深く多面的に、考える。

観光に吹く新風 #02

生まれ変わった関之尾公園[後編] ストアやカフェ、キャンプ場外に広がる魅力

  • 最新のキャンプ施設や自然を楽しめる「スノーピーク都城キャンプフィールド」。
  • キャンプ用品や食材などが揃う直営ストアに、地のものが味わえるレストラン
  • コテージなどの宿泊施設も充実し、誰もが楽しめる全体設計に生まれ変わった。

ホテルのような「ストア」、溢れる地元色

「スノーピーク都城キャンプフィールド」のストア。キャンプ用品や食材などが並ぶ

2024(令和6)年4月27日、生まれ変わった関之尾公園内に開業した「スノーピーク都城キャンプフィールド」。その旅は、テントを張るキャンプ場から少し離れた場所にある「直営ストア」から始まる。

宿泊者がチェックインをする受付のほか、スノーピークのアウトドアギアやアパレル、氷や薪といった備品などを購入できる物販ゾーンが広がり、都城市を代表する肉や焼酎など地元の産直品も並ぶ。

ストアの庄内川側は全面ガラス張り。ソファでくつろげるスペースも

スノーピークの世界観に溢れた内装やデザイン。ソファに座って関之尾滝上流の川べりをゆったりと眺められるエリアもある。まるで、自然に囲まれた高級リゾートホテルにあるストアやロビーのようだ。

ストアと同じ建物にはレストランも併設されており、こちらでも宮崎牛や観音池ポーク、霧島酒造の焼酎など地のものが味わえる。

新設されたレストラン「Blue Bird Dining(ブルーバードダイニング)」のエントランス

これらキャンプフィールドの付帯施設は、もちろん宿泊者の楽しみや利便性を増すものだが、宿泊者でなくとも利用できる。

キャンプ場を出ても楽しめる、キャンプをしない人でも楽しめる――。「ただのキャンプ場」ではない新生・関之尾公園の全貌を、後編でつぶさに追っていく。

珍しい存在たらしめる「付帯施設」

『生まれ変わった関之尾公園[前編]』では、キャンプフィールドそのものの魅力、そして、周囲に広がる関之尾滝や甌穴群などの広大な自然が持つ魅力について深掘りした。スノーピーク都城キャンプフィールドの田中芳正店長は前編でこう語っている。

ここ(都城)の業態は、我々が手掛ける中でも結構、珍しいと言えます。都城キャンプフィールドには『キャンプをしない方でも1日中楽しめる』というテーマがある。つまり、キャンパーでもキャンパーじゃなくても、どんな方でも自然に触れ合うことができて、楽しめる。既存のキャンプフィールドだとやはりメインはキャンパーの方が楽しめる場所となるのですが、ここはより多くの方が集う場所にしたかった。

数々のキャンプ場を手がけたスノーピークから見ても、都城キャンプフィールドは「珍しい業態」と言う田中店長。一通り、新たな関之尾公園を案内してもらったあと、彼はこう話した。

「遊歩道を歩き、滝を見て川を渡り、ストアで買い物をして、レストランやカフェでは飲食もできる。本格的なキャンプも堪能できて、コテージなどに宿泊することも可能。これだけ広大な敷地で、多様なコンテンツを楽しめるエリアというのは、なかなかない。ほかのキャンプ場と比べても、自信を持って勧められるポイントなのかなと思います」

スノーピーク都城キャンプフィールドの田中芳正店長

シャワー設備やお湯が出る炊事場など清潔な水回りを備えたキャンプフィールドに、取り囲む雄大な自然。それらもキャンプ場としては珍しいのだが、田中店長が言うように、周辺の付帯施設も、都城キャンプフィールドをより珍しい存在たらしめている。最たるものが、冒頭で紹介したストアだろう。

キャンプフィールドのエリアの反対側、関之尾滝の川上側には、ストアやレストラン、宿泊施設が集結したおしゃれなエリアが広がっている。広大な芝生が広がるキャンプフィールドとは一線を画す雰囲気で、また違った魅力に溢れていた。

充実の直営ストアとレストラン

キャンプ宿泊者はストア受付でチェックインをする

キャンプをする人はチェックインのために必ず一度は立ち寄るストア。ここには、前述のとおりスノーピーク製品のほか、地元の産直品も並び、キャンプ用品から食材まで、キャンプに必要なものはほとんど揃う。

「焚火台」「シュラフ」「テント」から暑さをしのぐ「フィールドファン」までキャンプ用品も充実

地元食材を原料とした加工食品やお土産物なども販売されており、その様はちょっとした「道の駅」とも言えるほどだ。

これからキャンプ場でバーベキューでも楽しもうと考えている人がチェックインのためにストアに訪れると、すぐ横に産直品がずらっと並んでいる。それは魅力的だ。宿泊受付とともに、食材や飲料を調達してからキャンプフィールドへ向かうというのが、スタンダードな楽しみ方になっていくだろう。

ストアには都城市を象徴する「肉と焼酎」もずらりと並ぶ

だが、キャンプ宿泊者でなくとも、ストアは十分に楽しめる。全国のスノーピーク直営キャンプフィールドにもこうしたストアが併設されているが、その多くはキャンプをメインとした来客。ところが関之尾公園には関之尾滝がある。

宮崎県内初のスノーピーク直営ストアでもあり、産直品も充実したこの施設は、滝を見に来た観光客も必ず立ち寄る人気スポットになっていくに違いない。

直営ストアと同じ建物にあるレストラン「Blue Bird Dining(ブルーバードダイニング)」も、宿泊者、立ち寄りの観光客問わず、魅力的な場所となっている。

レストランの窓からも庄内川の風景を楽しめる

焼きたてのパンや地元のお酒を楽しめる本格派のレストランで、イオンモール都城駅前の「BAKERY KITCHEN SAKURA」などを経営するブルースカイが新規に出店した。ディナーでは、「観音池ポークの香草パン粉焼き~季節のグリル野菜添え」など、キャンプ場とは思えない地産中心のメニューが並ぶ。

▼「Blue Bird Dining(ブルーバードダイニング)」のディナーメニュー
 ・宮崎牛100%グリルハンバーグ~季節のグリル野菜添え
 ・特選牛の厚切りローストビーフ~季節のグリル野菜添え
 ・骨付き日向鶏のグリル~季節のグリル野菜添え
 ・観音池ポークの香草パン粉焼き~季節のグリル野菜添え

スノーピーク都城キャンプフィールドの田中店長は、関之尾公園内にレストランがあることで、「キャンプの楽しみ方の幅が広がる」と言う。

例えば、キャンプ場にテントを張り終えたら、散策へ。関之尾滝を鑑賞して吊り橋を渡り、Blue Bird Diningで上品な宮崎牛に舌鼓を打つ。再び腹ごなしも兼ねて散策しながらキャンプ場に戻り、満点の星空を眺めながら焚火を楽しむ……。

生まれ変わった関之尾公園では、そんな過ごし方もできてしまう。もちろん、宿泊せずとも関之尾公園の散策後に食事を楽しんで帰る、という利用でも構わない。その場所が“主役”になるほど魅力的なロケーションなのだ。 

こだわった“甌穴群ビュー”

直営ストアやレストランがあるエリア最大の特徴は、何と言っても「関之尾甌穴(おうけつ)群」が目の前に広がることだろう。

前編で紹介した通り、関之尾滝の上流には世界最大規模の甌穴群が横たわっている。関之尾滝とともに関之尾公園を代表する壮大な自然の創造物だ。

ストアとレストランが併設された建物は、この甌穴群が広がる庄内川の川面から少し坂を登った場所に建てられ、ガラス張りの店内から川を見下ろせる造りになっている。

レストラン(建物手前)とストア(同奥)は川面から少し上がった場所に建てられている

甌穴群の目の前でせせらぎを感じながら食す味は格別だろう。食事だけを楽しむ利用者も増えることは想像に難くない。

ストアには甌穴群を眺めながらリラックスできるスペースも設けられている。こうした“甌穴群ビュー”の実現にもこだわったと田中店長は語る。

「もともと、建物と川のあいだには樹がうっそうと茂っていて、川や甌穴群を感じることができなかった。それを、都城市さんとの話の中で、川べりや甌穴群がしっかりと見える景観に作り上げていきました」

ストアやレストランが入る建物からは、樹木の隙間から庄内川や甌穴群が望める

今回の関之尾公園リニューアルでは、この甌穴群の素晴らしさを再発掘することも重要なテーマの1つ。茂った樹を間引き、あるいは剪定し、川面より上の位置に建物群を配置することで視界を確保した。

こうしたこだわりのロケーションを最大限に満喫できる施設が、ほかにもある。

庄内川を感じる「コテージ」

ストアやレストランが入る建物の川上側に4棟のコテージが並ぶ

スノーピーク都城キャンプフィールドには宿泊施設の「コテージ」が4棟ある。

いずれも、2階建てで、1階はリビングとウッドデッキのテラスがシームレスにつながる開放的な間取り。インテリアは木を基調とし、シンプルながらもモダンで高級感も感じられる。

コテージ1階のリビングは広いテラスに続いている

「スノーピークのグッズも利用しながら、自然を感じられるような家具や備品でまとめました。テラスは、うちの焚火台を使ってバーベキューをしたり、寝そべっていただいたり、そういった“自然遊び”が楽しめる空間に仕上げています」

2階からの眺望は、絶景だ。寝室の開放的な窓からは、庄内川の風光明媚な景色が広がる。浴室にも川が眺められるよう大きめの窓が設置されており、甌穴群を眺めながらお風呂に浸かることもできる。

2階寝室からは甌穴群を眺めることもできる

4棟あるコテージのうち1棟は、ホームエレベーター付きのバリアフリー仕様。バリアフリーのコテージがあることで、高齢者や障がい者など、これまでキャンプ場に行けなかったような人々でもキャンプ気分を味わえる施設になっている。これも田中店長自慢の設備だ。

「キャンプ場とか少年自然の家とか、そういった場所にあるコテージ、キャビンに皆さんが抱いているイメージからすると、エレベーターなんて絶対についてないですよね。こんな施設があるキャンプ場は、全国でもここだけじゃないでしょうか」

バリアフリー仕様のコテージにはエレベーターも設置

さらに、コテージの奥には、もう一つ、都城キャンプフィールドの目玉となる施設が設置されている。

「住箱」と「手ぶらCAMP」も

コテージの川上側には、スノーピークが全国で展開しているモバイルハウス「住箱−JYUBAKO−」が5棟、鎮座している。

モバイルハウス「住箱−JYUBAKO−」の外観(上)と内観(下)

住箱は、著名建築家の隈研吾氏が設計した木製のトレーラーハウス。「住むを自由にする箱」というテーマで設計されたその外観は、まるで秘密基地。下部に見えるタイヤによって、それがトレーラーハウスなのだと分かる。内外装は木材で覆われており、木の温もりを感じながら、コンパクトな空間で居心地良く過ごせるのが魅力だ。

スノーピーク直営キャンプフィールドで住箱を併設しているのは都城を含めて6カ所だが、都城の住箱は専用の「庭」付きで、「デッキタイプ」と「芝タイプ」の2種類がある。ともに「焚火OK」となっている点が特徴だ。

関之尾公園に設置されている「住箱−JYUBAKO−」のデッキタイプ。庄内川を間近に感じられる

ストア、レストラン、コテージ、そして住箱が庄内川に沿って並ぶ設計は、まさに甌穴群の魅力を再発見するというテーマに沿ったもの。さらに川に近い位置では、手ぶらで1泊2日のキャンプ体験ができる「手ぶらCAMP」も楽しめる。

手ぶらCAMPは、テントやタープ、テーブル、バーベキュー機材、食器など、キャンプに必要な道具をすべて貸し出してくれるプランのこと。自分で用意するのは、食材や飲料、着替えなど身の回りのものだけで済む。

とはいえ、食材や飲み物はすぐとなりのストアで調達できるので、事実上、着替えだけ持ってくればキャンプを楽しめることになる。キャンプ場でのマナーやおすすめの過ごし方などのレクチャー、設営から撤収までのアドバイスといったサポートもしてくれるため、初心者でも安心して快適にキャンプ体験ができるという触れ込みだ。

住箱の宿泊者も手ぶらCAMPを申し込むことが可能。バーベキューなどの食事や団らんは川べりで。寝る時はトレーラーハウスで。そんな楽しみ方もできる。幅広い層に楽しんでもらおうという工夫が、手ぶらキャンプのプランにも表れていた。

田園風景を眺めてカフェで一息

旧「滝のえき せきのお」と駐車場があった場所に瀟洒なカフェが誕生した

リニューアルした関之尾公園では、通りすがりの人でも気軽に楽しめる施設も新設された。関之尾公園の駐車場と旧「滝のえき せきのお」があった場所に建てられた、スノーピーク運営のカフェ「Snow Peak Cafe」だ。

旧・滝のえき せきのおは、長年、多くの観光客に親しまれてきた。そんな憩いの場所も、今回の関之尾公園リニューアルで新たに生まれ変わった。

「Snow Peak Cafe」の店内からは風光明媚な風景が楽しめる

Snow Peak Cafeでは、「食を通じて、おいしい。で始まる幸せを育む」をコンセプトに、地元名産の「都城茶」や、地元の食材を使った「自家製ふわふわドーナツ」などを提供。一般的なカフェメニューやクラフトビールも多数、取り揃えている。

自慢は展望デッキだ。眼前には山に囲まれた田園風景が広がっており、都城茶に舌鼓を打ちつつ、四季折々に表情を変える最高のロケーションを楽しめる。

カフェ併設の展望デッキには誰でも自由に出入りができる

「この景色に目をつけて、非日常の自然を楽しめる空間を作った」と田中店長。このカフェも、地元民から観光客まで多くの利用客が訪れる人気スポットになっていくことだろう。スノーピーク都城キャンプフィールドは、もはや単なるキャンプ場とは言えない。

今回のリニューアルは、関之尾公園が備える地形や魅力を最大限に活かし、訪れる誰もがその自然の雄大さや魅力を味わえ、楽しめる全体設計となっている。

カフェがある関之尾公園駐車場に掲げられた看板

キャンプをする人もしない人も。宿泊をする人もしない人も――。都城キャンプフィールドは、スノーピークの直営キャンプフィールド史上、最も敷居が低く、間口が広いキャンプ場と言えよう。

「通過型から滞在型へ」という市の悲願を十分に満たしたうえで、誰も置き去りにしない。そんな“配慮”が、どこにもない新たな価値を創出した。

地元への配慮、地域活性への思い

加えて、地元への配慮も、様々な価値を創出しそうだ。地元の特産品を販売するストアしかり、運営を地元企業に依頼したレストランしかり、随所から「地元のものを大切にする」というスノーピーク側の想いが伝わってくる。

ストアには、都城限定のTシャツ(手前)やECOカップなども並ぶ

スノーピークはキャンプ用品を中心に扱うアウトドアブランドだが、地方創生や地域活性も大きなミッションとして掲げており、もともと、地元とのコラボレーションを得意とすると田中店長は話す。

「うちのキャンプフィールド事業のテーマの1つが、地元との密接な繋がりと、それに基づく相互での発信による活性化。地域と密着した場所作りへの思いというのは、どのキャンプフィールドでも大切にしています」

スノーピークの公式通販サイトでも日田下駄が販売されている

地域への思いは、コラボレーション商品にも現れている。例えば、林業が盛んな大分県日田市にある「スノーピーク奥日田キャンプフィールド」では、スノーピークブランドの「日田下駄」を地元と共同で開発。当初はスノーピーク奥日田のストア限定販売だったが、今ではスノーピークの定番商品として全国の直営ストアなどで販売されている。

都城でもコラボ商品が生まれる可能性はあるだろう。その可能性について、田中店長に尋ねてみると「ご期待ください!」と含みを持たせた。

地元への配慮は、イベントにも露見している。毎年、6月と10月、スノーピークのネットショップや全国直営ストアで開催しているお客様感謝イベントの「雪峰祭」。全国の直営キャンプフィールドでも同時開催しており、キャンプフィールドでは地元の飲食店などに出店してもらうことも多い。

このイベントが、スノーピークファンやキャンプファンと、地元事業者との繋がりの場としても機能しているという。

都城キャンプフィールドでも同様に、雪峰祭における地元事業者とのコラボレーションが計画されている。すでに開業記念のイベントで、それは実現していた。

ストアが入る建物の裏手、関之尾滝上流の川べりに広がる芝生の広場では、4月27〜29日の期間限定で地元事業者らによる飲食を中心とした開業記念のマルシェも開催。訪れたキャンパーや観光客が都城の名産に興じていた。

「人生に、野遊びを。」を体現

キャンプ場、ストア、レストラン、コテージ、カフェ……。その中心に君臨する大自然と、横たわる地域活性への思い。

ここまで見てきたように、スノーピーク都城キャンプフィールドを中心とする新しい関之尾公園は、その施設群を何と表現したら良いか言葉が見当たらないほど、テーマや要素が多く、そして奥が深い。

スノーピークには、「人生に、野遊びを。」というコーポレートメッセージがある。田中店長は、そのメッセージを引き合いに出して、しみじみとこう話した。

「もともと僕らは、キャンプに限らずハイキングでも釣りでもなんでも、とにかく野遊びを通して人生を豊かにしたいという思いがありまして。その思いが最も体現できたのが都城キャンプフィールドだと自負しています。ここでは自然を主役に、各々多様な時間の使い方、過ごし方、楽しみ方ができる。そこはすごく自慢できるポイントだと思います」

地域と一体となった「野遊びの総合施設」とでも言えようか。それもしっくりこないが、とにかくリニューアルした関之尾公園は、あらゆる点で目新しい。

農林畜産業に強い都城とのシナジー効果も計り知れないだろう。観光の未来を背負う新生・関之尾公園に期待せざるを得ない。

  • 筆者
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野田 晃司(のだ・こうじ)

「Think都城」記者。宮崎県都城市在住。医療専門職や会社役員などを経て、2023年にライターとして独立。Web上で公開する様々なジャンルの記事や動画の台本、ホームページのセールスコピーなど、幅広くライティング業務を請け負う。「自分が生まれ育った街に貢献したい」という思いから、2024年、Think都城の現地取材スタッフとして活動を開始する。

  1. 都城で働くため、つなぐ移住の「窓口」 “先輩”移住者の声 [仕事編]

  2. 生まれ変わった関之尾公園[後編] ストアやカフェ、キャンプ場外に広がる魅力

  3. 生まれ変わった関之尾公園[前編] スノーピーク都城キャンプフィールドの魅力

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