言及。「志が素晴らしい」とした

「志が素晴らしいと思います。(中略)万が一、南海トラフ大地震、宮崎で被害が出た場合、宮崎平野から内陸部の都城市に避難してくる。その入口がここであります。いざという時は、都城がバックアップ拠点を務めるという都城市の志。そして、なるほどそうだと言って、ここの競技を決めてくださった宮崎県の志。すべての素晴らしいものを集めて、今日のオープニングの日を迎えることができたと存じます」

2人が語ったように、霧島酒造スポーツランド都城は、南海トラフ地震など大規模災害時の広域的な防災拠点としても活用されることが想定されている。宮崎自動車道からのアクセスの良さ、高台にある立地、広大なスペースを生かそうという考えだ。

平時はスポーツで県民や市民の身体や心を健やかにし、さらには記録を伸ばすことにも貢献。非常時は救助や避難などの重要拠点として活躍する。そんな心強い運動公園が、都城に誕生し、2年後の国スポ開催を待っている。

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